2007年11月

「オリエント急行の殺人」

評価はA+。

最近、アガサ・クリスティをよく読んでいる。
この作家の好きなところは、犯人が魅力的なところだと思う。
読み終わった後に余韻に浸ることができるし、もう一度初めから読んでみると、
一回目とはまるで違う印象を受ける。
そして、犯罪は無機質ではなく、多分に叙情的である。


前記事で触れた「ナイルに死す」と、今回読んだ「オリエント急行」で、
すっかりクリスティ作品が気に入ってしまった。
「そして誰もいなくなった」「スタイルズ荘の怪事件」が手元にあるけれども、
こちらも期待して読もうと思う。


ちなみに、他に手元にある本はこちら。

「ドラゴン殺人事件」(ヴァンダイン)「Xの悲劇」(エラリー・クイーン)
「暗いところで待ち合わせ」(乙一)「DDD2巻」(奈須きのこ)
「マブラヴ4巻」(ゲームノベライズ)


他に図書館に予約しているのはこちら。

「グレイシーアレン殺人事件」「ベンスン殺人事件」「ウィンター殺人事件」
「アーサー王物語5巻」「ぼくらの七日間戦争」「2999年のゲームキッズ」
「恋愛写真(真は旧字だったかも)」


……本だらけじゃ。

『Zoo』『春にして君を離れ』『ナイルに死す』感想(春にして・ナイル・バレあり)

最近は本ばかり読んでいます。今回はその中でも割に気に入った3冊の本の感想を書こうと思います。


★Zoo 評価は A 著者は乙一

映画版の方を先に観てしまったので、どうしてもそれとの比較になります。
短編集なので各話ずつ。

『カザリとヨーコ』 映画版評価 B 小説版評価 B

この話は特に書くこともないですね。映画版の方が、母親がリアルだったのと、
小説版のヨーコは思ったよりもずっと楽観的な性格だったのが印象的でした。
映画版の方が重いかも。

『セブンスルーム』 映画版評価 B- 小説版評価 A

こちらは小説版の圧勝。映画版は単純にサスペンス色が強かったのですが、
小説版では『死生観』を強く感じさせられる物語に仕上がっています。
姉弟の絆も小説版の方がちゃんと描けていると思います。

『So Far』 映画版評価 A 小説版評価 A-

これは映画版の方が好きです。
というのも、映画版はラストを明言していないので、2つの可能性を想像することができるのですが、小説版ではきっちり解答を出してしまっているんですね。
この辺は好き好きだとは思いますが、映画版の方がラストに拡がりを感じることができました。

『陽だまりの詩』 映画版評価 S 小説版評価 S

映画版、小説版共に『Zoo』というオムニバス映画・短編集の中で一番気に入った作品。
すごくどうでもいいことですが、これを読んでペルソナ3のアイギスを思い浮かべたのは多分僕だけでしょうね。
……好きな作品ほど、巧く褒められないのは僕の悪いところです。

『Zoo』 映画版評価 D 小説版評価 A

……これは……読んで愕然としました。
映画版では意味不明な上につまらなかった『Zoo』ですが、小説版はなかなか面白いじゃないですか。
一体何がどうなって、あんなにつまらない映画になってしまったのでしょう。
僕には理解できません。


★春にして君を離れ 評価は B+ 著者はアガサ・クリスティ

この本の主人公のジョーンには、僕の嫌悪する性格・性質がたっぷり詰め込まれています。
独善的で、自分の主観を他人に押しつけ、自己満足に浸る。
僕はどちらかというとわがまま・自分勝手・束縛大嫌いな性格で、基本的には
他人に迷惑をかけさえしなければ、各々の意思を尊重するべきという考え方なので、こうした『●●は正しい。だからあなたもそうしなさい』という態度はとても癪に触るのです。


そんなジョーンが、今までのことを振り返り、自分がいかに煙たがられていたかに気づき……かけ、やっぱり何も変わらずに迷惑な生き方を続行するという、何ともリアルで救いの無いストーリーがこの本では展開されます。
はっきり言って、読んでいてとても鬱になります。主人公のウザさに気分を悪くしながら読み続け、その結果何も変わらないわけですから。
一方で、ジョーンの心理描写、とりわけ自分が本当は他人にどう見られているかに気づきかけ、確信が持てず、結局自分に都合の良いように再び事実を改ざんしてしまう、一連の心理が実に巧みに描かれているのも確かです。

