2017年01月

作家別読書紹介(古い海外小説編)

普段は作品ごとに書いているんですが、作家別にちょっと書いてみようかなと思い立ったので。
自分が読んだものだけなので、とてもいい加減です。


☆ホラー

○スティーブン・キング

説明不要の、ホラー小説界No1作家。
身近な恐怖を描けば右に出るもののいない作家だと思います。

好きな作品を挙げていけばキリがありませんが、
「ザ・スタンド」、「死のロングウォーク」、「ファイアスターター」、「デッドゾーン」、「グリーンマイル」、
あたりが推薦作でしょうか。
あまり沢山薦めても読みづらいでしょうし……でも、他にも薦めたい作品は多数あります。

終末世界での善と悪の衝突を描いた超大作ホラーファンタジー「ザ・スタンド」
「バトルロワイアル」の元ネタでもある、キング最強のホラー青春小説「死のロングウォーク」
国家権力に追いかけまわされる超能力者の恐怖を描いた「ファイアスターター」

ホラー小説の巧い作家は、人間心理を描くのが巧い作家でもあります。
未来予知能力を持ってしまったジョン・スミスが、予知に従って未来の独裁者候補と戦う「デッドゾーン」
そしてただただひたすらに悲しく美しい「グリーンマイル」など、
深く考えさせられる作品も多数残しているので、単純に「ホラー=怖い、気持ち悪い」と食わず嫌いをしている方がいれば、騙されたと思ってホラー色の薄い作品を読んでみてください。

○ディーン・クーンツ

キングに次ぐホラー小説の大家らしいです。
まだ2作しか読んだことがないのですが、「ファントム」は面白かったですね。
今後読んでいきたい作家の1人です。

○シャーリー・ジャクスン

スティーブン・キングが影響を受けた作家の1人で、
閉じられた世界で描かれる、狂気と幸福の姉妹愛「ずっとお城で暮らしてる」はやはり見逃せません。

☆歴史小説

ハーマン・ウォーク

頭のおかしなクィーグ艦長と、それに反抗する副官。
いくら頭がおかしいとはいえ、上官の命令に従わなかった副官は軍事法廷で裁かれることになる……
果たして、副官の運命はいかに……という単純な軍事法廷ドラマに留まらず、
感動あり、恋愛あり、どんでん返しありの長編「ケイン号の叛乱」は人物を深く描いた名作です。

第二次世界大戦前夜~真珠湾攻撃までを扱った歴史大作小説「戦争の嵐」も、ボリュームが気にならず、
めくる指が止まらないほど面白いので、第二次大戦に興味があるけど、「お勉強」ではなく、「楽しみながら知りたい~」という方はこちらもぜひ!

ジェームズ・クラベル

アジアを舞台にした歴史小説シリーズ「アジアン・サーガ」4部作が素晴らしい…と言いたいのですが、2作しか読めませんでした。絶版だったり未訳だったりするんですよね。
三浦按針(ウィリアム・アダムス)を主人公に、江戸時代の日本を描く「将軍」は、一人の外国人が日本文化を理解し、同化していく様子を当時の欧米事情やユーモア、ロマンスなども交えて描き切った贅沢な作品。
ドラマ版では若き日の島田陽子の美人ぶりも楽しめます。

そんな「将軍」以上に感動したのが、「キングラット―チャンギ捕虜収容所―」
一つの楽園の崩壊、価値観の大きな転換が描かれるこの作品では、何が本当に幸せなのかを考えさせられました。
文庫にもなっておらず、手に取りにくい作家ですが、是非読んでみてほしいと思います。


ジョン・ジェイクス

ケント一族を主人公に、巻ごとに主人公を変えながら
18世紀のアメリカ独立戦争から、ゴールドラッシュ、米墨戦争、南北戦争、米西戦争などなど
ケント一族とアメリカの150年の歴史を振り返る、大河小説シリーズ「ケント家物語シリーズ」がお薦め。

全8巻でハードカバーOnly、おまけに誤字脱字が山ほどあるやる気のない出版社、
とどめに、アメリカの歴史小説って、日本人の皆さんは興味あるんですかね……? という疑問など
数々湧いてくるのだけれども、
そこはそれとして。

全8巻中6冊を読んだ私としては、やはりこのシリーズはお薦めするに値する面白いシリーズだと思っています。
できれば順を追って読んだ方が良いとは思いますが、一作一作ストーリーも完結していますし、
順番どおりに読まなくても大丈夫です。

個人的には第一作の「私生児」をまず手に取ってほしいですね。
第四作の「復讐者」もとても面白かったです。


☆ファンタジー

リチャード・アダムス

動物を主人公にした冒険モノの最高峰「ウォーターシップダウンのウサギたち」はもちろん、
冴えない青年が心に闇を持つ絶世の美女に恋をする「ブランコの少女」もお薦めしたい作品です。



☆一般小説

アイン・ランド

「リバタニアリズム」という政治思想を小説の形で描き、アメリカ人に大きな影響を与えた(一説では、「聖書」の次に影響を与えたという話も)という、「超個人主義・実力主義・資本主義」の大家。
興味を持った人はググって下さいw

