2015年08月

ワイルドソウル感想(バレあり)

著者は垣根涼介。評価は

1960年代、日本外務省の棄民政策によって棄てられたブラジル移民たち。
募集要項に書かれた大嘘を信じブラジルへ渡った彼らは、その後悲惨な運命を辿る事になる。
それから40年。日系人たちによって起こされたテロ事件、標的は外務省だった。


とまぁ、こういう物語なのですが、僕が書いたあらすじではこの作品の面白さがちっとも伝わってきませんね…(汗)。


物語は、衛藤というブラジル移民一世を中心に、彼の波乱万丈の人生を描いたブラジルパートと、
彼の息子(義理の息子)ケイを中心に、テロ事件を描く日本パートに分かれます。


まずブラジルパートですが、湿気の高いアマゾンの空気が漂ってくるような描写にまずは魅せられます。
そこで文字通り苦闘する衛藤。
彼を騙した外務省への怒りや、ブラジルの国土の広さ、そして治安の悪さ。
衛藤の妻となるエルレインの大らかな魅力も印象に残り、非常に興味深い内容となっています。


異国情緒を武器とできるブラジルパートに比べ、日本パートは落ちるのではないかという危惧があったのですが、これも杞憂に終わり、最後まで面白い。


ヒロイン格の貴子のヒステリックな振る舞いには少々うんざりしましたが、ある意味感情的な彼女だからこそ、ブラジル男のケイと良いパートナーシップが築けるのかもしれません。
高速道路を時速300キロで飛ばすシーンの瞬発感など、
その場の空気を伝える描写が非常に優れており、まるで自分がその場にいて体験しているかのような錯覚を覚えました。


単純なエンタメ作品としてもとても楽しめる一方、背景には堅固なテーマ性がある点も見逃せません。


世間知らず故、本作に触れるまで、海外への移民政策の闇についてまるで知らずに生きてきました。
本作をキッカケに、ドミニカ移民の訴訟などについて知ることが出来たことも、本作から得た収穫の一つです。
……ほんと、酷いもんですね。


ドミニカ在住の原告に200万円で和解した、という記事を読みましたが、自分の一生を犠牲にするような詐欺行為、自殺者も多数出しているこの欺瞞に対し、200万円で済ませて良い話なのでしょうか……。

無論、お金の多寡ではないのでしょうが、一民間人の詐欺行為ならいざ知らず、国家ぐるみの詐欺行為なのに200万円で済ませられちゃうのかぁと思うと、騙されて渡っていった移民者達はやはり無念だろうなと思います。

 

サナララ 感想(バレあり)


評価はS~Eで。

【1章 シナリオ評価 B+ ヒロインお気に入り度 A-】

片岡ともさんらしいポンコツヒロイン登場。
この方は本当にこの手のヒロインを描くのが巧いんですよね。


ちょっとトロい子と、それにいたずらする主人公という構図は他作品でも結構見るのですが、
主人公の『いじり』が強すぎて不快だったり、トロい子の反応がつまらなかったりすることが多いです。
あるいは、トロいだけでかわいくなかったり。その点、のぞみ先生はちゃんとトロかわいいのが嬉しいです。
特に僕はキツい感じのキャラクターいじりが好きではないのですが、ともさんのテキストは安心して読めるんですよね。

のぞみ先生の反応が見たくて、選択肢を選ぶ直前でセーブをとって全選択肢を試してしまう……。
昔は色んなゲームでそういう事をしていたんですが、いつしか時間に追われ、攻略サイトを見ながら最短ルートを通るようなプレイばかりをしていた私ですが、久しぶりにこういう素朴な楽しみ方をした気がします。
4ルート中、一番笑いました。
てか、「そこのお二人さん、ヒューヒュー」ってwww 一体いつの時代だよww


【2章 シナリオ評価 B- ヒロインお気に入り度 B-】

ハズレ、というほど酷くはないんですが、4編の中ではハズレ枠。
本当に当たり障りのない話なんですが、ちょっと主人公がお子さますぎたかなぁ。
せっかくのループ設定なら、もう少し面白い話が作れそうだなぁと思ってしまいました。
ヒロインは別に悪くないんですが、薄味。



【3章 シナリオ評価 A ヒロインお気に入り度 A+】

だから俺、こういう話に弱いんだって……。
ダカーポ2の某追加ヒロインとか、今回の3章とか、展開が解っててもしんみりしちゃうんですわ……。

主人公の高畑君の方に傷を持たせて、涼と出会う事で、前を向いて生きていくという設定も◎。
メルヘン脳な涼ちゃんも俺の好みまっしぐらだし、ラストもなぁ……。
あそこで「よーい、ドン」って台詞を選んだセンスは見事ですわ。


ほとんど接点のないクラスメイト同士が、一つの奇跡によって特別な一日を過ごすという設定も凄くいいですね。



【4章 シナリオ評価 A+ ヒロインお気に入り度 A】

ワナビの俺を狙い撃ちにするような話で、感情移入するなという方が無理……。

絵を描くことを諦めてしまった主人公のこの独白

『展覧会もギャラリーも俺には無縁だけど……何かが描けるのなら、描かれるのなら……。
雨の日だって、最高の一日になる』

とかもうアカンですわ。
共同作業のシーンもとても良くて、作品を締めくくるのに相応しいストーリーでした。


【総評】

非常に質の高い短編集で、本当に心が洗われました。
安易に奇跡のハッピーエンドにするのではなく、少し切ないけれど暖かい物語の着地のさせ方もとても好きです。
同ブランドで、似た方向性を持つ「120円の春」も大好きでしたが、こちらもとても気に入りました。
こういう作品、もっともっと増えてほしいなぁ。

終わる世界とバースデイ(重ばれあり)

まずは点数から。

ストーリー 120/150 キャラクター 125/150 絵 80/100 音 85/100 その他システム 70/100 印象35/50
Total 515/650 ESにつける点 84 (暫定45位/180ゲームくらい中)
 

【前置き】

「終末ホラー」+「SF」。

入莉BAD、ミカ、柊の3ルートでは主に終末ホラーが描かれ、成子ルートでSFにシフトし、入莉TRUEで物語が締められます。
本感想では順を追ってそれぞれのルートについて書いていきますが、まず始めに簡単なルート評価をさせていただきます。


『終末ホラー』

評価S~E

Cassandra Syndrome(入莉BAD)   B-
Genocide Virus(ミカルート)   A
Glacial Period(柊ルート)      B-

