2015年10月

彼女たちの流儀 感想(重バレあり)

点数は79~80点。


本作からは、非常に古めかしいゲームだなという印象を持ちました。
2006年発売ということになっているのですが、プレイ感覚は2001~2003年頃のゲームに近いです。
これは必ずしも悪いというものではなく、善し悪しだと思います。


本作の感想の前半では、この「古めかしさ」について。
後半では「ヒロイン各ルート」について、雑感を書いていきます。


☆古めかしさ

・良い点、良い悪いどちらともとれる点

良い点はとにかくコンパクトであることです。計ってはいませんが、プレイ時間18時間ぐらいかな。
共通ルートが8時間ぐらいで、各ヒロインルートが1時間半×7ぐらい(鳥羽莉だけ2ルートあるので)。
サクサクとゲームが進んでいき、中だるみする場面がほとんどありません。
*昨今のゲームによく見られるような、文章量水増しか?と思えるようなノンビリとした展開はなく、
必要最小限のイベントを(たまに必要な部分までなかったりするんですが) 通じて語られる物語。

それでいてメインである鳥羽莉ルートはなかなか読ませる内容となっています。
本当の意味で中身がギッシリ詰まっていて、先が気になる物語ならむしろ歓迎なんですが、大して中身もないのに話が一向に進まず、30時間も40時間も読まされるのは、僕は正直辛いです。
これぐらいの内容を、これぐらいの長さで語ってくれるというのは、負担がなくてとても助かります。


また、キャラクター造形についてもクラシックな印象を受けます。
昔のゲームには割とよく登場していた、『委員長』+『眼鏡』+『青系統の髪(本作では緑髪)』などはまさに典型で、絶滅したニホンオオカミを見る思いがしました。
今でも細々と生息しているとは思うんですが、メインストリームからは消えましたよね……。
僕はこの手の『典型的メガネキャラ』にいい思い出は全くないのですが、このタイプのキャラが好きな人にとっては生きにくい世の中かもしれません。


*昨今のゲームでは~と書いていますが、もちろん昔のゲームでもダラダラしたゲームはいくつもあります


・悪い点

まずはシステム面が使いづらいこと。
特にセーブ画面が昔風のもので(ダイアログボックスと言うんでしたっけ?)、コメント編集もできなければ、サムネイルも表示されません。
僕は2人目からは同時攻略をしていたんですが、たまに「どのセーブデータが、誰狙いの選択肢だったのか」がわからなくなりました。
クリックすると音声が途切れてしまうのは2006年のゲームだと考えれば仕方ない面もあるものの、ageなどは2001年の「君が望む永遠」で既に音声継続機能を入れていたと思います。
選択肢が表示されるとバックログができないのも辛いですね。


絵に関しても、火乃香の一部CGの乳首の位置がおかしいように見えるし、
せせりの立ち絵はかなりヤバいと感じました。
感動して目をキラキラさせている立ち絵は『おぼっちゃまくん』に見えるし、怒っている顔のつもりなのかもしれませんが、ドヤ顔に見えます。
せせりちゃんはキャラ的には嫌いではないのに、表情がおかしいのでちょっとプレイが辛かったです。

声も…そうですね、メインの白銀姉妹と主人公の胡太郎、それから千紗都あたりは安定しているのですが、
これまた火乃香さんやせせりあたりはちょっと聞いていて不安というか……。


昔のゲームに比べて最近のゲームが面白い、とは僕は全く思いませんが、
『絵』『音声』『システム』の三点は如実に進化が見える項目なので、やはりどうしても評価が辛くなります。
それも、本当に大昔のゲーム(2002年以前とか)なら仕方ないかなと思うんですが、2006年のゲームなのに……という。
今年の夏に2005年発売の「サナララ」を、秋に2007年発売の「カタハネ」をプレイしたんですが、この二作からは特段古さを感じませんでしたし……。


☆シナリオ&キャラについて

評価はS~Eで

上段がシナリオ評価、下段がヒロイン評価

鳥羽莉(表) A  朱音 B 涼月 B- 鳥羽莉(裏) C+ 火乃香 C+ せせり C 千紗都 C-
       A     B+   B-        ―      B-    B-     C-


