感想は、【総評】、【章ごとの感想(1~4章、最終章)】の順で書いていきたいと思います。


【総評】


ハイレベルなテキストに支えられたこのゲームは、とにかく読んでいて楽しいゲームでした。
笑えて、萌えて、楽しくて。そんなゲームだったと思います。
ストーリー自体も、割と複雑な設定でありながら整合性に目立った欠陥もなく、よく考えて作られているなという印象を持ちました。
敢えて欠点を言うならば、物語に山場といえるような山場がない、起伏に乏しいという点が挙げられます。
故に、「良かったんだけど、あと一歩何かが足りない」という物足りなさを覚えました。 


この作品の最大の魅力は、章ごとに全く異なる空気・雰囲気を呈示しているところでしょうか。
ライターさんにはそれぞれ自分の得意とする雰囲気、キャラクターというものがあります。
下手をすると、別作品のはずなのに「またこんな感じの雰囲気か~」と思わされてしまうライターさんもいます(それはそれで、その人の味ではあるのですが)。
ですが今回、王雀孫は実力をまざまざと見せてくれました。
今までの彼の作品から想像するに、恐らく2章や最終章のような空気感が「王雀孫らしい」雰囲気なのだと思いますが、
それとは全く異なる1章や3章も、あれだけ見事に描けるのですから大したものです。


ゲーム全体を通して散見されるキーワードは「他者との距離感・他者との接し方」でしょうか。
 
1章、タカシと学園生たちの関係は、「森里、明日香といった小さく狭い扉を通して、辛うじてつながっている距離」。ほとんど赤の他人のようなものですね。そこに、感情の交流はありません。
1章前半で提示されるタカシと明日香の関係は、「遠いけれど、辛うじて言葉が届く距離感」。
自身の劣等感と、相手の偶像視により、タカシの側からはまるで距離を詰めることができません。
感情の交流もほとんどない、赤の他人に毛が生えた状態から物語は始まります。

「明日香のタカシへの興味」が発端となり、「卒業文集の共同作業」を通して2人の距離が近づいていくわけです。
(明日香側から距離を詰めていく、明日香主導の鷹志攻略物語とも言えそうです。
鷹志の、明日香への態度は「受容」でしょうか。明日香からのアプローチを嬉々として受け取りますが、自分から深追いはしません)。


2章前半で提示される鷲介とアレクサンダーの関係は、「アットホームな、かなり近い距離感」。
鷲介とたまひよの物語はまさに距離感を扱った正当恋愛物語で、
「近いけれど、手が届かない距離」から、鷲介が少しずつたまひよとの距離を詰めていく物語。


3章で提示される隼人とパル姐、メンマなどとの関係は、「緩く、いつ途切れてもおかしくないけれども、心の底では信頼しあっている」関係。
YFBやR-ウイング(の「咲夜」だけかな……)たちとの関係は、
「初めは疎んじていたけれど、なつかれていくうちに満更でもなくなっていく」で、
物語が進むにつれてパル姐さんたちとの間に築いたような友情が、少しずつ醸成されていきます。
鳴やコーダインとの関係も、上のYFBとの関係とほぼ同じですね。


そんな3章の不満はコーダインが攻略できないことでしょうか。
別に、コーダインが可愛いから攻略させろ!と騒ぎたいわけではありません(いや、それもちょっとはありますが。でも個人的好みなら紀奈子さんの方が攻略したいw)。
隼人との距離を、強引なアプローチで詰めていった鳴とコーダイン。
コーダインの方が更に強引で性急な印象は受けますが、2人の距離の詰め方にさほど違いは見当たりません。
この2人を対比させて、鳴だけにルートが用意されているならば、もっと距離の詰め方に違いを作った方が良かったように思います。
まぁ、隼人の好みは鳴でした、と言われればそれまでではありますがw

(隼人の、彼女たちに対する態度は、緩やかな拒絶でしょうか。「寄るんじゃねーよ」という態度ですが、二度と寄ってこれないように、強烈に拒絶するわけではありません。
行動としては、鷲介に対するたまひよのそれに、近いと思います)


カルラに関して言えば、これはもう子供みたいなものですね。
子供の頃は、あまり深く考えずに友達になったり、遊んだりできました。


こう見てきたように、「俺つば」は章によって、『他者との距離感』や『距離の詰め方』に違いがあることが一見してわかります。
それに伴って、醸し出される雰囲気も章ごとに全く異なるわけですね。


【1章:評価 A-】


空気が読めず、平和主義のタカシ君に多くの人が苛立たされたと思われる1章ですが、
自分としては言われているほど読みにくくもなかったし、むしろ好感すら覚えました。
主人公のパーソナリティがイケてないことは事実なのですが、そのイケてなさは相対的にヒロイン明日香の価値を高めることに成功しています。


