著者は深沢七郎 評価は B+。

描写力にまず驚いた。このリアルさは凄い。
完全に、一つの舞台、世界観(村)を作り上げている。

作品のインプレッションは、
たとえて言うなら悲惨なニュースみたいなもの。
繰り返してみたくないし、嫌な気持ちになるけど、
知らないで済ませるわけにもいかないから、必要性は認めるみたいな。


日本の貧困集落を舞台にした姥捨ての物語。
物質的に貧しいだけじゃなく、人の心まで貧しくて地獄のような集落ですね……。
辰平と玉やんはいいとして、後のキャラはみんな嫌いだ…。
聖母と絶賛されてるおりんだって、ある種の潔さは認めるものの、
パーソナリティとしては凡俗にしか思えない。
むしろ、死を厭った銭屋のオヤジは、もちろん困ったちゃんではあるんだろうけど、「死ぬのが当たり前」の村社会にあっては、なんぼかまともに感じる。



他人とちょっと違うってだけで、その人を馬鹿にして面白がる人々。
馬鹿にされないために、せっかく健康な歯を持っているのにわざわざ叩き割らなきゃいけないような、
そういう空間。

なぜ健康な歯が悪いかっていうと、「貧しい=食料が少ない→健康な歯(食料をバクバクかじれそう)」という、
全く根拠がなく、くだらない誹謗中傷だったりする。

他にも、姥捨てで殺されるのを嫌がっているお爺さんを、自分も捨てられるお婆さんが、わざわざ『ご親切に』
「おまえさん、情けないぞ」とご忠告あそばしたりもする。


ここからは脱線なんだけど、

元々、人間というのは「他人に迷惑をなるべくかけない」という条件範囲の中で、
「自分が快いと感じる生き方」をすればいいと思っているので、
それ以上のことをあれこれ言われる筋合いもなければ、口を出す権利もないと思ってます。


もちろん、「他人を喜ばせてあげよう」という行為はあればあるほどいいけれど、それが枷になるのは本末転倒。
これが、特に社会的慣習になったりすると、枷になることの方が多かったりするけれどもね。
プレゼントをあげたら喜ばれるのはいいけれど、あげないだけで怒られるとかね。


「悪」なんてのも結局、「迷惑をかける」行為をそう定義しているだけで、
「正義」なんて「悪・もしくは悪を攻撃する」ための口実(得てして悪用されやすい)に過ぎないと、
半ば本気で思っていたりする人間なので、
こういう集落に行ったら、気が狂っちゃうかもしれませんな。


ここまでしないと生きられない集落なんだろうけど、
その割に仲間同士で助け合ったりとかもしているように見えないし
(どこの家にもそんな余力はないってことだと思うけどね)、
わざわざ他人を馬鹿にする歌を作ったりもするし、やっぱ嫌だわ、こんな村。


そんなわけで、嫌悪感も凄かったけど、圧倒的なまでにリアルさを感じさせる描写と、問題意識の必要性を考えるに、低評価はくだせない。
文章、巧いし読みやすい。
いい気分にはならないけど、こういうのも一度読んでおいたほうがいいと思う。