実力はあるのに認めてもらえない天才建築家が、周囲の俗物人間の影響を跳ねのけて、やがて認められるようになる「水源」は掛け値なしに面白く読んだ。

一方で、同じようなテーマであるにも関わらず、実力はあるのに認めてもらえない人格者の偉大な天才と、実力はないくせにのさばっている無能で性格も悪い俗物社会主義者の対立という形をとった
「肩をすくめるアトラス」は、読むに値しない偏りきった小説という印象を受けた。

アメリカでは大ベストセラー作家の彼女だが、日本で読むには敷居が高い。
何せボリュームが膨大すぎるのだ(「肩をすくめるアトラス」は2000ページ級。「水源」は文庫化されていないはずですが、文庫にすれば1700ページぐらいはあると思います)。

というわけで、お薦めかどうかはわかりませんが、せっかくなので紹介しました。


アーウィン・ショー

都会派の一般小説作家、ということになるんですが……どう説明して良いのやらよくわかりません。
冴えない中年紳士が突然大金を手に入れた事から始まる、ドキドキ人生物語「真夜中の滑降」が好きです。
詐欺師とまで友情を築いてしまう、主人公の「いい奴」ぶりが愛しい、とても爽やかなお話ですね。
3兄弟が、やがて大人になり人生の目標を見つけていく「富めるもの貧しきもの」もお薦めです。


○ジョン・アーヴィング

SFの記事で取り上げたカート・ヴォネガットと似た雰囲気を(勝手に僕が)感じる作家で、人生における悲哀を
少々突き放した筆致で描きます。
その突き放し方が絶妙で、必要以上に感傷的になるわけでもなく(僕は感傷的なのも大好きですが)、さりとて冷徹すぎることもなく、優しく暖かく見守る感覚が素晴らしいですね。
人生は悲しい事も苦しい事もたくさんあるけれど、それでもきっと、なんとかなる。
もしくは、耐えきれないような絶望も、神の視点から見ればちっぽけで滑稽なことなのだ、と、そんな感じを受けました。
推薦作は「ガープの世界」


アーサー・ヘイリー

ニュースキャスター、医者、ホテル、空港、製造業、石油、銀行、製薬など、当時のアメリカの様々な業界を取材し、
それぞれをエンターテイメントとして高いレベルで昇華した、いわゆる業界小説の書き手です。
「○○業界あるある」がそこかしこに散りばめられていますが、もちろん、そこで働くのは生身の人間ですし、
興味のない業界についても楽しく読めます。
ブックオフ100円コーナーの常連でもあり、大きなハズレもないため、手に取りやすい作家ですね。
お薦めは老医者と若医者の衝突と理解を描く「最後の診断」を筆頭に、「マネーチェンジャーズ」(銀行)、「自動車」、「大空港」など


コリン・ウィルスン

元々は思想家なのかな? よくわかりませんが、小説も書いています。
厨二病患者がかめはめ波で月を吹っ飛ばすような荒唐無稽の物語に、奇妙な真実味を持たせたSF
「精神寄生体」は傑作。
滑稽な内容も、大真面目で描けば読み手にリアリティを与えられるのだというお手本のような作品です。
いかに人が世界を色眼鏡で見ているか、という気づきが感動を呼ぶ「殺人者」もお薦めです。




普段は作品ごとに書いているんですが、作家別にちょっと書いてみようかなと思い立ったので。
自分が読んだものだけなので、とてもいい加減です。









誰か忘れてる気もするけど、とりあえず
1950~80年代あたりの海外小説で、

1:最低2作以上読んだ
2:自分の好きな作家or超人気作家

です。

作者別読書紹介(古い海外SF編)

普段は作品ごとに書いているんですが、作家別にちょっと書いてみようかなと思い立ったので。
自分が読んだものだけなので、とてもいい加減です。

(ここまでコピペ)


☆御三家

……年季の入ったSFファンは、ハインライン、アシモフ、クラークの3人をSF御三家(ビッグ3)と呼ぶ、らしいです。
本当にビッグ3かどうかはともかくとして、いずれも人気の高い作家だけに、まずはここから入るのも良いかもしれません。


ロバート・A・ハインライン

御三家の中でも恐らく最初に名前が挙がるのがハインライン。その中でも、タイムスリップものの代表作として
「夏への扉」の知名度は段違いです。
ただ、個人的にはあまりハインライン(の長編)は好みではありません。

彼の作品は、良い意味でも悪い意味でも「アメリカン・王道」な印象を受ける作品が多いです。
まっすぐな少年少女、主人公が、冒険をして、成長をして、自分の力で幸せをつかみ取っていく冒険モノ…
そういう感じです。その中で、不平ばかり言う弱いものは、たいていの場合コテンパンに叩かれます。
また、地球がダメでも次の惑星に行けばいいじゃないか!的なフロンティア精神もあって、
「うーん、いいのかなぁ」的な気分にもさせられ、あまりノレないのです。

ただ、そんなハインラインですが、小動物の描き方は実に良いですね。前述の「夏への扉」の猫や、
「レッドプラネット」、「ラモックス」に出てくる動物たちはとてもかわいらしいです。