シナリオの全てが鳥羽莉と胡太郎の二人を中心に組み立てられており、他ヒロインルートは
「鳥羽莉に囚われた胡太郎の開放」が描かれていたと思います。
ヒロインを攻略するというよりは、胡太郎がヒロインに攻略される物語といえばいいのかな。


その中で、せせり、千紗都の二人は「胡太郎に想いを伝える」という正攻法で、
鳥羽莉、涼月、火乃香は「胡太郎につれなくする」という手法で、胡太郎を攻略することになりますが……
胡太郎はつれなくされた方が、恋心を抱くみたいですね。
せせりや千紗都には、あまり恋しているように見えませんし……。


各ルートを低い方から簡単に書いていきますと、千紗都シナリオが最低のC-評価。
凡人である千紗都が、超人鳥羽莉に真っ向勝負、というテーマを描きたかったのはわかりますが、
「演劇部に迷惑をかけて、自己満足の勝負を挑む」千紗都に良い感情は抱けませんでした。

「主演の胡太郎がいなければダメだろ!」と遠方からバイクをかっ飛ばしてくれた火乃香に比べて、
あまりにも人間としての器が小さいというか……。
鳥羽莉に勝負を挑むこと自体は悪くないですけど、演劇部を巻き込むのはどうかと思います。
大体、胡太郎といおりでは体型も全く違うのに、どうやってセレスのドレスを着たのでしょうか?


実は剣道勝負までは、千紗都への印象は悪くありませんでした。
シナリオが千紗都への好意をぶち壊した上に、そのシナリオ自体も全然大したことがなかったという、目も当てられない内容。うーん、C-でも甘いかな?


次に低いのはせせりルートのC評価。

こちらは、せせり主演の文化祭のシーンがカットされているのが致命的。
彼女が一番頑張った晴れ舞台じゃないですか。なぜそこをカットしたんですか……。

胡太郎に告白して一度振られているという、せせりちゃんの立ち位置は実に僕好みなのですが、
その立ち位置を最大限に活かせるようなシナリオではなかった事もマイナス点でしょうか。
演劇部でのやりとりで新しくお互いを知るようになった~といってもまだ二週間かそこらですしね。
その中で、そこまでお互いが接近するようなイベントがあったようにも思えませんでした。


後、せせりちゃんはやっぱり立ち絵が悪いです。それで損している気がします。



火乃香に関してはC+評価。

ルートロックがかかっている割には雑というか、火乃香の正体とか吸血鬼の裏事情のような設定が明かされるルートですが、それ以上の面白みはなかったような。
説明のためのルート、という感じであっさり。


それにしても火乃香さんが10代という設定は要らなかったのではないでしょうか?
現在でも25歳ぐらいと言われた方がしっくりくる風貌なのに、「5年前」の回想シーンでも立ち絵はそのままでしたし……。この立ち絵で14歳以下とかどう考えてもおかしいでしょ……。


あと、鳥羽莉TRUEでは胡太郎まで吸血鬼になってしまいますが、火乃香さんは3人から血を吸われるんですかね? 負担が大きすぎる気がするんですけど、大丈夫なんでしょうか。


鳥羽莉TRUEもC+評価。

ナイトの正体とか、いおりの正体(明言されてないけど、火乃香の部下ですよね?)とか、
伏線もなしにポンと出されてもなぁという。
作中に『(ナイトは)世界に遍在するご都合主義そのもの』という台詞がありましたが、このルートこそまさに『ご都合主義そのもの』だと思います。

鳥羽莉の心内描写が追加されたことで、彼女のキャラクター像がより鮮明になった、という一点を評価してのC+ですが、ルートとしてはハズレルートでした。


ここまでが、評価の低いハズレ4ルートです。


涼月はB-評価。
彼女のキャラクター造形はなかなか印象深くて良かったのですが、僕自身が涼月を好きじゃないんですよね……。ちょっとSすぎて、なんでこんな奴を胡太郎は好きになったの?と思ってしまいました。
まぁ、一種独特の魅力がある事は否定しませんが……どうせツンツンされるなら鳥羽莉にツンされた方がいいなぁ。
あ、ノリコちゃんはかわいかったです。

