話120/150 人125/150 絵80/100 音90/100 システムその他70/100 印象25/50 合計510/650

ESにつける点 83


【はじめに】

このゲームは、シナリオをマクロに見るか、ミクロに見るかでだいぶ印象が変わってくると思います。

なのでまず、シナリオ全体(マクロ)について書き、次にヒロインごとのシナリオの感想(ミクロ)を書こうと思います。



【全体の感想】


前作「車輪の国~」の時も思ったのですが、るーすぼーい氏は、『盛り上げ方を知っている』ライターさんです。
今作でも、シーンごとの牽引力は大したもので、思わず感情を揺さぶられるだけのパワーを秘めていました。

一方で、緻密な設定を作り上げたり一つのテーマに沿って物語を完結させるという、シナリオ構成力は持ち合わせていません。
極端な言い方を言えば、他の方がプロットを切って、それをるーす氏が文章化した方がいいのではないかとすら思えます。


今作に関して言えば、テーマらしきテーマが分散し、描ききれていないところに大きな問題があります。
この作品をプレイする方の多くは、


①「魔王と勇者の頭脳バトル―魔王の正体―」(序章の展開)
②「命をかけた、純愛」(キャッチコピー)


大体このあたりを期待しているのではないかと思います(多分)。


ですが、①に関しては完全に破綻しています。
この破綻は、①を楽しみにしていた方、あるいは物語の整合性を大切にする方にとっては一発レッドカード、これが理由で即0点をつけてもおかしくないくらいの、致命的なものです。
個人的には①にはあまり期待していなかったので、減点幅は少ないですが、それでも「ちょっとなぁ」と思ってしまったのは事実です。


他の方も仰っていますが、念の為に申し上げれば、ここで言う破綻とは、「魔王」の正体が序章~4章までと、5章では明らかに別人だという点です。
ミスリードならいいのですが、これはミスリードではなく、ライター自身が「何も考えずに書いている」のです。
このような描き方は物語に対して誠実であるとは言えません。


兄弟そろって頭痛持ち、個別シナリオでどうして「魔王」が消えるのか、序章~4章ではほとんど出てこなかったのに、5章に入ってから突然登場頻度が増える兄、など。
そんなわけで、「主人公だと思っていたら、兄が魔王でした」などと言われても、驚くどころか呆れるばかりでした。
こんなのは叙述トリックとは言いません。


そもそも、「主人公が魔王」ではなぜいけなかったのでしょう? 
個人的には、「兄」など出してくるよりも、よほどこちらの方が面白くなりそうでした。


批評というよりも単なる感想になりますが、僕としては『ロミオとジュリエット』を期待していました。
2章では「誘拐を狙う魔王(主人公)」VS「誘拐の被害者家族(椿姫)」という関係が成立していましたし、
3章でも「花音を陥れる魔王(主人公)」VS「被害者(花音)」という関係が成立していました。
ならば、ここから先もそういうふうになるのかな、と期待したのです。

5章でも「勇者」の立場のハルと、「魔王」の立場の主人公が恋に落ちる、そういう展開になれば面白いなと思っていたのですが、そんなこともなく。
新しく「兄」なる人物が登場して「魔王」の役をひっかぶってしまい、主人公が「勇者の仲間」になってしまったことで、
「勇者VS魔王」という軸もブレ、「魔王VS魔王の弟」に変わってしまったように感じています
(というか、ハルではなく主人公が「勇者」の立場になってしまった感じ)。

もちろん5章でも、「憎み合う一家の娘と息子」という因縁は存在しますが、「お互いを赦しあう過程がどうにも弱く」、描ききれていない印象を持ちました。


また、悪役として「魔王」の魅力が乏しいのも残念です。これではただのテロリスト、というより単に迷惑な人ではないですか。全く同情できません。


このように、物語全体を通して見ると、多くの不満がありました。
では、このゲームはクソゲーだったのかと言うと、まぁ否定はしきれないのですが、良かった部分も多くあったと思います。


それでは次にヒロイン別に、感想を書いていきます。


【ヒロイン別の感想】

2章 椿姫シナリオ  B+


主人公がモロに悪役となって、ヒロインである椿姫をビッチへと調教していくお話。


読んでいてストレスが溜まるのは、物語構成上仕方のないところ。それでもやはりイライラしました(苦笑)。
ただ、善良な椿姫のキャラクター造形はよくできていて、その椿姫が徐々にツマラナイ女になっていく描写も巧かったと思います。