憧れの女の子に話しかけたくて、話しかけられなくて。
あまつさえ、話しかけてもらったのに、気のきいた答えが返せなくて、会話が途切れていく時に感じる焦り。
やっぱり、自分なんかじゃ、あの子とは釣り合わないんだという諦観と切なさの感覚が、見事に表現されていました。
(論理展開上端折りましたが、小鳩との実らない会話描写も秀逸だと思います。)


休む暇なく愉快なかけあいが続いていくエロゲは多々見ますが
会話と会話の間に生じる目に見えない重圧を、ここまで繊細に描いたエロゲは非常に珍しい。


それが実現できたのは、主人公とヒロインの距離感を、『超ベタベタ』である一般的エロゲの距離感から引き離し、
『あまり異性慣れしていない、リアル学生男子と、リアル学生女子』の距離に置き換えたから。
距離が離れているからこそ、距離を詰めようとして試行錯誤する。
ですが、その詰め方はイケメン主人公が、もしくはハーレム系ヒロインがやるような乱暴な距離の縮め方ではありません。
恐る恐る、嫌われないかどうか、変に思われないかと怯えながら、それでも少しずつ距離を詰めていく。
その過程こそが恋の真髄であり、この『1章』ではそれが十二分に表現されていると思います。 
(明日香の方も、タカシに対して、とても慎重に距離を詰めています)。


また、主人公のタカシ君が危なっかしいものですから、「頑張れ、頑張れ」とそばで応援しながら読まされてしまったのも評価の高い理由の一つです。
僕が応援などせずとも、勝手に問題を解決してくれる有能主人公と違い、この鷹志君で本当に明日香を振り向かせることができるのか?
と、ハラハラしながら読めました。
それだけに、結局最後まで「自分から、明日香に男を見せられなかった」タカシ君には若干の不満もあります。



タカシ君と明日香の距離が縮まり、明日香のことがよくわかってくる後半になると、
前述の『高嶺の花』、『男<女』であるというこの図式自体が思い込みであったことが明かされ、
一見、自信に溢れたアイドルのように見えたヒロインも、『普通の女の子』だったことに気がつかされる。
そのプロセスもまた、『相手を知る』ことによって『関係性が変化していく』、恋の醍醐味を描けているなぁと感じました。


【天は人の上に人を作らず、学園はクラスメイトの上にクラスメイトを作らず。
俺たちはみんな平等だ、この中の誰一人お前より偉くはないし、逆もまた然り】(最終章より引用)


自信のなさから、相手を必要以上に高く見てしまう。
かつて、異性にあまり縁がない片思い男子であった僕としても、身につまされる話です。
タカシのイケてなさ、自分に対する自信のなさを描くことで、明日香を高嶺の花だとプレイヤーに錯覚させたその手腕も見事だったなと。


そしてさすがはギャグテキストを書かせたら業界随一の(と思っている)王雀孫。
鷹志の厨二病設定には、思わずクスリとさせられました。
どんどんと登場人物が増えていくグレタガルドの世界。皆がホーク卿を無理やり称えるのも笑えましたが、
登場人物の名前が、初めは厨二病全開の「かっこよさげな」名前だったところが、だんだんと投げやりな名前に変わっていくところが秀逸でした。


ここまでベタ褒めしてきた1章ですが、高内のキャラはちょっとキツすぎたかなと感じました。
前半、タカシをいじめる(?)森里君に関しては、彼のいい人臭は行間から滲み出ていましたし、
頻繁に挿入される愉快なグレタガルド劇場が、良いアクセントにもなっていました。
陰鬱な学生生活を忘れさせてくれる緩衝材として、グレタガルドはタカシ君だけじゃなく、プレイヤーである僕の心も守ってくれていたのですね。


ところが、後半になるとグレタガルドの妄想が消えることによって緩衝材がなくなってしまいます。
そして、前半ではほとんど目立たなかった高内が、俄然存在感を増してきます。
この高内は、ちょっとやりすぎのように感じられました。
イジメなんてのはあんなものですが、森里君と違って彼女には悪意しかなかったように見えます
(パネ田ルートでは、実は彼女が主人公に惚れていたと明かされますが、とってつけた感しかなかったです)。
ただでさえ友達がいなくてはぶられ気分は十分に味わえるのですから、障害役をウザいキャラにしないでもと思ったのです。