(好き嫌いと、印象的なキャラ造形というのは違うんですよね。僕は涼月という女の子が好きになれませんでしたが、作品内での涼月のキャラ造形は丁寧に作られていて良かったと思いました)




朱音ルートはB評価。
あの演劇のシーンですが、本当に朱音役の声優さんが演じていたのでしょうか?
鳥羽莉だと思ってずっと読んで/聴いていたので驚きました。

できればもう少し朱音と胡太郎の昔のエピソードを入れてくれると良かったんですが、
安心して読めるシナリオでした。


一つ抜け出ているのはやはり鳥羽莉ルートですね。
特に、鳥羽莉の留学を知って詰問する胡太郎に対し、感情を剥き出しにするシーン以降は本当に良かったです。
本当は好きなのに、恋心を胸に秘めて彼を遠ざける一方で、
女王様のようにふるまい胡太郎を犯す。その二面性がとても良かった。
これは全年齢の媒体だと描きづらい内容だと思います。


鳥羽莉に恋をする胡太郎と、胡太郎に恋をする鳥羽莉。
相思相愛の二人にも関わらず、
「吸血鬼である事」と「吸血鬼である自分への嫌悪」が障害となり、アプローチできない彼女の気持ちを思うと、切なくなりました。
他ルートにおいても、このシーンの鳥羽莉は何を思っているのかな、などと考えると、趣深いものがあります。


こうしてみるとやはり、鳥羽莉一強という印象。
にもかかわらず全体の印象が悪くないのは、作品全体が短いからでしょうか。
つまらないルートを延々読まされたら苛々しますが、1時間半×6ならそんなに負担はありませんでした。



アルテミスブルー クリア (重バレあり)

82点。
空とか宇宙とか、2060年とか色々出てきますが、SF作品というよりはヒューマンドラマ。
この作品は、田島ハルが夢に向かって挑み始める序章とも言うべき作品ですね。
むしろ終章から、ハルの挑戦は始まるのだと思います。
SF部分は弱く感じましたが、ドラマとしては良かったと思います。


【本作の特徴】

シナリオの感想に移る前に、まずは本作の注意事項を。
本作では、よくある一般的なエロゲとは違う部分が幾つかあります。

1、女性主人公であること

2、キャラクターの年齢層が高めであること(相手の男性の年齢は37~38。30代女性キャラ多め)

3、主人公のHシーンが全部妄想であること

4、物語は完全な一本道で、選択肢はほとんどないこと。


この4点を受け入れられない方は、この作品を手に取る必要はないでしょう。
個人的には、アリでした。
1と2は全然OK、むしろ歓迎。4もまぁアリ。
3の『妄想』に関しては、「うーん」と思わなくもなかったのですが……これはこれでいいのかなということで、少し残念だけど許容の立場です。



【本作のテーマ――大人、子供、夢――】

本作で執拗に登場する『大人』と『子供』、そして『夢』。
これが本作を読み解く上でのキーワードになりますが、*あまり『大人』や『子供』という単語を意識しすぎると、
本質を見誤るように思います。


本作で提示される『人物像』は大きく分けると2つです。


A。「周囲の状況に半ば身を任せながらも、そこで新しい幸福を見つけていく。
   自分のわがままを押し殺し、周囲のために生きる人」

例:久保亜希子、マリア、3章序盤のアリ―、8章途中までのハル、


B。「環境を切り開き、幸福を積極的に見つけていく。
時に他人を押しのけ、傷つけてでも、自分が欲しいもののために前に進み、夢を掴む人」。

例:桂桂馬、星野建夫、4章からのアリ―、8章最後のハル、
久保亜希子(ハルの気持ちを知っていながらも、桂馬を愛し続けたという意味で)


本作で主にスポットを当てられるのは、A→Bという「成長」です。
3章のアリ―は環境に流され、一時は江戸湾ズを離れかけることになります。
しかしアリー自身の強い希望、わがままが桂馬を動かし、彼女を江戸湾ズに留めることになります。


