まずは点数から。

シナリオ 125/150 キャラ 120/150 絵 75/100 音 80/100 
その他システム80/100  印象  +40/50   合計 520/650 (34位/170ゲームくらい中)

ESにつける点 85点。


【前置き】

本感想で使用する単語について、
便宜上「世に流布している忠臣蔵ストーリー」を、『リアル忠臣蔵』、または『忠臣蔵ストーリー』。
「歴史上実際にあった赤穂事件」を、『リアル赤穂事件』。
「本作の舞台となる、内蔵助たちが女性になった忠臣蔵世界」を、『女体化忠臣蔵』と書かせていただきます。
よろしくお願いします。


【前置き2】

本作を手に取るまでは、「忠臣蔵ストーリー」のことはほとんど知らず、大石内蔵助も名前は聞いたこともある、というレベルでした。
一応、本感想で書いたことは自分なりに調べたことですが、間違いも色々あるかもしれません。
「リアル忠臣蔵ファン」の方も、いらっしゃるかと思いますが、
どうしても許せない誤りはご指摘を、笑って許せる誤りはご寛恕のほど、よろしくお願いします。


では、本題に移ります。



【内蔵助ルートについて】

学もなければ剣の腕もさほどなく江戸時代の知識もない直刃が、内蔵助の多大な助力を受けながら、力をつけていく第一章。
詳しくないので違ったらごめんなさいなのですが、おおよそ「忠臣蔵ストーリー」をそのままなぞりつつ、
エロゲ的な楽しい会話、イベントを入れていったような印象を受けました。
十二分に面白かったんですが、特に言及したいこともないですね。
内蔵助は本作中最も頭が良く、剣の腕も安兵衛並で、懐も深く、なおかつ楽しい、素敵なキャラでした。
恋愛相手という目では見られなかったのですが、人間としてこの内蔵助に好感を持ちました。


【安兵衛ルートについて】

前ルートでの知識・能力を受け継いで再スタートする、第二章。
ループものの王道ではありますが、こういう展開は大好きです。
赤穂浪士の討ち入りを防ごうと頑張る直刃ですが、どうも空回り気味で、ちっともうまくいきません。
ですが、郡兵衛や小平太、孫太夫といったサブキャラクターたちや、デレた後の安兵衛の可愛さもあり、とても楽しめたルートでした。


【主税ルートについて】

自棄を起こし、歴史にかかわらないことを決めたにも関わらず、主税に一目惚れされてしまう第三章。
僕が一番気に入ったのはこのルートでした。
完全にデレデレの主税はウザ可愛い(ただし、デレ安兵衛には負ける。異論は認める)し、内蔵助、茅野さん、それにキモヲタ様までも現れる、
ほのぼのした日常シーンがとにかく楽しかったです。
中盤で登場する新八郎も可愛い中に、いつ斬られるかわからない怖さがあってスリリングでしたし、
ラスト、現代に戻った直刃の前で姿を現す相合傘などは、わかっていても感動させられました。
余韻の残る最高のエンディングで、ここで終わっても良かったんじゃないかなぁと今でも思います。

真面目ではあるものの視野が狭い主税が、内蔵助に感化され、少しずつ器を広げていく成長物語としても面白く、
恋愛モノとしてもとても楽しく読めました。


【一魅ルートについて】

主税ルートから約1年。直刃の元に現れた一学そっくりの女、一魅と共にまたもやタイムスリップする第四章。
吉良側からの『赤穂事件』を語る一魅の歴史観を拝聴するルートとなります。
このルートの捉え方は難しいです。
最も出来が悪かったと思うのですが、色々語りたいこともありますし、「なければ良かった」と切って捨てるのも気が引けるのです。


『忠臣蔵』というコンテンツを「真面目に」考える上で、やはり吉良側から見た歴史観は避けて通れないと思います。
大石側の一方的な美談とせず、こういった視点を取り入れた制作者の志を、僕はむしろ好意的に受け止めました。
ですが、前章のラストが作品最後を飾るに相応しい素晴らしいものだったこと、
そもそもの批判:擁護が噛み合っておらず議論にすらなっていないのに、何故か直刃と一魅の二人は気づかないこと、
議論を除いた部分で、四章の中心となる橋本兄妹に魅力が欠けていることなどから、面白い章だったとは到底言えませんでした。


もっとも、『噛み合わない不毛な議論の典型例』として、反面教師のように観るぶんには面白いかもしれません。


議論がズレた最大の原因は、言ってはなんですが、直刃の頭の悪さにあると思います。
主税ルート後、一年間の現代生活で彼は一体何をしていたのでしょうか。
赤穂浪士、忠臣蔵について読んだような素振りがありますが、かなり疑わしい感じです。


