評価はA。 面白かった。


アフリカをモチーフにした小説では、「西洋文明」との対決に主題が移ってしまうのは仕方のないことなのだろうか。
数多く読んでいないのであれなのだが、チヌア・アチェベの「崩れゆく絆」を読んだ時も同じことを感じたのと、
前述の「崩れゆく絆」の方が、シャープさでは上だと感じてしまったのは少々残念ではあった。


とはいえ、「キリンヤガ」がつまらなかったわけでは全くない。
この小説は連作短編のスタイルをとっているが、特に第二章の「空にふれた少女」が良い。
泣けるSFとして有名だそうだが、確かに泣けた。

全体的にどの編もいいが、序章の「もうしぶんのない朝をジャッカルとともに」や、
第四章「マナモウキ」も素晴らしい。 


主人公コリバの夢見たユートピアは、第二章の「空にふれた少女」辺りで既に陰りが見え始め、
第四章の「マナモウキ」で決定的となり、第七章「ささやかな知識」と第八章「古き神々の死すとき」で崩壊する。


個人的に残念だと感じたポイントは、主人公コリバの理想に全く寄り添えなかったことだ。
彼がなぜ「キクユ族かぶれ」になってしまったのかが、作中から伝わってこないのだ。
幼少の頃、コリバはキクユ族の文化で暮らしていたというような設定ならわかるのだが、コリバが誕生したのは既にキクユ族の文化が崩壊した後である。


これを日本に置き換えると、平成の世に生まれた人間が、江戸時代の文化を取り戻すべく和服チャンバラ帯刀で「切り捨て御免」をしながら歩くようなもので、これではただの狂人だろう。
廃刀令に対する反乱が明治初期に起こるのは、まぁ理解できるが、2014年に廃刀令に対する反乱を起こすようなら、それはもうちょっといかんともしがたい。


更に読み進めていくうちに、どうやら「キクユ族のユートピア」に共感している人間はどうも「コリバだけ」だと感じるようになってくる。
「キクユ族のユートピア」を守るため、コリバは多くの人を犠牲にしてきた。
「空にふれた少女」のカマリが一番印象深いけれど、一章の段階で既に逆子や双子を殺している。


仮にも「キクユ族のユートピア」を守るためであるなら、情状酌量の余地もないではないのだが、
これが「コリバだけのユートピア」を守るためだと考えてしまうと、ちょっと辛いことになってしまう。
故に、もう少しコリバ側に大義(?)があるように読ませてほしかったなというのは、率直なところではあった。


とはいえ、「真のキクユ族の最後の生き残り」である主人公が、「ムンドゥムグ」 として「キリンヤガ世界」で過ごした十四年は、きっと第二の青春だったに違いない。
そんな「老人のユートピア」が成立してから崩壊するまでの物語と考えると、やはりしんみりとくるものはあった。