【ストーリーについて ①概観】


本作は、「物語の本筋」よりも、その中に詰め込まれている様々なエピソードこそが味わい深い作品だと思います。
なので本筋を抜き出すことにあまり意味はありませんが、大雑把な紹介も兼ねて、物語の中心となるシロハネ編の本筋を抜き出してみましょう。



夏休み。
モスグリンの街のセロ、ワカバ、ライト、ココの4名は、人形技師レインに会うためにジルベルクの街へと向かう。
その後、一行は各地を旅する事になり、ベル、アンジェリナ、トニーノ、シルヴィアと旅の仲間を増やしていく。
最終目的地は、セロたちの街モスグルン。
そこで行われる演劇祭で、ワカバ脚本の歴史劇『天使の導き』を上演するのだ。
旅の仲間たちを中心に、ファビオ、マリオンなどの助っ人の力も借り、劇は無事成功。
かけがえのない思い出を胸に、ひとまずメンバー達は解散。
共に旅をする中で結ばれた絆を大切に、それぞれの生活へと帰っていく。


と、こんな感じでしょうか。
『RPG風ストーリー』と言ってもいいかもしれません。
お使いイベントをこなしながら様々な街を訪問していくうちに、次々と仲間が増え、賑やかになっていく。
新しい出会いはもちろんのこと、既存の仲間たちもそれぞれに絆が深まってゆく。
そして最終目的(ワカバの演劇)後には解散ということになります。


そんなシロハネ編に深みを与えているのが、クロハネ編で明かされる『過去の悲劇』です。
赤の国や青の国、白の国の陰謀といった要素自体は割とどうでも良くて、大国の都合に振り回される白の国の悲劇。
逆賊の名を敢えて被ることによって戦争を回避した英雄アイン、エファを最後まで守りきった忠義の人デュアといったサイドエピソードも大切ですが、まず何よりもクリスティナとエファの、悲劇の中で燃え上がる恋模様を描いた、そんな物語だったと思います。


クロハネ編で描かれた過去が悲劇であるほど、シロハネ編で描かれる幸福が浮き彫りになります。


【ストーリーについて ②誰に焦点を当てるか】

 
本作は明確な主人公というものを置かない、群像劇として描かれています。
そして、大きな物語(セロ一行の旅物語)の中に、様々なエピソードを積み重ねる形で進んでいきます。


これにより、読者が『誰』に焦点を当てるか、どのエピソードにより重点を置いて読むかで、物語の味わいそのものが変わります。
たとえばセロとワカバに焦点を当てるなら、この物語は純然たる旅物語となります。
村の幼馴染二人が、ひと夏の旅行を経てついに結ばれるというストーリーです。
また、ネット上の感想をちらほら見ますとココに焦点を当てて『ルーツ』の物語、
もしくは歴史物語と読み解いている方もいらっしゃいます。


私は、『エファ』に焦点を当てて物語を読みました。
クロハネ編で悲しい恋を経験したエファが、数百年の時を経て再び運命の人と巡り合い、恋を成就するお話。
ワカバ脚本で、自らの物語を演じるエファの気持ちを考えると、しみじみと感じ入るものがあります。
アンジェリナとベルは、この先どんな時間を過ごしていくのか。
種族の違い故、いつか『別れ』は来るのかもしれませんが、それまでの時間が幸せなものであることを願っています。


【ストーリーについて③ 秘密】

本作には、『秘密』が随所に登場します。
皆で旅を続けていくわけですが、やはり登場人物それぞれには秘密があり、
旅の仲間全員に明かすことのできないものもあります。


まずは恋愛関係の秘密。
アンジェリナとベルの秘密、セロとワカバの秘密。トニーノとシルヴィアの秘密。
あるいは、ワカバとライト、姉弟だけの秘密もあるでしょうし、
ライトの失恋はセロとアンジェリナ、三人だけの秘密です。
マスターレインやクロハネ編のデュアなど、一人だけで抱えている秘密もあります。


よくある、一人称視点でのエロゲでは、語り手(主人公)が知ることの出来る秘密しか語られることはありません。
主人公を介さない登場人物同士の関連は、主人公が同席している場でのかけあい、やりとりから類推することしかできません。
しかし、群像劇の手法を取る本作ではそうした制限がありません。


登場人物たちの多様な関係性を味わうことができるのも群像劇の良さではないでしょうか。

男主人公による単一視点の良さも十分に解っていますが、しかしそればかりではつまらないと思います。
個人的にはもっとこういう手法の作品も増えてほしいなぁと思いました。



【キャラクターについて】

「カタハネ」は読んでいて本当に気持ちの良い作品でした。

それは、ストーリーもそうですが、それ以上にキャラクターの描かれ方が素晴らしいから。
本作自体も、ストーリー主体というよりは、キャラクターの魅力を伝えるために練られ、構成された物語だと思います。


登場人物一人ひとりがバックボーンを持ち、ストーリーを持っている。
捨てキャラがおらず、脇役も含めて皆に確かなキャラクター性があり、それが存在感に繋がっている。
たとえばワカバとライトの姉弟関係とか、ニコラを中心にしたアンジェリナやトニーノとの関係、
クロハネ編ではデュアとアインの関係など、
必ずしも本筋とは言えない部分の描写も非常に丁寧に描かれています。


ワカバやココなどは描き方が悪ければ「ストレス」に感じる可能性もあるキャラクターです。
ワカバは割と強引で他人を振り回しますし、ココはお子さまで、しかも言葉があまり通じない。
他作品ですと、僕はこのタイプのキャラクターたちは好きになれないことが多いです。

しかし、本作では彼女たちに対してストレスを感じることは全くありませんでした。
それどころか、ココには本当に癒され、笑わされ、泣かされました。


本当に気持ちの良い人々が多いんですよね。
そのため、特にシロハネ編はプレイ中、全編通して心が癒されていくのを感じました。
そして、そんな幸せな空気が流れるシロハネ編にスパイスを利かせているのが、クロハネ編で語られる悲劇だと思います。


目をつぶれば、ベルとアンジェリナ、ワカバとセロ、ココ、ライト、トニーノとシルヴィアの姿が思い浮かぶようです。
楽しい作品をありがとうございました。