「ぐぐれ」ではないですが、赤穂浪士≠正義の考え方は、インターネットを少しでも使えばある程度の情報に接することができます。
それこそ、忠臣蔵の「ちゅ」の字も知らなかった僕が、このゲームをプレイする際に興味を持ってさっと調べただけでも、一魅の発言の7割方は頷ける内容でした。
だと言うのに、一魅の「赤穂浪士叩き」にほとんど耳を傾けず、まず反発から入る直刃の議論スタイルはあまりに度量が狭すぎるというか。
今まで赤穂浪士達と素晴らしい時間を過ごしてきたのはわかりますが、「うちの子に限って(いじめなんてしない)」といったバカ親のような態度はやめて、
ニュートラルな気持ちで聞くべきでしょう。
そうすれば、一魅が叩いているのは、彼の大好きな『女体化忠臣蔵』の赤穂浪士ではなく、『リアル赤穂事件』の赤穂浪士であることがすぐに解ったはずです。


さて、一魅の方にも問題点は多々あります。
まず、態度が悪すぎます。
『赤穂浪士』に対する尽きせぬ怒りはわかりますが、無駄に挑発的な言動があったり、そもそもの動機をずっと隠していたりと、
話を聞いてもらう態度ではありません。
何故彼女が赤穂浪士を恨んでいるのかを話せば、直刃も同情的になったかもしれません。
また、序盤は赤穂浪士の姿を知らない一魅に責任はありませんが、山吉新八郎や色部らに出会った後では、
ここが『リアル赤穂事件』の赤穂ではなく、『女体化忠臣蔵』というパラレルワールドであることは解ったはずです。


一魅は必死に『リアル赤穂事件』の赤穂藩士を叩き、直刃は『女体化忠臣蔵』の赤穂藩士のイメージのままで『リアル赤穂藩士』を擁護しようとするから、
わけのわからない不毛な議論になってしまうのです。
まず落ち着いて、お互いの前提条件を開示しあう。そして、話し手(一魅)は聞き手に誠意をこめて話し、聞き手は話し手の言葉を(反発から入らず)冷静に聞く。
これができて初めて、有意義な議論と言えると思います。


ちなみに、『女体化忠臣蔵世界』は、直刃たちの『作中現代』に繋がる過去ではなく、全くのパラレルワールドです。
なぜなら
「私は清水一学と、鶴姫(吉良の娘)の子孫だ」
という一魅の台詞があるからです。
『女体化忠臣蔵』世界では清水一学は当然『女』なので、鶴姫との間に子供が生まれるわけがありません。


ですので、『異世界の赤穂』に迷い込んだ一魅が『現実の赤穂』についてぶっ叩き、『異世界の赤穂』しか知らない直刃が『現実の赤穂』を擁護するという
ある種滑稽な論争が繰り広げられたのが4章ということになります。


……不毛すぎて、正直読んでいて辛かったです。


【余談】

ここはゲームを離れた余談です。そんなのは読みたくないという方は、スクロールしてください。


本作で描かれる「無責任に仇討ちをけしかける町人」たちの姿に対し、個人的に強い嫌悪を覚えました。
自らが命を捨てるわけではない安全地帯から、他人の命についてあれこれ口を挟むとは、一体何様のつもりなのでしょうか。
実際、『忠臣蔵ストーリー』がもてはやされ、赤穂浪士たちの人気が上がる一方で、脱盟した者への迫害があったようです。
これなども言語道断で、素晴らしい(?)行いをした者への賞賛はともかく、
それを裏返して素晴らしい行いができなかった者に対し、何故そこまで辛辣になれるのでしょう。
脱盟した藩士たちに対してこの仕打ちですので、詳しくは知りませんが、吉良家への迫害も推して知るべしです。
「忠臣蔵」という物語は感動的かもしれませんが、『現実(赤穂事件)と虚構(忠臣蔵ストーリー)の区別もつかない』愚昧な人々に与える影響を考えると、実名なぶん、相当有害な物語かもしれないと感じました。
それを考えると、一魅の言い分に全く耳を傾けない直刃の姿勢は、僕には許せませんでした。
たとえ論点がズレていたとしても、彼女の言葉には耳を傾けるべきだと思うのです。


実際のところ、僕が調べた限りでは浅野内匠頭と吉良上野介の間で起こった事件は『よくわからない』というのが本当のようです。
浅野が吉良に斬りかかった。その際に「遺恨がある」と口にした。
ということ以外はよくわかっていないと。
吉良が浅野をいじめていたという話も諸説色々あって眉唾のようです。
浅野の人柄が「短気で女好き」だったというのは、赤穂事件以前の資料に乗っているので割と信ぴょう性が高いとして、
吉良は実は名君だった、いややっぱり嫌な奴だった、というどちらの説も結局はよくわからない、と。


