まずは点数から

シナリオ 110/150 キャラ 120/150 絵 65/100 音 80/100  その他システム 80/100 印象 30/50

合計 485/650 (86位/約170ゲーム中)


点数があまり伸びなかったのは、すめらぎ琥珀さんの描く絵がちょっと苦手だったため。
絵が好みならば最高520/650(40位)まで上がる可能性があったし、
こういう項目を設けておいてなんですが、僕自身は絵が苦手だろうがなんだろうがストーリーが良ければ満足な人なので、本作に対する印象は、点数に表れたものよりも良好です。



*本感想では、一応全てのルートについてもざっと触れる予定ですが、主に琴莉END2『リンカネーション』に即した形で書かせていただこうと思います。


【前置き】


新人の霊能者である加賀見真が、夏休みの間に依頼されたある『お役目』を無事遂行するまでの物語。
これが本作「なないろリンカネーション」の大まかなストーリーになると思います。
 
本作で描かれる事件は以下の4つ。

1:琴莉の飼い犬「コタロウ」の成仏
2:謎の交通事故多発地域
3:変態Mおじさん
4:少女連続殺人事件



このうち「1」と「4」は実際には同一事件といって良いように思いますし、「2」はプレイ時間にして15分程度で解決してしまうため、印象に残る事件は「Mおじさん」と「連続殺人」のわずかに二つということになります。


『小品』と称した最大の理由はこれです。
単純なプレイ時間云々の問題ではなく、事件が二つしかないこと。


『加賀見霊能探偵事務所』という器があって、真、伊予、葵、芙蓉、アイリスというメンバーがいる。
他に刑事の梓や、元恋人であり未だに意識し合う仲の由美もいる。
(琴莉については非常に位置づけが難しいため、ここでは一応外しました)。


作中に漂う雰囲気はとても暖かで感じが良く、かけあいも面白い。
既に土台は完全にできているわけです。
あとは事件を作って当てはめていけば、様々なエピソードが描ける……そんな優れた土台です。


ところが……事件は二つしか描かれていません。
これが個人的にはとても……評価に困るところです。


何せ、製作陣がどちらを目指していたのか(「大作」志向だったのか「小品」志向だったのか)も解りませんし、
「小品」が「大作」よりも劣っているわけでもない。
「大作」を狙うならば、今ある「小品」としての良さが消えてしまう可能性はあります。


しかし……一方で、今の「小品」のままでは、せっかくの土台が生かしきれていないように私には映ります。
なんといいますか、連続テレビドラマ(全13話)の「第1話(2時間スペシャル)」だけを見たような……そんな感覚なのです。


【小品としての「なないろリンカネーション」】

本作はわずか1か月程度の物語ではありますが、加賀見真のキャリアはまだ始まったばかりです。
これから先も彼は、様々な事件を解決していくことでしょう。
そんな彼の人生において、今回の事件はどう位置づけられるのでしょうか?


繰り返される概念の一つに、「お役目は一時の交わり、すれ違い」というものがあります。
滝川琴莉にまつわる一連の『お役目』もまた、加賀見誠にとっては「一時の交わり、すれ違い」にすぎない。
勿論、心に深く印象づけられる事件ではあるけれども、彼女と過ごした時間は加賀見真のキャリアにとっては、ほんの一コマにすぎない……そんなある種の『ドライ』な感覚を、今ある「小品としてのななリン」から僕は感じました。


琴梨とのお別れは悲しいけれど、このお役目にはつきものの一期一会ではある。
されどそのお別れはやはり悲しく、切ない。
そんな「軽さ」と「重さ」がうまく入り混じっているのが「小品」としての「ななリン」の魅力だと思います。


そこでは滝川琴莉という少女は、連続ドラマ「加賀見霊能探偵事務所」の第一話におけるゲストキャラクターに過ぎません。
これから先もレギュラーを張っていくであろう真、伊予、葵、芙蓉、アイリス、梓、由美に対し、
琴莉は真の人生からドロップアウトしてしまう存在ということになります。
メインヒロインであり、実際にも最も印象深いキャラクターでありながら、「真の人生」における存在感は最も小さい……そんな点もまた、他ゲーではなかなか見られない面白さであるように思いました。


【小品「ななリン」の弱さ】


しかし、小品としての「ななリン」には問題点も幾つか見受けられますし、やはりせっかくの「加賀見霊能探偵事務所」が、わずかに二つの事件を解決しただけで終わってしまうというのも勿体ない話だと思います。
2の「交通事故多発地域」と3の「変態Mおじさん」の間。
それから、3と4の事件の間にそれぞれ新しい事件を2~3個ずつ入れて、存分に彼らの活躍を描くことで、物語の面白みは格段に増したのではないでしょうか。
その際、希望としては「殺人事件」のような大きな事件よりももっと、「Mおじさん」路線というか、霊の起こす小さなドタバタを皆で解決していくような、そういう物語が見られるとなお嬉しいです。


現在の問題点1:琴莉以外のヒロインルートの出来が悪い点


小品「ななリン」では尺が短いこともあり、琴莉とのエピソードに大きな比重が占められております。
そんな中、割を食ったのが他ヒロイン達。

伊予ルートは、ほとんど琴莉とのお別れで傷心の真を慰めるだけのお話。
梓ルートは、突然のセフレ関係と、いきなりの子作り宣言でそもそも二人が相思相愛に見えない残念なルート。
由美ルートは、元カノという美味しいポジションでありながら過去エピソードも皆無で由美の良さが活かしきれず、終始琴莉の引き立て役に回る残念なルート。