『SF』

Reverse End(成子ルート) B
Happy Birthday (入莉TRUE)&Epiloge  A-



【終末ホラーとしての「終わる世界とバースデイ」① 危機意識の足りない入莉BAD&柊ルート】


『2012.9.29、世界が終わる』。
カサンドラを名乗る者から、巨大掲示板に描きこまれたのは8月の終わりのことだった。
その後、交通事故、学校でのナイフ殺傷事件などを次々に言い当てていくカサンドラ。
いったいこの投稿者は何者なのか。世界は本当に終わってしまうのか。
予言は本当に未来を言い当てているのか。それともただの偶然なのか……
そんな、緊迫感とともに始まる本作は、終末ホラーものが大好きな私の琴線にビンビン触れまくり、
プレイする日を楽しみに、大切に積んでいた作品でした。

そしてその期待を真っ向から受け止め、叶えてくれたのがGenocide Virusことミカルート。
ホラーとしての出来がいまひとつだと感じたのが入莉BADと柊ルートということになります。


なぜ入莉BADや柊ルートが楽しめなかったかと言いますと、やはり主人公たちの危機意識の薄さにあるでしょうか。
私がビビリなだけかもしれませんが、第二の予言「交通事故」、第三の予言「ナイフ殺傷」までが当たったならば、入莉BADルートでの第四の予言「転落事故」はもっと注意しても良いように思うからです。
なぜか9.29対策協議会は、学内の皆の安全を守る自警団的活動を始めます。

しかし(利己的で申し訳ありませんが)私としては、そんなことよりも「予言された当日は学校に近づかない。家から出ない」こと。これに尽きると思うのです。
だというのに、ノコノコと学校に向かった結果、竜巻&窓ガラス崩落事故に巻き込まれてしまう。軽率すぎます。
 

柊ルートでは『9.28までに死者〇〇万人~』 とあるのに、なぜか主人公たちは『9.28に』と勘違いをした結果、行動が遅れて致命的な結末を迎えます。
そもそもなぜカサンドラが『9.28まで』と日時を区切ったのかも不明ですが(9.29以降も氷は拡大しているため)、
普通、まともな国語能力があるならば、『9.28まで』と言われたら『9.28に』とは思わないでしょう。
一人ぐらい勘違いをする人間がいるかもしれませんが、頭の良い成子や柊がそんな勘違いをするとは思えないんですよね。氷が広がってきたと思ったら、すぐに逃げる。これでよかったのに、何をモタモタしていたのでしょうか。
やはり危機意識が薄すぎると思います。


【終末ホラーとしての「終わる世界とバースデイ」② ホラーの真骨頂を見せてくれたミカルート】


そんな他ルートに比べ、ミカルートはホラーとしての面白さを存分に味わえる、終末ホラーの傑作ルートだったと思います。
まず、セルビアから殺人が起こり、東ヨーロッパ、そしてイギリスへ。
災厄が徐々に拡がっていくその怖さ、分かっていても逃げ場がない恐怖。

そしてついに日本へ~という流れは、『その日だけ学校休めばいいじゃん』な入莉BADや、『だからさっさと街から出ればいいじゃん!』な柊ルートと比べ、深刻度が桁外れに違います。
街から脱出する成子と入莉を見送り、柊のために残ると決めたミカの心情も自然で、そこから続いていく展開も圧巻の一言でした。


子供だけが罹患するウイルスという設定もなかなか面白く、これによりウイルスの恐怖だけでなく、『人狩り』と称して子供を襲う大人の設定も光っています。
そしてスカイタワー(でしたっけ? スカイツリーみたいなやつ)から、大切な彼女と共に飛び降りていくエンディング。
元々、9.29対策協議会の中ではミカが一番好きだったこともあり、非常に感情移入させられるシナリオでした。

全ヒロインがこのクラスの内容ならば、90点も夢ではなかったのですが。


【SFとしての「終わる世界とバースデイ」① 先の読める展開、力技の多用】

さて、そんな『ホラーとしての』本作には、やはり不可解な点が幾つもあります。
最大の疑問点は、「選んだヒロインによって、終末の展開が変わる」ことでしょうか。
普通に考えれば和臣が誰を選ぶかで、世界の終わり方が変わるなんてことはありえません。

となると、これは
①予言者カサンドラは和臣に近い存在で、カサンドラの予言どおりに事件が起こる、カサンドラ超能力犯人説か、
②和臣の夢説。「リトルバスターズ」的な感じで、「世界の終わり」=「現実世界への回帰」


という二つの予想が容易に立てられたのですが、 多少の変形はあれど本当に②だとは……さすがにそれはありきたりすぎるのではないでしょうか。
また、「終末ホラーとしての不可解点」を

A カサンドラは未熟だから、下手な予言をしても仕方ないよ 
B 入莉は不安定だから、そういう設定にしないとおかしくなっちゃうんだよ

の2点で強引にまとめてしまうのは、少々乱暴に感じました。
確かにこの2点を押し出せば、不可解点は一挙に解消でき、物語に目立つ齟齬はなくなるのですが……。


後はまぁ、成子さんが面倒くさがりでどうしょうもないのはその通りなんですが、
本人が嫌がってるのに無理やり面接練習をさせるどころか、申し込みまでさせるのは正直どうかと思いますし、
冗談とはいえ「社会のダニとは友達になりたくない」という柊の台詞はかなり不快に感じました。


この手のキャラいじりはたまにエロゲでも見かけますが、面白いですかねぇ……。
自分がナルの立場だったら、友達作りに絶望して更にネトゲの世界に引きこもっちゃいそうですわ……。


【SFとしての「終わる世界とバースデイ」② SF設定で広がる世界】

一方で、10年後の2022年を持ち出したことで、得られたものもあります。
最たるものは、この手の作品では珍しい(と言ってしまいますが、珍しくなかったらすみません)、10年スパンでの物語が展開されたことでしょうか。
後日談の1枚CGのような形ではなしに、高校生だった主人公たちが成長する姿をしっかりと描いてくれる作品は、エロゲではやはり少ないように思います。

この2022年設定によって、成長した成子や柊の姿を見ることができたのは、やはり嬉しかったです。


【SFとしての「終わる世界とバースデイ」③ Happy Barthday】

そして、美しいエピローグ。
更に数年後、ということで主人公は35歳くらいになったのでしょうか。
寂しく街を歩いている一臣のもとに届けられた、失われた少女からの祝福は、非常に心の温まるものでした。
スペルを間違えているあたりがまた、入莉らしさを感じてよかったと思います。
このゲームを最後までプレイして良かった、と心から思えるエピローグでした。


