作家別読書紹介(古い海外ミステリ編)

普段は作品ごとに書いているんですが、作家別にちょっと書いてみようかなと思い立ったので。
自分が読んだものだけなので、とてもいい加減です。
エラリー・クイーンとかジョン・ル・カレみたいに、有名でも冊数を読めていない作家は紹介できませんし……。


・古典ミステリ(パズラー)編……
日本人が「ミステリ」と聞いて一番想像しやすいもの。犯人当て、トリック当てのお話。
 

アガサ・クリスティ

ミステリ界の女王。恐らく世界中で最も読まれたであろうミステリ作家。 
個人的にもとても好きな作家です。
トリックも良いですが、キャラクターの繊細な心理描写が良い。
推薦作は山ほどありますが、とりあえず
『オリエント急行の殺人』、『五匹の子豚』、『ナイルに死す』、『終わりなき夜に生れつく』の4作を。


ドロシー・L・セイヤーズ

イギリスではクリスティと並ぶ人気を誇っているらしい、ミステリ作家。
個人的にはイマイチだけど……。
とりあえず『ナインテイラーズ』が有名なので、そこから入るのが良さそう。
個人的には『学寮際の夜』が一番良かったかな。
シリーズをきちんと追いたいなら、ヒロイン初登場の『毒を食らわば』も見逃せない……かも。

 
ジョン・ディクスン・カー

密室トリックと言ったらこの人。
個人的には密室トリックにさほど熱意はないのであれですが、密室トリック好きなら絶対抑えるべき作家です。
推薦作は『ユダの窓』、『皇帝のかぎ煙草入れ』

レックス・スタウト

アメリカではすごく人気なおデブ探偵ネロ・ウルフ。
個人的にはあまり面白いと思わなかったが、とりあえず『腰抜け連盟』あたり読んでみるのもいいかもしれない。

ハリイ・ケメルマン

ユダヤ教のラビ(神父)が事件を解決するラビシリーズが有名。
事件自体はほとんど覚えてないけど、ユダヤ文化はなかなか興味深かった。
とりあえず『金曜日、ラビは寝坊した』を抑えて、面白ければどんどん読んでいくのが良いかも。


・ハードボイルド編……
「頭脳」よりも「足で稼ぐ」タイプの探偵が、頑張るお話。
 

ダシール・ハメット

ハードボイルド御三家の一人。
いきなりマフィアと抗争したりもするので、「ミステリ」という印象はあまりないかもしれない。
『マルタの鷹』、『血の収穫』あたりから入るといいのかな?

レイモンド・チャンドラー

ハードボイルド御三家の一人。
日本にも熱狂的なファンが多数存在する、抑えておくべき作家なんですが、
すみません。僕、この人の好さが全然わかりません。
とりあえず、ミステリオールタイムベストランキング上位常連の『長いお別れ』をどうぞ。

ロス・マクドナルド

ハードボイルド御三家の一人。
個人的にはこの3人ならロスマクが一番好きです。
陰気でどこか寂しげな中年探偵、リュー・アーチャーが主に家庭の悲劇を暴くというのが、特に中期以降の彼の作品の特徴。
推薦作は『ウィチャリー家の女』、『さむけ』


ジェームズ・M・ケイン

日本ではあまり知られてないっぽい? ハメット以前のハードボイルド作家で、
秀逸な心理描写、昼ドラ的男女のドロドロが互いへの敵意へと変わっていく様などが非常に面白い。
ハードボイルドというよりは、ノワール(悪党を描いた)小説に近いかもしれない。
推薦作は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、『殺人保険』


ロバート・B・パーカー

料理好きで家庭的でありながら、頼れる男でもある主人公スペンサーが人気のハードボイルド作家。
強者をくじくところはよくあるハードボイルドだが、弱者、子供への視線が優しい。頼りになるアメリカ的パパ。
推薦作は『初秋』、『レイチェルウォレスを探せ』、『ドリームガール』

ジョン・D・マクドナルド

アメリカの作家ディーン・クーンツが激賞する作家(全作品を二度ずつ読んだらしい)。
「作家志望者は絶対読め!」とのことだが、いかんせん日本ではあまり訳されていない。
そこまで凄いのか、いまいちわからなかったが確かにまずまず面白い。
『生き残った一人』、『濃紺のさよなら』、『シンデレラの銃弾』あたりがお薦め。


