評価は 


「こんな小説、読んだことない!」という驚き、衝撃を久々に味わうことができました。
個人的SFのオールタイムベスト3に入ると思います。それぐらい凄かった。


本作は「連作短編集」の構造をとっているのだけど、その「短編」のバラエティがまず凄い。


オーソン・スコット・カードの「死者の代弁者」を思わせるような、『司祭の物語』。
「異文化との接触」と「宗教」を描いた作品だ。
ハイペリオンに住むという、小人族の謎。
胸に埋め込まれた十字架から、肉体が復活する彼らの不気味さは筆舌に尽くしがたいものがあった。


2章『兵士の物語』は一見ラブロマンス(どちらかというとエロ寄り)風だが、それはフェイクで
突如ホラー展開を見せる。この、急転換が凄い。
戦場でHをしている最中に突然女性が怪物へと変身する。
ち○こを食いちぎろうとおま○こが閉じかかるのを、必死で引き抜いた拍子に射精してしまい、
怪物から逃げようと転がりながらまきちらした精液が、死んだ兵士たちに降りかかるという描写が良い。
B級エログロ(グロ?)と言ってしまえばそれまでだが、何とも鮮やかなシーンである。

「未来から過去へと遡る」という怪物や、「未来において、巡礼仲間の一人が死ぬ」という衝撃的な情報がもたらされるのもこの2章だ。


酩酊したような語り口で、幻想怪奇小説の色濃い『詩人の物語』。
「詩を書くことで、悪夢が生まれる」という物語もさることながら、個人的に驚いたのは「星々をまたいで作られた家」という発想。
簡単に言うなら、部屋と部屋との扉が「どこでもドア」になっていて、居間は「地球」のフランスに、
ダイニングは「火星」に、寝室は「アルファケンタウリ」にあるという具合。
部屋をうつるごとに変化する重力への言及があったりと、とても面白かった。


最も気に入ったのは『学者の物語』だ。
研究者だった25歳の娘が、ハイペリオンで事故に巻き込まれ「時間遡行症」にかかってしまう。
1日経つごとに1日ぶんだけ肉体的に若返る。それだけならまだしも、1日ぶんの記憶を失ってゆくのだ。


たとえば、西暦2010年の1月1日に20歳になる娘は、2011年1月1日に21歳、2015年1月1日には25歳になり、「時間遡行症」にかかる。
すると2016年1月1日には24歳、2017年1月1日には23歳、2020年1月1日には20歳に戻る。
そして、2020年1月1日に再び20歳を迎えた娘は、2011年1月1日~2019年12月31日までの記憶を失っている。
2021年1月1日に再び19歳を迎えれば、2010年1月1日~2020年12月31日までの記憶を失う。


記憶は「睡眠」と共に失われる。
なのでその娘が起きた瞬間、娘は今が2010年1月1日であり、昨日は2009年12月31日だと認識しているのだ。
当然2009年12月31日の記憶は、ハッキリと鮮明に覚えている。


この設定から紡がれるドラマは、本当に切なかったです。
恋人との記憶を少しずつ忘れ、ついに恋人の存在自体を忘れてしまったり。
誕生日なのに、招待したはずの友達が来ない
(本人は2009年の1月1日だと思っているが、実際には2021年の1月1日なので来なくて当然)とか、
昨日まで友だちが住んでいたはずの家に違う建物が立っているとか、昨日まで若かった親が急に歳をとっているとか。


特にキタのは「レーター アリゲーター」(ホワイル クロコダイル)でしょうか。
25歳のレイチェルが好んでいるダジャレなのですが、これは本当に小さい頃から気に入って使っていたダジャレだったんですね。
ところが、そのダジャレすら忘れてしまう。そのシーンで、本当に泣きそうになりました。


感動系の物語を描かせてもダン・シモンズは超一級でした。


5章の『探偵の物語』は、サイバーパンク風のストーリー。
個人的にサイバーパンクはイマイチ乗れない人間なので、この章は唯一あまりピンとこなかったです。


6章の『領事の物語』は、「オーソドックスな時間恋愛モノ」。
恒星間を旅する男と、星で男の帰りを待つ恋人の物語ですね。
男19歳、女16歳で出会った二人ですが、男が次に宇宙から帰ってきたときには男は20歳、女は26歳になっており、その次に帰ってきたときには男は21歳、女は38歳に~みたいな。
「時間モノ」でいうなら4章の『学者の物語』が落涙必至だったので、6章はそこまではいきませんでしたが、
それでも面白かったです。


6つの連作短編ですが、異種族コミュニケーションのSFあり、時間恋愛モノあり、サイバーパンクあり、
B級エログロあり、幻想怪奇小説あり、時間遡行の家族愛モノあり。
本当に色んなタイプの物語が描ける作家さんなんだなと、ほれぼれしてしまいます。


そして、それら6つに共通するのは『ハイペリオン』という一つの惑星にまつわる謎と、根底に流れる『時間』というテーマ。
これらの物語を束ねると見えてくる、「28世紀の世界(アウスターとニューアース、オールドアースなど)」や
未来から過去へと時間が流れる、「時間の墓標」の謎。


一つひとつのおかず(短編)もバラエティに富んでおりとてもおいしく、それらをまとめてお弁当(長編)として見ても完成度が極めて高い。
「ハイペリオン」は紛れもない、傑作でした。


そんな「ハイペリオン」の物語は、六人の巡礼が「時間の墓標」へと迫っていくところで終わります。
俗に言う「俺たちの闘いはこれからだ!」エンドですね。

彼らの旅の行く末や、残された数々の謎は、続編「ハイペリオンの没落」に引き継がれていきます。