一つの作品としては、ちょっと好きになれませんが、アガサ・クリスティって巧いなと思わされた一冊でした。


★ナイルに死す 評価 A 著者は上と同じ、アガサ・クリスティ

推理モノ、探偵モノを読んでおいてなんですが、僕はトリックや謎を解く頭脳は持ち合わせていないので、どうしても人間ドラマを読むというスタイルをとります。
なので、ヴァン・ダインなんかを読んでも結構退屈なのです(8冊も読んでおいて今更何言ってるんだと思わなくもないですが)。
結局、ミステリーそのものというよりも、キャラクター小説的というか、登場人物に魅力があればあるほど、引き込まれるというタイプなんですね。


と、書いたのは別に『ナイルに死す』が推理モノとして劣っているという意味ではもちろんありません。
キャラクターにそれぞれ魅力があって、事件にとても引きつけられた、ということが言いたいための前置きです。
犯人はもちろん、その周りの登場人物たちもなかなかに魅力的で、印象に強く残りました。


ただ一つ残念なのは、『著者の前書き』。これは『前書き』なのですが、できれば本の後ろにつけてほしかったです。
クリスティ自身が、『サイモン、リネット、ジャクリーンという3人の主要人物』と書いてしまい、リネットは被害者なので、メタ的な発想でサイモンかジャクリーンが犯人じゃね? とこう邪推できてしまうのです。
僕もずっとサイモンが怪しいと、トリックも何もわからないのににらんでいたら、本当にサイモンが犯人でした。共犯者がいたのは、想像できなかったけれど。


後、もう一つ、『彼氏』という訳が妙に気になります。
現在、彼氏というのは恋人のいる男性、『彼氏彼女』というセットで使われると思うのですが、この本の訳者は単純に『彼』の意味で、彼氏彼氏と連発しているんですね。
この本が出た(訳された)のは1984年みたいなのですが、その頃はそうだったのでしょうか?
全ての男性が彼氏扱いなのが妙に気になるのですが。


訳というのは気になるところで、戦後に出た本でも『やつぱり』『きつと』という風に、小さい「つ」(撥音便っていうんでしたっけ?違ってたら指摘お願いします)が大きな「つ」で書かれていたり、カアテン、ビロオドなどのカタカナ語に違和感があったり。
「モチのロンだ」を連呼するキャラクターや、「よござんす」と応えるヒロインがいたり。まぁ、面白いといえば面白いのですが……。


アルトネリコ2クリア

近日中にはクリアしないでしょうと言いながら、クリアしてしまいました。


最終感想としては、まずまずの良作。良くも悪くも前作とテイストが同じですので、
前作を楽しめた方は今作も楽しめるでしょうし、逆もまた然りだと思います。


RPGとギャルゲーが融合したようなこのゲーム。どちらのジャンルも馴染みのある僕としましては、
ギャルゲーマーの目からギャルゲーとして見ても、まぁまぁ及第点の出来。
RPGプレイヤーの目からRPGとして見ても、まぁまぁ及第点の出来。
ただ、その両方を同時に、1本のゲームで楽しめるというのはなかなかのものだと思います。


個々の要素に関しては、2つの途中感想記事で書きましたのであっさりと行きます。


シナリオは「他者理解」ということで、なかなか良いメッセージ性を持っていると思います。
そして、実際巫女2人の内面を丁寧に、繊細に描くことによってある程度の精度を持っていると思います。
前作よりも更に深いテーマでもあり、正当進化した作品だと思います。
また、イベントでの掛け合いなどもなかなか楽しく、センスを感じさせます。


が、一方で、物語の展開のさせ方としては、あまりうまくないなとも思います。
たとえば、フェイズ4では今までに行ったダンジョンを延々回らされ(おまけに出てくる敵も同じ)、結果的に中ダレしてしまいました。
また、ヒロインとの恋愛を優先するあまり、1周のプレイではヒロイン以外のキャラクターの詩魔法・コスチュームが少なかったり、ヒロイン以外の心理を深く知ることができないのが残念なところ。
ルカルートでクリアすると、ジャクリの内面とかがわからないんですよね。