リチャード・スターク

悪党がドンパチやるアクション映画風シリーズ、「悪党パーカーシリーズ」で有名。
ストーリーは単純で、何か気に入らない事があった主人公が悪役とドンパチやるだけなのだが、
アクション描写が巧いため読ませる。
推薦作は『死神が見ている』、『殺人遊園地』


ドナルド・ウェストレイク

↑のリチャード・スタークの別ペンネーム(というかこちらが本名)。
ユーモア泥棒コメディ『ホットロック』がとても笑えるのでお薦め。


ミッキー・スピレイン

「悪党パーカーシリーズ」が出る前から、ドンパチやる作品はあったわけだが、
こちらは悪党ではなく、仮にも探偵がそれをやってしまうのが面白い。
『燃える接吻』、『裁くのは俺だ』など。
アメリカではものすごく売れたが、評論家からのウケは悪く、「こんなものが売れるなんて…」と嘆く声も多かったそうだ。


エルモア・レナード

現代を舞台にした西部劇。こちらも悪役とドンパチやるスタイルだが、どちらかというとタイマン勝負が多い。
とりあえず『ザ・スイッチ』あたりどうですか?
全く関係ない話だが、「今まで生きてきた中で一番つまらない映画だった!」と一緒に見た彼女に言わしめた
映画『ミスター・マジェスティーク』はレナード原作、映画脚本もレナードである。


ギャビン・ライアル

西部劇ならレナードよりもこちらの方が日本では人気がある気もする。悪役造形が印象深い『もっとも危険なゲーム』がお薦め。


ディック・フランシス

競馬界にまつわるあれこれの事件を描く作家だが、競馬に全く興味がなくても楽しめるのでご安心を。
古典的ヒーロー小説パターンで、
ウザい悪役登場→主人公ピンチ→友人や恋人の力を得て逆襲開始→悪役を倒す
というベタな展開が楽しめる。
推薦作は『大穴』、『利腕』、『敵手』のシッド・ハレー三部作。
他には、キチガイ悪役が鮮烈な『度胸』や、バランスの良い『罰金』、『骨折』あたりがお薦め。




・サスペンス編……犯罪に巻き込まれた市井の人々を中心にした作品、とでも言えばいいのかな? ジャンル分けとかほんとテキトーです、ごめんなさい。


ウィリアム・アイリッシュ

詩情溢れる都会のロマンスと切なさを描く、ミステリ作家。
何作も読むとパターンが読めてしまうのだが、こういうシチュエーションが好きな人にはハマるはず。
推薦作は、江戸川乱歩が絶賛した『幻の女』、『黒い天使』、『暁の死線』


アイラ・レヴィン

都会を舞台にした、非常にテクニカルな倒叙小説、『死の接吻』は必読。
小説ではないが、彼が手がけた映画『デス・トラップ』もアイラ・レヴィンっぽさが随所に出ていてお薦め。

ウィリアム・ゴールドマン

多数の映画脚本を手掛けている事から、映画人の方によく知られている気がするが、小説もなかなか。
特に、歯科医に扮したナチスの残党に追い掛け回される『マラソン・マン』と、その続編『ブラザーズ』がお薦め。

スタンリー・エリン

一応ミステリ(サスペンス)作家だと思うのでここで取り上げたが、『カードの館』などのサスペンス小説よりも、ミステリではない短編集『特別料理』の方が面白いと思う……のでこちらをお勧めします。


・スパイ小説……本人がスパイの事もあれば、秘密潜入捜査官めいたものも。

イアン・フレミング

名前ぐらいは聞いたことがあると思う、007でおなじみだが、実は「映画」と「小説」では全然作風が違う。
映画はドラえもんの秘密道具的ハチャメチャアクションだが、小説では割と普通のスパイ小説。
個人的には映画の方が面白い気もするけど、とりあえず映画と比べてみる意味でも、
『ゴールドフィンガー』を読み、読んだ後は映画を見るべし。

エリック・アンブラー

御三家~的な表現は聞いたことがないが、恐らく、ジョン・ル・カレ、イアン・フレミングとこのアンブラーが
スパイ小説御三家だと思う。それぐらい人気のある作家です。
何とも牧歌的な雰囲気を醸し出す、『あるスパイへの墓碑銘』がお薦め。