個人的には「ラモックス」が一番好きですが、賛同者はあまりいないと思いますw
ガンダムのモビルスーツのモデルになったらしい、「宇宙の戦士」、後は「宇宙の孤児」あたりもおすすめ。

まぁそんな、あまり「合わないなー」と思うハインラインですが、短編になりますと印象が変わります。
特に「地球の脅威」、「時の門」が収録されている、短編集「時の門」がおすすめ。
短編「時の門」は、ドラえもんでも同じようなエピソードがありましたねw


アイザック・アシモフ

御三家の中で、個人的に最も好きなのがアシモフ作品です。
ロボット三原則でもお馴染みで、彼の描くロボットものはミステリ的な面白さと、SF的な面白さ、
そこに人情、友情話が絶妙にかみ合っていて、実に面白い。

短編集「アイ、ロボット」から始めて、長編「鋼鉄都市」→「はだかの太陽」と読み進めてほしいなと思います。
ロバート・シルヴァーバーグとの共著「アンドリューNDR114」も、アシモフらしいロボット作品に仕上がっています。
ロボットもの以外での一押しは「永遠の終り」。万年単位での恋愛が描かれます。
後は、スモールライト(?)で身体を小さくして、体内に潜り込んで病魔をやっつける「ミクロの決死圏」
ドラえもん好きにはお薦め。
欧米では「神々自身」が大人気だそうです(個人的にはあまり)

アシモフの代表シリーズは恐らく3つあり、1つがロボットもの。1つが「ファウンデーション」もの。
1つが「黒後家蜘蛛の会」ものだと思います。
「ファウンデーション」は4巻まで読みまして、悪くはないんですが、なんか「銀河英雄伝説」っぽいなと思いました(銀英伝の方が後ですが)。銀英伝の方が好きですw
「黒後家蜘蛛の会」は気の利いたミステリ短編集でして、肩の力を抜いて読むには良いと思います。



アーサー・C・クラーク

御三家の最後の一人はクラーク。
めちゃくちゃ大雑把に言ってしまうと、ハインラインが少年少女、あるいは強い大人の「冒険」モノ、
アシモフが「ロボット」モノで、クラークは「徹底した理系工学」モノと言ってしまっても……たぶん、いろんな人から不満は出るでしょうけど、僕の印象ではそんな感じです。
代表作は「2001年宇宙の旅」、「幼年期の終わり」、「宇宙のランデヴー」、「楽園の泉」あたりなんでしょうが、まぁ「幼年期の終わり」は良いとしても、バリバリ文系脳の私には、どちらかというと読んでいて辛い印象の作家です。

そんな僕にも面白く感じられたのは、「都市と星」。この作品はとても良かったですね。
2番目に好きなのが「火星の砂」、「地球帝国」あたりも好きです。
あと、クラークっぽい作品では全くないのですが、しょうもなくも楽しい「白鹿亭奇譚」が面白かったです。




H・G・ウェルズ

旧き良き創世記のSF。
「タイムマシン」はドラえもんの「日本誕生」のようなワクワク感と、しっかりとした読み応えのある名作です。


エドモンド・ハミルトン

旧き良きスペースオペラの代表的作家。
ガチャピンのモデルになった、故野田氏が入れ込んでいた作家でもあります。
野田氏の熱意に応えることもせず、2~3作しかハミルトンを読んでいませんが、
その中では「スターキング」がお薦めです。
冴えない普通のサラリーマンが、遠い異星の姫から救援要請を受けて、活躍するような
夢のある冒険SFでした。


レイ・ブラッドベリ

少年の瑞々しい感性やノスタルジーを描かせたら比類のない作家で、好き嫌いはハッキリ分かれそうです。
夏休み、たんぽぽの香りがする野山で駆け回った思い出。
初めてサーカスや動物園に行った時のワクワク感。そして、そんなワクワクをどこかに置き忘れて日々を過ごしつつも、たまに少年の頃を思い出して懐かしさに浸る……
そんな、ちょっと後ろ向きだけど、暖かく寂しい印象の作家です。


最高傑作は「火星年代記」
ディストピアテーマの「華氏451度」も良いですが、やはりこの人は長編よりも短編が巧い作家だと思います。

短編集では、「刺青の男」を薦めたいですね。
VRホラーの「草原」や、名作「万華鏡」、自分の代わりに嫌なことをやってくれる
「マリオネット株式会社」なども良いですが、
何といっても「ロケット」。
宇宙旅行という子供の夢を叶えようと、奮闘するパパとそれを見守るママの、優しい優しい物語です。

「太陽の黄金の林檎」、「10月はたそがれの国」も高水準な短編集でお薦め(「10月は~」はどちらかと言うとホラー・幻想色が強め)です。
「太陽の~」は、タイムトラベルの名作「サウンド・オブ・サンダー」や、不老不死の少年の孤独「歓迎と別離」、
恐竜との邂逅を描く「霧笛」などなど。

