評価は、A+に近いS
大変面白かったです。 


殺人事件の冤罪を被せられ、半ば追われるように故郷を飛び出した主人公が、
五年ぶりに帰還。それに呼応するように、殺人事件が再び起こる……。


というのが事件の概要ですが、本作の……というか、ジョン・ハート作品の読みどころはそこではないと
思っています。
それは彼自身も語っているように、「家庭の崩壊」。
「根っからの悪人は一人もおらず、お互い交流を深めたいのに、誤解や不信、なりゆきによってそれができない人々」の物語といってもいいかもしれません。
本作のアダムとジェイコブの関係がまさにそれですが、アダムと弟のジェイミー、作品前半のアダムとロビンなど、多数の人間関係に当てはまります。
そんななか、他人を信じることのできるドルフの存在は、読んでいる僕に大きな安心感を与えてくれました。
アダムからもジェイコブからも頼られて大変だったでしょうが、彼がいなければこの物語は成立しなかっただろうなぁと。


センチメンタルな描写も僕好みで、アダムに想いを寄せるグレイスの振る舞いや、
「なぜ故郷に帰ってきたのか?」と聞かれて言葉を濁していたアダムが、父親にぽろっと漏らしてしまう
「家に帰りたかったから」という言葉には涙させられました。


本作は主人公アダムの物語であると同時に、父、ジェイコブの物語でもあります。 
五年前の事件では「アダム」を信じるか、後妻の「ジャニス」を信じるかという究極の選択を突きつけられ、
ジャニスを信じ、アダムを捨てた父。
そして五年後の現在、「ミリアム」を選ぶか、「グレイス」を選ぶかという選択を突きつけられ、
グレイスを選び、ミリアムを殺した父。

結果、彼はグレイスを除く全ての家族を失うことになります(将来的にアダムとは和解できそうではありましたが)。
元々、不妊だった前妻に不倫を自ら告白するという、彼のかました盛大なオウンゴールに端を発する今回の事件ではありますし、人格的にもどうかと思う面もなくはありませんが、一人の人間として仕方なかった面もあると思うんですよね。
彼の選ばされた「選択」の重さを考えると、胸が痛みます。



S評価ではあるのですが、なぜA+に近いかと言いますと、一つは事件自体の質の問題です。
言ってしまっては申し訳ないんですが、犯人に同情できなかったんですね。

確かに犯人のキャラ造形はなかなか質が高く、「おぉ、なかなかのモンスターを出してきたな?」とは思ったのですが、たとえば著者の次回作『ラストチャイルド』などに比べると事件自体の印象はそこまで強くありません。
事件を取り巻く環境自体は「悲劇」なのですが、犯人の暴走自体は「悲劇なのかなぁ?」というところ。
無論、犯人があぁなってしまったこと自体は「悲劇」なのですが……。


しかし、犯人は絶対ジョージだと思ったのに、外れたなぁ(苦笑)。