アーサー・ヘイリーは、徹底した取材を基に、様々な産業を切り取って魅力的な小説に加工する職人だ。
今回の『自動車』は、その名の通りデトロイトの大手自動車会社を舞台に、自動車産業の光と闇を描いている。
とりわけ、闇の印象が強く、元々自動車にあまり良いイメージを抱いていない人間(私)にとっては、自動車嫌いを加速しかねない内容でもある。

新しいもの、より利便性の高いものを追求する一方で、置き去りにされていく大切なもの。
それは家族との時間であり、人間的な生活であり、命の尊厳であり。
そして、今はどうか知らないが、この小説の描かれた70年代の黒人の置かれた過酷な環境、貧富の差などの社会問題を絡めた、重いテーマが描かれている。

一方で、時代の潮流を読み、デザインとして仕上げていく面白さ等も描かれており、自動車好きにとっても面白いと感じる内容だろう。


キャラクター描写もよく練られており、600ページの内容にも関わらず、2~3日で読めてしまった。

彼の小説は手元に「大空港」「ホテル」があるが、今から楽しみである。