以前からずっとプレイしてみたいと思っていたこのゲーム。
元々、『Phantom』、『鬼哭街』、『Fate/Zero』、『まどか☆マギカ』と氏の作品をこれまで
存分に楽しんできた。

そのうえ、評判では「沙耶の唄は純愛」と事あるごとに聞かされてきた。
『いまあいにゆきます』やら『タイタニック』やら『ロミオとジュリエット』やら『最終兵器彼女』やらで涙を流せる
純愛大好きの僕としては、当然胸に高い期待を抱いていた。

ずっと手元に置きながら、プレイできなかったのは偏に『グロい』との評判を聞いていたからだが、
この度ついにプレイに踏み切った。



さて、ここから先は作品の『良し悪し』についてというよりは、単純に『好み』の話を書く。
普段から僕の感想はそういう傾向にあるけれど、今回はいつにも増してその傾向が強い。


率直に言えば、少々期待はずれであった。
一言感想でも書いたように、『純愛小説』として読もうとしてしまったからだ。


そもそも、純愛というものの定義が今一つわからない僕ではあるが、少なくとも僕の考える純愛というのは、ホロホロと切ない恋の物語である。
読んで心が洗われる、お互いがお互いを極めて大切に想いあう、二人の絆が伝わるような、そんなストーリーである。


となると、沙耶の唄は僕が考える純愛モノとは一線も二線も画してしまう。

ちなみに
wikipediaの『純愛』の項目には
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%94%E6%84%9B

・邪心のないひたむきな愛
・その人のためなら命を犠牲にしてもかまわないというような愛
・プラトニックラブ
・無償の愛

などの例が載っていた。
が、これを読んで、ますますピンと来なくなってしまった。


世間的な意味で『沙耶の唄が純愛であるorない』という議論には参加できないのが悔しいところではあるが、とりあえず僕の考える純愛モノではなかった。
というに留めておく。


端的に言って、僕は『世界中の人の眼に、醜いと映る異生物を、愛してしまった男の恋物語』を期待して読んだのだ。
誰からも理解されることのない二人の愛を、読む気まんまんで手に取った。


気持ち悪いことを言えば、(物語世界の誰もが理解できない愛でも)、僕は二人の愛を応援するぞ!的なモチベーションで読み始めたのである。


この前提がそもそも間違っていたのではあるが、こういう期待を持っていなければそもそもプレイすることもなかったので、仕方ない。



で、いざ読んでみたら、そういうシーンはほとんどなく、そもそも主人公にはまるで感情移入できず(これが一番痛かった)、ホラーとしてはなかなか良かったものの、「あれ、これって純愛作品じゃなかったの?」という失望を感じつつ読み終えてしまった。
さて、ここからは純愛とか何とかを抜きにして、もう少し具体的に書いてみる。


最大の不満点は、瑶の扱いにある。


個人的にこの瑶ちゃんが沙耶よりも好みである~という点はとりあえず瑣末なことなのでおいておくが、
瑶ルートも作っても良かったのではないか?というのが率直な感想だ。
回想シーン(Hシーンのことじゃないよ!)も大幅に増やし、耕治、青海、瑶、郁紀の4人の仲むつまじかった頃のエピソードを大幅に増やす。
そして、沙耶の対立軸に瑶の存在をクローズアップする。


つまり、『本当はグロいけど、郁紀には綺麗に見える沙耶』と対比するキャラとして、
『本当は綺麗だけど、郁紀にはグロく見える瑶』をもっと取り上げても良かったのではないかと思うのだ。
こうすることで、2種類の『純愛』を描ける素地はあった。
沙耶バッドエンドでの携帯でのやりとりを振り返ってもわかるとおり、僕が勝手にでっちあげた
瑶ルート(仮)においても、そういう仕掛けは十分に可能だったと思う(さすがにエロシーンは書けなかっただろうが)。


そんな瑶ルートがなかったのは残念だが、それはともかく本編での、郁紀の瑶に対する仕打ちは
いくらなんでも冷たすぎるように思うのだ。
グロテスクな怪物に見えていた時はまだ、いい。仕方ないともいえる。
僕だって、昔の友達があんな姿になって擦り寄ってきたら、追い払うと思う。
しかし、だ。
沙耶の力によって、『キレイ』に見えるようになった瑶をペットのように扱う、というのは
話が違う。
率直に言ってあの瞬間、僕は郁紀の心に擦り寄ることができなくなった。
スイッチが切れたように、彼に共感することができなくなってしまったのだ。
それは姿かたちの問題ではなく、心の在りようとして、彼と沙耶との愛を受け止めることができなくなった、と言える。


郁紀の変容が、やや唐突すぎたというのも少々違和感があった。
最初の選択肢で、『元の生活を取り戻したい』か『沙耶といたい』かを選ぶのだが、
そこで『沙耶』を選んだ瞬間から、彼は妙な決意を固めてしまったのかヒトであることをやめてしまう。
確かに、『沙耶』を選んだ以上、もうすでに彼がおかしく(?)なっていることは明確なのだが、
直前までは割とまともだっただけに、選択肢一つで人格が崩壊してしまうのはどうかと思った。



一方、やはり虚淵氏というべきか、テキストは非常に良好で、エロゲというよりも小説のような読み応えがあり、
無駄に飾られた萌えやあざといキャラクター属性もなく、不快を感じることなく読み進めることができた。
昨今のおちゃらけた萌えテキストには食傷しているだけに、旧き良きエロゲテイストを味わうことができた、
といえば、懐古厨の謗りは免れないかもしれない。
とはいえ、それが率直な感想でもある。