2016年12月

フェアリーテイルレクイエム 感想(バレあり)

85点。

甘美で不穏な暗黒童話の世界へようこそ。


☆前置き

本作のテーマは「現実逃避と、逃避からの脱出」。

不登校、引きこもり、ニート、ブラック企業社員、ブラック集落在住者、愛情のない夫婦、長期入院者、長期受刑者……
その他何でも良いのだが、
「今の境遇のままではいけないと解っている」、「けれど、今の境遇を壊して、新しい社会に出るのが怖い」という葛藤は、恐らく多くの人が抱えている普遍的な命題だと思う。
それ故に、媒体問わず多くの作品がこのテーマで作られている。

個人的にはこの作品をプレイしながら、映画「ショーシャンクの空に」を連想した。
刑務所の中の世界は確かに苛酷だが、楽園でもあった。
刑務所から出た受刑者の一人は、自殺してしまう。彼は、「楽園」の中にずっといたかったのだ。
一方で、「楽園」で殺されていく者もいる。


エロゲでも、そっくりそのままではないものの、「Fate/hollow ataraxia」、「リトルバスターズ」、「ナツユメナギサ」、「すみれ」あたりが当てはまるだろう。
しかし……これらの作品の中でも、本作は一際完成度が高かったと思っている。

それは、ひとえに「童話世界の持つ甘美な残酷さ」が実によく描けているからだと思う。



☆前半5ルートについて


前半5ルートで描かれているのは、「現実世界に向き合わず、耽溺した童話世界の『甘さ』と『残酷さ』」。

甘い甘いお菓子の家は、子供を食べるために魔女が作った残酷な装置。
本作における『楽園』は、まさに「ヘンゼルとグレーテル」に登場するお菓子の家そのものです。

そこは確かに、甘く、いつまでも浸っていたいような幸福な空間で、けれども陰に残酷な思惑が渦巻いています。
逆に言えば、残酷な思惑が渦巻いてはいるけれども、そこは確かに甘く、いつまでも浸っていたいような幸福な空間なのです。



「幸福」の描き方として特に秀逸なのはアリスルートで、「猫のない笑い」を取りに木に登っては落っこち、
主人公に抱きとめられての「これが恋に落ちるということなのね」、「それが愛の重みよ」などの一連の流れ、台詞回しは完璧。
このシーン以外でも、アリスの言い回しは非常に楽しく面白く、何度も癒されました。

一方でどのルートを辿っても、選ばれなかったヒロインの中から誰かが死ぬという「残酷さ」も見事で、
ラプンツェルルートではグレーテル、ゲルダルートではアリス、グレーテルルートではゲルダが亡くなりますが、
主人公とヒロインは、幸福に生きていきます。

毎日がお祭り騒ぎのアリスとの日常。青い鳥を探し続けるグレーテル(ミチル)との日々、
永遠に続くラプンツェルとの毎日。
もう一生正気に戻らなくても良いのではないか。ずっと甘美な世界に浸っていたい。
そんな気持ちにさせられる「キャンディのような甘さ」の陰で、少女たちは犯され、死んでいきます。

この対比が実に素晴らしいと感じました。
「現実逃避からの脱出」を描く作品において、
逃避先に「甘さ」しかないならば、現実に帰る必要を感じません。
逆に、逃避先に「辛さ」しかないならば、勇気を出して現実に帰るのを、読者は焦れながら待つしかありません。

しかしこの作品には「甘さ」と「辛さ」が、どちらもきちんと描かれている。
それだけに、彼女たちが下す「現実へと帰る」という決断が重みを増すのだと思います。


バッドエンドで良かったのは、グレーテルのバッドとラプンツェルのバッド。
キモキャラのコミヤをかまどで焼き殺すグレーテルは、本作品登場童話の中でも随一の武闘派、
グレーテルの貫録を見せてくれました。
魔女をかまどで焼き殺したという逸話を持つグレーテルに手を出すとか、命知らずにも程があるぜ……。

ラプンツェルのバッドは、ラストシナリオにも繋がる「現実世界へ帰って、どうするの?」という残酷な問いを発しており、「死亡」エンドよりも心がひんやりとする思いがしました。


もしも、私たち読者が「楽園」の住人だったらどうでしょうか。
やはり、現実へと帰りたいですか? そりゃ、あんなキモい医者だらけのところ、居たくないとは思います。
でも、わけのわからないままあそこで楽しく暮らし、そして死ねたら……それはそれで一つの幸せだと思ってしまう私は、やはり現実世界に疲れているのでしょうか……。