御三家とか書いておいてなんだが、ル・カレは1作しか読んでないので割愛。すみません。


・冒険小説……自然を舞台に冒険したりするお話。


アリステア・マクリーン

一昔前、日本でも人気だった冒険小説界の雄。
個人的にはあんまり面白いとは思わないのだが……とりあえず、『ナヴァロンの要塞』を薦める。

ジャック・ヒギンズ

冒険小説の括りに入れてしまって良いものか迷うが、まぁ多分ここで良いと思う。
アイルランド系の影のある暗殺者を描かせたらなかなかのもので、
『死にゆく者への祈り』、『脱出航路』が推薦作。
個人的にはそれほどでもないが、『鷲は舞い降りた』も有名なので良かったら。 


ロバート・ラドラム

日本では『ボーン・アイデンティティ(邦題:『暗殺者』)』でおなじみの作家な気がするが、
ハッタリの効いた厨二病悪役が素晴らしい『マタレーズ暗殺集団』、『スカーラッチ家の遺産』が推薦作。


・警察小説……「頭脳」よりも「足で」稼ぐところが、ハードボイルドに近い。探偵役が大勢の警官に割り振られているのが特徴。


エド・マクベイン

警察ドラマという単語から日本人が思い浮かべそうな、コテコテの警察ドラマ風作品87分署シリーズの作家。
ニューヨークを舞台にした架空の街、アイソラの空気感も読みどころ。
推薦作は『キングの身代金』、『ハートの刺青』、『死にざまを見ろ』、『魔術』あたり。
初期作はページ少なめ、会話多めで、手に取りやすいのも良い。

エヴァン・ハンター

エド・マクベインの本名。こちら名義では(ミステリとは言えない気がするが)、アメリカ版「金八先生」の
『暴力教室』が面白かったのでお薦め。 

ジョゼフ・ウォンボー

警察ドラマ風ではなく、リアリティ溢れる警察小説としては、現職警官だったウォンボーの右に出るものはいない。
特に警官たちの悲喜こもごもを描いた『クワイヤボーイズ』、『センチュリアン』は見逃せない。

ペール・ヴァ―ルー&マイ・シューヴァル

スウェーデン発の警察小説。スウェーデンといえばスティグ・ラーソンの『ミレニアム』が大人気だが、ミレニアム以前は恐らくスウェーデンで最も知られたミステリ作家だった……はず。多分。
スウェーデン版87分署といった趣で、スウェーデン文化が楽しい。
推薦作は『笑う警官』、『密室』

ローレンス・サンダーズ

50歳にてデビューし、渋い警察小説を描いた作家。 
変態すぎる犯人が印象深い『魔性の殺人』がお薦め。


【追記】

リチャード・コンドン

ケネディ大統領暗殺の顛末を、スリラータッチで描いた『ウィンターキルズ』がお薦め。
誰か忘れてると思ってたんだ……。



誰か忘れてる気もするけど、とりあえず
1950~80年代あたりの海外ミステリで、

1:最低2作以上読んだ
2:自分の好きな作家or超人気作家

です。

 

銀色 感想(バレあり)

77点。

まず章ごとの感想を、最後に全体の感想を書きます。


【1章】 評価 A~A+  (S~Eで)

後年、1章のライター片岡とも氏の手から、「ナルキッソス」という作品がリリースされました。
不治の病を抱えた少女が自らの死に場所を探し、旅に出るという物語ですが、
1章のストーリーはそんな「ナルキ」に通じるものがあります。

つまり、人とは呆気なく死んでいくものだということ。
どうすることもできない不幸、死はあるのだということ。
名前のない彼女、名前を忘れられた彼。
花は咲き、枯れていく。蛍は光り、消えてゆく。
人は生まれ、そして死ぬ。

徹底されているのは、これは何も特別な悲劇ではないということです。
この当時、多くの人々がこのように、誰からも顧みられることなく人知れず死んでいったことでしょう。
それは何もこの時代だけではなく、あらゆる時代、あらゆる国において、
こうした「死」はくり返されてきたことだと思います。


「生きた証がほしい」。
あやめと水仙(ナルキッソス)の違いはあれど、書かれているテーマは同じです。
誰からも顧みられず、特別派手な花でもないけれど、それでも凛と咲く一輪の花。
片岡とも氏の死生観とは、つまるところそういうものなのかもしれません。

私たちはいつか死にます。その時に、「精一杯咲いていたよ」と言えるような生き方をしたいものですね。


【2章】 評価 A-

2番目に出来の良い章。

1章とは違い、序盤は良くも悪くも「普通のギャルゲー」といったほのぼのな日常シーンが続きます。
狭霧かわいいなーとも思いますし、1章と比較すると若干緩いなぁという印象も受けます。
物語はそのまま終盤へと進み、狭霧が人柱となって洪水を収め、村を助けるという物語が展開されます。