……って一つひとつ短編を挙げていったらキリがないですねw



クリフォード・シマック

ブラッドベリを好きな人は、シマックも絶対に好きだと思います。
人間の孤独、そして、孤独でありながらも人を愛さずにはいられない、そんな暖かさと切なさを感じる作家ですね。
アメリカの作家のはずなのに、彼の描く風景はどこか日本的で、そういう意味でも読みやすいです。
(地名の訳とかも、「ひばりが丘団地」(←適当)みたいな、なんかすごい日本っぽい訳なんですよw)


最高傑作は「都市」
人間が衰退し、地球のリーダーとなった犬が、人間の思い出を語る物語は、在りし日の人間と犬の絆や、
種の栄華と衰退を描いていて、ほろりとさせられる。

短編にも見るべきものが多く、短編集「愚者の聖戦」は収録4作全てが絶品。
今の日本ではあまり知名度が高くなさそうですが、ぜひ読んでみてください。


ダニエル・キイス

泣けるSFとして、有名といえばあまりに有名な「アルジャーノンに花束を」は、やはり読んでもらいたい作品。
SFとして括って良いのかはわかりませんが、多重人格を描いたノンフィクション小説「24人のビリー・ミリガン」も、心とは、人間とは何かを考えさせてくれる名作です。

キイスは実はこの2つしか読んでいないんですが、もっと腰を据えて読んでみたい作家です。


リチャード・マシスン

ライトノベル的な軽いタッチでありながら、中身はずっしりと重い(特に最後の一ページが絶品)「アイ・アム・レジェンド」
「アイ・アム・レジェンド」の映画版は、原作の良さを全く理解していない駄作なので混同なきよう!)
は、価値の転換が鮮やかに描かれます。

ロマンチックなタイムトラベル恋愛モノ「ある日、どこかで」は「思い出のマーニー」や「トムは真夜中の庭で」、「たんぽぽ娘」などの甘く切ないタイムトラベル恋愛モノが好きな方は(「マーニー」は恋愛モノじゃないけど、好きな層はかぶると思う)絶対に見逃してはいけない作品です。


ジョージ・オーウェル

精緻な描写で管理社会の絶望を描いた「1984年」は、ディストピアSFの最高峰であり必読。
ただ、ちょい辛気臭い話でもあり、抵抗を感じる人はとりあえず入門として「動物農場」をどうぞ。
こちらも辛気臭いですけど、短いので読みやすいと思います。


ネビル・シュート

世界終末モノの「渚にて」は絶品。他には、おじいさんと子供の逃避行「パイドパイパー」もお薦めです。
(ブックオフの100円コーナーの常連ですね)
……たぶん、日本で気軽に読めるのはこの2作だけです。
他にも訳されている作品はあるらしいですが、絶版&図書館全滅で、見たことがありません。



ロベール・メルル

世界終末モノの傑作「マレヴィル」がお薦め。
多分文庫化されていないけど、図書館で見つけて読んでください。
多少中だるみがあるとはいえ、「イルカの日」も面白いですよ。
無垢でかわいらしいイルカと、人間の交流を是非お楽しみください(嘘は言っていない)

ロジャー・ゼラズニイ

ニューウェーブという、印象重視の作品を生み出した作家群の一人……なんて適当な事を言っちゃうと、
詳しい人に怒られちゃいますかね。
わかる人には恐らくものすごく面白いんだろうけど、バカな俺にはさっぱりわからなかった「光の王」は、
インド神話などの知識が豊富で読解力もある方には、きっと面白いはず、たぶん。

で、そういう「歯ごたえのありそうな」作品もいいとは思うけど、バカな俺には、荒廃した世界で、
薬を届けるため、無頼漢が高速道路をすっ飛ばす、「地獄のハイウェイ」が面白かったですね。
まさにFF6の世界崩壊後の世界という感じでして……。
ゼラズニイって、わかりやすい作品も描けるんじゃん。しかも面白いんじゃん、って思いました。


ブライアン・オールディス

イメージ中心の作家。読んだ時は面白いとは思わなかったんですが、「地球の長い午後」が描く、むわっとした温室のような世界は読後数年経っても思い出せるので、読んで良かったと思っています。

カート・ヴォネガット

一応SF作家だとは思うんですが、どちらかと言うと文学畑に近い作家という印象
(違う記事で取り上げる、ジョン・アーヴィングに似た感触を受けています)。

批評的精神とユーモア、そして突き放した筆致で人生の悲哀を描く「スローターハウス5」がお薦めです。
爆笑問題の太田さんが惚れこんだという「タイタンの妖女」も良いです(が、「スローターハウス5」の方が、テーマは似ていて短くて面白いと思う)。

「ここがヘンだよアメリカ人」的な、ユーモア批判小説「チャンピオンたちの朝食」も、そういう作品が好きならお薦め。


フィリップ・K・ディック

不安定な自分という存在、不安定な「目に映る」世界。
何を信じたらいいのかわからない、あやふやな移ろいをテーマに描き続けた作家。
逆に言えば、同じようなテーマで延々と描き続けた作家なので、2~3作読めば大体のところは解ると思います。
雑な事を言えば、FF7のクラウド的な悩み
(自分は本当にソルジャーなのか、この過去は果たして本当にあったことなのか、俺は一体誰なのか、など)あたりを思い浮かべていただけると、大体のところは掴めるような気がします。