吉良が浅野をいじめまくっていたとすれば、それこそ『キチガイ上司』にいびられまくったわけですから、「このクソ上司がぁぁぁ!!」とご乱心して、
その後46人の家臣が討ち入り、殿の仇をとる物語を読み、「吉良wwwwざまぁぁぁぁwww よくやったぞ赤穂浪士!! 亡き主のためにさすがやで!」と溜飲が下がる。
そういう単純な話になるわけですね。 
ですが、いじめがあったかどうかすら解らないのが実際。仮になかったならば、まさに一魅の言うとおりで「勝手に斬りかかった浅野」が一方的に悪く、
逆恨みして討ち入りするなど、話にならない暴挙でしょう。
実際、浅野がどのようにいじめられていたのかを、大石は書き記していないようです。
……以上のことを考えると、『忠臣蔵ストーリー』にはあまり良い印象はありません。
ただ、見もしないで言うのもなんなので、この機会に一度、ドラマなり小説なりで、この有名なコンテンツに触れてみたいと考えています。


【右衛門七ルートについて】

最終ルートは、矢頭家の生活を描く前半、浅右衛門の元での右衛門七の成長を描く中盤、事件の黒幕であるカグヤと闘う後半に分けられます。
前半は正直面白くなかったです。他ルートで見る限り、小夜結構可愛いなーと思っていたんですが、このルートで個人的に株が下がりました。
浅右衛門のところに行く中盤は割と面白かったです。初めは内蔵助や安兵衛に教わっていた彼が、主税ルートあたりから教える側に回ったのも興味深いですね。


最終決戦に関しては、面白いとは言えないのですが、仕方なかったのかもしれません。
バトルものによくある、強さのインフレが必ずしもおもしろさに繋がるわけではない、という陥穽にはまったような感じです。
カグヤの動機も、前ルートの一魅と比べても共感しにくい理由で、ラスボスとしての魅力に欠けました。
右衛門七のプッシュが弱いのもよくわからないところで、Hのあるヒロインでありながら、見せ場を小夜と折半してしまってどうにも印象が弱いです。
カグヤの術で蘇る赤穂浪士は内蔵助・安兵衛・主税と順当に大将格の武将が選ばれたにも関わらず、最後は右衛門七ではなく何故か数右衛門……。
右衛門七のショボさを物語る一幕ではないでしょうか。


余談ですが、最終決戦前、赤穂浪士の一行が現代で繰り広げたであろう珍エピソードも見てみたかったですね。
 

【敢えて設定されている(と思われる)ツッコミどころについて】


本作は、バカゲーの類ではないにも関わらず、クスリとさせられるツッコミどころが数多くありました。


恐らく誰もがツッコミたい気持ちにかられるのが、内蔵助の変身でしょう。
昼行灯→マジモードで声が変わるのはいいとして、何故スタイルまで変わるんだよwと。
内蔵助繋がりでいうなら、彼女の年齢にもツッコミたいところですが、ここはぐっと我慢するとします。


赤穂藩士のほとんどが女体化して華やかになっているのに対し、吉良家家人がほぼ全員むさ苦しい男揃いなのも地味に面白いですし、
吉良上野介が若返るのも割とツボでした。


最終決戦については既に一部書きましたが、『赤穂藩士の亡霊を蘇らせる』と豪語したカグヤさんが、実際には『大将格の4人』しか蘇らせなかった事も、
「内蔵助・安兵衛・主税」と攻略ヒロインの亡霊を呼び寄せておきながら、最後が何故か「数右衛門」なことも、制作者がボケをかましたのかどうかがわからないところも含めて、
地味に笑えました。


本作のどこかほのぼのとした魅力を作り出しているのは、案外こういう部分なのかもしれません。


【まとめ】

批評空間の2013年上位作ということですが、評判に違わぬ力作だと思いました。
3章のラストがあまりに素晴らしかったため、そこで終わっておれば~という気持ちもありますが、
4章は4章で(娯楽的には面白くなかったけど)吉良側から見た歴史観を出してきた作者の姿勢自体には好感が持てますし、
ラスボスのショボい5章も含め、最後まで楽しんで読むことができました。

何より、今までまるで知らなかった「忠臣蔵」に興味を持つこともでき、プレイして良かったと思っています。


【最後に】

内蔵助×主税、一学×新六、新六×右衛門七、内蔵助×右衛門七と、レズっぽい絡みが4つもあったのに
エロシーンが1つもないなんてあんまりですよ…… くすん。