7~8章はその焼き直しですね。
ハルは環境に流され、一時は江戸湾ズを離れることになります。
桂馬という夢はとても遠く、とても敵いそうにない亜希子さんと戦わなければならない。
目の前の闘いから逃げ、建夫という妥協を選んだハルですが、
しかし自分が本当に大切なものを自覚し、再び江戸湾ズへと向かう。そんな幕切れになります。


これから先、ハルは亜希子のように、粘り強く桂馬を想いつづける事ができるでしょうか?
亜希子は、サラという婚約者がいる桂馬をずっと想いつづけ(桂馬という夢をずっと追い続け)、傍でサポートしてきました。
ハルにとって、桂馬を振り向かせることは、処女神アルテミスの支配する空を飛ぶことよりも、ひょっとすると難しい。

けれど、諦めずに挑戦した者だけが、桂馬のように、建夫のように、亜希子のように、夢を掴むことができるのです。


……ハルが桂馬を手に入れるというのは、つまるところ亜希子さんの夢が破れるということですし、個人的にはハルよりも亜希子さんの方が遥かに好きなので、あまり応援したいとは思わないのですが……それはそれとして、最終章でのハルの決断は祝福したいと思います。
亜希子さんだってハルの気持ちに気づいてはいたわけですし、恋は闘争です。
ライバルの事を考えていたら、夢を掴むことなどできないのです。


数々の犠牲を出しながら、それでも宇宙という夢を追い続け、進出していく人類と、
誰かを傷つけるとわかっていても、自分のわがまま(夢)を追い求めるハル。
作品テーマをそのまま受け止めるなら、これはハルが、亜希子に闘争を挑むまでの物語。
桂馬という夢に手が届くかどうかはともかくとして、諦めず、挑戦していく。
アルテミスブルーという作品自体が、これから始まる「ハルの、見果てぬ夢への挑戦」の序章ということになります。




* 「自力で夢をつかもうとあがくのが大人」、「与えられた環境に合わせ、夢を諦めてでも周囲に合わせるのが子ども」、本作は子供から大人への成長物語、と書けるならば楽なのですが、
それではマリアや、亜希子のように「周囲に波風を立てないよう自分を殺しつつ、それでも幸せを求めていく」という在り方まで否定する事になってしまいます。
あまり大人とか子供というふわっとした単語にこだわると、混乱しそうな感じがしました。


【気になった点】

プレイ中、辛かったのは、ハルがどうしても好きになれなかったことです。
「真面目で潔癖で、視野が狭い」という典型的な『いい子のお子さま』という印象で、僕が嫌いなタイプだったので、読んでいてストレスが溜まりました。
作品テーマを考えれば、ハルを「子供」に描く必要があるのは解るんですが、理由もハッキリしないまま単に好き嫌いだけで桂馬を罵倒するシーンなど、読んでいて本当に苛々しました。
潔癖すぎるのもどうかと思うところで、星野さんとの間にはHどころか、キス、いや、ハグすらもなかったように思います。
クリスマスに4か月ぶりに会う(←それもどうかと思う)彼氏が泊まりに来ているのに、「Hするの?」と囃したてる草間ツインズに対し「ふしだらな!」と切り捨てているあたりも、なんだかなーと思いました。
まぁ、その潔癖さも『お子ちゃま』さを強調するためのものなんだろうなとは思うんですけどね。
いやほんと、ハルにとって星野さんってなんだったんでしょうね……。俺が星野さんなら1か月で別れてますわ……。


そして、星野さんの魅力が全く伝わってこない点も、少々困惑しました。
作品を最後までプレイすると、「星野さん=かませ犬」だということがわかるので、納得はしたのですが……。
イケメンであり、エリート。いい奴。なのに、ここまで魅力を感じないキャラクターも珍しかったです。
そんな星野さんについていくというのは、完全に「妥協」ですよね……。
誰がどう見ても、ハルは桂馬に惚れてますもん。
まぁ、最後まで読めば問題なかったのですが、途中までは星野さんの魅力が全然出ないのはまずいのでは?と思っていました。
星野さんについていくというハルの選択は、星野さんの魅力に惹かれてというのではなく、桂馬からの逃げ以外の何物でもありませんでしたから。