キャラクターは前述の通り巧く描けていると思いますが、ヒロインとクロア以外の描写がおざなりなのも確か。これは前作でもそうでしたし、あれだけヒロインに力を注いだのだから……と、僕は好意的に見ていますが、気になる人は気になると思います。レグルス隊長とかアマリエとか、ちょっと薄っぺらいよね。


前々から書いているように、今作のヒロインの中ではルカに一番魅力を感じるわけですが、それでも前作で気に入ったオリカに比べると、魅力に欠けるような気がします。
また、その他2名のヒロインが揃いもそろってツンデレ(片方は不思議ちゃん系クールデレではあるが)なので、ツンデレ好きの人には良いかもしれませんが、特にそちらには興味のない僕としては、とっつきづらかった印象があります。
どうせ素直になれないタイプなら、シンシアみたいなのが好みなのですが、クリアできないし。
そういう意味では前作が懐かしい。前作のヒロインも含めて6人で順位をつけると、
1オリカ、2シュレリア、3ルカ、4ミシャ、5ジャクリ、6クローシェだったりするのです。
もっとも前作キャラは全員、コスモスフィアマックスまで見られましたが、今作は選んだヒロイン以外のコスモスフィアが見られないので、そういう意味でハンデがあるのも確か。


バトルは、前作以上にアクション要素が多いです。それが楽しいかどうかは人それぞれかと思いますが。


特にこれは後半に見られる傾向ですが、前作よりも、打撃の威力が増したので、詩魔法だけに頼る前作バトルよりもバランスは良いと思います。
一方で、派手な詩魔法を発動するには、5~6ターンはかかります。
ところが、準備をしながら打撃を繰り返していると、5~6ターンのうちに、ボスが倒れてしまったりするんですよね。……要するに打撃が強すぎる気もします。
詩魔法は詩魔法で強いのですが、準備に時間がかかりすぎなんですよね。
また、レプレキアと合体詩魔法でゴリ押しも可能なので、相変わらずバランス的には難しいものがあります。
ま、前作よりは改善されています。


続編の予感を漂わせながらのエンディングということで、次回作も出るなら買うと思います。


しかし、他のヒロインのコスモスフィア見るために、後、1周2周やるのはちょっと無理かも。

アルトネリコ2 途中感想2(ネタバレ注意)

現在最終章に入ったところです。クリアまでもう一歩、なのですが、
リアル生活も忙しく、近日中にクリアというわけには行かないと思います。


前回の途中感想1で書いたことを、1つだけ訂正します。
今回の調合、グラスメルク(前作の調合)よりもシステム的に面白いです。
微妙と書きましたが、ようやく良さがわかってきました。そこだけ訂正です。
それと、気づくのが遅すぎですが、調合相手は、主要な4人のメンバーにきっちり対応しているんですね(シンシア:クロア。さーしゃ:クローシェといった具合に)。


★シナリオ関係の途中感想

クローシェ様の正体については、正直とても驚きました。
このゲームで初めて、シナリオ関係で痺れました。
とても巧いと思うのですが、「母」の役割をレイシャが一人で被っていて、
「もう一人の母」であるアーシェの存在が軽いのがちょっと気になります。
とっくに紹介されているにもかかわらず、シナリオ中で「あれ、ルカのお母さんって誰だっけ? レイシャじゃないんだったよね?」みたいな疑問を何度か持ちました。
もちろん途中感想なので、アーシェに関するフォローがこれから、ということもありえます。しかし、多分説明されていると思うのですが、レイシャはルカをどうやって見つけたんでしたっけ?
それに、アーシェやルカは「焔の巫女」で、クローシェは「澪の巫女」だったわけですが、レイカは「澪の巫女」の素質を持っているのでしょうか?
それとも「巫女能力」って遺伝じゃないのかな?


