評価は A-

東野圭吾さんは、名前は知っていたのですが、読んだのは初めてです。
「さまよう刃」を読んで、彼が売れている理由が何となくわかりました。


まず、文章が非常に読みやすい。
次に、キャラクターの心理描写が自然で、感情移入しやすい。
そして、明確なメッセージ性がある。
この3点が揃っているため、どんどん読み進めていくことができました。


テーマは、『復讐は是か非か』。そして、『少年法』 。


自分の子供がレイプされ、父親が復讐に乗り出すというのは、割とよくあるプロットと言えます。
たとえば、ジョン・グリシャムのデビュー作である「評決のとき」。

そして、これはまだ読んでいないのでわかりませんが、全米1000万部を突破した
アリス・シーボルトの「ラブリーボーン」もその流れの作品であると聞きました(今度読みます。間違っていたらごめんなさい)。
 

お国柄の違いかもしれませんが、「評決のとき」では、『犯人がクズすぎるし、無罪でいいじゃん』ということで、
復讐の鬼と化した父親が無罪になるというプロットで、カタルシスを得る娯楽小説でした
(そんなご都合主義でいいのかよ、と思い、ちょっと呆れましたが)。


 今回の「さまよう刃」は、復讐の鬼と化した父親が、結局警察の手に撃たれ、捕まった少年は懲役3年ほどという、読んでいる者の心にやるせなさを植え付ける、後味の悪い作品となっています。

少年法の問題点を訴えるには、最高の終わり方であると思います。


個人的には、『更生の見込みのある人間』は、裁くのではなく導いてあげてほしいと思います。
それは、作中でも理想論と言われており、僕自身や僕の周囲がそういった犯罪被害に遭っていないからこそ
言えるということは自覚しております。


ですが、この小説の少年のように、『問答無用の屑』に至っては、年齢関係なく極刑でも良いのではないか、
などと法のド素人としては考えてしまいます。
『更生の見込み』があるかないか、それを判断するのも人間なので、土台無理なのは百も承知なのですが、
それでもそう考えてしまいます。


今回の物語では、何と言っても、復讐鬼となった主人公の長峰さんの造形が素晴らしいです。
後は、超ヘタレな誠君や、和佳子と、和佳子を見守るパパの隆明も良い味を出しています。

(隆明が、和佳子に「お前のことを愛してる」と言うシーンが良かったです)



反面、気になったのは、犯人のカイジの描写が少ないところ。
キチガイ乙、としか言いようのないドアホウなので、書くこともなかったのかもしれませんが、
彼視点の文章がほとんどないのは、物語の重要人物としてはあまりに薄っぺらい存在だったかなと。

もっとも、カイジ視点の文章が延々と続けば、不愉快な上に面白くなく、中だるみの原因になるかもしれないので、東野さんの判断が間違っていたとは思いません。
ただ、ほんの数ページでいいから、彼のことや、逃避行に付き合わされたユウカのことも、もう少し教えてほしかったなと思います。


この小説に出てくる未成年が、ほとんど全員、頭があまりにも悪かったのもちょっと気にはなりました。
「この年頃の奴らが何を考えているかわからない」というフレーズが頻繁に登場しますが、
ある程度は事実としても、揃いも揃ってここまでバカではないのでは? と思うのですがどうでしょう。
一人くらい、未成年で良識人がいればバランスも良くなったのですが……難しいか。


ヘタレ君ではあるけれど、『理解できる』 誠や娘の恵麻は漢字表記で書かれ、『理解不能』な若年者であるカイジ、アツヤ、ユウカがカタカナで書かれているあたりからも、
この作品の若年者は、基本的には『理解不能なクリーチャー』のような扱いなんだなーと思いました。