【余談】

ただ、入莉のエピローグ自体はそのまま残してほしいのですが、
選択肢で分岐する形で、バーチャルリアリティで出会った9.29対策協議会の皆と、同窓会のように思い出を語り合うシーンも欲しかったです。
せっかく絆を深め合った仲間たちなのだから、現実に戻っても繋がっていたいなぁと。
個人的にミカがヒロインの中で一番好きだったこともあって、現在のミカももっと見てみたかったです(一人だけ、全く和臣と接点がない……)。


まぁ、バースデイエンドが一番美しいのは間違いないでしょうし、蛇足になってしまうかもしれませんけども。


そんなわけで、細かいところは結構不満もあるのですが、ミカルートの出来の良さと、ラストに心を持っていかれました。
良いゲームでした。
 

好きなミステリ10選

『りんごはおかずだよ』でお馴染みのk-pさんから

「好きなミステリー小説を10作品、理由やエピソード等も添えて挙げてください。
ミステリー小説の定義はお任せしますが、参考URLを貼っておきます。こんな定義に当て嵌まるのならミステリー小説といえる、程度の認識で。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%A8%E7%90%86%E5%B0%8F%E8%AA%AC#.E6.8E.A8.E7.90.86.E5.B0.8F.E8.AA.AC.E3.81.AE.E5.88.86.E9.A1.9E


というお題をいただきました。こういうご質問は非常にありがたいです。
この場を借りて感謝いたします。


★前置き


さて、回答に行く前にまず、ミステリの定義を考える必要があります。
参考URLを見ていきますと……「本格ミステリ」「ハードボイルド」「ソフトボイルド」「コージー・ミステリ」という具合に進んでいくのですが、2点気になる事があります。

1つは「冒険小説」が入っていない点。
ハヤカワ文庫から「冒険・スパイ小説ハンドブック」などという本が出ているように、個人的には「ミステリ」に分類されると思っているので、まことに勝手ながら入れさせていただきます。


2つ目は「ホラー小説」について。
この分類では「ホラー」も入れて良いことになっておりますし、私自身もホラーは結構好きなんですが……
ホラーって、ミステリですかね……?
個人的にはホラーはミステリというよりも、ファンタジーと地続きな感じがするのですが……とりあえず書きながら考えてみます。





次に諸注意について。

1:僕は日本の小説も好きなのですが、残念ながらあまり読めておりません。海外小説が多くなっていますがご了承ください。

2:一作家一作主義……同一作家からは複数作選ばないという方針を取りました。

3:順不同です。

4:記憶を頼りに書いています。細部の展開などに記憶間違いがあるかもしれません。
また、記憶の強度によって作品ごとの文章量に偏りがあります。


5:思いっきりネタバレします。なので、タイトルを太字にして、その後にスペースを空けますので、
ネタバレが嫌な方はスクロールしてください。


6:なんと数えてみたところ、10000文字もあるみたいです……。分割すべきだったでしょうか? 
 読みにくかったらごめんなさい!



では、本題の作品紹介へと移ります。




魍魎の匣/京極夏彦




エロゲ「水月」のファンブックにて、ライター氏が参考にした書籍に挙がっていたので、読んでみました。
私、「水月」という作品がかなり好きでして、その中でも雪さんというヒロインのエンディングが本当に好きなんですね。


主人公は狂気に包まれ、幸せを感じている。
けれど、正気の我々から見ると、主人公は狂気に囚われていてその姿はとても悲しい。
幸せと、悲しみが入り混じったそのエンディングは本当に素晴らしかったと思います。


で、『魍魎の匣』を読んでみたわけですが……も、『魍魎の匣』のエンディング、まんま『水月の雪さんエンド』やん!!
というよりも、『水月の雪さんエンド』が『魍魎の匣』そのまんまじゃん!! という……
これは確かに「参考にした書籍」でしょうなぁ。

↓『魍魎の匣』エンドから引用



「幸せになるなんて、簡単なことなんだ」
「人を辞めてしまえばいいのさ」。


愛する娘の亡骸を抱え、荒涼とした大地を一人行く男。
時折男が何かを話しかけると、少女もまた、楽しげに応じる。
たとえその声が、男にしか聞こえなかったとしても……

私は、何だか酷く―
 男が羨ましくなってしまった。




狂気に包まれた、幸福な男。
それを見て、「酷く、羨ましくなってしまう」私。
このエンドは……本当にたまりません。


全体の感想を書きますと、思春期の少女の危うい心の描写から始まり、偏執的な神経症の描写や膨大な薀蓄の合間に、ユーモア溢れるのどかなやりとりなども混ざり、1000ページの分厚さが全く苦にならない、
非常に読みやすい物語となっております。


本書を読んで気に入った方は、京極堂シリーズのまとめ読みという贅沢な時間が用意されています。
個人的に「塗仏の宴」と「邪魅の雫」はイマイチでしたが、他は全部80点以上をつけられるおすすめ作品です。




クワイヤボーイズ/ジョゼフ・ウォンボー





「警察小説」というジャンルの中から1作選ぶなら、これです。
文庫化もされていませんし、日本での知名度は低いと思われるジョゼフ・ウォンボーですが、
警官の日常を描かせたら彼の右に出る作家はいません。
というのも、ウォンボー自身が、元警察官なんですね。


本書にて描かれるのは、他の警察小説のような『事件』でも『容疑者の逮捕』でもありません。
『警察官が大活躍して、犯人逮捕、男を上げる』ような作品ではないのです。

そこで描かれるのは、警察官としてのストレス。
退屈な日常、くだらない事件、住民からは警戒されることはあれど好かれることはなく、犯罪者の心の闇に触れ……。

「警官というのは肉体的には危険な仕事ではない。しかし精神的にはとても危険な仕事だ」(うろ覚え)のような一文があったように思いますが、まさに本書ではそんな警官たちが病んでいく姿が描かれます。

毎夜、バーに集まって乱痴気騒ぎをする警官たち。
飲まなきゃ、やってられない。
チームワークで事件を解決していく警察小説もいいですが、
よりリアルに警官を描いた本書も是非、手に取ってほしいなと思います。