という印象を受けました。


誤解してほしくないのですが、琴莉を中心に物語を作ること自体はアリだと思うのです。
なので、現在の物語を大幅に解体する必要はありません。
伊予は「傷心の真を慰める」展開のままでもいいし、梓は「セフレ」やら「子作り」の話でも良いです。
由美ルートは……由美は琴莉の正式なライバル的存在として作り直してほしいけど……まぁいいや。
とにかく、基本線は変えずとも、時間スケールを伸ばし、それぞれのヒロインと真との絆をもっと丁寧に描いていく。
最低でも夏~冬ぐらいまでの期間を。あるいは事件と事件の間は飛び飛びにして、数年のスケールで描いても面白そうです。
そうすればより、「真と共に同じ時間を生きていく」仲間たちとの絆を強く描けるでしょう。
伊予や由美はもっと回想シーンにも力を注ぐことにし、新しく用意された幾つかの事件で、それぞれのヒロインに見せ場を作る。
こうする事で、琴莉以外のヒロインの印象・株は大幅に上がることと思います。


僕は梓ルートのあの「セフレ」展開は、思わず「ハァ!?」と思っちゃったんですよね。

それは、梓と真の間に強い絆を感じることができなかったから。
「恋愛感情」じゃなくていいんです。「友情」や「仲間意識」で良いです。
沢山の事件を共に解決してきた戦友同士であるならば、酔った勢いでセフレに~というのも大いに解ります。
しかしあれでは、本当に誰でもいい感じじゃないですか。
子作りに関しても、「琴莉と約束したから」以上の理由を見つけることができなくて、正直うーんと思ってしまいました。


現在の問題点2:事件が2つしかない


ドタバタ日常シーンや、しんみりシーンの質が高いことは上述しましたが、
ぶっちゃけ本作のミステリ部の出来はかなりイマイチです。
犯人が男性と分かった時点で、弁当屋の息子以外に男性キャラクターもいませんでしたし……
推理パートはもっさりしていて出来が悪かった印象があります。

「コタロウ」、「Mおじさん」、「きらら:小百合」らとの交流が面白かったことを考えるに、真面目な殺人事件よりも、霊との「笑いあり涙あり」の触れあいを軸にした事件の方が、このライターさんは得意なのではないでしょうか。
そうした読んでいて楽しい事件を複数用意することで、最後の事件の陰惨さをうまく浮き彫りにすることができるかもしれません。

少なくとも、今の「Mおじさん」→「突然の猟奇殺人」よりは自然な物語になるような気がします。


現在の問題点(?)3:真の人生スパンで見たときに、琴莉の扱いが「一期一会的な感じで弱い」


上ではむしろ「一期一会」的な描き方を褒めたこともあって、問題点として書くのもどうかと思うのですが。
尺を増やし、真たちと幾つもの事件を解決していくことで、琴莉もまた「加賀見霊能探偵事務所」の大切な家族であるということを今よりも強烈に印象づけることができるように思います。
そこで琴梨をレギュラーメンバーとして定着させておき、満を辞しての最終回「なないろリンカネーション――琴梨とのお別れ――」のような形をとってくれれば、名作と呼ぶにふさわしい内容になったように思うのです。


今の印象だとどうしても、「確かに琴莉は一時期、真たちの疑似家族ではあったけど、『リンカネーション』するほどの絆を築いたのかなぁ?」と思ってしまいまして。
何せ、一か月にも満たない時間、2つの事件を共に解決しただけなので……。

そうではなく、数か月、もしくは数年。
5つ、6つ、あるいはもっと多くの事件を共に解決してきた大切な仲間であり妹分。
という積み重ねがあり、その上であのお別れともなれば、号泣必至ではないでしょうか。
リンカネーションするのもより説得力が増すように思います。


【まとめ】


日常シーンは非常に楽しく、飽きずにプレイでき、ホロリとさせられるシーンではホロリとさせられる良作でした。
散々「もっとボリュームアップを」と言っているのは、裏返せば土台となる部分が非常に面白かったから。
この加賀見探偵事務所の活躍が、もっともっと見たかった、という気持ちがあるからです。


鬼や幽霊たちに囲まれてにぎやかに楽しく暮らしている一方で、存命人間キャラとの関わりは由美と梓くらい。
別に人間社会の基準を当てはめる必要はまるでないんですが、こと人間関係だけを考えるなら主人公は世捨て人的というか、結構寂しい立場です。
けれども、鬼たちや伊予と暮らすあの屋敷の雰囲気はとても暖かく、真を包み込んでくれます。
事件を通して出会う様々な霊たち(といっても作中では4人しか出てきませんが、これからもいろんな霊との出会いがあることでしょう)との関わりなどもあり、「暖かさ」と「寂しさ」が入り混じるような、そんな雰囲気が個人的にとても好みに合いました。
琴梨も含めた鬼たちとのかけあいも楽しかったですし、由美との微妙な関係もスパイスのように効いていました。

そんな理由もあって、事件を真面目に解決していくタイプの連続ドラマ(長編)というよりは、
楽しい仲間たちとある時は賑やかな、ある時は少し切ない事件を解決していくタイプの長編。
そして、最終回一歩手前の第11回ぐらいから「連続殺人事件」の話を始め、
最終回で「琴梨とのお別れ」を描く……そんな『なないろリンカネーション』が出てほしかったなぁと思うのです。