ユーモアのセンスはなかなか良いですね。
調合アイテムや、ジャクリのコスモスフィアでの特撮ヒロインの台詞とか、結構ツボです。
1の時にも書きましたが、このスタッフがギャルゲー作っても普通に面白そうな気がします。


★キャラクター関係の途中感想

ヒロインの中では相も変わらずルカ派ですが、実はシンシアに一番萌えてます。

後、クロア結構格好良いですね。……単に前作のライナーが酷すぎただけかもしれませんが。
このゲームで、一番メガネが似合っているのって、間違いなくクロアだと思います。

★システム関係の途中感想

ちょっと気になるのが、今回のダイブ方式。
前回と違って今回は、選んだヒロイン以外のコスモスフィアは半分しか見られません。


確かに前回は、オリカともミシャともシュレリア様ともラブラブで、「おいおい」な面はありましたが、1回のクリアでほとんどのイベントを見ることができました。ですが、今回は3回はクリアしないと見られないわけです。
つまり、より周回プレイを意識した作りになっているんですが……
でもこのゲーム、イベントスキップ機能もないし、何周もやるにはちょっと厳しいシステムじゃないですか?
「永遠のアセリア」のレベル制限+レベル持ち越しのような、新しい楽しみが用意されていれば良いのですが、特に目新しい2周目の要素もなさそうですし、
1回のプレイ時間が30時間を超えるゲームを3周以上というのは、つらいものがあります。


また、レベル6以上のスフィアが見られない弊害で、DPが余って余って仕方ありません。2人のスタメンレーヴァテイルのうち、片方はヒロインを入れておけば良いですが、もう片方のレーヴァテイルに入るDPが虚しいです。
個人的にはクリア後に、余ったDPを使って、選んだヒロイン以外のスフィアレベル6以上が見られる特典がつけば最高なんですが……多分そんなのはついてなさそうですよね。


後、レベル6以上のスフィアが見られない弊害その2で、クローシェ様のコスが
ずっと「メガネ委員長」なんですけど……。
僕のページをずっとご覧になっている方にはわかると思いますが、僕は「メガネ委員長」のアンチ属性だったりします。あんまり好きじゃないってことです。……データ下がるけど、コスチューム変えようかな。

要は何が言いたいかというと、「メガネ委員長が嫌い」と言いたいだけではなくて、「レベル5までだと、コスチュームの幅も狭いし、魔法の幅も狭い」と言いたいわけです。


このゲームの面白さの1つに、やっぱりダイブイベントと、様々なコスチュームでのバトル、様々な詩魔法があると思うんですよ。だからこそ、レベル5制限は残念だなと。
シナリオ上、「純愛」を貫くための措置だったとしたら、上記したクリア後特典を強く望みます。
また、「周回プレイ」を意識した措置だったとしたら、もう少し周回プレイに優しい環境を整えて下さいませ。


追記11/13

ネット見ると、やっぱりルカは嫌われてますなー。
しかし、これが悪女なら、リアル世界の女の子の大半は悪女ではないかという気がするのですが……(汗)。

「人間の心の中」なんてあんなもんだと思いますけどね。
平均的人間の心の綺麗さというものがあるならば、ルカは多分平均クラスだと思いますよ。実際に病んでる人・心の汚い人というのはあんなもんじゃないです。


たとえば、友達に軽んじられた気がして、すごく腹が立ったこと。
どうしてもウマの合わない人間に、内心毒づくこと。
無意識・意識的問わず、誰かを下に見ること。
利害がどうしてもぶつかる人間が、いなくなればいいのにと思ってしまうこと。僕なんかしょっちゅうですよ(すみません)。


更に言えば、あのシーンのレグルスやクローシェはキレられて当然と思うし。
アマリエは……かわいそうだけど。


「アルトネリコ」というゲームでは、ヒロインの精神の一部分を増幅した形で見せられるので、悪女だとかビッチという感想が出るのでしょうが、
ほとんどの人間はあれくらいの汚さを内包している、と僕なんかは思うのです。
それと同時に、心のどこかに星空のような綺麗な欠片も、持っていると思うのです。
そして、そんな人間という生き物が僕はとても怖くて、同時にすごく愛しく思うのです。


あれはヤンデレでも腹黒でもなんでもなく、等身大の人間の姿だと思います。
まぁ、ありえない話ですが、皆さんの大好きな人にダイブができるとすれば、多分ルカ並に汚いと思いますよ。