そんな高内は酷い目にあうこともないので、大したカタルシスを味わうことも出来ませんし……。
クロードに殴られていれば良かったのに、と思ってしまいました。
そうなれば、物語はむちゃくちゃですが、僕の胸はすっとしたことでしょう。
ついでに言えば、クロードではなくアスカ様に助けてほしかったなとも思いました。
1章前半最後に、隣のクラスにいたのなら、高内に抗議してくれても良かったのに、と。
臆病な彼女には、無理な話だったかもしれませんが……。


京については……特に書くことはないかなと。
『距離感』を描くというゲーム全体のテーマを考えれば、超近接戦でしか戦えない京の存在意義はあったように思います。
ただまぁ、京と恋愛したいかと聞かれると、ノーサンキューなわけで。
なんだかハッピーエンドっぽく終わりましたが、京が依存癖を薄めない限り、うまくはいかないんじゃないかなと思います。




【2章:評価 B+】

非常に良質な萌えシナリオでした。
1章が暗いトーンなだけに、安心して萌えられる、ある種非常にキャラゲーらしい物語です。


この章で特に評価したいのは、王道の恋愛モノが描かれていたこと。
ここで言う王道とは、「あまり好かれていない意中の女の子に対し、男性がアプローチを繰り返し、文字通り攻略していく」物語ですね。
そっけない意中の娘に対して、試行錯誤しながら距離を詰めていく前向きな恋愛モノとして、楽しく読めました。


僕自身、ハーレムものが嫌いというわけではありませんが(サマリーを見て頂ければ、ご理解いただけるかと思います)、
「有能なイケメン主人公が、ヒロインから好き好き光線を発射される、ゼロ距離ゲーム」、
「なんちゃって純愛物語」にばかりぶつかる昨今の恋愛ゲーム事情には甚だ食傷しておりまして、
そんな中この「2章」は、古典的で王道な「恋愛モノ」を貫いてくれたことを評価したいと思います。
(本来なら、別に評価するようなところじゃないんですけどね……)


また、アレクサンダーは雰囲気が非常に良く、そこにいる(シーンを読む)だけで楽しいものに仕上がっていました。
店長を始め、たまひよ・紀奈子さん・ひのえり、そして鷲介と、スタッフ一同(紀奈子さんもスタッフと表現していいですよね)良い雰囲気を出しているなぁと。
ただ、物語的にはどうでもいい部分で、その雰囲気づくりを阻害しかねなかった要素があり、そこは少々残念でした。
(後述します。すぐ下に書いた、ひのえりVSたまひよのことではありません)


ひのえりとたまひよの衝突についてはどちらも悪い部分はありましたが、
何かというと小説のことを持ち出すのは、正直ひのえりが悪いと思いました。
悪い人じゃないのですが、いくらなんでも言葉がキツすぎるし、関係ない話を持ち出しすぎでしょう……。


ひのえりが、たまひよを大好きなのはわかりますし、たまひよを想っているのは十分に伝わってきます。
(作中では、ひのえりは誰に対してもキツいということになっていますが)、彼女が他のキャラクターへかける言葉には、別にキツさを感じませんでした。
たまひよを大好きであるが故に、感情的になり、必要以上にキツくなっている印象を持ったのです。


美人女子大生でもあるし、
「言うことはキツいけど、こんなに好きならしょうがないわぁ。愛だよね、愛」などと言って済ませてしまってもいいのですが
(実際、僕はひのえりというキャラクター自体、割と好きです)、
よく考えるまでもなく「子供のことを想うがあまり、的外れなスパルタ教育をして空回りしてしまうママ」と何ら変わらないわけで。
「ひのえりが美少女じゃなくても、同じこと言えんの?」と聞かれたら、たぶん言えないんじゃないかな、と思います。
人と人との距離のとり方には個人差があって、どの距離感を快適に感じるかも人それぞれ違います。
えーりんは、「ガチでぶつかりあう、距離0の関係」を望んでいるかもしれませんが、
相手は必ずしもそれを望んでいるわけではなかったりします。


これは結構リアルにもあることで。
お互い相手を友達だとは思っていても、
A君はB君のことを「月に1回くらいは遊びたい」と思っていて、B君はA君のことを「年に1回会うくらいでいい」と思っている。
ひのえりのやり方は、「嫌だふざけんな。友達なんだから月に1回くらいは遊びたい!」と駄々をこねているように僕には見えたんですね。
恋人関係においてこの手の問題はよくとりあげられますが(ドライとウェット。京の存在が象徴的)、友人関係においてもあります。