☆最終ルート「レクイエム」感想

最終ルートでは、そんな「楽園」からの脱出が描かれます。
と、こう書くだけで終わってしまってもいいんですが(汗)、

ドロシーの魔法で帰還するシーン。
竜巻に乗って皆で手を繋ぎ、励まし合うシーンは最高に良かったです。

振り返ってみれば、「楽園」では楽しい事も沢山ありました。そこで生まれた絆もありました。
特に印象深いのは、ラプンツェルとグレーテルの絆でしょうか。
皆で催したはちゃめ茶会、アリスとゲルダの友情など、印象深いシーンがたくさんありました。

そして、ラプンツェルのバッドエンドでも描かれたように、現実世界への恐怖があります。
精神病院から帰ってきた、身寄りのない彼ら。現実世界で、果たして生きていけるのかと聞かれれば、
相当過酷だと思われます。

現実に怯えるあまり、魔法が解けかかってしまう主人公やオディール。
そんな彼らを励まし、力づける仲間たちの暖かさ。

もちろん生活保護などを受けたり、池野氏からの何らかの援助などもあるかもしれず、
絶対に生きていけない、というわけではないでしょうが……。
本作では、その部分がカットされているのが、数少ない不満ではあります。
長々と描写せずとも良いので、各ヒロインの現実世界での奮闘も見たかったです。
まぁ、ラストの「花束」で、健在ぶりが確認できるだけでも良いか、と思わなくもない、ですが……

せめて誰か一人でいいから、主人公の側にもいてあげてほしかったという気持ちはやはりありますね。

現実世界に戻っても、突拍子もないアリスのムードにあてられれば、苦しさも苦しく感じないでしょう。
亡くした妹の、兄の代わりではないが、グレーテルと身を寄せ合って暮らすのもいいかもしれません。
側にいてくれるのがオディールならば、きっとあらゆる局面で頼もしいでしょう。
個人的に一番ヒロインとして好きなのがラプンツェルで、彼女と共に荒波を乗り越えていくのも良いです。
そして、明らかにメインヒロイン格のゲルダ……なぜ主人公の側にいないのか理解に苦しむw


何にせよ、「楽園」は崩れ、少年少女は現実世界へと帰りました。
プレイヤーである私も「楽園」を去り、現実世界を生きる準備をするべき時なのでしょうか……。


……すみません、もう少し「逃避」させてください。また、別の「エロゲ」という「楽園」へ……。
いっつも逃避している気がするんですが、特に今(2016年12月現在)、ちょっと現実が辛いんですわw



作家別読書紹介(古い海外ミステリ編)

普段は作品ごとに書いているんですが、作家別にちょっと書いてみようかなと思い立ったので。
自分が読んだものだけなので、とてもいい加減です。
エラリー・クイーンとかジョン・ル・カレみたいに、有名でも冊数を読めていない作家は紹介できませんし……。


・古典ミステリ(パズラー)編……
日本人が「ミステリ」と聞いて一番想像しやすいもの。犯人当て、トリック当てのお話。
 

アガサ・クリスティ

ミステリ界の女王。恐らく世界中で最も読まれたであろうミステリ作家。 
個人的にもとても好きな作家です。
トリックも良いですが、キャラクターの繊細な心理描写が良い。
推薦作は山ほどありますが、とりあえず
『オリエント急行の殺人』、『五匹の子豚』、『ナイルに死す』、『終わりなき夜に生れつく』の4作を。


ドロシー・L・セイヤーズ

イギリスではクリスティと並ぶ人気を誇っているらしい、ミステリ作家。
個人的にはイマイチだけど……。
とりあえず『ナインテイラーズ』が有名なので、そこから入るのが良さそう。
個人的には『学寮際の夜』が一番良かったかな。
シリーズをきちんと追いたいなら、ヒロイン初登場の『毒を食らわば』も見逃せない……かも。

 
ジョン・ディクスン・カー

密室トリックと言ったらこの人。
個人的には密室トリックにさほど熱意はないのであれですが、密室トリック好きなら絶対抑えるべき作家です。
推薦作は『ユダの窓』、『皇帝のかぎ煙草入れ』

レックス・スタウト

アメリカではすごく人気なおデブ探偵ネロ・ウルフ。
個人的にはあまり面白いと思わなかったが、とりあえず『腰抜け連盟』あたり読んでみるのもいいかもしれない。

ハリイ・ケメルマン

ユダヤ教のラビ(神父)が事件を解決するラビシリーズが有名。
事件自体はほとんど覚えてないけど、ユダヤ文化はなかなか興味深かった。
とりあえず『金曜日、ラビは寝坊した』を抑えて、面白ければどんどん読んでいくのが良いかも。


・ハードボイルド編……
「頭脳」よりも「足で稼ぐ」タイプの探偵が、頑張るお話。
 

ダシール・ハメット

ハードボイルド御三家の一人。
いきなりマフィアと抗争したりもするので、「ミステリ」という印象はあまりないかもしれない。
『マルタの鷹』、『血の収穫』あたりから入るといいのかな?

