著者は島崎藤村。評価はA+。


大学時代、島崎藤村の「夜明け前」を読んだ(正式には、授業で読まされた)。
これが、極めてつっっまんない小説で、それでも仕方なく授業のために読んだら、
同じ授業をとった複数の友達に
「すげぇ、あんなの全部読んだの? 俺、あらすじだけネットで調べてすましたよ」と言われてしまった。
当然の如く、E評価である。


そんなわけで、まるっきり期待せずに読んだ「破戒」だったが、これが実に良い。

主人公は穢多(えた)の青年なんですが、この主人公が何とも共感できます。
生まれつき弱者の立場に置かれた彼が、同じ穢多(えた)の大先生を尊敬しつつも、
自分は父の言いつけ(戒)もあって、そのことを隠し生きています。

ところが、嫌な奴がいて、主人公が穢多だということがバレそうになってしまうんですね。
そんな中、大先生が殺されてしまいます。
そこで主人公は、一年発起し、戒を破る。つまり、皆に自分が穢多だということを告白するんです。
今まで騙していて、本当にすまなかったと皆に謝る主人公。
泣かせます。


かなり優柔不断で小心者ではあるんですけど、優しくていい奴なんですね。
そんな主人公だから、当然のことながら穢多だと知ってもなお、慕ってくれる親友・恋人(どちらも穢多ではないです)がいるんです。


とってもいいお話でした、でも済ませられるし、社会派小説としてもいいと思います。

いまだに関西の方では被差別部落などあるそうですが、この小説を読めば少しは改心(?)するのでは?
なんて、そんなこともないんでしょうが、それくらいお勧めの小説です。


PS
「なぜ生徒に謝ったのかがわからない」という意見を見たけれど、私はこの主人公の気持ちがわかるけどなぁ。

主人公は、「穢多であることが、本質的に悪いことだ」とは当然思っていない。
でも、「隠していたほうが良さそうだ」とは思っている。

「穢多」という部分を「親がこしらえた借金」だとか、「性犯罪の被害者になった」というふうに。
隠していた相手を「生徒」から、「恋人」に変えて考えてみてはどうでしょう?

「親がこしらえた借金を背負ってる」のも、「レイプされてしまった」のも、
本人には何一つ責任はないでしょう。でも、あまり言いたい話ではない。
だから隠していた。

そこで告白のとき、「隠していて申し訳なかった!実は…」という流れ。
穢多だったことを謝ったんじゃなくて、隠していたことを謝ってるんだから、自然な流れだと思うのですが。