同著者の作品なら「センチュリアン」もお薦め。

毛色を変えて、もっとオーソドックスな警察小説が読みたい向きには、エド・マクベインの「キングの身代金」をお薦めいたします。



死の接吻/アイラ・レヴィン






ものすごく、テクニカルな小説。
技巧の全てを使い尽くしているかのような作品です。


犯人視点で描かれる第一章。
ここでの犯人は、付き合っている娘が妊娠したため無理やり結婚させられそうになっています。
堕胎してほしいと頼むも、受け入れてもらえない。やむなく、犯人は娘を殺そうと決意します。


……実はこの犯人、後々相当なクズだと判明するのですが、第一章の段階では非常に共感できてしまいました。
いや、もちろん「殺す」のはよくありません。
しかし、妊娠したからといって無理やり結婚を迫るのもどうかと思うのです。
中出しした男が悪いんですが、それを許した女も悪い(レイプは別ですが、本書の性行為はレイプではないです)
と思うのは現代人かつ、割と適当な性格の僕だからでしょうか。
堕胎というのは1950年代のアメリカではなかなか考えられない事だったのだとは思います。
何せ、今ですら堕胎を認めない州もあるということですし、キリスト教の考えとはそぐわない面もあるのかもしれません。


そんな事情もあって、「殺すのはどうかと思うが、まだ学生なのに子供を作ったせいで望まぬ結婚を強いられる」犯人に割と同情しながら、読みました。
殺人に至るまでの犯人の心情などもなかなか緊迫感があって、ハラハラします。
さて、そんなふうに犯人の心に寄り添い、共感しながら読んだ第一章が終わり、被害者の妹が語り手となる第二章に移ると……。


なんと、あれほどわかったつもりでいた犯人が解らないのです。
これには心底から驚嘆させられました。
犯人に感情移入できなかった人はそこまで驚かなかったかもしれません。
しかし、犯人に感情移入しながら読んだ私としては、当然犯人のことは完全に解ったつもりでいたのです。
それが、わからない。容疑者が何人か出てくるのですが、どれが第一章の語り手なのかわからないのです。


ラストの前にも一つの工夫があります。クライマックスを盛り上げるため、緩急を意図的につけているのです。
「面白い作品」は沢山ありますし、たいていの面白い作品は「巧い」のだと思います。
しかしこれほど正面から技巧が駆使された作品、「巧いなぁ」とうならされた作品は、本書だけかもしれません。




郵便配達は二度ベルを鳴らす/ジェームズ・M・ケイン







この主人公は、紛れもなくクズです。
しかしクズであるにも関わらず、強く感情移入できてしまうのは、ケインの卓越した文章力故。


浮き沈みの激しいジェットコースターのような、主人公の不安定な心。
劇的に移り変わる周囲の状況に、悩み、決意し、また悩み、流されていく……とにかく、スピード感溢れる作品です。


大まかなあらすじを書いてみます。


A 主人公のチェンバースは人妻のコーラに恋をし、二人は相思相愛になる。
B 二人は共謀して、邪魔になった夫を殺してしまう。
C チェンバースはコーラに対し、恐怖を感じ始める。


Aパートではチェンバースの、コーラに対する愛欲が見事に描かれていますし、Bパートでは殺人に臨むチェンバースの高揚と恐れが描かれていて、(普通に考えたらチェンバース達のやっている事は外道であり、応援する筋合いもないのですが)
ついつい彼らを応援してしまいます。
上述した『死の接吻』の第一章もそうなのですが、巧い倒叙作品は不思議と犯人に感情移入してしまうんですよね。

ここまでも十分面白いのですが、問題はその後。


一度は愛した男を、邪魔になった途端に殺したコーラの非情さに、遅ればせながらチェンバースは気づくのです。
コーラが再び不倫した際、殺されるのは自分、という事になりはしないだろうか?
ひょっとしたら、コーラはただ邪魔な夫を始末したかっただけなのではないか。
そのためにチェンバースを誘惑し、首尾よく共犯者に祭り上げ、犯人として警察に売るのではないか?
そうしてチェンバースが捕まれば、彼女は本当の意味で自由の身となるのでは?


疑心暗鬼は膨れ上がり、ピリピリとした緊張感が二人の間に充満していきます。
あんなに愛した女を、疑惑と恐怖の目で見てしまうチェンバース。


そんなチェンバースがコーラを再び愛するシーンには、思わず心が動かされました。
装飾的な文章ではありません。シンプルな文章に込められた、チェンバースの想いに心を動かされたのです。


女はおれのそばへ寄って来て、手をとった。顔をみあわせた。
そのとき、悪魔が離れたこと、おれが愛してることを、女は知った。

 
ラストの描写もしんみりとして心に残ります。


気がついてみると、いつもおれはコーラ(人妻)といっしょに、青空の下で、ひろい水のなかで、これからおれたちは幸福になる、それが永久につづくんだと話しあっている。
コーラといっしょにいるとき、おれは大きな川の上にうかんでいるらしい。


チェンバースとコーラは天国には行けなかったかもしれません。
けれど、いつかどこかで再会し、幸せになれることを願ってやみません。




……うーん、冷静に考えれば不倫した挙句、夫を殺した二人なのに……
それなのに、こんな気持ちにさせられるとは……小説の力は偉大だ、と思わせる作品です。


短い作品なので、未読の方はぜひ読んでみてください。
もし本書が気に入ったなら同著者の「殺人保険」もおすすめです。





終わりなき夜に生まれつく/アガサ・クリスティ





僕のTwitterを読んでくれている方は、僕がクリスティファンだということは知っていると思います。
そして、クリスティは沢山の面白い作品を書いています。
その中で、どの作品を選ぼうか、正直迷いました。


この『終わりなき夜に生まれつく』は、犯人当てを楽しむ作品ではありません。
確かに犯人は意外ではあるのですが、そのトリックは「二番煎じ」です。
「クリスティさん、あなたそのトリックは以前使いましたよね」という。
なので、犯人当てを楽しみたい人には『五匹の子豚』、もしくは『葬儀を終えて』あたりをお薦めしたいです。


では、本書の良さはというと、それはひとえにドラマ性にあります。


本当は殺人など犯したくない犯人と、自分が殺されることを知っている被害者のラブストーリー。
犯人は、被害者と共にいられる未来を束の間信じ、
被害者は自分が殺されることを知ってなお、犯人と共にいる未来を夢見ます。
「終わりなき夜」に生まれついた犯人。
こんな生き方はもうやめにしたいと思い、穏やかな陽光を夢見るけれど、それでも犯人は生き方を変えることができません。