せっかく素敵だった椿姫という女の子を、どんどん俗な女に貶めていく姿を見ては「もったいない……何がしたいんだよ」と思ってしまったので厳しかったですが、
調教ゲーさながらに、「高貴な姫を、堕としていく」過程を楽しめる人になら受けるかもしれません
(むしろ、そういう描写に慣れて目が肥えている人は、逆に評価しないかもしれませんが)。

しかしそれにしても、言い訳を探すように自己肯定化を始める、主人公の小物臭には少々ウンザリしたのも事実です。


繰り返しになりますが、椿姫の造形は良いと思います。
単なる「頭の軽い、いい子ちゃん」ではなく、本当に「純真で綺麗、故に危うい(騙されやすい)」女の子がよく描けているからです。


ゲームヒロインとしても、「可愛い!萌える!」という感覚はないし、仮に現実にいても、めちゃくちゃモテるような女の子ではないと思います。
しかし、こんな子と一緒にいたらきっと心が暖かくなれるだろうな、こんな子と結婚できたら幸せだろうなと思わせる、陽だまりのような女の子でした。
一歩間違えればエロゲによくいるアホの子なのですが、しっかり描くことによって、厚みのあるキャラクターになったと思っています。


3章 花音シナリオ A


母親の造形が素晴らしかったです。
ただ邪悪なわけではなく、わが子に対し歪んだ愛を押し付ける描写が、実に自然で感嘆させられました。
それだけに、急な心変わりがかえすがえすも残念ではありました。
あそこまで歪んだ母親が改心するなら、もう少しドラマチックなイベントが欲しかったところです。


花音の頑張りから物事が好転するのではなく、まず母親の改心から物事が好転しだすというのは、ストーリーとして見栄えが良いとは言えないと思います。


ただ、『見せ場を盛り上げる』のが非常に巧いるーすぼーい氏。
スケートシーンでは思わず引き込まれ、花音にたっぷり感情移入しながら読むことになりました。

物語構成の粗さを一点突破でブチ破る。
それは、このゲームの評価にも通じるものがあると思います。


4章 水羽シナリオ B+


水羽が、可愛すぎてたまりません。

本筋に進むと、籠城事件に物語が進むわけですが、正直退屈でした。
それより、水羽個別ルートの方が良いです!
弱々しくも健気に咲く一輪の花を、愛でるも手折るも主人公次第。
そんなシチュエーションは椿姫ルートに共通するものがありますが、こちらの方が手折り方がエロいので好みですw


椿姫が、嫁にしたいヒロインなら、水羽は恋人にしたいヒロインでした。エロかわいくて萌えまくりです。


ハル A(5章 B+ 最終章 A)


最終章の展開は素晴らしかったです。
出頭する主人公を引きとめようとするハルから始まって、
留置場で次々とヒロインのフラグを叩き折っていくシーンの切なさときたら。


(しかし、この一連のシーンが評価されるなら、もう少しエロゲにも失恋ゲーがあって良いと思います。
もっと身を切るような切なさを味わいたいです!)


ただ、5章には(というか、G線上の魔王という作品には)色々と問題があったのも確かです(前述)。
序章~4章までと、この5章では明らかに前提条件が違うし、「主人公」VS「ヒロイン」の図式も崩れており、
この章だけが浮いているようにも見えるからです。
『ハル√だけで良かった』と語る方が多いのも、それが原因だと思います。


また、ハルというヒロインは悪くはないものの、水羽や椿姫に比べるとそこまで惹かれなかったのも残念でした。



【まとめ】

物語全体を見ると、「そもそも魔王の正体おかしくね?」という致命的な欠陥があり、
それ以外でも「魔王がショボい」、「ハルが5章で勇者っぽくない」、「主人公」VS「ヒロイン」で最後までいってほしかったなど、主に魔王関連に多くの不満があります。


一方で、花音シナリオのスケートシーンの素晴らしさ、最終章の見事な流れ、中だるみが少なく全編読みやすいテキスト、水羽の可愛さ、椿姫のキャラ立てなどなど、
個別に見ていけば、「良いな」と感じる部分も多くありました。


一見して良作といって良い点数をつけていますが、致命的にダメな部分と、感銘を受けた部分を相殺し、
やや甘めにつけた点数が、83点となります。