著者はジェームズ・ケイン。評価は A+


人妻に誘惑され不倫の道を歩く主人公は、人妻と共謀して保険金目当ての夫殺害を実行する。
しかし、あれだけ相思相愛に見えた二人は、夫を殺害するや否や双方の心に疑念が浮かび、
ついに殺し合いへと至る。
更に、主人公は人妻の義理の娘ローラ(殺した夫の実娘)に恋をし、ローラの恋人だった青年を人妻が誘惑するという、泥沼恋愛模様が持ち上がる。


愛する女性のために人をも殺すというのはもちろんどうかと思うが、根っこが単純というか正直な主人公に対し、女性陣の、特に人妻の悪女ぶりは圧巻の一言。
また、主人公が犯人のため、自業自得とはいえ、どんどん追い詰められていく展開はホラー小説さながらの緊張を読者に与えるだろう。
何より、こんなどうしょうもない主人公を読み手に共感させる描写力。これはひとえに、(たとえ変心は早いにしても)愛する女に対しては真っ正直で、全てをなげうつような激しく誠実な(他の人に対してはちっとも誠実ではないが)気持ちが、読み手の心をわしづかみにするからだろう。
性質の悪い女に遊ばれた経験を持つ私としては、「バカだなぁ……」と思いながらもその女の言いなりにあれこれ動く主人公の気持ちが、実によく共感できるのだ。


同著者の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」と、展開的にあまり変わり映えしないのが唯一の欠点だが、
裏を返せば「郵便配達~」が気に入れば本書も、本書が気に入れば「郵便配達~」も気に入る可能性が高いと言えるだろう。