「なぜそんなふうに私を見つめているの? まるで愛しているみたいな目で…」

被害者から犯人に向けられたこの台詞。


たぶん、誰にだってチャンスはあるのだろう。だが、僕は――背を向けてしまった。

という犯人の独白が悲しく響く……非常に印象的な作品です。


元々クリスティは犯人当てだけでなく、犯行に至るまでのドラマを描かせても素晴らしい作家で、前述した『五匹の子豚』、『ナイルに死す』、『ホロー荘の殺人』、『鏡は横にひび割れて』など数々のお気に入り作品があります。
本書が気に入った方は、ぜひそれらの作品にも触れてみてほしいと思います。




解錠師/スティーヴ・ハミルトン






言葉を話すことができない、というハンディを抱えている少年マイク。
彼には二つの才能がありました。一つは絵の才能、そしてもう一つはピッキング。鍵のかけられた扉を開ける才能です。


口がきけないこともあり、孤独だったマイクですが、大好きな絵を通して友人ができます。
その友人が余計なことをしたせいで、マイクは学校のゴロツキとかかわりができてしまいます。
そこから雪崩のように、彼はどんどんと性質の悪い人間に目をつけられていき、とうとう取り返しのつかない事態へ、
抜けようとしても抜けられない、犯罪者の泥沼にずぶずぶと浸かっていくことになります。


犯罪、特に少年犯罪の発生は、周囲の環境に大きく左右されるといいます。
家族、そして学校の友達。
マイクは、言葉を話すことができませんでした。それもあって、なかなか友達ができなかった。
そんな中、マイクには絵の才能がありました。なので絵を通じて、友人ができました。
しかしその友人はゴロツキの注意をひいてしまいます。主人公は唯一の友人に頼まれて、断ることができません。


彼の心にあったのは、褒められたい、自分は凄いと他人に思われたい。そんな少年らしいプライドです。
好きな人に振り向いてもらいたい、好きな人の幸せを守りたい、そんなありふれた気持ちです。
全ては因果であり、マイクの一つひとつの行動が、破滅的な未来を呼び寄せていく……そんな、一人の少年の不器用な人生が、本書では丁寧に描かれていきます。


どこかで一つ、違う選択をしたならば、抜け出すことができたかもしれない。
けれど、その時々でマイクは常に自然な選択をし、その結果、状況は泥沼へと陥ってしまうのです。


こう書くと、いかにも暗い物語ですし実際暗いのですが、
初めて出来た友人に絵の才能を褒められるシーンや、恋をし、片思いの娘に笑顔を向けられて幸せを感じるシーンなど、瑞々しい青春小説としての楽しみもあります。
ほろ苦い作品、ほろ苦い人生ではありますが、そこには確かな希望がある。
そんな力強さを感じる作品でもありました。




バトルロワイアル/高見広春




元々、サバイバル要素の強い殺し合いの作品は好きなのですが、
本作で最も素晴らしいのは、一人ひとりの登場人物、人間関係を丁寧に描いていることです。

登場人物たちは何の変哲もなく、どこにでもいる少年少女たち。
「こんな奴、いたなぁ」とか「俺、こいつに似てるかも」とか「こういう子好きだなぁ」などと思いながら読んでいました。
その描きこみは、まるで自分がクラスメイトたちをよく知っている、そんな錯覚すら抱かせるほどでした。
メイン格のキャラクターだけなら丁寧に描かれる作品は多いのですが、そうではなく、クラス全体の一人ひとりを丁寧に描いている点こそ、この作品を推す最大の理由です。


どこからか誘拐され、寄せ集められてきたキャラクターたちとは違い、日々同じ教室で時を過ごすクラスメイトだからこそ、
そこで培われてきた人間関係が、網の目のように、登場人物たちを繋いでいます。
友達、反目する相手、恋人同士、片思いの相手、何となくつるんでいる相手などなど、誰かと誰かを結ぶ関係。
誰かが誰かに抱く気持ち。そういった心の綾がすべて、殺し合いという無情なゲームの面白さをグイグイと高めているのです。

「殺し合いに積極的に参加する者」、「大好きな人と共に心中する者」、「仲間同士集まって、同盟を結ぶ者」、
「疑心暗鬼に陥り孤立する者」などなど、各キャラクターに感情があり、それを余すところなく描いていく。


スリラー作品としても一級品ですが、登場人物一人ひとりが作中で息づいているからこそ、
共感をし、応援をし、「殺されないでくれ」と強く願う。
そんな共感が、緊迫感をより高めていく。
こうした相乗効果が、本作をS級の娯楽大作に仕上げています。


名前だけを聞いて、「趣味の悪い殺人小説」だと食わず嫌いしている方には一度読んでほしい作品です。



余談ですが、wikipediaによりますと


『第5回日本ホラー小説大賞の最終候補に残ったものの、審査員からは「非常に不愉快」「こう言う事を考える作者が嫌い」「賞の為には絶対マイナス」など、多くの不評を買い、受賞を逃す』とあります。


これが本当かどうかは分からないのですが、もし本当だとするたら、随分質の低い審査員だなぁと思わずにはいられませんでした。

スティーブン・キングの名作ホラーに、設定のよく似た『死のロングウォーク』という作品がありますが、
これなどもホラー小説大賞の審査員は認めないのでしょうか……。
このような偏狭な審査員を抱えている方がよほど、賞のためにはマイナスだと思うのですが。

 
Wikipediaには
(選者の1人が後に書くところによると、最大の落選理由は作品的に落ちるからであり、しかし、おもしろいから売れるだろうと、別の場で語り合っていたとされる)
とも書いてありまして、まぁ「作品的に落ちる」のなら仕方ないかなとも思います。
面白いのに作品的に落ちる、というのが僕にはちょっとわかりませんが。 



あ、あと、これもミステリという印象はないのですが、「このミス」に入っていたので入れてみました。







天使と悪魔/ダン・ブラウン




本作は、超有名な『ダヴィンチ・コード』の前作に当たる作品です。


『ダヴィンチ・コード』にも共通して言えることですが、

・「薀蓄で知的好奇心を満足させてくれ」

・「サスペンスシーンでスリルを味わわせてくれ」

・「考えさせられるテーマ性を持つ」

上質のエンターテイメント作品です。
また、訳文が非常に読みやすいため、ライトノベル感覚でスラスラ読めるのも見どころで、
「ダヴィンチ・コード」が楽しめた方はぜひ、この作品も手に取ってほしいところです。


