評価はA+。

*本書を読む前に、アイザック・アシモフ「ファウンデーション」を読んでおくと、本書が二倍楽しめると思います
(読まないと筋がわからない、ということはありませんが)。



とにかく、素晴らしいスケール感をもった作品だった。


時は482世紀。主人公は『時間管理機関エタニティ(永遠)』の技術士にあたる。
平たくいえばタイムパトローラーみたいなものだ。


物語最序盤は、主人公のイケてないキャラクター設定が興味をそそるものの、まぁそれくらい。

(32歳の童貞男、非モテ、自他共に認めるブサで、そのせいか「女なんか興味ねーよ」 とひねくれてしまう。
「女性から見た君は、死んでから一ヶ月経った鯖と同レベルの魅力」とは上司の弁
ひどすぎww)

70ページめあたりで主人公とヒロインが出会うと、ようやく面白くなってくる。

 
このイケてない主人公とヒロインの恋愛を見守りながら読んでいくわけだけど、
恋愛描写は非常に抑制のきいた筆致で描かれており、ドキドキ感は強くない。
ヒロインの魅力をもっと押し出していけばいいのに!と思わなくもないのだが、
主人公が非モテ君なので、ついつい応援してしまう。
はじめは、何でここまでイケてない主人公にしたのかと首を傾げたが、読むにつれ
「この設定じゃなくちゃ、ダメだったな」と思えてくる。


その後、ヒロインを未来(11万世紀も未来)へと飛ばしたあたりから、『時間モノ』としての面白さが顔を覗かせるようになる。
まずは主人公の弟子(後輩)にあたるクーパーの正体。


彼はなんと、24世紀において現在のタイムマシン技術を発明、ひいては時間管理機関『エタニティ』設立に多大な功績のあったヴィッカーマン博士その人だという。
この482世紀から24世紀へとタイムスリップし、そこでタイムマシンを作ったのだ。
この謎でまず、読者はおぉ、っと驚くはずである。僕は俄然興味を惹かれ、ぐぐっと本書の世界にのめりこんでいった。


極めつけは、ラスト10ページで明かされる真相だ。
僕らの生きている『現実世界』や、そこから繋がる『ファウンデーション世界』を正史とするなら、
この『エタニティ世界』はif世界だということ。

主人公とヒロインの力により、『エタニティ世界(永遠)』は終わり、『正史』→『ファウンデーション世界』へと歴史がシフトしていくことになる、そのスケールの大きさに圧倒された。


『エタニティ世界』の作り込みも素晴らしい。
さすがアシモフというべきか、タイムマシンによって時代と時代が繋がった上、
『奇異なもの』を『矯正する』タイムパトローラーがいる『エタニティ世界』は、
必然的に「文化が変遷することなく」、「進化もまた止まる」。


少しでも危険なものが出てくれば、注意深くその危険性を排除するタイムパトローラーがいるからだ。
作中なされる、「タイムパトローラーがいなければ、核戦争により人類は滅びるだろう」という予言。
これが見事な伏線となっている。

つまり、このエタニティ世界では「核戦争(第二次大戦も含む)は起こらなかった」。
原子力がなければ、必然的に宇宙進出もまた達成されない。


故に、ヒロインはこのエタニティ世界を終わらせ、人類を宇宙へと送り出そうというのだ。
そして、本書を経て、人類の歴史は「エタニティ世界」から「現実・ファウンデーション世界」へと転換する。
悲惨な核戦争を経験し、アポロ11号が月へと達し……やがて銀河帝国が形作られる。
銀河帝国は12000年の歴史を経て、緩やかに衰亡へと向かい、代わって「ファウンデーション」が歴史の表舞台に姿を表す。
それがアシモフの描く『ファウンデーション』シリーズである。


こうして考えていくと、『時間管理機関』を『エタニティ(永遠)』と名づけたのは実に巧い。
永遠とは変わらないこと、変わらないとは進化しないということでもある。
この機関がある限り、人類は『永遠』であるように思われるかもしれない。


けれど、永遠と思われた「エタニティ世界」もまた、15万世紀の未来でとうとう滅びてしまうという。
一方、何度も危機に直面し、滅び、再興される「ファウンデーション世界」は、「エタニティ世界」にはない
力強さがあるように思う。


本書のラスト二文

―永遠(エタニティ)の最終的な終末が到来した。
そして、 無限(インフィニティ)の始まりが――



を見てもそれは明らかだろう。


そしてこの二文は、主人公とヒロインの恋愛の行方をも表しているように思う。


いいお話でした。 



>>web拍手レス

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どんなジャンルでもそうかもしれませんが、SFは年代によって主流となる作風が変遷していっているので、
昔の作品ならではの良さが出やすいジャンルだと思います。
拙いブログではありますが、読書の楽しみの一助となれたならば嬉しく思います。