……ここまでルカを弁護しといてなんだけど、おいらが一番好きなのはダサカコイ氏なんだよね。次に好きなのがシンシア。後、ヴィオール&チェリー。
正直に言って前作のオリカほどは、ルカに萌えないというのが本当のところ。
個人的にクローシェ様は苦手なんで、他に選択肢がなかったというか。
ジャクリ出てくる頃にはルカのスフィアレベル5まで行ってたし。


ただ、ルカというのは本当に、「人間の汚い部分も含めて、好きになれるか」
「汚い部分を見せ合って、お互いを理解する」というアルトネリコ2のテーマを、最も体現しているキャラクターだと思いますんで、正直ルカを否定するというのは、アルトネリコ2というゲーム自体を否定しているように思えてならないのですよ。


ついでにルカばりの腹黒さを発揮して言ってしまうならば、「多くの人間が持っているであろう程度の腹黒さ」を否定してしまうというのは、人間自体を否定しているように、僕には思えてならないのですよ。


だから3次元はキモい、2次元が良いんだ。ということなのかもしれませんが
(少なくともそれには僕は賛同できかねます)。

個人的エロゲー、ギャルゲー20選 ②

前記事:個人的エロゲーギャルゲー20選①
に続いて今回は11~20の10作を紹介。こちらも数字は純粋なナンバーであり、
順位ではないのでご理解ください。



11 120円の春(非18禁)

ここではないどこかへ。120円の片道切符で、車掌から逃げ隠れしながら遠くを目指す小学生小雪と、そんな彼女を見つけ、一緒に遠くを目指すことにした青年の物語。
青年は、小雪の姿を通して、毎日が輝いていた少年時代を思い出す。
名前も知らない、どこにあるのかもわからない。そんな駅から見えた星の輝きと共に。


「120円」をキーワードにした4つの短編集。文ではその中から『120円の冬』をピックアップしましたが、表題作にもなっている『120円の春』もお勧め。
清々しい読後感を保証する短編集です。


12 エリュシオン

地中海に浮かぶ孤島の洋館。法外な価格に誘われて遼一は館を訪れる。
マフィアのボス、テオ・パドリーノと、美しいメイド達。
そこには現実から隔絶された、様々な想いが満ちていた。

本作の特徴は、様々な社会問題を無駄なく、効果的に使いこなし、
重厚なストーリーに織り込んでいるというところ。それも、核になる部分に使われています。

ざっと挙げれば、コソボ問題に、イタリアの南北問題、第二次大戦とナチスドイツ、イギリス国教会とカトリックの対立、クリミア戦争などなど。
また、萌えをアピールするためのアイテムとしてのフレンチ・メイドではなく、魂の在りようを規定するメイドという在り方、恋人としての愛とは違う、メイドとしての愛をも描いた、究極のメイドゲーです。


13 夏夢夜話(非18禁)

ある朝、怜二の家に、今話題の絵本の世界を再現した、『フェルネラント展』への招待状が届く。
その日を境に、怜二の前にペルソナと名乗る謎の人物が現れ、やがて……。


童話的な世界フェルネラントを舞台に、ヒロインの生々しい深層心理を描いた異色作
童話という世界観だからこそ描ける、残酷で悲痛で孤独で、それでいてどこか和やかで温かい、そんなお話。

田中ロミオ作品の中で、一番のお気に入りです。
出典は、童話が中心ですが、童話じゃないものも混ざっていたり。
僕にわかるのは、『不思議の国のアリス』『長靴をはいた猫』『ピーターパン』『家なき子』『ヘンゼルとグレーテル』『オズの魔法使い』『宇宙戦争』『シャーロック・ホームズ』『モンテ・クリスト伯』『白鯨』『ザカリウス親方』『雪の女王』くらいです。


全く関係ないんですが、僕は以前この作品と全く同じテーマで(ヒロインの深層心理を、童話的世界で描く)長編小説を書こうとして、挫折したことがあります。
なので、僕のアイディアで(いや、もちろん田中ロミオ氏のアイディアなんだけど)、敏腕ライターが書くとこんな物語になるんだなぁと、勝手な感慨を抱いています。