世界観強度の弱さも気になりました。
2060年だというのに、ちっとも2060年らしくないんですもの。
ライターさんが年配の方だというのはわかるんですが、発売された2011年現在、あるいは僕がプレイしている2015年現在でも「古ッ!」と思うようなネタがえらく多くて。
ハルは映画が趣味なので、古き名画についてはツッコみません。

しかし、「フフフのフ」、「冗談はよし子さん」、「KY」、「同期の桜」、「中山律子さん」(最後だけ草間ツインズ)
この辺りはいくらなんでもまずいんじゃないでしょうか……。
名前も「○子」が多く、ハルの友人なども含めれば4人もいますが、これから先、女の子の名前で「○子」ブームは再来するんでしょうか? しないと思うなぁ。


2060年の事を予測して書く、というのはとても難しい。
敢えて挑戦し、強度の高い未来世界を描くSF作家さんもいますが、僕はそこまでは求めません。
しかし2060年を舞台にしておきながら、平成ですらない昭和の香りを出すこともないでしょう……。
2011年のハタチでさえ、「フフフのフ」や「冗談はよし子さん」なんてまず言いませんよ……(私は言うよ! という方、いましたらごめんなさい)。
まして2060年のハタチですからね。

せめて、「ハルはおばあちゃんっ子で、おばあちゃんの口癖がうつった」みたいなフォローがあり、
周囲の人間が「??え、今のなんですか?」とか「ハルちゃん古いよww」みたいな反応をしてくれれば、まだ良かったんですが……。


【総評】

読んでいて多少ストレスが溜まる部分もありましたが、物語テーマを考えれば仕方ないところだと思います。
夢を追い続けることの素晴らしさを描いた、良いゲームでした。

しっかし……37歳男の方が25歳男よりも遥かに格好いいし、33歳女の方が20歳女よりも遥かにいい女なんですよね。
やっぱ、桂馬はハルよりも亜希子さんとくっついた方がお似合いだと思うよ……。
ハルは、10年後に期待しましょう。



カタハネ 感想(重バレあり)

【ストーリーについて ①概観】


本作は、「物語の本筋」よりも、その中に詰め込まれている様々なエピソードこそが味わい深い作品だと思います。
なので本筋を抜き出すことにあまり意味はありませんが、大雑把な紹介も兼ねて、物語の中心となるシロハネ編の本筋を抜き出してみましょう。



夏休み。
モスグリンの街のセロ、ワカバ、ライト、ココの4名は、人形技師レインに会うためにジルベルクの街へと向かう。
その後、一行は各地を旅する事になり、ベル、アンジェリナ、トニーノ、シルヴィアと旅の仲間を増やしていく。
最終目的地は、セロたちの街モスグルン。
そこで行われる演劇祭で、ワカバ脚本の歴史劇『天使の導き』を上演するのだ。
旅の仲間たちを中心に、ファビオ、マリオンなどの助っ人の力も借り、劇は無事成功。
かけがえのない思い出を胸に、ひとまずメンバー達は解散。
共に旅をする中で結ばれた絆を大切に、それぞれの生活へと帰っていく。


と、こんな感じでしょうか。
『RPG風ストーリー』と言ってもいいかもしれません。
お使いイベントをこなしながら様々な街を訪問していくうちに、次々と仲間が増え、賑やかになっていく。
新しい出会いはもちろんのこと、既存の仲間たちもそれぞれに絆が深まってゆく。
そして最終目的(ワカバの演劇)後には解散ということになります。


そんなシロハネ編に深みを与えているのが、クロハネ編で明かされる『過去の悲劇』です。
赤の国や青の国、白の国の陰謀といった要素自体は割とどうでも良くて、大国の都合に振り回される白の国の悲劇。
逆賊の名を敢えて被ることによって戦争を回避した英雄アイン、エファを最後まで守りきった忠義の人デュアといったサイドエピソードも大切ですが、まず何よりもクリスティナとエファの、悲劇の中で燃え上がる恋模様を描いた、そんな物語だったと思います。


