81点。


読了後、爽やかな風が心を吹き抜け、元気が湧いて出てくるような、素敵なお話でした。


詩的な文体に酩酊させられがちですが、テーマ自体は明確に表現されていて分かりやすかったです。


作品のテーマは、『生命讃歌』。その象徴がリリィです。
『記憶喪失』が『誕生』を。
彼女が理由もわからずに、使命感から目指している「紫影の塔」が、『死』を象徴していると考えて良いでしょう。


記憶喪失の彼女は、ヴェラザノ、ブロンクス、ロング・アイランドと旅をしていくうちに
「寂しさ」、「喜び」、「悲しみ」、「憎しみ」、「愛」といった様々な感情に触れ、成長していきます。
ヴェラザノから紫影の塔への道は、一人の人間の人生を凝縮したものと言えるでしょう。
そうして成長していった果てに待っている彼女の終着点は『死』。
理由などわからずとも、本心では目指したくないとしても、結局人はそこを目指して進むしかないのです。


チクタクマンの印象的な台詞を引用します。

引用↓

「すべて、すべて、あらゆるものは意味を持たない」
「たとえば……忘れてしまえば、なんの意味もない」
  
                   
         

これは、「何故人は生きるのか」という問いかけになります。
どうせいつかは滅びゆくのに。どうせいつかは忘れられてしまうのに。
そこに意味はあるのだろうか、という問題提起になります。


また、自らが『影』であることを知ったリリィがAを置いてきてしまうシーン。

引用↓

「どうせ消えてしまうんだから、一人でいる」
「どうせ消えてしまうんだから、私を守って傷つくなんて意味ないよ」
「消えるってわかっているのに嫌がるなんてさ、ちぐはぐだよ」

                          

この3つの台詞もまた、同じテーマへの言及でしょう。

「人はどうせ最後には死んでしまう。だから、一人でいる。私を守って傷つく(→私のせいで迷惑をかける。などの言い換えも可能)なんて意味がない」


にも関わらず、ちぐはぐにも関わらず、『消えるのを嫌がる』リリィ。
身につまされる話だとは思いませんか?


けれどラスト。
Aを含め、今まで関わってきた人々に支えられたリリィは言います。

引用↓

「あたしは”いた”じゃない! みんなは”いた”じゃない! それを、『意味がない』とか言うな!」
「あたしは見たよ、あたしは聞いたよ。ここにみんながいたって、あたしは知ってる」
                                     

この事はエリシアの視点からより丁寧に、

引用↓


「私は見た。廃墟を、この都市の今を。消えていった彼らが遺したものを。
消えてなんていない。誰も彼もが忘れても、確かにここに彼らはいた。
誰も彼もが忘れても、確かに、かつて、生きていた(中略)
世界の誰もが忘れたとしても、私は目にした。私の、記憶に、刻んだ。
(中略)
だから、あなたが『意味はない』と嘯いても、少なくとも私には『意味がある』のだと信じます」


という回答が示されます。



そしてリリィは『神』を撃ち、『死』をも乗り越える。
彼女は実際には死んだのかもしれないし、生きているのかもしれない。
そこはきっと大事なことではなく、使い古された言い回しをすれば、
エリシアの、そして皆の心の中に生きている。


地下の世界が消えてしまったにも関わらず、幻であったはずの彼女はこれからも、
いつまでもAと一緒に、一輛だけの地下鉄に乗って、新たな冒険に乗り出すのです。



エリシアが、生きている限り。
そしてこのゲームソフトを手にとった僕たちが、この物語を忘れない限り。
今日もどこかでリリィとAが青空の下を駆け回る、そんな楽しい空想が続く限り、
二人は『生きて』いるのでしょう。


「生きる」ことを力強く肯定され、プレイした後、元気になれる。
そんな素敵な物語でした。