85点。


独特の信仰・文化を持つブラックアフリカ(ナイジェリア)に、
イギリスのキリスト教徒が押し寄せ、併呑していくまでの物語。

物語の前半部では、過酷でユニークな当地の黒人文化がユーモラスに描かれる。
ヤム芋こそ男の作物! ココ芋は女子供の作物。などの名文句(?)もあり、
なかなか面白い。
僕などからすると、「そのしきたりはちょっと……」と思う部分も多々あったが
(最たるものはイケメフナの殺害だろう。誰のことも幸せにしない悪習だと思う)、
そういう文化としてこの地の歴史はずっと育まれてきたのだろう。


物語の中盤から、キリスト教徒たちがまるでホラー小説のように物語に影を落とし始め、
やがてこの集落を呑みつくしてしまう。


というのが本書のストーリーラインである。


文明教化の名を借りた白人たちがアフリカで行なった鬼畜の所業については、今更語るまでもないだろう。
これはれっきとした(アフリカ)文明の破壊であり、侵略に他ならない。

とはいえ、一方でこの侵略に手を貸したのが、一部の黒人……従来のアフリカ文明に馴染めなかった人々であることも
特筆すべきポイントだろう。
キリスト教徒たちのしたことは全く擁護のしようもないが、旧来の文化では奴隷として虐げられてきた人々。
また、『男らしさ』を過剰に賛美するこの文化についていけなかった人々(主人公の息子など)にとって、
キリスト教は一つの救いとなったのだろう。
それ故、彼らの尖兵として同胞文明を破壊するのに一役買ったのであるし、
元々の文明もまた、理想的なものではなかったということは当然言えると思う。


一つしか選択肢がなかったこの文明において、その価値観についていけなかった人間は、落伍者として蔑まれ生きる他はなかった。
ところが新しい選択肢……自分を見放した文明を捨て、新しい文明に飛び乗るという選択肢が出来た以上、
一族の間で離反者が出るのもまた自然なことだったのだろう。
力による侵略以上に、眼に見えないイデオロギーの侵略こそ、『悲劇』の立役者だったと思う。

そうは言っても、やはり一つの文明の破壊過程というのはおぞましく、『アフリカの悲劇的叙事詩』というサブタイトルも納得である。


アフリカの文学作品を読むのは初めてだったが、心に残る良い作品だった。