こちらは1章とは違い、死が「華々しい」ものとなっています。
何せ、村を救った英雄になるわけですから。(英雄として迎えられたかどうかはともかく、本人にはそうした満足感があったと思います)
それは、村から受け入れられなかった彼女が、生命を賭けて掴んだ「居場所」であり、名誉ある死だと思います。

それに対する村人のゲスぶりなどは、(予想はしていましたが)やはりなかなか熱いものがあり、
ラスト30分の展開はエンタメとしてとても面白かったです。

良い意味でも悪い意味でも1章のそれとは違い、「感情のある死」、「泣ける」ストーリーだと思います。


【3章】 評価 B

これが噂のねーちゃんですか。

個人的には、「三角関係の修羅場」は大好物なのですが、これは率直に言ってねーちゃんの頭がおかしいだけかなと思いました。
いや、確かに現実にもこういう頭のおかしな人はいるわけで、突拍子もないとかリアリティに欠けるとは思いません。

しかし個人的には、もう少しねーちゃんの心に寄り添えるような内容が良かったなと思います。

たとえば、優しかった夕奈と朝奈の過去エピソードを大幅に増やすとか。
ねーちゃんの心理描写にテキストを費やすとか。
もう少しねーちゃんに同情できる部分を増やすとか。
「10年来の許嫁が、妹にとられた」とかならあの怒りようもまぁまぁ解りますが、まだ付き合ってもいない男でしょ?
好きになったのが数日早かった、ぐらいの話でしょ? 

銀糸がもたらした悲劇~という体裁のストーリーですが、銀糸がなくてもいつか似たような事は起きたと思います。
だって、ねーちゃん、普通に頭おかしいもん。

ラストも尻切れというか、ねーちゃんが死んだ後どうなったのかわからないし……


【4章】 評価 B-

正直、書くことがないです。全4章の中では一番テキストが拙くて、展開も一番地味でした。
カウンセラーは頭おかしいな。



【総評】

「願いをかなえる銀糸」の話ということになってはいるものの、実際の所、物語にそこまで「銀糸」が絡んでいるかと聞かれると微妙です。

2章は「村の洪水が収まる」云々の奇跡はありますが、そこは物語の大切な部分ではないと思います。


村人の「人柱になれ」という欲求に、狭霧が喜んで従う話です。

3章は、「銀糸」の力でねーちゃんが狂っていくのかと思いきや、実際起こった事は最初の「彼が店に入ってきた」を除けば、
「足を滑らせたら皿が割れて怪我」とかそんなレベルなので、「銀糸」の存在はアクセントではありますが、主役ではありません。
ではどういう話かというと、キチガイねーちゃんの虐待に、朝奈がそれでも姉を慕い続けて不幸になる話です。

4章も、「銀糸」の存在感は「母の死」と「失語症」。これらは銀糸がなくても描ける内容です。
それよりは、ヤブカウンセラーの虐待めいた治療に、あやめが粛々と従う話かなと。


つまり、2~4章の共通点としては、「周囲からの虐待・ブラックな環境に、ヒロインがなぜか粛々と従うストーリー」と言い換えられまして、
起こる悲劇・苦しみのほとんどは、「ブラックな環境から逃げ出す」ことで、回避できたように思うのです。


村なんか捨てて男と逃げれば狭霧は死なずにすんだし、
夕奈なんかほっといて男と逃げれば朝奈はあそこまで追い詰められずに済んだし、
ヤブカウンセラーの診療に行かなければ、あやめは追い詰められることもないのです。
だから、これらは一見「避けえない悲劇」に見えますが、悲劇を呼んだのは結局のところ、「ヒロインの思考」の方にあるわけですね。


この中で、2章の狭霧のストーリーは、「人柱」に力があると思われているであろう世界での物語であり、
彼女の決意によって実際村が救われたわけですから、「無駄な死」でもないという意味で、バランスが取れたストーリーだと思います
(「意味のある死」だからこそ、1章の突き放したような「どこにでもある死」という印象が薄れてしまっているのも確かですが)。