本作で特に印象に残ったのは真犯人のキャラクター造形。

「科学から恩恵を受けた、祝福された子供」(天使)から、「試験管で生を受けた、呪われた子供」(悪魔)へ……
本書タイトルが表しているのは、そんな真犯人の変貌ぶりでしょう。


「科学は人を破滅に追いやる」。
狂信者でもある真犯人の言葉には一片の真理があります。
科学の進化により、人類は、自らを一瞬で消し去る自爆スイッチを手にすることになりました。
一方で、発達した交通手段で遠隔地同士を瞬時に繋ぐ、インターネット上で大勢の人に文章を発表できる、
夜にも明かりを灯して活動できるなどなど、語りつくせないほど多くの生活の質的変化、向上がテクノロジーによってもたらされました。
科学の進歩によって癒されるようになった病、救われる命。
その結果、高齢化社会が到来するなど、単純な善し悪しでは語れない、科学の力。
 

宗教もまた、多くの人の心を救い、同時に多くの人の心を壊してきました。
そんな「宗教」と「科学」の力について。
二つの力の共存について考えさせられる、という意味でも本書はしっかりと私の心に根づいています。





マタレーズ暗殺集団/ロバート・ラドラム






一度読みだしたら、やめられない作品。
そう考えて真っ先に頭に浮かんだのが、本作品でした。
1000ページの作品は普段なら読了するのに4日ぐらいはかかってしまうのですが、
本書は2日で読み終えています。
とにかく面白くて、作品世界にグイグイと引っ張られていったのです。


仇敵同士のアメリカ諜報員スコフィールドと、ソ連諜報員タレニエコフ(タレエニコフだったかな……?)。
お互いがお互いの大切な人を奪い合った、そんな過去の因縁を持つこの二人が手を組んで、
世界滅亡を企むマフィア『マタレーズ』と戦うという、スリラー作品。
娯楽小説として、非常に力のこもった作品ですが、何といっても『マタレーズ』の設定が良いのです。


大企業・権力者に目をつけられ、卑劣な手段により潰されてしまったマタレーズ。
彼は世界への復讐のため、「マタレーズ評議会」を開催します。
大企業、権力者に恨みを抱き、世界の転覆を目論む5人の名士たち。
その席上でマタレーズ自らに命じられ、彼を、そして館の使用人達を皆殺しにしたのは、羊飼いの少年でした。
マタレーズの遺志を受け継いだ羊飼いの少年は、4人の名士たち(1人死んだ)とともに、暗殺集団を結成。
今や陰から世界を動かす力を得たマタレーズ、混沌をもたらすマタレーズに、スコフィールドとタレニエコフは立ち向かえるのか?


ラドラム作品の面白さは、俗に言う『厨二臭さ』にあります。ハッタリの描き方が実に良いのです。
設定だけをかいつまんで言えば、「ばかばかしい」と思ってしまうかもしれませんが、読んでみるとグイグイと引き込まれます。
この紹介記事ではそのハッタリの面白さを伝えることができないのがとても残念ですが、とにかく世界転覆の陰謀やら
肌に刻みつけられた血の刻印(うろ覚え)やら、そういった要素にワクワクできる人はぜひ読んでみてほしい作品です。




スコフィールドとタレニエコフがお互いを赦しあい、絆を深めていく描写や、
マタレーズの元愛人(今は老婆になっている)の孫、美少女アントニアの登場など、
定番ではあるものの、エンタメとして確実に面白くなる要素を出し惜しみせず、これでもかと入れてくる。
本作は、そんな贅沢な娯楽小説です。


この作品が気に入った方は、同じラドラムの「スカーラッチ家の遺産」もお薦めです。





ゴッドファーザー/マリオ・プーヅォ





ゴッドファーザーは、ファミリーの物語です。
マフィアの物語(固い結束で結ばれたマフィア組織は、ファミリーと呼ばれる)であると共に、
文字どおり家族の物語なのです。


マフィアといえば、犯罪、非合法、暴力など、血なまぐさいイメージを浮かべる方が多いと思います。
(そんなはずはないのですが)始終、ドンパチと抗争を繰り広げている、そんな感じです。
当たり前ですが、もちろんそんなことはありません。
彼らもまた私たちと同じように、悩み、迷い、苦悩し、時にはダンスを楽しんだりもします。
人を愛し、子供を愛し、人生を生きています。
本作で描かれているのは、マフィア組織の中で生きる等身大の男たち(女たちは多少影が薄いが一応登場する)です。


ゴッドファーザーは古典的な父親越えのプロットを踏んでいます。
主人公、マイケルの父親、ヴィトー・コルレオーネは
ファミリーを愛し、ファミリーを守り抜いた偉大なるドンでした。


そんなヴィトーの後を継ぐことになるのは、今までマフィアとは無縁の生活を送ってきた三男のマイケル。
ファミリーを守るため、父のような偉大なドンになるため、マイケルは奮闘します。
冷酷さ、厳罰を用いてファミリーの規律を引き締めていくのです。
それは、厳しさの中に寛容さを、そして何よりも愛をもってファミリーを守っていったヴィトーとは対照的なリーダー像でした。


「男は、ファミリー(組織)を守るために、ファミリー(家族)を犠牲にしてはいけない」
うろ覚えですが、そんなヴィトーの台詞があります。
しかし、組織の勢力を拡大していくにあたり、非情さを押し出したマイケルは、家族ですらも切り捨てていきます。
そして訪れるのは、全てを失うという結末。


家族の愛情に囲まれ、「人生はこんなにも美しい」と語って死んでいった父、ヴィトー。
本作は、偉大なる父を超えることができなかった、悲しい息子の物語なのです。



「ゴッドファーザー」といえば何よりも映画版が有名です。
実際、私も大好きな映画で、原作小説の良さを存分に引き出した名作だと思います。
しかし原作小説は原作小説でこちらも素晴らしい作品なので、映画版が気に入った方はぜひ小説版も手に取ってほしいです。
もちろん私のように、小説版を先に手に取り、映画を見るという順番でも構いません。


映画版は三部作になっていて、原作を映画化した1、2に比べ、オリジナル脚本である3の評判はいまいち良くありません。
しかし個人的には3も好きな作品なので、評判に尻込みすることなく三部作すべて、見ていただきたいと思います。


……ところで、「ゴッドファーザー」はミステリに入れていいんでしょうか?
何となく違う気もするのですが……。



以上、10作品が現時点でのミステリベスト10ということになります。
長文記事をここまで読んでいただきまして、本当にありがとうございました!