14 Ever17(非18禁)

水深117メートルの海洋アミューズメント施設、LeMU。
閉鎖されたこの施設に、7人の男女が取り残される。
そんな、オープニングから始まるSFエンターテイメント。

この作品の凄いところは、完全なまでの主人公とのシンクロだ。
主人公が得られる情報と、プレイヤーが得られる情報。そして、プレイヤーだけが得ている情報。それらを全て計算し尽くして書かれたテキストによって、
主人公の感情とプレイヤーの感情は極度なまでに一致する。

謎解きゲーにおいてよく見られるのが、謎が簡単すぎて主人公より先にプレイヤーがわかってしまう場合と、
謎が難しすぎて主人公がわかっても、プレイヤーにはわからない場合がある。
それが、このゲームでは主人公に謎がわかる瞬間に、プレイヤー(私)もわかるという奇跡的なまでのシンクロを果たした。

この一点においても、素晴らしい出来と言えよう。


なお、KIDから出ている他作品『セパレイトハーツ』もまた、謎の難易度バランスが極めて優れた作品だ。
残念ながら『EVER17』と比べると、物語のスケールに大きな差があり、今回は『EVER17』を選んだが、『セパレイトハーツ』もまたお勧めの作品である。

また、謎解き過程がやや杜撰なために外した『Remember11』もまた、お勧め作品の一つである。謎自体は非常に良くできているのに、プレイヤーへの開示を誤った作品といえる。


15 最果てのイマ

町外れの廃工場。そこは、7人だけの聖域だった。
それぞれの学校に溶け込めぬものたちも、そこに集う仲間達の前では、
自然な自分でいることができた。
絶対的な信頼。居心地の良い空間。そんな、7人だけの世界がずっとずっと続いていく……そのはずだった……。


『EVER17』において、謎の難易度バランスについて書いたが、この『最果てのイマ』の謎は、私がプレイした中では最難である。
この、謎解きゲームとしての側面も素晴らしいのだが、個人的には作中に流れる『青春ゲーム』としての側面も高く評価したい。
叙情的なストーリーと、論理的な謎。
謎解きゲームの好きな方には、これらが複合した『最果てのイマ』に、
是非とも挑戦してほしい。


16 水月

瀬能透矢には記憶がない。
気がつけば、自分はここにいて、『瀬能透矢』という単語記号で呼ばれていた。

記憶が無い、ということ。歴史が無い、ということ。
自分を確立するための根拠が、思い出せないということ。
自我のあやふやな夢幻のような世界で、繰り広げられるヒューマンドラマ。


粗も散見されるのだが、雪シナリオの切なさと那波シナリオの見事な世界解釈は見逃せない。

なお、ほぼ同タイプの特徴を持つ『Never7』(非18禁)と、この『水月』。どちらも甲乙つけがたかったのだが、『Ever17』を紹介した関係でこちらの『水月』を選んだ。『水月』が気に入った方には、是非『Never7』もプレイしていただきたい。


17 蜜柑

世捨て人的な小説家肇(はじめ・漢字違うかも)は、極度のスランプに陥っていた。ある日、ふとした弾みで立ち寄った古本屋で、彼は運命の出会いを果たす。

3本の一見関わりの薄いストーリーが絡み合って、一本のシナリオを構成しているこのゲーム。
主人公の『書く』ことに対するスタンスに、とても共感できました。
物語を紡ぐ、京極夏彦風(僕が勝手に思っているだけ?)の文体も見所の一つです。
恐らく、『20選』の中で最もマイナーであろうこのゲーム。是非プレイしてみてください。


18 プリンセスうぃっちぃず
御堂真樹は、正義の味方に憧れるちょっぴり助平な単純バカ。
そんな彼の元に現れた、魔女の世界のプリンセス。
こちらもかなりの単純バカで、結成したのが魔女っ娘委員会。
幼なじみの林檎や、クラスメイトの委員長。
謎の美少女かれんも加わり、今日も正義を守るため
魔女っ娘委員会は大騒ぎ。


萌えとシナリオ、エロのバランスが非常に良い作品。萌えゲーの体裁を守りつつ、
中身のあるシナリオがそこでは描かれています。お馬鹿なギャグに笑い転げること必至で、ほのぼの楽しくプレイできます。
シビアな物語・現実も魔女っ娘委員会持ち前の明るさで乗り切っていく。そんな、力に溢れた作品です。


