評価はA。

先に言っておくと、僕はこの作品が「嫌い」である。


フランシス作品の特徴は
①嫌らしい悪役
②不屈の主人公
③正義の主人公が悪役をぶちのめす

という極めてオーソドックスな勧善懲悪物語である。

ある、と言い切ってしまうには僕は彼の作品を11作しか読んでいないので、「ちげーよ!」と反論がある方もいるかもしれないが、11作に関してはどれもほとんどこのパターンだったので、まぁ概ね間違ってはいないはず。


さて、本作の「度胸」であるが、悪役がとんっっっっっでもなく嫌らしいクズである。
本当にヤバい。東野圭吾作品でもいくつか憎悪を燃やしたことがあるが、この「度胸」の悪役も本当にヤバい。
死んでほしい、いや、死ぬだけじゃ物足りない、苦しみぬいて、じわじわといたぶりぬきたい。

と思うくらいの、ウザさキモさに満ち満ちた悪役なのである。


この嫌らしさはまさにシリーズでも屈指であり、かなりのインパクトを持っている。
あまりのウザさに、主人公に強烈に感情移入してしまい、先の展開にドキドキし、 主人公を必死に応援して本を置けなくなってしまうのである。
そんなわけで没入度もものすごかった。
これはある意味フランシスの巧さだ。
並の作家が、鬼畜極悪非道ウザさ極まる悪役を描いても、なかなかこうはいかない。
下手な作家がやろうものなら、「ぷぷっw なんだこの悪役ww」と失笑してしまうかもしれない。
それが、まんまと読者の感情を憎悪で塗りつぶしたのだから、そこは評価すべきところだと思う。
行動の嫌らしさ、そして人々が苦しむ描写の巧さ故だろう。


フランシスは他作品でもなかなか嫌らしい悪役を描いている。
彼自身がよほど嫌な人間と付き合って辛い目に遭ってきたのか、あるいは自分がされたら嫌なことが
僕にものすごく似通っているのか、とにかく嫌な悪役が多い。
単純な人殺しとかではなく、陰湿ないじめのリーダーのような、そういう嫌らしさなのである。


しかし、この「度胸」はその中でも特に酷い。酷いというか、やりすぎだ。
ムカつく悪役を打ち倒して「やったぜー!」と快哉を叫ぶレベルの話ではない。
殺しても殺したりないくらいの憎悪を悪役に抱きながらする読書は、あまり精神衛生上も好ましくないと思うのだ。
できれば、 読んで優しい気持ちになれる本がいい。
悲しくなっても切なくなっても考えさせられてもいいし、時には「ムカつくぜ!」→「よっしゃ!やっつけた!ざまぁwww」という快感を味わうのもいいが、本作は悪役をウザくしすぎたと感じている。


また、フランシス作品の多くに言えることだが、そんなムカつく悪役に対し、主人公の与える罰は割とヌルい。
今回の悪役にしても「失職する」程度で済んでいる。


両手両足剥ぎ取って空の浴槽にでも放り込み、ゆっくり水でも流し込んでようやくスッキリするレベルのクズに対して、国外逃亡を助けてやるのは少々お人好しすぎはしないか?
と思うのである。


以上のように、僕はこの作品が嫌いである。
しかし、ここまで憎める悪役を作ったというのはある意味凄い。
なのでA評価。
ただし、A以上(A+とかS)は与えたくないと思うのも確かである。