そんなわけで、「ブラックな環境からは逃げればいいじゃんw」と思ってしまうわけですが、過労死問題などを考えましても、
「逃げるという選択肢を選べずに、不幸になってしまう人」というのは多数いるわけで、バカにしたものでもありません。
ただ、そんな過労死で亡くなっていくかのようなヒロインの姿を読まされる身としては、「もういい……もう逃げろ!」と思ってしまいますね。


で、1章がなければ、「不幸を回避できなかったのは結局、本人の心の中にある」
「ブラックな環境からは逃げるべし!」というテーマの物語でした!と言い切っちゃってもいいんですが、
1章はそんな生ぬるい話ではなくて、文字どおり逃げ場がないですからね。
だから1章だけは、2章以降とは別種の物語だと思いますし、1章が一番出来が良いんだよなぁ……。

千の刃濤 桃花染の皇姫 感想(バレあり)

話 105/150 人 115/150 絵 100/100 音 80/100 その他システム 100/100 印象 30/50

合計 530/650  (35位/180ゲームくらい中) ESにつける点 83~84


肩の力を抜いて楽しめる王道バトルものとしては優秀。それ以上を求めると、期待外れ。
個人的には、「ユースティア」に大差をつけられてのAugust内2~3位。それなりに面白いです。


本作は「滸パート」→「奏海パート」→「エルザパート」→「過去編」→「古杜音パ―ト」→「朱璃パ―ト」
といった流れで進んでいきますが、「過去編」を境に大きく物語の姿が変わります。
便宜上「過去編」の前を「前半」、「過去編」の後を「後半」と呼びます。


【前半部の感想】


本作「千桃」(と略します)において印象に残ったのは
ゾロアスター教をほうふつとさせる善(宗仁)と悪(かはく)との終わりなき激突。
そして、まつろわぬ神々や土蜘蛛のように、「敵対勢力」を神話上の悪神(あるいは妖怪・悪魔)として
歴史に組み込んでしまうその歪さと、桃の花を背景に抱き合うラスト、朱璃と宗仁の姿でした。



伝統的な倭国風の「皇国」が、アメリカを髣髴とさせる「共和国」に滅ぼされ、共和国の傀儡となった偽帝の翡翠帝と、それを操る小此木。
そして更にその小此木を操るウォーレン総督とその一人娘エルザという図式で始まる本作。
前半部では、共和国に占領された「皇国」の復興…というストーリーラインが展開されます。


ここでは「忠義」というワードについて、様々な掘り下げがなされています。

「本物の皇帝」であるが「現体制下では犯罪者」である朱璃と、「偽の皇帝」である翡翠帝、どちらに忠義を尽くすのか。
「主が誤っていると感じた場合、それでも主の希望通りにする」のが忠義なのか、「主を諭し、正しい道に導くのが忠義」なのか。
「血筋に忠義を尽くすのか、人柄に忠義を尽くすのか」。


そして本作では忠義を「必死に生きること」とし、「自分の中の譲れない何かに尽くす」こと。
ごく乱暴に言ってしまえば「忠義とは、自分の生き方に筋を通し、それに向けて必死に生きること」のような
結論がなされたように思います(あまり興味のあるテーマではないせいか、記憶がやや不確か)。



個人的には、前半部よりも後半部の方が面白かったです。
特に恋愛面でのヒロインの描かれ方は、後半部での古杜音や朱璃に比べてもいかにも弱いです。
奏海は個別ルートで「凄み」を見せてくれましたが、滸やエルザは個別ルート自体もやっつけ仕事めいたものでした。

ひ弱そうに見える、傀儡の皇帝、奏海ですが、実は「お義兄様に忠義を尽くす」という意味では恐らく作中ヒロインでは最もブレのないキャラクターで、ある意味物語当初から完成されています。
頼りなく見えたそんな奏海が、お兄様のために一歩も引かない「怖い女」としての真価を見せるに従い、彼女への好感度は大きく上がっていきました。


物語当初から「芯」がしっかり定まっている奏海とは違い、物語が進むに従って自分なりの「忠義」を見つけていくエルザは、作中大きく成長した人物の一人です。
ヒロイン格というよりも、もう一人の主人公として、本作を「エルザが『忠義』を身につけていく」ストーリーと見ることもできるでしょう。
そうした意味では、彼女はとても重要なキャラクターだということができます。