「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」が人気ですが、個人的にはあまり面白いとは思いませんでした。
もっと読みやすく、軽快なテンポで面白い「ユービック」を薦めたいです
また、薬物中毒で苦しんだ本人の自伝的小説「スキャナー・ダークリー」は麻薬小説の最高峰で、
これは必読だと思います。
(麻薬を描いたSF作品って結構多いんですけど、これより凄いのは読んだことがないです)

読みにくいという声もあるようなので、お薦めするかは迷いますが、ある程度ディックに慣れた人は
傑作「ヴァリス」もぜひ。
向き不向きもあるのかもですが、それこそディレイニーとかに比べれば全然読みやすいですよ。


ポール・アンダースン

歴史+SFを得意とする作家で、最強の宇宙人と十字軍が戦う「天翔ける十字軍」を筆頭に、
「最後の障壁」、「時の歩廊」などなど、(僕が読んだ作品は)どの作品を読んでも、毎回割と楽しめる、ハズレの少ない作家で、手に取りやすいですね。
逆に言えば、無理に読まなくても良いと言えば良いんですが、
壮大なスケールで描かれる「タウ・ゼロ」は、アンダースン作品の中でも一つ群を抜いて素晴らしいので、
この一作は読んでほしいです。

フレデリック・ポール

欧米で大人気の「ゲイトウェイ」は個人的にイマイチでしたが、サイボーグテーマの「マンプラス」が面白かったです。
「臆病者の未来」も良かったですね。
作家というよりも、元々は編集者として有名な方らしいです。


ヴァン・ヴォークト

スティーブン・キングあたりが書きそうな、超能力者迫害テーマの「スラン」面白かったです。
「宇宙船ビーグル号」「イシャーの武器店」、「非Aの世界」などが有名ですが、個人的にはイマイチ。

フリッツ・ライバー

「剣と魔法」のファンタジーでもあるファファード&グレイマウザーシリーズ、
「魔の都の二剣士」がお薦めです。ラノベの「されど罪人は竜と踊る」を思い出しました。
面白ければ、続巻もどうぞ(僕はファファード&グレイマウザーは3巻までしか読んでいませんが)

多分SFの人なので、一応ここで紹介しましたが、「魔の都の二剣士」はSFというよりファンタジーですし、
彼のSF作品は個人的にはイマイチなんで、本当にこの記事で紹介するべきだったのかどうか……。


ハリィ・ハリスン

某ゼノギアスでネタにされた、ディストピアテーマの「人間がいっぱい」が面白い。
また、(なぜかモンキーパンチ先生が挿絵を描いているせいで、ルパン3世的な気持ちになってしまう)
「テクニカラータイムマシン」は、古代へ渡って原人と一緒に映画を撮るという愉快な作品で、こちらもお薦め。

ジョン・ブラナー

ライトなタッチで楽しめる「テレパシスト」、「星は人類のもの連盟」がお薦め。
しかしちっとも売れなかったのか、欧米での彼の最高傑作「スタンド・オン・ザンジバー」は未訳。
なぜ……。


アーシュラ・K・ルグィン

言語体系や社会風習などなど圧倒的な世界の作りこみを見せる作家で、その腕はSFでもファンタジーでも活かされています。
日本でも人気のある作家で、膨大な数の作品が翻訳されている中、5~6作しか読んでいない私が紹介するのもあれなのですが。
性の問題に正面から向き合った、「闇の左手」は絶品なので、これは手に取ってほしいです。
「ゲド戦記」も割と面白いです。ジブリの「ゲド戦記」を見て、読まず嫌いしている人は、とりあえず読んでみましょう。「所有せざる人々」は難しくてよくわかりませんでした。再読したらわかるかしら…。



アルフレッド・ベスタ―

電撃的疾走感の中に混じる、おバカっぽさが心地よい「虎よ、虎よ」がお薦めです。
ただ、やはりスピード感がある作品なので、振り落とされてしまうと何がなんだかわからなくなりそうです。
「分解された男」「虎よ、虎よ」よりはスピード抑えめで、べスターらしい面白さも味わえるので、
こちらから入るのも良いかなと。

ジョー・ホールドマン

終わりなき泥沼の最終戦争を描いた「終わりなき戦い」が抑えておきたい代表作ですね。
続編にあたる「終わりなき平和」も評価が高い作品ですが、個人的にはそちらよりも、
宇宙人が地球にやってきて、地球の文化・生態系・考え方に染まっていく「擬態――カモフラージュ――」が面白かったです。


フィリップ・ホセ・ファーマー

異星人間の恋愛を描いた「恋人たち」が至高です。

恐らく代表作だと思われる「リバーワールド」シリーズは個人的にはイマイチ(やられたらセーブポイントに逆戻り、的なRPGを思わせる作中ルールは面白かったですが)。
可も不可もないけどとりあえず読んでいた「階層宇宙」シリーズは日本では4巻までしか翻訳されておらず、
打ち切り感が半端なくて残念w

シオドア・スタージョン

個人的には、この人は短編の人だと思います。長編ではあまり好きな作品がないですね。
短編集でどれか1つ、というのは難しいんですが、
「熊人形」、「考え方」、「ビアンカの手」、「孤独の円盤」などが収録された『一角獣・多角獣』がお薦め。