クロハネ編で描かれた過去が悲劇であるほど、シロハネ編で描かれる幸福が浮き彫りになります。


【ストーリーについて ②誰に焦点を当てるか】

 
本作は明確な主人公というものを置かない、群像劇として描かれています。
そして、大きな物語(セロ一行の旅物語)の中に、様々なエピソードを積み重ねる形で進んでいきます。


これにより、読者が『誰』に焦点を当てるか、どのエピソードにより重点を置いて読むかで、物語の味わいそのものが変わります。
たとえばセロとワカバに焦点を当てるなら、この物語は純然たる旅物語となります。
村の幼馴染二人が、ひと夏の旅行を経てついに結ばれるというストーリーです。
また、ネット上の感想をちらほら見ますとココに焦点を当てて『ルーツ』の物語、
もしくは歴史物語と読み解いている方もいらっしゃいます。


私は、『エファ』に焦点を当てて物語を読みました。
クロハネ編で悲しい恋を経験したエファが、数百年の時を経て再び運命の人と巡り合い、恋を成就するお話。
ワカバ脚本で、自らの物語を演じるエファの気持ちを考えると、しみじみと感じ入るものがあります。
アンジェリナとベルは、この先どんな時間を過ごしていくのか。
種族の違い故、いつか『別れ』は来るのかもしれませんが、それまでの時間が幸せなものであることを願っています。


【ストーリーについて③ 秘密】

本作には、『秘密』が随所に登場します。
皆で旅を続けていくわけですが、やはり登場人物それぞれには秘密があり、
旅の仲間全員に明かすことのできないものもあります。


まずは恋愛関係の秘密。
アンジェリナとベルの秘密、セロとワカバの秘密。トニーノとシルヴィアの秘密。
あるいは、ワカバとライト、姉弟だけの秘密もあるでしょうし、
ライトの失恋はセロとアンジェリナ、三人だけの秘密です。
マスターレインやクロハネ編のデュアなど、一人だけで抱えている秘密もあります。


よくある、一人称視点でのエロゲでは、語り手(主人公)が知ることの出来る秘密しか語られることはありません。
主人公を介さない登場人物同士の関連は、主人公が同席している場でのかけあい、やりとりから類推することしかできません。
しかし、群像劇の手法を取る本作ではそうした制限がありません。


登場人物たちの多様な関係性を味わうことができるのも群像劇の良さではないでしょうか。

男主人公による単一視点の良さも十分に解っていますが、しかしそればかりではつまらないと思います。
個人的にはもっとこういう手法の作品も増えてほしいなぁと思いました。



【キャラクターについて】

「カタハネ」は読んでいて本当に気持ちの良い作品でした。

それは、ストーリーもそうですが、それ以上にキャラクターの描かれ方が素晴らしいから。
本作自体も、ストーリー主体というよりは、キャラクターの魅力を伝えるために練られ、構成された物語だと思います。


登場人物一人ひとりがバックボーンを持ち、ストーリーを持っている。
捨てキャラがおらず、脇役も含めて皆に確かなキャラクター性があり、それが存在感に繋がっている。
たとえばワカバとライトの姉弟関係とか、ニコラを中心にしたアンジェリナやトニーノとの関係、
クロハネ編ではデュアとアインの関係など、
必ずしも本筋とは言えない部分の描写も非常に丁寧に描かれています。


ワカバやココなどは描き方が悪ければ「ストレス」に感じる可能性もあるキャラクターです。
ワカバは割と強引で他人を振り回しますし、ココはお子さまで、しかも言葉があまり通じない。
他作品ですと、僕はこのタイプのキャラクターたちは好きになれないことが多いです。

しかし、本作では彼女たちに対してストレスを感じることは全くありませんでした。
それどころか、ココには本当に癒され、笑わされ、泣かされました。


本当に気持ちの良い人々が多いんですよね。
そのため、特にシロハネ編はプレイ中、全編通して心が癒されていくのを感じました。
そして、そんな幸せな空気が流れるシロハネ編にスパイスを利かせているのが、クロハネ編で語られる悲劇だと思います。


目をつぶれば、ベルとアンジェリナ、ワカバとセロ、ココ、ライト、トニーノとシルヴィアの姿が思い浮かぶようです。
楽しい作品をありがとうございました。


 
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