レイモンド・チャンドラー

ハードボイルド御三家の一人。
日本にも熱狂的なファンが多数存在する、抑えておくべき作家なんですが、
すみません。僕、この人の好さが全然わかりません。
とりあえず、ミステリオールタイムベストランキング上位常連の『長いお別れ』をどうぞ。

ロス・マクドナルド

ハードボイルド御三家の一人。
個人的にはこの3人ならロスマクが一番好きです。
陰気でどこか寂しげな中年探偵、リュー・アーチャーが主に家庭の悲劇を暴くというのが、特に中期以降の彼の作品の特徴。
推薦作は『ウィチャリー家の女』、『さむけ』


ジェームズ・M・ケイン

日本ではあまり知られてないっぽい? ハメット以前のハードボイルド作家で、
秀逸な心理描写、昼ドラ的男女のドロドロが互いへの敵意へと変わっていく様などが非常に面白い。
ハードボイルドというよりは、ノワール(悪党を描いた)小説に近いかもしれない。
推薦作は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、『殺人保険』


ロバート・B・パーカー

料理好きで家庭的でありながら、頼れる男でもある主人公スペンサーが人気のハードボイルド作家。
強者をくじくところはよくあるハードボイルドだが、弱者、子供への視線が優しい。頼りになるアメリカ的パパ。
推薦作は『初秋』、『レイチェルウォレスを探せ』、『ドリームガール』

ジョン・D・マクドナルド

アメリカの作家ディーン・クーンツが激賞する作家(全作品を二度ずつ読んだらしい)。
「作家志望者は絶対読め!」とのことだが、いかんせん日本ではあまり訳されていない。
そこまで凄いのか、いまいちわからなかったが確かにまずまず面白い。
『生き残った一人』、『濃紺のさよなら』、『シンデレラの銃弾』あたりがお薦め。


リチャード・スターク

悪党がドンパチやるアクション映画風シリーズ、「悪党パーカーシリーズ」で有名。
ストーリーは単純で、何か気に入らない事があった主人公が悪役とドンパチやるだけなのだが、
アクション描写が巧いため読ませる。
推薦作は『死神が見ている』、『殺人遊園地』


ドナルド・ウェストレイク

↑のリチャード・スタークの別ペンネーム(というかこちらが本名)。
ユーモア泥棒コメディ『ホットロック』がとても笑えるのでお薦め。


ミッキー・スピレイン

「悪党パーカーシリーズ」が出る前から、ドンパチやる作品はあったわけだが、
こちらは悪党ではなく、仮にも探偵がそれをやってしまうのが面白い。
『燃える接吻』、『裁くのは俺だ』など。
アメリカではものすごく売れたが、評論家からのウケは悪く、「こんなものが売れるなんて…」と嘆く声も多かったそうだ。


エルモア・レナード

現代を舞台にした西部劇。こちらも悪役とドンパチやるスタイルだが、どちらかというとタイマン勝負が多い。
とりあえず『ザ・スイッチ』あたりどうですか?
全く関係ない話だが、「今まで生きてきた中で一番つまらない映画だった!」と一緒に見た彼女に言わしめた
映画『ミスター・マジェスティーク』はレナード原作、映画脚本もレナードである。


ギャビン・ライアル

西部劇ならレナードよりもこちらの方が日本では人気がある気もする。悪役造形が印象深い『もっとも危険なゲーム』がお薦め。


ディック・フランシス

競馬界にまつわるあれこれの事件を描く作家だが、競馬に全く興味がなくても楽しめるのでご安心を。
古典的ヒーロー小説パターンで、
ウザい悪役登場→主人公ピンチ→友人や恋人の力を得て逆襲開始→悪役を倒す
というベタな展開が楽しめる。
推薦作は『大穴』、『利腕』、『敵手』のシッド・ハレー三部作。
他には、キチガイ悪役が鮮烈な『度胸』や、バランスの良い『罰金』、『骨折』あたりがお薦め。




・サスペンス編……犯罪に巻き込まれた市井の人々を中心にした作品、とでも言えばいいのかな? ジャンル分けとかほんとテキトーです、ごめんなさい。


ウィリアム・アイリッシュ

詩情溢れる都会のロマンスと切なさを描く、ミステリ作家。
何作も読むとパターンが読めてしまうのだが、こういうシチュエーションが好きな人にはハマるはず。
推薦作は、江戸川乱歩が絶賛した『幻の女』、『黒い天使』、『暁の死線』