滸は……ラストで頑張ったから、まぁ……。


【後半部の感想と全体の感想】


上述したようにエルザ編あたりまでの物語は、要は共和国に占領された「皇国」の、復興の物語でした。
過去の因縁が明かされる「過去編」を挟み、後半部では、過去2000年にわたって戦い続けてきた「かはく」と、主人公の死闘へと物語が展開していきます。
現在、世界は「混沌の時代」であり、人知れず、世界のどこかで善神と悪神は戦い続けている。
だからこそ人の世には争いが絶えないという、そんな世界観の物語です。


ヒロインの感想で言いますと、やはり過去の因縁が深い後半ヒロインの朱璃・古杜音と、前半の3ヒロインでは
物語全体での存在感といいましょうか、重みに差があるように思えてしまいます。


また、これは全編を通してではありますが、本作は非常にオーソドックスなバトルものであり、それ以上でもそれ以下でもありません。

物語は基本的に予定調和のまま進み、大きな驚きがない。
「ユースティア」にあるような、主要人物も死にかねないような容赦のない重みはなく、
あくまでもエンタメバトルものの枠に留まっているため、読者は安心して読むことができますが、
緊迫して読むことはできません。


骨太のストーリーもの、「ユースティア」のような作品を期待したい私としては、やはりとてもヌルく感じてしまいました。
さらに言えば……「エロゲー批評空間」の他ユーザーを批判するのもどうかと思いますが、トップページの一言感想に「ハッピーエンド最高!」と書いていくような無神経な方などもいて。


(最近、そういう方が凄く多いです。ネタバレを怖がらずに見られるのがこのサイトの良いところなのに、なぜ後半や終盤の展開、エンディング内容までわかるような事を、長文ネタバレ感想ではなく、一言感想で書いてしまうのか……。
ハッピーエンドで良かったとか、バッドエンドなのが気に入らないとか、ヒロインが死にます寝取られます注意、みたいなの、ほんとやめてほしい。「エンディングが良かったです」とか「ちょっと辛いシーンがあったのが残念でした」ぐらいに収めて、具体的な感想は長文で書くということが、何故できないのでしょう)


そういう意味でも「安心」と言いますか、終始平和でヌルーいストーリーだと感じてしまいました。


不死身の者同士が2000年間戦い続ける、神話的物語へと移行する後半はまだヌルくても良いのですが、
共和国の支配と皇国の復興という、シリアスなストーリーが展開される前半にこのヌルさは正直キツかったです。
武人が次々と処刑されていくわけでなし、囚われの身となったヒロインが陵辱されるわけでもなく、
物語内ではそれなりにシリアスな話をしているのに、読んでいる私の心は非常に平和でした。


また、パクリだのなんだのというわけではないのですが、後編のストーリーは昔「久遠の絆」という、
1000年以上に及ぶ「転生」と「悲恋」と「因縁」の物語がありまして。
「神」が絡んでくるところも同じなのですが、そんな心に響く過去の名作と比べると、
本作はどうしても弱いと思いました。


Hシーンがあまりエロくないのも問題で、Augustと言えばかつて「夜明けな」や「FA」ではむしろ「エロさ」も長所だったはず。
本作はHシーンでの声優さんの演技がイマイチなのと、Hシーンテキストも適当で、全然抜けませんでした。


忠義の物語なのに、「敵に囚われてエロいことされてそれでも忠義を曲げない!」的なシーンが1つもないのも非常に残念でしたが(滸と古杜都は、ヤバい奴に捕まったんだからさぁ。あってもいいじゃない、そういうの。)、それを抜きにしてもエロくなかったですね。

絵を大きく見せたい気持ちは解るけど、そもそもテキストが2行しか表示されないんじゃ、クリックも忙しくて抜いてる暇もないよ……。
サブヒロインの子袖のHシーンが一番エロかったかな…多分。


と、ここまで叩いてきましたが、テキストの読みやすさはさすがの一言。
また、(悪役以外の)登場人物への不必要な苛立ち、読んでて苛々する寒いノリや展開もなく、
良い意味でも苛々せずに平和に読めるのは、本作に限らないAugust作品の魅力。
大したストーリーじゃないなーと思いつつも、プレイ中、読むのを途中でやめようという気持ちには全くなりませんでした。

個人的には、宗仁と朱璃が再会しなくてもいいんじゃないかとは思いましたが、
桃の花びらが舞う中で抱き合う二人の絵はとても美しいため、これで良かったとも思います。

……まぁ、ネタバレのせいで、「ハッピーエンドだ」というのは解っていたから、
「良かった、本当に良かった!」というよりは、「まぁそうなるよね」という気持ちの方が強かったんですけど……。




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