82点。
空とか宇宙とか、2060年とか色々出てきますが、SF作品というよりはヒューマンドラマ。
この作品は、田島ハルが夢に向かって挑み始める序章とも言うべき作品ですね。
むしろ終章から、ハルの挑戦は始まるのだと思います。
SF部分は弱く感じましたが、ドラマとしては良かったと思います。


【本作の特徴】

シナリオの感想に移る前に、まずは本作の注意事項を。
本作では、よくある一般的なエロゲとは違う部分が幾つかあります。

1、女性主人公であること

2、キャラクターの年齢層が高めであること(相手の男性の年齢は37~38。30代女性キャラ多め)

3、主人公のHシーンが全部妄想であること

4、物語は完全な一本道で、選択肢はほとんどないこと。


この4点を受け入れられない方は、この作品を手に取る必要はないでしょう。
個人的には、アリでした。
1と2は全然OK、むしろ歓迎。4もまぁアリ。
3の『妄想』に関しては、「うーん」と思わなくもなかったのですが……これはこれでいいのかなということで、少し残念だけど許容の立場です。



【本作のテーマ――大人、子供、夢――】

本作で執拗に登場する『大人』と『子供』、そして『夢』。
これが本作を読み解く上でのキーワードになりますが、*あまり『大人』や『子供』という単語を意識しすぎると、
本質を見誤るように思います。


本作で提示される『人物像』は大きく分けると2つです。


A。「周囲の状況に半ば身を任せながらも、そこで新しい幸福を見つけていく。
   自分のわがままを押し殺し、周囲のために生きる人」

例:久保亜希子、マリア、3章序盤のアリ―、8章途中までのハル、


B。「環境を切り開き、幸福を積極的に見つけていく。
時に他人を押しのけ、傷つけてでも、自分が欲しいもののために前に進み、夢を掴む人」。

例:桂桂馬、星野建夫、4章からのアリ―、8章最後のハル、
久保亜希子(ハルの気持ちを知っていながらも、桂馬を愛し続けたという意味で)


本作で主にスポットを当てられるのは、A→Bという「成長」です。
3章のアリ―は環境に流され、一時は江戸湾ズを離れかけることになります。
しかしアリー自身の強い希望、わがままが桂馬を動かし、彼女を江戸湾ズに留めることになります。


7~8章はその焼き直しですね。
ハルは環境に流され、一時は江戸湾ズを離れることになります。
桂馬という夢はとても遠く、とても敵いそうにない亜希子さんと戦わなければならない。
目の前の闘いから逃げ、建夫という妥協を選んだハルですが、
しかし自分が本当に大切なものを自覚し、再び江戸湾ズへと向かう。そんな幕切れになります。


これから先、ハルは亜希子のように、粘り強く桂馬を想いつづける事ができるでしょうか?
亜希子は、サラという婚約者がいる桂馬をずっと想いつづけ(桂馬という夢をずっと追い続け)、傍でサポートしてきました。
ハルにとって、桂馬を振り向かせることは、処女神アルテミスの支配する空を飛ぶことよりも、ひょっとすると難しい。

けれど、諦めずに挑戦した者だけが、桂馬のように、建夫のように、亜希子のように、夢を掴むことができるのです。


……ハルが桂馬を手に入れるというのは、つまるところ亜希子さんの夢が破れるということですし、個人的にはハルよりも亜希子さんの方が遥かに好きなので、あまり応援したいとは思わないのですが……それはそれとして、最終章でのハルの決断は祝福したいと思います。
亜希子さんだってハルの気持ちに気づいてはいたわけですし、恋は闘争です。
ライバルの事を考えていたら、夢を掴むことなどできないのです。


数々の犠牲を出しながら、それでも宇宙という夢を追い続け、進出していく人類と、
誰かを傷つけるとわかっていても、自分のわがまま(夢)を追い求めるハル。
作品テーマをそのまま受け止めるなら、これはハルが、亜希子に闘争を挑むまでの物語。
桂馬という夢に手が届くかどうかはともかくとして、諦めず、挑戦していく。
アルテミスブルーという作品自体が、これから始まる「ハルの、見果てぬ夢への挑戦」の序章ということになります。




