コリバノフ氏が、興味深い動画を教えてくださったので、感謝の意味も込めて、動画の感想を書いてみます。

まずは、古い順ということで66年ワールドカップの映像から。


66年のベッケンバウアー

これは良いものを見せていただきました。
74年の皇帝しか知らない私にとって、ベッケンバウアーは「DFラインにいるピルロ」のイメージでした。
DFラインから、ロングパスで攻撃を組み立てるリベロ。
ちょっと格が落ちますが、フランク・デブールみたいなイメージ。

ですから、ベッケンバウアーは若い頃は中盤の選手だったと聞かされても、
「あー、ピルロみたいな選手ね。中盤の底からパス配ってまわる」と思っていたんです。

……違うんですね。ピルロより遥かに攻撃的な、ミランで言うならむしろカカーに近いようなプレイをしていますね。
ドリブル突破やワンツーを駆使して、前線に駆け上がり、自らフィニッシャーを務めています。
これは驚きました。

DF能力もあって、ロングパスも巧くて、シュートもきちんと決めて、ドリブルも巧くて、リーダーシップもあって……完璧じゃないですか。


後、凄いと思ったのは、西ドイツの徹底したワンツーパス。……これ本当にドイツか? むしろチェコのウルチカや、06アルゼンチンのパス回しを思わせるような、ワンツーの連続には圧巻。もちろん、プレスが緩いというのは大いにあったのでしょうが、逆に言えばプレスがきつくてもあれだけのパス回しができれば、かいくぐれそうに思います。

66年の西ドイツと言えば、決勝で疑惑のゴールで敗れたチームですよね。
66年大会というのは、レフェリングで物議をかもした大会で、西ドイツとイングランドは共に優遇され、勝ち上がってきたというような記事を読んだことがあります。それが事実かどうかはわかりませんが、とりあえず西ドイツが普通に強かったことは間違いなさそうです。


66年 ポルトガルVS北朝鮮

まずは、北朝鮮の動きの良さに驚きました。ダイジェスト版であり、90分を見られるわけではないので
断定はできないのですが、こと3-0になるまでは北朝鮮が一方的に押しているように見えます。
とにかくスピーディーなショートパスと、ドリブル突破を織り交ぜた攻撃は、
世界との差を感じさせない、列強国と互角にやりあえるだけのクォリティを感じさせました。
ポルトガルと比べても、チーム自体の質は上だったのではないでしょうか。

ただ、途中から突然防戦一方になったのは残念と言えば残念。
負傷者、退場者でも出たのか、1点返されただけで気落ちしてしまったのか、
終盤までスタミナが保たなかったのか、定かではありませんが、
最初はポルトガルを圧倒していたのに、途中から圧倒されてます。

しかし、ポルトガルの攻撃は北朝鮮の攻撃と違い、
ミドルシュートが多く、あまりチーム全体で相手の守備を崩しにかかるシーンはありません。
エウゼビオがフィニッシュから何から一人でやっているようにすら見えます。
特に、ポルトガルの2回目のPKを獲得したシーンでは、エウゼビオが実に4人ぐらい相手を抜いています。
……エウゼビオって、ドリブラーのイメージはなく、むしろアドリアーノみたいなタイプかと思っていましたが、
ドリブルも巧みだったんですね。


チーム自体は北朝鮮の方が魅力的でしたが、エウゼビオのタレント性と、
北朝鮮の失速にも助けられ、ポルトガルが大逆転勝利を収めた、という内容に見えました。
2回もPKが、それも社会主義国である北朝鮮の相手に与えられたことで、訝しみながら見ていましたが、別にミスジャッジではなさそうですね。正当なPKのようです。


エウゼビオとベッケンバウアーの2人を見て思ったのが、昔の選手って今よりももっとトータル的な、ポリバレントな選手が多かったのかなぁと。

今まではむしろ、昔のサッカーは「DFはDFの仕事」「FWはFWの仕事」という、攻守完全分業型サッカー。それを覆したのがトータルフットボール。という認識だったのです。
しかし、エウゼビオにしたってシュート力だけじゃなくてドリブル突破もできます。ベッケンバウアーはシュート、ロングパス、ドリブル、ディフェンスいずれもレベルが高いように感じます。


最近の選手ってなかなかそういう人いないですよね。確かにエトーやカイトは守備もするけど、じゃあカイトをDFラインに入れようかとは誰も思わない。

そもそも「ピルロみたいな選手」「カカーみたいな選手」といった、「●●みたいな選手」といった選手をタイプ別に見る考え方こそ、現在の選手の持つ能力の狭さを(高さ低さではなく)、物語っているのかもしれません。

だって、何でもできる選手を僕、思いつきませんもん。どこのポジションでもできる選手という意味ではコクーとかルイス・エンリケとかになりますが、プレイのレパートリーで何でも出来るというのは、なかなかねぇ。


72ユーロ 西ドイツVSスイス
親善試合 ソ連VS西ドイツ

72ユーロ、 西ドイツVSソ連(決勝)

初ネッツァー。なんだけど、ゲルト・ミュラーに目が釘付け。
ボディバランス良いし、シュートの振りが早くて正確。これは凄い。
彼は、間違いなく現代サッカーでも驚異のストライカーとして名をはせそうです。横からクロスを受ける形を作らせたら、もう彼は止められませんね。
それに引き替えハインケス兄さんは冴えなかった印象。


ネッツァーは前線の指揮官というイメージでした。本などの知識では、古典的なパサーなのですが、ドリブルもシュートも積極的に行っていました。ロングパスも一本良いの決めていたし。無理矢理こじつければ、ドリブルの出来るジェラード? もっとラテンの香り漂うリケルメチックな選手かと思っていました。


きちんとフォーメーション、戦術を把握していないので、的外れかもしれませんが、ユーロ72の西ドイツは、74の西ドイツに比べて、中央攻撃が多く、サイド攻撃が少ない印象があります。
例えて言うなら、ドログバ(ゲルト・ミュラー)に頼ったチェルシー(ネッツァーはバラックの位置か。プレイはバラックというよりは、まだランパードに近い気がするけど)が72。ロッベン(ヘルツェンバイン)やジョー・コール(グラボウスキー)などを中心に、サイドから仕掛けるチェルシーが74といったところでしょうか。僕は74の西ドイツの方が好きですね。


また、72の西ドイツはとにかくクリアをしません。無闇なロングパスもしません(無闇じゃないロングパスはします)。必ず足下足下に繋ぎにいきます。
その方向性は買うんだけど、「おいおい、そんな危ないパスすんなよ」的な、現代では「絶対やっちゃいけないパス」が何本もありました。DFラインでそんなに緩いパス出しちゃダメでしょっていう。ネッツァーはパス、シュート、ドリブル共に優れ、チームの中心としてプレイしているように感じましたが、
やや球離れが遅いので(これは、当時の選手全般に見受けられるけれど)、現代サッカーで生き残れるか、あるいは74年に出場してオランダのプレスをかいくぐれたかは正直、なんとも言えない……というよりも分が悪い印象です。


最後に。サポーターが牧歌的ですなぁ。でも、ソ連の選手にとってはとてもやりにくいんじゃないでしょうか。
優勝が迫ってるからと言って、あんなフィールドを取り囲むようにドイツサポが旗振ってるんじゃ、いくら暴動を起こしていないとは言ってもねぇ。それこそ同点ゴールでも放ったら、何されるかわからぬ。
試合終了後はともかく、終了前までは大人しく席に座っていましょうよ。