著者はポール・アンダースン。評価はA-。


P・アンダースンは「当たり外れの少ない作家」「大外れもないが、大当たりもない」というイメージだったのですが、この『タウゼロ』で僕のイメージは覆されました。
この人、こんな凄いものを書ける人だったのか。


ここまでバカでかいスケールの小説に触れた経験は、掛け値無しに初めて。
それでいて破綻もないのだから、その時点でもう脱帽だろう。
加えて今作は、人物描写も絶賛するほどのレベルではないにせよ、まぁまぁ頑張っている。
魅力的な女性キャラも2人登場するし、リーダーのレイモントは「これぞリーダー!」と呼べる、頼りになる人物だ。
ハインラインの好きそうな人物造型で、僕はこのテのキャラは大嫌いなのだが(笑)、エンディングのレイモントを見ればそんな嫌悪感も吹き飛ぶというもの。
物語の途中でわかるとはいえ、こういうフォローは憎いなと感じる。
旧敵とも言えるフュードロフとの熱い握手のシーンも、地味ながらいいシーンだ。


ジャンルとしてはハードSFに当たるのだろうが、私は完全文系脳なのでこのジャンルは苦手だ。
しかし、今作に関しては魅力あるストーリーに載せて、平易な文章で説明されるので
ある程度の概要は理解することができた。これも嬉しかったところだ。


欠点は、感情が昂るほどの名シーンがなかったこと。
補足として、レイモントとイングリッドが和解するシーンが描かれていないことが挙げられる。
どうしてこのシーンを書かなかったのか、アンダースンを問い詰めたい。
いつの間にか和解したことになっている。
このシーンは書かなきゃいかんよ!!


とにかく壮大なスケールの物語で、記憶に焼きつく内容だった。
A評価、あるいはA+評価でも、時間とともにあらすじを忘れてしまう作品も多いのだが、
この「タウゼロ」はA-でありながらもおそらく忘れない、むしろ1年、2年経った後に振り返って、
「タウゼロって、本当に凄かったよね」と言える作品だと思う。