最近は本ばかり読んでいます。今回はその中でも割に気に入った3冊の本の感想を書こうと思います。


★Zoo 評価は A 著者は乙一

映画版の方を先に観てしまったので、どうしてもそれとの比較になります。
短編集なので各話ずつ。

『カザリとヨーコ』 映画版評価 B 小説版評価 B

この話は特に書くこともないですね。映画版の方が、母親がリアルだったのと、
小説版のヨーコは思ったよりもずっと楽観的な性格だったのが印象的でした。
映画版の方が重いかも。

『セブンスルーム』 映画版評価 B- 小説版評価 A

こちらは小説版の圧勝。映画版は単純にサスペンス色が強かったのですが、
小説版では『死生観』を強く感じさせられる物語に仕上がっています。
姉弟の絆も小説版の方がちゃんと描けていると思います。

『So Far』 映画版評価 A 小説版評価 A-

これは映画版の方が好きです。
というのも、映画版はラストを明言していないので、2つの可能性を想像することができるのですが、小説版ではきっちり解答を出してしまっているんですね。
この辺は好き好きだとは思いますが、映画版の方がラストに拡がりを感じることができました。

『陽だまりの詩』 映画版評価 S 小説版評価 S

映画版、小説版共に『Zoo』というオムニバス映画・短編集の中で一番気に入った作品。
すごくどうでもいいことですが、これを読んでペルソナ3のアイギスを思い浮かべたのは多分僕だけでしょうね。
……好きな作品ほど、巧く褒められないのは僕の悪いところです。

『Zoo』 映画版評価 D 小説版評価 A

……これは……読んで愕然としました。
映画版では意味不明な上につまらなかった『Zoo』ですが、小説版はなかなか面白いじゃないですか。
一体何がどうなって、あんなにつまらない映画になってしまったのでしょう。
僕には理解できません。


★春にして君を離れ 評価は B+ 著者はアガサ・クリスティ

この本の主人公のジョーンには、僕の嫌悪する性格・性質がたっぷり詰め込まれています。
独善的で、自分の主観を他人に押しつけ、自己満足に浸る。
僕はどちらかというとわがまま・自分勝手・束縛大嫌いな性格で、基本的には
他人に迷惑をかけさえしなければ、各々の意思を尊重するべきという考え方なので、こうした『●●は正しい。だからあなたもそうしなさい』という態度はとても癪に触るのです。


そんなジョーンが、今までのことを振り返り、自分がいかに煙たがられていたかに気づき……かけ、やっぱり何も変わらずに迷惑な生き方を続行するという、何ともリアルで救いの無いストーリーがこの本では展開されます。
はっきり言って、読んでいてとても鬱になります。主人公のウザさに気分を悪くしながら読み続け、その結果何も変わらないわけですから。
一方で、ジョーンの心理描写、とりわけ自分が本当は他人にどう見られているかに気づきかけ、確信が持てず、結局自分に都合の良いように再び事実を改ざんしてしまう、一連の心理が実に巧みに描かれているのも確かです。

一つの作品としては、ちょっと好きになれませんが、アガサ・クリスティって巧いなと思わされた一冊でした。


★ナイルに死す 評価 A 著者は上と同じ、アガサ・クリスティ

推理モノ、探偵モノを読んでおいてなんですが、僕はトリックや謎を解く頭脳は持ち合わせていないので、どうしても人間ドラマを読むというスタイルをとります。
なので、ヴァン・ダインなんかを読んでも結構退屈なのです(8冊も読んでおいて今更何言ってるんだと思わなくもないですが)。
結局、ミステリーそのものというよりも、キャラクター小説的というか、登場人物に魅力があればあるほど、引き込まれるというタイプなんですね。


と、書いたのは別に『ナイルに死す』が推理モノとして劣っているという意味ではもちろんありません。
キャラクターにそれぞれ魅力があって、事件にとても引きつけられた、ということが言いたいための前置きです。
犯人はもちろん、その周りの登場人物たちもなかなかに魅力的で、印象に強く残りました。


ただ一つ残念なのは、『著者の前書き』。これは『前書き』なのですが、できれば本の後ろにつけてほしかったです。
クリスティ自身が、『サイモン、リネット、ジャクリーンという3人の主要人物』と書いてしまい、リネットは被害者なので、メタ的な発想でサイモンかジャクリーンが犯人じゃね? とこう邪推できてしまうのです。
僕もずっとサイモンが怪しいと、トリックも何もわからないのににらんでいたら、本当にサイモンが犯人でした。共犯者がいたのは、想像できなかったけれど。


後、もう一つ、『彼氏』という訳が妙に気になります。
現在、彼氏というのは恋人のいる男性、『彼氏彼女』というセットで使われると思うのですが、この本の訳者は単純に『彼』の意味で、彼氏彼氏と連発しているんですね。
この本が出た(訳された)のは1984年みたいなのですが、その頃はそうだったのでしょうか?
全ての男性が彼氏扱いなのが妙に気になるのですが。


訳というのは気になるところで、戦後に出た本でも『やつぱり』『きつと』という風に、小さい「つ」(撥音便っていうんでしたっけ?違ってたら指摘お願いします)が大きな「つ」で書かれていたり、カアテン、ビロオドなどのカタカナ語に違和感があったり。
「モチのロンだ」を連呼するキャラクターや、「よござんす」と応えるヒロインがいたり。まぁ、面白いといえば面白いのですが……。