オマケ

次点:最後まで入れるか迷った作品たち


虚無への供物/中井英夫

ラストチャイルド/ジョン・ハート

利腕/ディック・フランシス

初秋/ロバート・B・パーカー

キングの身代金/エド・マクベイン

悲しみよこんにちは/フランソワーズ・サガン

鋼鉄都市/アイザック・アシモフ

針の眼/ケン・フォレット

殺人者/コリン・ウィルソン

リング/鈴木光司

死にゆくものへの祈り/ジャック・ヒギンズ


――

(クールで孤独な、男の哀愁を漂わせる主人公を描いた、印象的な3作品
「針の眼」、「利腕」、「死にゆくものへの祈り」のうち1つくらいはベスト10に選ぶべきだったかもしれない。
好きな物語体系にも関わらず、トップ10に漏れ、語れなかったのが残念)




オマケその2:「ホラー」を入れた場合、ベスト10、もしくは上の次点に入る作品


屍鬼/小野不由美

アイアムレジェンド/リチャード・マシスン

クージョor死のロングウォーク/スティーブン・キング

クリムゾンの迷宮/貴志祐介


(「バトロワ」も入れていることですし、これらについても入れてもよかったかもしれません。
ただそうするとますます収拾がつかなくなった気もします。
現時点でもトップ10は激戦区で、泣く泣く削った作品も多かったので) 

霧谷伯爵家の六姉妹 感想(バレあり)

真のヒロインは牡丹でも紅でもなく、撫子でした。



*本感想は、不満が多くなっております。
そういうのが苦手な方は、読まないでください。
よろしくお願いします。







本作を手に取った動機は、
・エロそう
・シナリオもしっかりしているらしい
・過去作「瀬里奈」が面白かった&「瀬里奈」と似た雰囲気、設定を感じたから

でした。


私がプレイした順は、
リュドミラ→(澄美)→綾→良子→藍→牡丹→菫→紅→撫子→ハーレムです。

サブヒロインをまず先に片づけて、そこからメインに入っていったわけですね。
撫子、紅、牡丹は割と核心に近いルートである、という事前情報をキャッチしていたこともあって、こういう順になりました。


【共通ルート】

館モノということで、おどろおどろしい展開を期待しながらプレイしたのですが……うーん。
まず第一に、緊迫感が全然ないです。
人が死んでいても、誰もビビらない。ヒロインたちは吸血鬼なのでビビらなくてもいいんですが、
主人公もビビらない。
なぜなんでしょうか。
俺なら「こんな危ないところにはいられるか!」と確実にトンズラをこくシチュエーションなんですが、
トンズラをこくどころか、逃げるという選択肢が浮かぶこともなく、怯えてもいない様子。


このシーン以外でも、主人公の大輔は悪いやつではないんですが、
いまいち彼の気持ちが伝わってこないので、感情移入はしづらかったです。
大体、次期当主になるという展開なのですから、現当主である隆臣さんの姿を注意深く観察する必要があると思うんですけど……。彼から話を聞こうと、もう少し努力をしてもいいと思いますし。
彼の現在のあの姿を見たら、もっと警戒心が湧いて当然だと思うんですが。


主人公だけでなく、各キャラそれぞれの思惑もいまいちわからないのもマイナスなんですが、それは追々書いていきます。


せっかく怪しげな使用人がたくさんいるのに、ヒロインたちの身に危機が及びそうにないのも、盛り上がらない理由の一つ。
何せ吸血鬼ですし、彼らのホームですからね。
しょぼい人間の使用人が襲ってきても返り討ちにできちゃいそうな面々です。


さらに言えば、「吸血鬼は適合者とのHでしか妊娠しない」らしいので、それも凌辱にいまいち恐怖が湧かない理由の一つ。いくら凌辱されても妊娠しないなら、そんなに怖くないですわ…という冷めた感じです。
そんなわけで、期待したスリルとサスペンス、凌辱への不安と興奮は全く感じることがないままに、プレイは進んでいくのでありました。


【サブヒロイン】


まず最初にクリアしたのはリュドミラでした。
理由は……全く興味がわかなかったからです。美味しいものは後回し。

リュドミラや綾をクリアするために、夜伽では誰も選ばず延々と進めていったんですが、なぜか
「くんくん、女の匂いがするわ」と言われて、「え、わかりますか?」と答えてみたり、
「『これからも』抱いてください」と言われたり、割と意味不明な展開に。
この辺、フラグ管理がうまくいってないんじゃないかなぁと思わされます。


リュドミラルートに入った理由すら、僕にはよくわかりません。
リュドミラを好きになった理由はなに? 全く伝わってきません。
というか、僕がプレイした大輔くんは、個別ルートに入る前日に澄美さんにモーションかけてました……。


リュドミラさん「仕事も暇だし、セフレ作るかー。大輔くんどう?」→
「え、マジになっちゃったの!? ちょっとちょっと、割り切った関係じゃなかったの!?」→「あーもう、大輔くんがマジになっちゃったおかげでこの家いられないよー。この家つぶすかー」的な……
セフレを募集している女に、マジになってはいけません。セフレとして楽しむにとどめてくださいな。




さて、リュドミラは牡丹を目の敵にしているようですが……霧谷家を倒すなら、澄美を狙うべきでは?
なんだかよくわかりませんが、牡丹と戦って、エンディング。
面白くないです。


大輔の語りで(だが、しょせん吸血鬼と人間。長期戦になれば、回復能力を持った吸血鬼の方が圧倒的に有利だ)
という文章が唐突に出たりするんですが、吸血鬼が回復能力持ちだという知識を大輔はどこから仕入れてきたんでしょうか……。
しかも回復能力が活躍するのはこのシーンだけじゃないっすか……。


次、澄美ルート。
ただでさえ興味がないおばさんヒロイン(撫子さんが28~32ぐらいと仮定すると、母である澄美の推定年齢は若くて50くらい……)、しかも人好きがするわけでもなく。
嫌だなーと思ってたんですが、そんなおばさんに主人公が調教されるという素晴らしい展開に、耐え切れずに未読スキップ。


