まずは点数から。
シナリオ 115/150 キャラ 120/150 絵 80/100  音85/100 その他システム 70/100 印象 35/50
Total 505/650 (57位/全170ゲームぐらい中)   ESにつける点 83 


【前置き】


12月だというのに季節は夏。妖精やペンギンが住む町で、記憶喪失の少年は目覚めた。
ミステリアスな声に導かれ、少年は少女達を探し始める。
無事ヒロインを見つけた主人公は、少女達とともに部活動を結成し、楽しく過ごしていく。
やがて主人公は1人の少女と結ばれるが、ファンタジー世界特有の不思議な現象に巻き込まれ……。


というのが大まかなストーリーになります。


本作ではまずファンタジー世界を舞台にした4つの物語。そして最終ルートで現実世界を舞台にした物語が展開されます。


この感想では、順に
「ファンタジー世界の感想」→「最終ルートの感想」→「まとめ」という形で書いていきたいと思います。


ちなみに、
好きなシナリオは 羊=真樹>>>はるか>>歩>つかさ
好きなヒロインは 羊>真樹>はるか>つかさ>>>歩 です。
雑にまとめるなら2強3弱という感じでしょうか。


では、クリア順に感想を書きます。


【ファンタジー世界 ①真樹ルート】

ファンタジー世界の中でも、特にファンタジー色が強いのがこの真樹ルートでしょうか。
妖精王との出会いや同じ1日を繰り返すギミック、島から出た後の真樹の失踪など、予想できない展開が続き、
非常に面白いシナリオでした。
ファンタジー世界4ルートの中では最も現実世界とリンクしたヒロインだけに、初回プレイでは理解しづらい面もありましたが、それが楽しかったんですよね。
真樹というヒロインも、あまり見ないタイプのキャラクターで、とても新鮮でした。
真樹ルートでのかわいらしい彼女もいいですし、他ルートでサブキャラに回った際にも主人公を理解し支えてくれる親友キャラとして、何度も「いい奴」だなぁと思わされました。


ヒロインとしては僅差で羊が好みですが、本作ヒロインの中で誰か一人、知り合う事ができるなら真樹がいいなぁと思います。


【ファンタジー世界 ②つかさルート】

一番つまらなかったルートです。
一つは、つかさというヒロインに他ヒロインほどの魅力を感じなかったこと(かわいくないわけじゃないんですが)。
もう一つは、シナリオ自体の出来が良くないことです。


つかさの願いは『大好きなパパとママ、3人で暮らしたあの頃に戻りたい』というものなんですが、これがファンタジー設定と全くかみ合っていないように思います。
幼児化したつかさが言及するのは「パパ」のみであって、「ママ」には一言も触れません。
にも関わらず、ラストはママを赦してのエンディング。うーん。
これがやりたいなら、「主人公=パパ」だけでなく「ママ」役も欲しかったところです。


また、これは後述しますが、現実とのリンクが全くないように思えるのも気になるところです。

キャラとして言うなら、相棒の夕美先輩の方が好きです……。
いや、つかさも悪い娘じゃないんですけどね。
ボケにしろツッコミにしろやや弱いなと感じたのと、委員会の仕事が多く、素潜り部メンバー同士の交流が少なかった事が理由でしょうか。


【ファンタジー世界 ③はるかルート】

普段の掛け合いは結構楽しめたので、特に悪い印象はないんですが、
ストーリー面を見ると高い評価はできないかな、というルートです。

はるかのボケは面白かわいいので、キャラ自体は好きでした。


はるかというキャラクターは、現実界でもサナトリウム職員を務める、有田さんの母親がモチーフになっています。
はるかの側にいるメイドのアリアさんが、はるかの娘、ということになります。
しかしよくわからないのが、有田さん自身が(羊ルートや真樹ルートで)ファンタジー世界に登場している事です。

現実世界の有田さん=ファンタジー世界のアリアさん、という図式なら解るのですが、
有田さんもアリアさんもファンタジー世界に存在しているというのが、ちょっとよく解りません。
僕の読解ミスな可能性もあるんですが、単純に設定ミスなんじゃないかという疑問もちらほらと。


最後、妙にハッピーエンドっぽい雰囲気なのも、個人的にはイマイチ。

全体を通してみればそういうわけにもいかないんですが、シナリオ単体で言うなら「アリアは生れてこなかった」方がきれいな(=僕好みの)結末だったんじゃないかなぁと。


【ファンタジー世界 ④羊ルート】


『シンデレラ』をモチーフに構成された、良ルート。
羊ちゃん自体がとても好みだったこともあり、とても楽しめました。
こんなかわいい後輩に懐かれるとか、最高やろ!