アイラ・レヴィン

都会を舞台にした、非常にテクニカルな倒叙小説、『死の接吻』は必読。
小説ではないが、彼が手がけた映画『デス・トラップ』もアイラ・レヴィンっぽさが随所に出ていてお薦め。

ウィリアム・ゴールドマン

多数の映画脚本を手掛けている事から、映画人の方によく知られている気がするが、小説もなかなか。
特に、歯科医に扮したナチスの残党に追い掛け回される『マラソン・マン』と、その続編『ブラザーズ』がお薦め。

スタンリー・エリン

一応ミステリ(サスペンス)作家だと思うのでここで取り上げたが、『カードの館』などのサスペンス小説よりも、ミステリではない短編集『特別料理』の方が面白いと思う……のでこちらをお勧めします。


・スパイ小説……本人がスパイの事もあれば、秘密潜入捜査官めいたものも。

イアン・フレミング

名前ぐらいは聞いたことがあると思う、007でおなじみだが、実は「映画」と「小説」では全然作風が違う。
映画はドラえもんの秘密道具的ハチャメチャアクションだが、小説では割と普通のスパイ小説。
個人的には映画の方が面白い気もするけど、とりあえず映画と比べてみる意味でも、
『ゴールドフィンガー』を読み、読んだ後は映画を見るべし。

エリック・アンブラー

御三家~的な表現は聞いたことがないが、恐らく、ジョン・ル・カレ、イアン・フレミングとこのアンブラーが
スパイ小説御三家だと思う。それぐらい人気のある作家です。
何とも牧歌的な雰囲気を醸し出す、『あるスパイへの墓碑銘』がお薦め。

御三家とか書いておいてなんだが、ル・カレは1作しか読んでないので割愛。すみません。


・冒険小説……自然を舞台に冒険したりするお話。


アリステア・マクリーン

一昔前、日本でも人気だった冒険小説界の雄。
個人的にはあんまり面白いとは思わないのだが……とりあえず、『ナヴァロンの要塞』を薦める。

ジャック・ヒギンズ

冒険小説の括りに入れてしまって良いものか迷うが、まぁ多分ここで良いと思う。
アイルランド系の影のある暗殺者を描かせたらなかなかのもので、
『死にゆく者への祈り』、『脱出航路』が推薦作。
個人的にはそれほどでもないが、『鷲は舞い降りた』も有名なので良かったら。 


ロバート・ラドラム

日本では『ボーン・アイデンティティ(邦題:『暗殺者』)』でおなじみの作家な気がするが、
ハッタリの効いた厨二病悪役が素晴らしい『マタレーズ暗殺集団』、『スカーラッチ家の遺産』が推薦作。


・警察小説……「頭脳」よりも「足で」稼ぐところが、ハードボイルドに近い。探偵役が大勢の警官に割り振られているのが特徴。


エド・マクベイン

警察ドラマという単語から日本人が思い浮かべそうな、コテコテの警察ドラマ風作品87分署シリーズの作家。
ニューヨークを舞台にした架空の街、アイソラの空気感も読みどころ。
推薦作は『キングの身代金』、『ハートの刺青』、『死にざまを見ろ』、『魔術』あたり。
初期作はページ少なめ、会話多めで、手に取りやすいのも良い。

エヴァン・ハンター

エド・マクベインの本名。こちら名義では(ミステリとは言えない気がするが)、アメリカ版「金八先生」の
『暴力教室』が面白かったのでお薦め。 

ジョゼフ・ウォンボー

警察ドラマ風ではなく、リアリティ溢れる警察小説としては、現職警官だったウォンボーの右に出るものはいない。
特に警官たちの悲喜こもごもを描いた『クワイヤボーイズ』、『センチュリアン』は見逃せない。

ペール・ヴァ―ルー&マイ・シューヴァル

スウェーデン発の警察小説。スウェーデンといえばスティグ・ラーソンの『ミレニアム』が大人気だが、ミレニアム以前は恐らくスウェーデンで最も知られたミステリ作家だった……はず。多分。
スウェーデン版87分署といった趣で、スウェーデン文化が楽しい。
推薦作は『笑う警官』、『密室』

ローレンス・サンダーズ

50歳にてデビューし、渋い警察小説を描いた作家。 
変態すぎる犯人が印象深い『魔性の殺人』がお薦め。


【追記】

リチャード・コンドン

ケネディ大統領暗殺の顛末を、スリラータッチで描いた『ウィンターキルズ』がお薦め。
誰か忘れてると思ってたんだ……。



誰か忘れてる気もするけど、とりあえず
1950~80年代あたりの海外ミステリで、

1:最低2作以上読んだ
2:自分の好きな作家or超人気作家

です。

 
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