ちなみに、店に関することなら、僕はむしろひのえりの方がずっとまともだと感じました。
「マニュアルを全部読んでくる」必要性が僕には正直見出せないし(僕なら、読んだ振りをするでしょう。つまり僕では、たまひよは落とせないw)、
「現場の作業を優先する」ひのえりの方針の方が僕の考えに近いです。
また、人には向き・不向きがあるので強くは言えないのですが、たまひよみたいに事務的な接客よりも、笑顔で接客してくれた方が客の立場からは遥かに楽しいんじゃないかなぁと思うわけで
(接客業の仕事経験がないため、客側からの意見しか言えませんが)。


前述した、『物語のどうでもいい部分での、良い雰囲気を阻害しかねない要素』についても触れます。
たぶん、多くの人にとってはどうでもいい部分だと思いますw


個人的に、僕は残業が嫌いな人です。
仕事が終わればすぐに家に帰りたいです。
そんな僕からすると、王雀孫先生のサビ残、残業しない奴ってなんなの?的な描写はちょっとキツかったです。


編集者の冴子さんは、「残業が嫌いで、持ち込み原稿を読まない、スイーツ脳全開の似非占い師」。
モブキャラの工藤さんは、「サービス残業が嫌いで、仕事を片付けてさっさと家に帰りたいバイトの先輩」。


冴子さんについては、「残業が嫌いで持ち込み原稿を読まない」という部分はストーリー上必要なので、これは問題ないです。
そういうキャラなので、憎まれ役になるのも仕方ないと思います。
あの痛いキャラ設定はどうなのかと思わなくもないですが……うん。


ただ、モブキャラの工藤さんって出してくる必要があったんでしょうか。
残業嫌いなキャラを2人も出して、どちらも感じが悪いキャラというのはちょっと嫌な感じがしました。
また、アレクサンダーのクローズ作業は給料が出ない、という設定もちょっと。
20~30分くらいで終わるならまぁ我慢できないこともないですが、毎日確実に発生する仕事をアルバイトのサビ残に頼るって……。


たまひよが、休日にマニュアルを読むように(冗談交じりで)言うシーンも正直嫌です。
本気でやれと言ってはいないようですが、二度も三度も言っていますし。
(もしも僕が職場の先輩にあんなにしつこく言われたら、【鷲介君のように前向きな気持ちではなく】、ビビりながらマニュアルを持って帰ってしまいそうです。
そしてバカバカしいと思いながらある程度読んで、ストレスを溜めていく姿が容易に想像できます)


物語上、どうでも良い部分がほとんどなので、気にしない人は本当に全く気にしないと思うのですが、
一度気になるとどうしても気になってしまいます。
王雀孫先生が、日本人的な仕事観を持っていることは伝わってきましたが、
せっかくの雰囲気の良さを活かすためにも、不必要な残業嫌い叩きとか、アレクサンダーのブラック企業疑惑は要らなかったんじゃないのかなと思いました。


さて、気を取り直して。
鷲介君はかなり好感度の高い主人公でした。
根っこの部分は割と自分に近くて、あぁいう人になりたいと思えるような、そんな素敵な主人公だったと思います。


ただ、そんな鷲介君の行動は、僕の考えとはかけ離れていたので、正直不満もありました。
家に持ち帰ってほとんど役にも立ちそうにないマニュアルを読むくらいなら、まずはたまひよの書いた2冊の小説を読み、米田さん宛に紹介記事を送るのが優先だろうと思ったのです。


たまひよが鷲介に怒っていた最大の理由は、「自分の書いた不評の小説を、褒めてくれる読者にめぐりあえた、と思ったらウソだった」という裏切りだと思います。
僕自身、大学時代に文芸サークルにいた経験があることから、その失望は大いに理解できます。
なので、彼女に気に入られたければ、まずは「嘘から出たまこと」ということで彼女の小説を読むのが(そして、面白ければ感想を伝えるのが)、より効果的だと思うのです。
もちろん、請け負った仕事を先に片付けるというのも重要ですしね。


まぁ、鷲介が的外れな行動を取ることで、なかなか距離が縮まらないじれったさを演出しているという見方もできまして、それも込みで楽しめたので良いといえば良いのではありますが。
主人公が全て、正解の行動ばかりを取っていたならば、すぐに恋が成就してしまい面白みにかけてしまいますし。


ヒロインに関してはデレたたまひよが可愛いのは認めますが、
そもそも僕はヒロインであるはずのたまひよよりも、米田さんと紀奈子さんの方が好みであって、
鷲介君とは、好きになる女性のタイプ自体が違うのでもうしょうがないですね。
(たまひよとは真面目すぎて性格あわなそうw)


なんだか後半はぶつぶつと不満を書いてしまいましたが、2章全体の評価としては、
『(細かいことで、危うく台無しになる危険もあったが)雰囲気の良さは相当なもので、王道恋愛物語としても高品質』だったというところになります。