* 「自力で夢をつかもうとあがくのが大人」、「与えられた環境に合わせ、夢を諦めてでも周囲に合わせるのが子ども」、本作は子供から大人への成長物語、と書けるならば楽なのですが、
それではマリアや、亜希子のように「周囲に波風を立てないよう自分を殺しつつ、それでも幸せを求めていく」という在り方まで否定する事になってしまいます。
あまり大人とか子供というふわっとした単語にこだわると、混乱しそうな感じがしました。


【気になった点】

プレイ中、辛かったのは、ハルがどうしても好きになれなかったことです。
「真面目で潔癖で、視野が狭い」という典型的な『いい子のお子さま』という印象で、僕が嫌いなタイプだったので、読んでいてストレスが溜まりました。
作品テーマを考えれば、ハルを「子供」に描く必要があるのは解るんですが、理由もハッキリしないまま単に好き嫌いだけで桂馬を罵倒するシーンなど、読んでいて本当に苛々しました。
潔癖すぎるのもどうかと思うところで、星野さんとの間にはHどころか、キス、いや、ハグすらもなかったように思います。
クリスマスに4か月ぶりに会う(←それもどうかと思う)彼氏が泊まりに来ているのに、「Hするの?」と囃したてる草間ツインズに対し「ふしだらな!」と切り捨てているあたりも、なんだかなーと思いました。
まぁ、その潔癖さも『お子ちゃま』さを強調するためのものなんだろうなとは思うんですけどね。
いやほんと、ハルにとって星野さんってなんだったんでしょうね……。俺が星野さんなら1か月で別れてますわ……。


そして、星野さんの魅力が全く伝わってこない点も、少々困惑しました。
作品を最後までプレイすると、「星野さん=かませ犬」だということがわかるので、納得はしたのですが……。
イケメンであり、エリート。いい奴。なのに、ここまで魅力を感じないキャラクターも珍しかったです。
そんな星野さんについていくというのは、完全に「妥協」ですよね……。
誰がどう見ても、ハルは桂馬に惚れてますもん。
まぁ、最後まで読めば問題なかったのですが、途中までは星野さんの魅力が全然出ないのはまずいのでは?と思っていました。
星野さんについていくというハルの選択は、星野さんの魅力に惹かれてというのではなく、桂馬からの逃げ以外の何物でもありませんでしたから。


世界観強度の弱さも気になりました。
2060年だというのに、ちっとも2060年らしくないんですもの。
ライターさんが年配の方だというのはわかるんですが、発売された2011年現在、あるいは僕がプレイしている2015年現在でも「古ッ!」と思うようなネタがえらく多くて。
ハルは映画が趣味なので、古き名画についてはツッコみません。

しかし、「フフフのフ」、「冗談はよし子さん」、「KY」、「同期の桜」、「中山律子さん」(最後だけ草間ツインズ)
この辺りはいくらなんでもまずいんじゃないでしょうか……。
名前も「○子」が多く、ハルの友人なども含めれば4人もいますが、これから先、女の子の名前で「○子」ブームは再来するんでしょうか? しないと思うなぁ。


2060年の事を予測して書く、というのはとても難しい。
敢えて挑戦し、強度の高い未来世界を描くSF作家さんもいますが、僕はそこまでは求めません。
しかし2060年を舞台にしておきながら、平成ですらない昭和の香りを出すこともないでしょう……。
2011年のハタチでさえ、「フフフのフ」や「冗談はよし子さん」なんてまず言いませんよ……(私は言うよ! という方、いましたらごめんなさい)。
まして2060年のハタチですからね。

せめて、「ハルはおばあちゃんっ子で、おばあちゃんの口癖がうつった」みたいなフォローがあり、
周囲の人間が「??え、今のなんですか?」とか「ハルちゃん古いよww」みたいな反応をしてくれれば、まだ良かったんですが……。


【総評】

読んでいて多少ストレスが溜まる部分もありましたが、物語テーマを考えれば仕方ないところだと思います。
夢を追い続けることの素晴らしさを描いた、良いゲームでした。

しっかし……37歳男の方が25歳男よりも遥かに格好いいし、33歳女の方が20歳女よりも遥かにいい女なんですよね。
やっぱ、桂馬はハルよりも亜希子さんとくっついた方がお似合いだと思うよ……。
ハルは、10年後に期待しましょう。