ミステリアスな謎で物語を引っ張っていくのが真樹ルートなら、構築された物語の力で引っ張っていくのが羊ルートという印象です。
「動物の恩返し」系のストーリーと見せかけて~というミスリードも、大きな仕掛けではないもののまんまと騙されました。猫に盗聴器を仕掛けて~というエピソードも良いなぁと。


気になった点は2点。

1つ目は、羊ちゃんの包帯CGが普通にかわいい点。
あまりグロすぎても辛いだけなので、エロゲ的にはこれで正解かもしれませんが、
物語テーマを重視して見るなら「普通にかわいいじゃん。これならヒかないし、これからもきっとモテるでしょ」と思ってしまいました。

2つ目は、現実世界とのリンクが感じられない点です。


【現実世界 ①歩ルート】

さて、いよいよ最終ルートのAyumu Story。
『ファンタジー世界の謎』を解き明かす最終シナリオということになりますが……。
正直に言いますと、つまらなかったです。

理由は沢山あるのですが、大きく分けるならテキスト&キャラクター面と、物語面の2つに分けられるでしょうか。


まずテキスト&キャラクター面ですが……。
ファンタジー世界、羊・真樹・はるか・アリア・つかさ・夕美達との会話シーンはとても楽しいものでした。
特に羊、はるか、夕美といった良質なボケ役がいることが大きく、真樹のツッコミも好みで、何度も笑わせてもらいました(アリアはあまり……)。
翻って現実世界は、ボケもツッコミもつまらない。
それだけでなく、ファンタジー世界のキャラクター達に比べ、好きになれるキャラも一人もいませんでした。


歩は「ひくわー」を繰り返しているだけでちっとも面白くないし……口癖なのでしょうが、20度も30度も言われるので、ウザかったですし、読み進めるのが苦痛でした。
そうは言ってもここまで来ると、読むのを辞めるという選択肢もないですしね。


また、ファンタジー世界では、奇抜な事件・謎が物語を牽引していましたが、
このルートは、ごくごく平凡な学園モノ以外のなにものでもありませんでした。


平凡な学園モノが悪いわけではありませんが、好きなキャラが沢山いるファンタジー世界を楽しんだ後で、
好きなキャラが一人もいない学園モノを読まされても……。


これが、歩シナリオを単体で見た場合の評価です。


【現実世界 ②幻想界とのリンクについて】

歩シナリオにはもう一つ、作品全体を解き明かす鍵という働きもあります。
しかしこちらも……悪いとは言わないものの、良かったとは言えません。


まず、幻想界の謎についてですが……これは非常に単純で「歩の見た夢だった」というものです。
大切な人を亡くし、心に傷を負った歩。その彼女が、過酷な現実世界に目覚めるまでの夢の世界。
彼女の周囲にいた人々も昏睡状態に陥り、夢の世界に引きずられ……というお話。なんですが。
この辺のメカニズムは割と適当に流されている感じです。


個人的に不満なのは、ヒロインにもなっている青山つかさと美浜羊の2人が、現実界と全くリンクしていない(僕が気づいていないだけかもしれません)ように見える点です。ついでに言うなら、僕の好きな夕美先輩もリンクしていません。
遠野はるかはリンクしてはいるのですが、個別感想でも書いたアリア・有田の関係が解らず、評価しづらいですし、はるか以外のシナリオに行った場合、アリアの存在が宙に浮いてしまいます。
現実界とリンクしているのは老樹真樹と、カウンセラーの大河内さんくらい。
これは非常に物足りなく感じました。

 
【余談 ――ファンタジーに回答は絶対必要なのか――】


そもそも論として、ファンタジーに回答は絶対不可欠なのでしょうか?


12月だというのに夏なのはなぜか、妖精とはなにか、ペンギンとはなんなのか。
どうして時間がループするのか、どうして主人公は記憶がないのか。

こういった問いが思いつくのは当然として、これらの問いには、どうしても答えが必要なのでしょうか?


僕が思う限り、これらの問いに「満足できる答え」が返ってくる率はとても低いです。


たいていの場合、「夢」か「空想」か「ヴァーチャルリアリティ」かといったところで、理由自体も出尽くしている感がありますし、本作もご多分に漏れず『歩の見た夢』という設定です。
まぁ面白ければ使い古されていようがどうだろうが何でもいいのですが、
「謎がどんどん広がっていくターン」は楽しいのに、「謎の種明かしをするターン」に入ると面白くなくなる作品が本当に多いです……。


類似作品を挙げると、他作品のネタバレになってしまいますのでここでは控えますが、
本作「ナツユメナギサ」のネタは、有名エロゲだけでも3回は見た記憶があります
(1回は同じビジュアルアーツ系列のゲームですね)。
まぁ、先ほども言いましたように面白ければ何でも構わないのですが……。


【総評】

結構好きな作品のはずなのに、何故か辛口になってしまったのは、多分最終ルートに不満があるためでしょう(クリア直後に感想を書いています)。


ファンタジー世界はとても居心地がよく、楽しかったです。
羊にどっすーんされたい、はるかにドザ様って呼ばれたい。
真樹と一緒にフィールドワークしたい、夕美先輩をからかいたいです。
シナリオ面も、真樹シナリオでは先が気になって気になって仕方なかったですし、
羊シナリオの「シンデレラ」をアレンジした物語構成は巧いなと感じました。
プレイして楽しいゲームでしたし、良作だと思います。


ただなぁ……。
物語構成上、どうしても歩シナリオの比重が大きくなってしまう上、その歩シナリオがキャラ・物語ともにダメだったので、全体の印象がぼやけてしまったきらいはあります。


1 渚・歩・音々・月島の4人のやりとりをもっと面白く、楽しく
2 羊やつかさなど、最低限ヒロインぐらいは現実界とリンクさせる
3 歩をもっと可愛く


この3点だけでも僕好みになっていれば、85点は突破できたのにと思うと、勿体ないなと感じました。
それだけ、このゲームのファンタジー世界が肌にあったのですよ……。