80点。

復讐劇です。
5人の組織幹部に殺され、その魂を五等分された主人公タオローの、妹ルイリー。
タオローは、この5人へ復讐を遂げ、ルイリーの魂を回収し、統合していくことでルイリーを蘇らせようと誓う。


・・・・・・というストーリーですね。
こう書いてみるとなかなか、バカでしょ。
でも、実際に読んでみるとバカっぽく感じないんですよ。
変に茶化したりせず、真正面から大真面目にこの物語に作家が取り組んでいるので、
読む方も真面目に読んでしまうんですね。


気に入ったのは、高速道路の逆車線から、走行中の車の屋根を飛び移って敵を追うシーン。
ハリウッド映画でもよくあるシーンなので、恐らくライターはそれを意識していると思うのですが、
映画よりも凄いのは、『車が空中を飛んでいること』と、『車がプログラム制御されていて、敵が操っていること』でしょうか。
それでも華麗に飛び移りながら、敵を追いかけるって、主人公が凄すぎて笑うしかなかったです。
冷笑ではなく、ここまでやられたらもう惚れるしかないなと。
演出に頼らず、これほど卓越したアクション描写を描ける人は、僕はエロゲではこの人しか知りません
(元々、バトルものがあまり好きではないため、本数をこなしていないのは確かですが。
「Fate」は演出の力が強いですし、「あやかしびと」はあまり好きではなかったので。
「モエかん」は、バトルという意味では1ランク落ちますし、「マージ」とかまで出す必要はないと思うので)。


作品構造について軽く述べるなら、
『五人の中ボスが、アイテムを分割して持っている。五つ全部集めれば、効果を発揮する』というものが基本コンセプトで、
これはRPGなどでもよく見られるタイプの構造になっています。
もっと猟奇的な連想をすれば、『バラバラ殺人で、殺人犯がそれぞれのパーツを隠し持つ』というあれですね。
僕は読んでいないのですが、『どろろ』や『摩陀羅』という作品には、『中ボスを倒すことで、失われた身体を取り戻す』というギミックがあるらしい(間違ってたらすみません。又聞きレベルですので)ので、それらがモチーフなのかもしれません。


また、この物語をラスボスのリュウ・ホージュン視点から見ると、
「俺の大好きな彼女が、ブラコン野郎だった」という悲劇失恋モノになるのですね。
だからといってこの所業はないとは思いますが、悲憤に打ちひしがれた気持ちはわからないではないです。
恋は人を狂わせるということで、クールな作風でありながら、根底に人間の熱い感情が流れているところが、
僕が虚淵作品を好きな理由です。
「Phantom」では、女同士のクールで熱い恋のバトル(アインVSキャル)が展開されましたが、
今回は男同士、タオローVSホージュンという構図なわけです。


そして、このルイリー。
いかにも『魔性の女』というか、得体の知れなさ加減が良いですね。
男を不幸にする女というか、こういう女に引っかかると、男性は振り回されてひどい目に遭いますよ。
ラストのツェ(ドクター)との会話などは、彼女の底知れなさが出ていますね。
どういうコネなんでしょう。
レイプされたのも、魂を五等分されたのも、まさかとは思いますが妹の差し金なんでしょうか?
それはない、とは言い切れないところが怖いです。確信しているわけでもないですけど。


ただしルイリーには不満もあります。

というのは僕、ルイリーに『狂おしいほどに惹かれ』ることができなかったんです。
これは、物語のほとんどがタオロー視点であり、タオローは妹の正体(妹がどういう女なのか)にまるで気づいていない故の弊害なのですが。
もっと『生前の』ルイリーの小悪魔ぶり、魔性の女ぶりを回想シーンでも見せてほしかったなと。
ホージュン視点でのルイリーの回想シーンが絶対的に不足していると感じました。
そのせいか、ルイリーには妖しげな『妹』としか最後まで見られなかったのが残念です。
タオローに同化するという意味では良いのでしょうが、『魂は変質したのか否か』という問いを残すために効果的だったかと聞かれると、あまり効果がなかった気がしますし、僕はむしろホージュンに同化したかった。
一人の『女』としてのルイリーを、もっと見せてほしかったです。


ここまで書けばわかると思いますが、後半は、タオローよりもホージュンの方を応援しながら読んでいました。
タオローなんて所詮は鈍感モテモテ主人公ですよ。リア充爆発しろ(冗談です:笑)。

『いくら好きな女が振り向いてくれないから』とはいえ、『レイプ』はやりすぎです。
でも、ルイリーそっくりのガイノイドに語りかけているシーンなどを見ると、解るなぁ、と。
お前さんホント、つらい立場だなぁと思います。


ルイリーが悪い、と言っている方もいましたけど、僕はそうは思いません。
「他人も自分も全てを犠牲にして、愛に生きる」ルイリーを、僕は否定できません。
犠牲にされた者からすれば、恨み言を言いたくなるとは思いますが。
「ルイリーが兄に告白すれば良かった」などと言っている方もいましたが、さすがにそれは無理です。
そもそも、この物語の舞台は中国。日本よりも更に近親婚には厳しかった過去を持つ国です。
更に言えば、これ、(誰も言ってないけど)実妹でしょ? 義妹なんて単語、一言も出てきませんし。
とどめに、兄貴は自分のことを妹としてしか見ていない。無理ですよ。どう考えても、無理です。


欠点はというと、一番大きな不満はルビです。
人名以外の漢字にルビがないんです。
必殺技にすらないんですよ。はっきり言って読めませんて。
他にも(知っている人は知っているでしょうけど)、多々ありまして
たとえば内家拳と外家拳。
『ないかけん』はいいとして、後ろの単語、僕はずっと「げかけん」て読んでました。「ないか」だけに「げか」(苦笑)。
『がいかけん』が正解のようですが、こんなのにもルビはないんですね。
僕が自発的にネットで調べようと思わなかったらずっと、「げかけん」のままでした。
拳法を習っていた人や、詳しい人は別として、知らない人の方が多いと思うんですけどね・・・・・・。
後、中国の地名にもルビを振ってほしいなぁと。
たとえば上海浦東は「シャンハイ」は別になくてもいいですけど、個人的には「ほとう」はできれば欲しいレベル。
つくりを見れば「捕」「補」と同じなのですから、読めなくはないですが、日本語ではあまりこの「浦」という字を「ホ」とは読まないと思うので。


システムも、9年前のゲームだということを考慮に入れてもなお、使いにくいです。
音声がないのは良いとして、バックログを選ぶと音楽が消えるのはちょっと。


ただそういった不満点があってもなお、80点をつけようと思わせる読み物でした。