19 月は東に日は西に

朝起こしに来る幼なじみに、かわいい従姉妹。
そんな毎日を送る直樹の元に、空から転校生が降ってきた。


純正萌えゲーからも一作くらいということで、オーガスト作品から『はにはに』を選びました。
シナリオだとか世界観だとか、整合性だとか。そんな堅苦しいことはひとまず忘れて、気楽にほのぼの楽しみましょうというのが、今作をプレイする上で必須の心構え。
かわいい女の子達に囲まれた幸せなスクールライフが楽しめます。


萌えゲーから一作ということで、『ダカーポ1』『夜明け前より瑠璃色な』と『はにはに』の3作から、どれを選ぼうか迷いました。
結局、他2作がファンタジー要素が強いのに対して、純粋に『スクールライフ』で勝負をしてきた『はにはに』を選んでみました。
『はにはに』にファンタジー要素が無いかと言われると、そんなこともないのですが、とりあえず無視できるかな、と。


20 Close To(非18禁)

穂村元樹は恋人の柏木遊那とのデート中に交通事故に遭い、重症。幽体離脱をしてしまう。
身体を持たず、ただ空間を漂うだけの元樹。
極度のショックから彼の記憶を失う遊那。
途方に暮れる元樹が唯一頼れる相手は、人間嫌いの霊能力者小雪だった。
辛抱強い元樹のコミュニケーションもあって、小雪は徐々に心を開いていく。
だが……。
心臓が弱く、このまま臓器提供者が現れなければ死んでしまう小雪。
そして事故に遭う前、ドナー登録をしていた元樹。彼の臓器こそが、小雪の生命を繋ぐ最後の望みだったのだ。
元樹が死ねば小雪は助かる。元樹が助かれば、小雪は死ぬ。
そんな出会ってはいけない二人の、珠玉のラブストーリー。


ここでは小雪シナリオを紹介しましたが、遊那シナリオにも非常に印象深いシーンがありますし、ラストの麻衣シナリオもとても感動できますので、是非全キャラプレイすることをお勧めします。


……ちょっとネタバレしすぎた気がしないでもないんですが、Close Toはマイナーゲームということもあって、具体的にシチュエーションを提示しないと誰も興味を持ってくれそうになかったので、やや突っ込んだことも書いてみました。
本作では麻衣シナリオがグランドフィナーレなので、小雪シナリオのある程度のネタバレは許されるかな……と、いうのが言い訳です。すみません。


後書き


やっぱり、20作に絞るのは難しいですね……。紹介したゲームのシリーズ作は我慢するとしても、

『群青の空を越えて』
『もしも明日が晴れならば』
『家族計画』
『パンドラの夢』
『ナルキッソス』
『ダカーポ』
『Lの季節』
『ファントム』

あたりは、入れたかったなぁ。
と拡げていくと、グダグダになってしまうのですが。

逆に言えば、30作に拡げてしまうとやや劣る作品も含むことになり、
『ベスト版』(?)の意義が低下してしまうような気もします。



以前に比べると、ゲームのペースはかなり落ちていますが(以前がやりすぎだった)、これからものんびりとゲームを続けていくと思いますので、よろしくお願いします。
これからも20選に新たに入るようなゲーム、あるいは入れようか迷うようなゲームに出会えると嬉しいです。


追記:2014年

この記事を書いて、もう随分になる。
この数年の中で出会った作品で、この20選に確実に入るのは『穢翼のユースティア』、『Steins;Gate』、
『俺たちに翼はない』の3作までか。
『ef』も入れたいところだが、『はるのあしおと』とライターが被るので入れるか迷う。


単純にプレイ本数が減っているという事情もあるし、何をプレイしても楽しめた初心者の頃に比べれば
求めるものが高くなっているという側面もあるだろう。


あと、自分にツッコムのもなんだが、なぜ『月は東に日は西に』を入れたんだろう。
萌えゲー枠ということだろうか。
それなら、『Sugar+Spice』と入れ替えてもいいかな。
『はにはに』は、『ユースティア』ともライターがかぶるしね。
 
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