勝手な印象ですが、スタージョンは、甘さや郷愁を少し弱め、ホラー色を少し強めたブラッドベリ、というふうに思っています。
その方向をさらに強めると、スティーブン・キングになる。というのは、まぁ僕の妄想ですし、
彼らの作品を全部読んだわけでもないので的外れかもしれませんが……。


フレドリック・ブラウン

アメリカ版星新一とも言われている(らしい)ショートショートの名手。
ショートショートなら、「未来世界から来た男」を薦めたいです。

ただ、この人は長編小説も実に素晴らしく、個人的にはショートショートよりも長編を読んでほしいですね。
宇宙を夢見る男の青春を描いた感動作「天の光はすべて星」がお薦め。
(エロゲで言うなら「ひまわり」とかが好きな人にお薦め)。

サスペンスミステリでも「3、1、2とノックせよ」という緊張感溢れる良作を描いており、引き出しの多い作家です。

マイケル・クライトン

科学者の顔も持つクライトンは、「科学」と「冒険(緊張)」を混ぜ合わせた良作の冒険SFを多数描いています。

最高傑作は、映画でも有名な「ジュラシックパーク」
行き過ぎた科学への批判や人間の愚かさと、科学への憧れ、恐竜へのロマンが巧みに配合された
名作なので、映画が面白かった人はもちろん、あまりノレなかった方も是非。

かわいいゴリラと一緒にアフリカの奥地を探検する「失われた黄金都市」を読めば、ゴリラ萌えに目覚めること間違いなし。
暴走するナノマシン(群体)に襲われるサスペンス、「プレイ―獲物―」もお薦めです。

ロバート・シルヴァーバーグ

悪くないんだけど、あと一歩……な印象の強い作家。
アシモフと組んだ共著作品、アシモフ原作作品のノベライズなどは面白かったりするんですが、なんとなくシルヴァーバーグというよりは
アシモフ色の強い作品が多いし……。
もっとも、ノベライズなのを忘れさせ、アシモフが一人で書いたと思わせるぐらい、アシモフ作品の特徴をつかんで描けるというのは、一つの才能だとは思うのですが。
そんな彼自身の作品を一つ挙げるなら「夜の翼」でしょうか。イメージの綺麗な作品です。

トーマス・ディッシュ

捉えどころのない作家で、作品ごとに作風がガラリと違います。
個人的に面白かったのは、ディストピアSFの「人類皆殺し」と、コメディタッチな冒険SF「虚像のエコー」。
家具たちがご主人様を追いかけて冒険する、子供でも楽しめそうな「いさましいちびのトースター」を描いたかと思えば、
僕の読書史上でも最難関クラスの迷作「キャンプ・コンセントレーション」を描いたりと、よくわからない人です…。
ちなみに、書評家の北上次郎さんは、ディッシュの「リスの檻」(未読)という作品を読んで、嫌になってSFを読むのを辞めてしまったそうです……。きっと「キャンプ・コンセントレーション」並に意味不明な作品だったんだろうな(推測)





誰か忘れてる気もするけど、とりあえず
1950~80年代あたりの海外SFで、

1:最低2作以上読んだ
2:自分の好きな作家or超人気作家

です。

 

「赤毛連盟」の解析

1 プロローグ P45~49

依頼人のウィルソンがやってくる。
ホームズの能力の凄さを、ワトスンとの比較で表している。
(ここの推理パートに関しては、読者が推理する事は不可能である)
要は、名探偵Sugeeeeeeeというパートだ。


2 事件のあらまし P50~65まで

赤毛連盟という奇抜な組合の物語が明かされる。

質屋のウィルソンはある時、従業員のスポールディングから変わった話を聞いた。
「簡単なバイトで高給がもらえる求人 条件:ロンドン在住の赤毛の大人」←ウィルソンにピッタリ。

スポールディングは半額で働いてくれている感心な従業員。
写真マニアで、すぐに地下室の暗室に行くのだけが問題。

――

赤毛連盟の面接に行く、ウィルソンとスポールディング。
大勢の人が集まっているが、ウィルソンは一発合格。
辞書を写す仕事。仕事中は絶対に事務所から出てはいけない。

――
シーンは8週間後へ。仕事中の描写はスピーディーに。濃淡をつける。

――

赤毛連盟、突然の解散。
良い働き口をなくしたウィルソンがホームズを訪ねてきた。

スポールディングは「赤毛連盟」にウィルソンが行く1カ月前からの雇用。
彼を雇った理由は、自分から「給料半分でもいいから仕事を覚えたい」と言ってきたので。


3 ホームズの活躍 P65の4行目~71の3行目

ウィルソンの店に行って、彼の膝を見るホームズwithワトスン。
その後、音楽ホールへ。リラックスするホームズ。
別れ際。
ホームズ「夜10時に来てほしい。ピストルを持ってきてくれ」
ホームズは真相がもうわかったらしい。驚くワトスン。
(ここでもワトスンは、ホームズageの提灯持ち的な役回りに終始する)