綾ルート。
綾さんも澄美と同じ年頃だそうなので、おばさんなのですが、綾さんには嫌悪感なくいけました。
バッドエンドルートですが、結構好きです。
澄美ルートと綾ルートは、「澄美はヤバい」とプレイヤーに印象づけるために用意されたようなルートでした。


良子ルート。
良子ちゃんはかわいいんですが、これもバッドエンド。
良子ちゃん、なんで血ぃ吸っちゃったん?? と思うけど、毒島には調教されるし、ほんの気の迷いだったのでしょう。
上のルートと違って澄美さんの判断が妙に遅いのが気になりましたが、悪い話じゃなかったです。


というわけでサブヒロインルートは終わり。
いよいよメインヒロインルートに進みます。


【藍ルート】

さっそく藍ルートからプレイ。
うーん……
「藍が他人を好きになると、その相手が死んでしまう」という設定はいいと思います。
でもさー、そのことを皆は知っていたみたいじゃないですか。
それでいて、誰も大輔には教えてくれなかった、と?
藍を大事に思う気持ちはわかりますが、誰も大輔の命の心配はしていなかったということでしょうか。
藍自身も……まぁ隠したくなる気持ちは大いにわかるのであまり咎めはしませんが、結果的に騙していた形になりますよね。
ちょっとこの詐欺は酷いよなぁ。俺が大輔なら、妻選びのやり直しを嘆願すると思いますよ。


「俺は藍の伴侶だ。そんなことで藍を嫌ったりはしない!」は立派ですけど、たかだか10日ぐらい前に初めて会った女の子で、しかもこれといった愛を深めるエピソードもなかったのに、そんな決意を表明されても……。


「姉妹たちの中で牡丹にだけは能力が効かない」というのも謎。
牡丹に能力が効かないのはわかりますが、他の姉妹たちに能力が効くというのはどうやって確かめたんですか?
この辺、ライターは何も考えないで書いてるんじゃないの? と思ってしまいました。


ラストも、「二人の愛は永遠だから、死ばん(漢字忘れた)虫は大丈夫」とか、わけのわからないハッピーエンドになっていますが、全然大丈夫じゃねーから……。
藍ちゃんが少し不安になっただけで、主人公死ぬから……。


【牡丹ルート】


次、牡丹ルート。
牡丹ルートは、ルートロックがかかっています。リュドミラを攻略しないと選べないんですね。
なので、かなり気合の入ったルートを予想していたんですが……うーん……。


――引用

『良子「いやな予感がします。今まで人が死ぬことはあっても、遺体が消えることはなかったと思います」』

↑いやいや、良子ちゃんって新米メイドだよね??
今まで人が死ぬことはあっても……ってさらりと言ってるけど、短時間で何人死んでるんだよw
良子ちゃん、悪いことは言わないからこの仕事はやめなよ。


『3人は居間でくつろいでいた。
その表情は決して明るくない。
菫ちゃんは少しおびえたような様子で、紅も不機嫌そうだった』

↑あのー、おびえた人と不機嫌な人と無表情な人が居間にたむろしていることを
『くつろいでいる』と表現するのはどうかと思うんですが……


『霧谷家の雰囲気に慣れてきたのか、俺はあまり恐怖を感じていなかった』

↑お前最初から恐怖を感じてなかっただろwww


といった具合で、なんかもうツッコむところしかないです……。


牡丹姉さんは良いキャラしてるんですけどね。
こういうノリの良いお姉さんは好きです。
シナリオは……普通でした。澄美さんの性格なら、もっと躍起になって妨害しそうだけどなぁ。


【菫ルート】

毒島が外をほっつき歩いていたのに、
「これは本気で注意をした方がよさそうだな」とか言って、澄美さんや綾さん、牡丹などに報告することもなく
のほほんとしている大輔に相変わらずだなーと脱力してしまいますが、それよりも……。


菫ちゃん、病みすぎだからww
「姉の死を受け止め切れていない」とかそういう問題じゃねーから!!
毒島を『汚い蛹』呼ばわりはいいとして、大輔のことまで『汚い蛹』だと思ってんぞ、この娘……。

大輔は「共に罪を背負っていこう」とか言ってるけど、あのなぁ……。
上でも書いたけど、たかだか10日ぐらい前に出会ったばかりの子で、しかも大して絆を深めるエピソードもないというのに、その反応はおかしいって。
菫ちゃん、ただのキ印ですやん。


【紅ルート】

満を持しての紅ルート。
明らかにメインヒロインっぽい雰囲気を醸し出しているし、期待していいっすよね?
と思ったんですが……うーん、普通。
いや、藍や菫よりは良いですよ。読んでいて、そんなにハァ!?という部分はなかった。


しいて言うなら、澄美さんは紅の夢に気づいていたのだから、最初から紅を後継者候補から外しておけばいいのに、とは思いました。
ところで、後述の撫子ルートでは『澄美の姉妹たち』は生きているのに、紅ルートでは『一人しか生きていない』のはなんで?
まぁ、いいけど……。


【撫子ルート】

最後に回した撫子ルート。
真打ち登場というべきか、最後に回したこのルートは盛り上がります。
というか、このルートをプレイすると、他のルートは全部バッドエンドに見えますね。
澄美さんが生きている以上、選ばれなかった姉妹は粛清されてそうですし。


どのルートでも、最低のクズぶりをいかんなく発揮してラスボス格に君臨する澄美女帝。
それでいて、どのルートでも澄美を倒す展開はなく、拍子抜けもいいところだったのですが、
撫子ルートでは遂に、澄美と対決、これを倒します。

撫子の過去、ゴンのエピソードも良かったですし、撫子に寄り添う主人公の気持ちも理解できます。
撫子が澄美に銃をつきつけ、綾が撫子に銃をつきつけるシーンでは、思わず手に汗握りました。 
ルートロックがかかっている牡丹ルートや、メインヒロイン然とした紅ルートよりもよほどTRUEルートじゃないですか。
なんでこれが他のルートではやれないかなぁ……
メインヒロイン全ルートが撫子ルートクラスなら、80点も狙えたんですけど……。


やっと最後に面白いルートを読めて、読後感よく終わることができましたが、総合的に見るとやはり期待外れでしょうか。
 

……ハーレムルートは特に書くことないので、これで筆をおかせていただきます。
不満だらけの感想で失礼しました。 
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