著者はアルベール・カミュ。評価は A+。


面白かった…というか、興味深い作品。
ムルソー視点でストレスためながら、ムカつきながら読んでいたから面白いというのは違うかもしれないが、
ページを繰る指が止まらなかったのだから、やっぱり面白かったといっていいんだろう。


↓は感想・解説だけど、書いているうちにどんどん新しい考えが浮かんできて、それを書き留めていったら、流れがかなりおかしくなりました。
感想書き直すのも面倒なので(ひょっとしたら書き直すかもだけど、あまり期待しないで)、追記含めて、最後まで全部読んでみてください。


考察1:『太陽のせい、は言い訳』説


「人間は、自分の理解できないものを『自分に理解できる形に歪めてまで理解しようとし』、
それでも理解できないと排除する」というお話のように感じた。


「太陽のせい」というというフレーズばかりが一人歩きしている気がするが、
これは要するに、ムルソーが『説明不能なものを、無理やり説明しようとした』だけで
そういう要求があったからこそ出てきた説明だった。


世の中には、説明しようと思ってもうまく説明できないことなんてたくさんあるし、
誰からも理解してもらえないことが、本当の『理由』だったりもするものだ。
けれど、ここに出てくる胸糞の悪い裁判のシーンや司祭のように、
「自分の頭・感性で理解できないものを、自分にとって理解可能な物語に歪めようとする」人間というのは、
世の中にわんさかいる。


ムルソーはどこまで『社会に迎合する気があるのか』については、再読してみる価値があるかもしれないといったところか。


実際、ムルソーは人を殺しているわけだから有罪なことは確かなんだけどね。
母の死を悲しんだのか?とか
翌日に喜劇を見に行ったかどうかとか、
神様を信じているのか?とか、
そんなことで罪の重さを決めようとしている人々の描写が、
本当に腹立たしかったです。


他人は他人、自分は自分。
いちいち干渉してくんなや、うっとうしい! と、司祭にぶちきれるシーンがわかりやすい形での、クライマックスなのかな。


何というか、私はムルソーと違って「なるべく演技しよう」とは思っていますが、
元々変わり者と評される上に、嘘をつくことにとても抵抗がある人間なので、
ムルソーの抱いたであろう感覚は、とてもよくわかる『気がする』のです。


よくわかります、とは書きません。そういう「自分の理解できる物語に意味を歪めて、わかった振りをする」のは、この小説の意味内容に反しますので。


感想2;「太陽のせい、は事実説」

『人を殺すこと』と『人を殴ること』、あるいは『人を愛すること(本当は、「愛」なんて抽象的な単語はここでは使ってはいけないはずなんですが』。

これらは、要するに『行為』であり、『行為』でしかない。
ここに意味を付け加え、物語に仕立て上げるのが人間だ。
「太陽のせいで殺した」とは、「太陽のせいで殺した」という事実を述べただけに過ぎず、それが他の人間にとってわかりやすい理由かどうかなどというのは、
物事の本質とは関係ないのだ。

というお話、かもしれない。


考察1よりもよりいっそう、考察2のほうが「感情」を廃し、物事をリアリスティックに捉えた見方になっている。
ムルソーに自分を重ねながら読んで浮かんできたのが、考察1の「言い訳説」なんだけど、本を閉じてしばらくして浮かんできたのが考察2だ。

付け加えるなら考察1のムルソー像は「深く考えているようで、感情のまま行動する矛盾を秘めた、人間味溢れるキャラクター。しかし多くの人間からは理解されない」であり、この線でいくと「ヒューマン小説」のようになる。


考察2のムルソー像は「感情を排し、物事を客観的に捉える観察者。非人間的で冷静な人間」である。
この線でいくと、より観念的な小説になる。


女性との結婚に関しての言及も考察2を裏付けているように感じるし、(考察1でも、普段の彼はこうだ。というふうに考えることは十分可能だが)
母親の死とその翌日の行動についてもこの考察2のほうに近いかもしれない。
ただ、司祭に食って掛かったのは考察1を後押しするし、個人的には考察1
のムルソーのほうが好きなんだよな。

考察2のムルソーだと、怖いし。(好き嫌いで決めるなよという突っ込みはあり)。


そんなわけで、ムルソーとは何者かという謎が、「太陽のせい」という1つの台詞に象徴的にあらわされているわけですな。


ちなみに、今日は卒業検定。なぜ寝ないでこの本を読んでいたのか?と聞かれたら、「だって面白かったんだもん」としか言いようがない。
冷静に考えたら「卒検を受けて、帰ってきてから読めばいい」のに、
実際には「わざわざ夜中にこれを読んで、興奮して眠れなくなって、卒検に支障をきたす」のは馬鹿なわけだけど。

じゃあ何でそれがわかっていて読んだのですか?と聞かれて、
考察1のムルソー君なら「夜風と雨の香りのせい」と答えるだろうなぁ。
考察2のムルソー君だと、どう答えるかは難しいところだけれど。