4 決戦準備 P71の4行目~P77の5行目

ワトスンがホームズを訪ねると、
銀行の頭取メリーウェザー、スコットランドヤードのジョーンズもいた。
「ジョン・クレイ」という凶悪犯の話が出る。

メリーウェザーに連れられて怪しげな路地から地下に潜る。
ロンドン銀行のシティ支店の地下室に繋がっている。
フランス金貨がこの地下室にあるらしい。

暗闇の中、光もつけずにたたずむ一行。
ホームズ「山場は1時間後に来るだろう」

クライマックス直前である。
これから来るクライマックスに向けて、読者を「じらす」作者の手腕が光る。
緩急の付け方を参考にしたい。


5 決戦&種明かし P77の6行目~最後

暗闇にふっと手が現れる。
侵入者とのバトル。ジョン・クレイを捕縛。

「赤毛組合」は、質屋の主人を事務所に釘付けにしておき、質屋を留守にさせる罠だった。

その他、質屋には女がいないので情事とは関係ない、スポールディングの穴倉へとこもるくせ、
土曜なら犯行が露見するまでの時間が稼げる、などなどの推理。




前回解析した「犬のお告げ」に比べ、『パズラー』としての密度は正直低い。
その分、「赤毛組合」という奇妙な組合を出してきたり、
ヒーローであるホームズの能力の凄さをこれでもかと見せつけ、
クライマックス直前には読者をじらすための、タメを作り、
最後はバトル&推理で〆る
など
「犬のお告げ」に比べてエンタメ方向に舵を切った作品と言える。


「赤毛組合」が詐欺であり、店員のスポールディングが怪しい事は推理できるが、
ロンドン銀行だのフランス金貨だのジョン・クレイだのは後出しなので、推理は不可能。
この辺は「パズラー」としてフェアとは言いかねる。


また、「赤毛組合」の新聞広告は詐欺にしか見えず、
これに引っかかる人がロンドンでこんなにいるものかという疑問もあるが……
いるのかもしれない。わからない。

ただ、超高給には変わらないが、「10時~14時;週7;病気でも絶対出勤」は
『軽微な作業』とは言いかねる。


本格ミステリの仕組み(「ブラウン神父の不信」―「犬のお告げ」から)

☆前口上

「犬のお告げ」は、『読者』である僕にとってはそこまで面白い作品でもない。
しかし、『ルールに則って書かれた、非常によくできた古典ミステリ=本格ミステリ=パズラー』であることは確かだ。
この作品を解析することで、『パズラーのオーソドックスなルールが学べる』と言っても過言ではない。
パズラーの大原則とは「作者が謎を提供し、読者はそれを推理して楽しむ」事にある。



倒叙モノ、ハードボイルド、警察小説、サスペンスなどなど、ミステリには色んなジャンルが存在する。その中で『パズラー』という極めて限定されたジャンルにおいてのみ通用するルールだが、
日本では未だにパズラーファンが多く、たくさんのパズラー小説が書かれている。

それでは、「犬のお告げ」を解析していこう。
全体のパーツを5つに分けてみた。


☆1:プロローグ P81 

語り手はファインズという青年。探偵はブラウン神父である。

1行目「さよう、わたしは犬が好きだ」(ブラウン神父の台詞)


素晴らしい書き出しだと思う。
タイトルは「犬のお告げ」。そしてこの1行目。

『犬が関連する事件だよ』と読者に印象づける作者の工夫が見える。


10行目「というと、犬の事を世間は過大評価しすぎるというわけですか?」
「そうかな。大した生きものだと思うけど」(ファインズの台詞)

実は、これが謎を解くカギになっており、非常に重要なやりとりである。
ファインズ(語り手)は犬の事を凄い生き物だと思っている。
しかしブラウン神父はそうは思っていない。という事だ。

パズラーの場合、基本的に名探偵の方が語り手よりも賢く設定されているので、
読者としては、
「犬は凄い生き物だ」が誤答、「犬はそこまで大した生きものではない」が正解となる。

ここが「起承転結」の「起」にあたる。


☆2:事件について1 P82~85の7行目

ここからが「起承転結」の「承」である。

ファインズが事件について語りだす。
P82~99までがファインズの語りなのだが、長いので便宜上2つに分けた。
このパートでは「新聞記事による事件の概要」が綴られる。


ドルース老人が1人で東屋にいたところを殺された。
背後から短剣で刺されており、凶器は見つかっていない。
東屋には誰も入っていない(密室)

犯人候補は秘書フロイド、被害者の娘ジャネット、隣人のヴァランタイン、被害者の弁護士オーブリー。
ドルース老人とヴァランタインは仲が悪い。ヴァランタインはジャネットを狙っている。
被害者と最後に会ったのはオーブリーで、死体の第一発見者はジャネットである。


というのが大雑把な情報だ。


☆3:事件について2 P85の8行目~P99の7行目

語り手のファインズが「犬(名前はノックス)」について語る。
細々とした描写がある。
ファインズも実はその日、ドルースの家にいた。ハーバートとハリーの兄弟と一緒にいた。
ドルースの死は16;30。

遅れてやってきたハリーを迎え、三人で海(?)に向かう。
海にステッキを投げ入れて、犬が取ってくる遊びを始める。
ハーバートのステッキを犬が拾って取ってくる。
しかし、ハリーが投げたステッキを犬は拾わなかった。拾いに行ったが、途中で戻ってきて
悲しそうに鳴いた。
ちょうどその時、ドルースの死体が発見され、第一発見者のジャネットが悲鳴をあげた。

などなどが事件にとって重要な情報である。

しかしファインズは(読者と同じで)何が重要な情報かはわからないので、
事件に関係ない事も大量に喋る。
パズラーの大原則とは「作者が謎を提供し、読者はそれを推理して楽しむ」事
なので、「真相」を丸裸にして読者に出すわけにはいかない。
どうでもいい情報もたくさん書いて、その中に「真相」をうまく隠さなくてはいけないのだ。


「犬」がオーブリーに向かって吠えた。その事から、ファインズはオーブリーが怪しいと言い出す。
また、ヴァランタイン博士とジャネットが喧嘩をしていて、その際にジャネットが「殺すのはやめてくれ」と言っているのを聞いたことがある。だからヴァランタインも怪しい。

というような事をファインズは言う。


☆4:2日後 P99の8行目~P106

「起承転結」の「転」にあたる。ここは更に細かく2つに分けても良い。
ハリーが自殺したという情報を携えて、ファインズがやってくる。
また、ジャネットがヴァランタインと結婚したという情報も出る。
(父親が死んですぐに結婚したのか? という疑問が湧いたが、気にしない事にしよう……)


ブラウン神父はドルース殺しの犯人はハリーだと語る。


☆5:「犬」の活躍 P107~116

「起承転結」の「結」である。ここで、ブラウン神父の推理がいよいよ明かされる。

P107 6行目
「もしあんたがあの犬を人間の魂をさばく全能なる神とせずにただの犬として扱っていたなら、あんたにもすぐわかったはずですがな」

これが、この物語の鍵であり、事件の鍵である。


パズラーの醍醐味とは世界の再構成の物語である。
見せかけの世界(事件の表)ではなく、事件の裏を、真相を名探偵が暴く。
名探偵が暴く前に、事件の真相を推理するのが、読者の楽しみである。


よりわかりやすく言おう。
パズラーは、手品に例える事が出来る。
語り手によって語られるのは、「人が空を飛ぶ」(密室で人が死んだ、など)
いった手品の世界の奇怪な出来事であり、名探偵は「手品の種明かし」をする役回りだ。

そして、今回の手品の種明かしとなる文章が、上述のP107の6行目なのである。


まず、犬がオーブリーに吠えたのは、単にオーブリーが気に食わなかったからである。
オーブリーは犬にビビっていた。
そして犬は、自分を怖がる人間の事がムカついたので、吠えたのだ。


それを、語り手のファインズは「犬が犯人を言い当てたのでは!?」などと考えてしまった。
これはNGである。


「犬がハリーのステッキを拾わなかったのはなぜか」。
語り手のファインズは「16:30、人が死んだので犬は遊ぶのをやめ、悲しそうに鳴いた」と考えてしまった。これもNGである。
事実は、「ハリーのステッキが重かったから、犬はステッキを持ち帰れなかった」。
なぜハリーのステッキは重いのか。実はドルース殺しの凶器はそのステッキ(仕込み杖)だったのだ。
ハリーは凶器を始末するのに、犬との遊びを利用したのだ。という結末。

また、「密室」にたとえられた「東屋」だけど、もちろん本物の密室ではない。
「藪の切れ間」から細い刃物を通すことくらいはできる。ということ。
その他ハリーがどうやってドルーズを殺したかが明かされる。

ラスト、犬がブラウン神父をまじまじと見上げるところで物語が終わる。
犬で始まり、犬で終わるという、なかなか気の利いた物語の〆方である。


パズラーは「作者が謎を提供し、読者はそれを推理して楽しむ」事にある。
そのためには「読者がよく考えれば、謎を解けるように」作らなくてはいけない。
絶対に解けない謎では、謎解き遊びにはならない。
しかし、「どう考えてもバレバレな謎」では難易度が低すぎる。
そのためには、「真相」を隠す必要がある。「木」を隠すには「森」の中。
「真相となる文」を隠すには、「文」の中だ。
このため、事件の真相とは関係のない様々な情報が語り手によって語られる。


というわけで、「犬のお告げ」はこうしてみれば、パズラーの基本を抑えた
しっかりとよくできた作品だということができると思った。
ただ、それはあくまでも「パズラー」という狭いジャンルにおける巧さに過ぎないとも思う。


創作全般の話をするなら、
最初と最後を犬で〆るのは巧いし、犬の描写もなかなかユーモラスに描けていると思った。


こんな記事を書いておいてなんだが、正直に言えば、こういう読み方は個人的には好きではない。
「作者が、読者を面白がらせるためにどういう小細工を使っているか」に注目して読むより、
作品を読んで「作中世界に浸って、登場人物の気持ちになって」読む方が僕としては楽しい。
まぁ、たまにはこういう読み方をするのもいいかもしれないが……。
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