評価は A。
フレドリック・ブラウンといえば、僕はSFの人だと思っていて、特に彼の「天の光はすべて星」という作品が大好きだ。
ミステリも書いているということは知っていたのだけど、今まで手に取る機会はなく、さて今回手に取ったわけだが……面白いじゃん!
フレドリック・ブラウンといえば、僕はSFの人だと思っていて、特に彼の「天の光はすべて星」という作品が大好きだ。
ミステリも書いているということは知っていたのだけど、今まで手に取る機会はなく、さて今回手に取ったわけだが……面白いじゃん!
ストーリーは17時……午後5時から始まり、翌日の午前2時45分に終わる。
時間にして10時間に満たない物語だが、その中で次々と起こる事件はジェットコースターのようで、
一気に読み終えてしまった。
主人公のレイ・フレックはギャンブル狂。仕事は洋酒のセールスマンだ。
金を借りてはギャンブルに走る、どうしょうもない男である。
ある日、借金取りから電話がかかってくる。借金が500ドルになるというのだ。
主人公は大慌て。奥さんのルースの保険を解約し、借金を返そうと思うのだが、もちろんルースはそれを拒否。
ここから、レイの奮闘が始まる。
折しも今日は木曜日。賭けポーカーの大会が行われる日である。
主人公はポーカーで勝って、借金を返済しようと考える。
この時点で「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」なわけだが、財布の中身は30ドルもない。
せめて元手が50ドルはないと話にならないと考えたレイは、馴染みのバーに行って知人を探す。
少しずつお金をかき集めて、なんとかポーカー代に宛てようというのだ(どうしょうもない)。
しかし、ちっともお金は集まらないどころか、タクシー代やら飲み代でむしろマイナスになる始末。
これではいかんと手を出したのが、競馬代の預かりだ。
つまり、「数日後の競馬の代金を代わりに払っといてやる」といってお金を一旦預かり、そのお金でポーカーをしようというのだ。競馬が外れれば完全に着服できる。競馬が当たればヤバいが、後のことは後で考えよう……。
しかし、そのことが借金取りにバレてしまう。この借金取りは、賭け競馬もやっているのだ。
主人公はそのシマを荒らしたということで、借金取りの怒りを買ってしまう。まぁ当然だ。
そもそも、借金取りが賭け競馬をやっているのは、主人公は知っていたわけで、つくづくバカである。
というわけで、「長期返済計画」を提案しようとしていた借金取りだったが、「明日までに払えや!!」と態度を硬化させてしまった。
大ピンチである。
そこで主人公は愛人のドリーに泣きつこうと試みる。今まで散々貢いだんだから少しぐらい……と思って訪ねるが、
そんな甘い話はなかなかない。
ドリーはドリーで、なかなかのクズなのだがそれはおいといて、勿論断られたレイはあろうことか、
ドリーの宝石を盗んでしまう。バレる前に返しておけば問題ないさ……と思うも、宝石は安物。
しかもドリーは、本命恋人の探偵マックに相談。レイはマックに捕まり、慰謝料込みで更に1000ドルの支払いを要求される。
がめついなぁと思うものの、レイの自業自得である。
とうとうレイには後がなくなった。
そこで思いついたのが、妻の保険金だ。彼女を殺してしまえば良いのだ。
折しも、街では連続殺人事件が勃発。しかもなんと、殺人犯らしき人物をレイは知っていた。
果たして、ルースは無事なのか。レイは一体どうなってしまうのか。
……と、まぁこんな感じのストーリー。
とにかく、レイが哀れである。
どう考えても自業自得なのだが、運が悪いにも程がある。
何をしてもことごとくうまくいかず、全てが裏目に出る彼。
状況が加速度的に悪化する様を描くのに、10時間という本書の作中時間は実に効果的に機能している。
何せ、10時間前には「500ドルの借金を長期返済」すれば良かったはずなのに、
レイがもがけばもがくほど状況は悪化し、「長期返済ではなく即日払い。断れば職を失う危機」
「+1000ドルの借金。こちらももちろん即日払い」、そして遂には大それた殺人計画まで考えだしたものの、
当然うまくいくわけもなく、自らの死を迎えてしまうのだ。
こうしたレイの奮闘を、息をもつかせぬ状況の変化で全く飽きさせない。
それでいて、どうしょうもないレイという男へのヘイトを煽ることもなく
(やっている事はむちゃくちゃだし、しかも反省をまるでしない)
かと言って、彼の不幸を重苦しく感じさせることもなく。
多少心配しつつも、彼の不幸を「やっべーーーww」と笑いながら読ませるブラウンの手腕は、まさに神業といったところである。
もちろん、それは訳者である森本氏の力によるところも大きいだろう。
で、その訳なのだが一点、時代を感じさせる面白い訳がある。
それは、「強姦殺人魔」のことを「痴漢」と訳しているところだ。
原文を読んだわけではないのだが、訳者のあとがきなどからもわかるように、どうも「psycho(サイコ)」という単語を「痴漢」と訳しているのである。
現代で「痴漢」と言えば、基本女性におさわりする程度の小物である。
AVの痴漢モノでは「強姦魔」に発展することも大いにあるのだが、しかしなんぼなんでも「殺人」はしない。
しかし本作では「連続殺人鬼」を「痴漢」と訳しているのである。
彼が二度目の殺人を犯したのはちょうど二た月まえだった。
それ以来、どの新聞も彼を「痴漢」と呼んでいるし、世間でもそれが通称となってしまっている。
と、こんな具合である。
これが個人的には結構ツボだった。
まとめると、
主人公がどんどんドツボにハマっていくのを楽しむ作品というところだろうか。
めまぐるしく変わる状況に読む手が止まらず、
不幸を笑える程度にはクズだが、どこか憎めない庶民的な主人公のキャラ立ても光る。
絶妙なバランス取りは、さすがブラウンといったところだ。
時間にして10時間に満たない物語だが、その中で次々と起こる事件はジェットコースターのようで、
一気に読み終えてしまった。
主人公のレイ・フレックはギャンブル狂。仕事は洋酒のセールスマンだ。
金を借りてはギャンブルに走る、どうしょうもない男である。
ある日、借金取りから電話がかかってくる。借金が500ドルになるというのだ。
主人公は大慌て。奥さんのルースの保険を解約し、借金を返そうと思うのだが、もちろんルースはそれを拒否。
ここから、レイの奮闘が始まる。
折しも今日は木曜日。賭けポーカーの大会が行われる日である。
主人公はポーカーで勝って、借金を返済しようと考える。
この時点で「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」なわけだが、財布の中身は30ドルもない。
せめて元手が50ドルはないと話にならないと考えたレイは、馴染みのバーに行って知人を探す。
少しずつお金をかき集めて、なんとかポーカー代に宛てようというのだ(どうしょうもない)。
しかし、ちっともお金は集まらないどころか、タクシー代やら飲み代でむしろマイナスになる始末。
これではいかんと手を出したのが、競馬代の預かりだ。
つまり、「数日後の競馬の代金を代わりに払っといてやる」といってお金を一旦預かり、そのお金でポーカーをしようというのだ。競馬が外れれば完全に着服できる。競馬が当たればヤバいが、後のことは後で考えよう……。
しかし、そのことが借金取りにバレてしまう。この借金取りは、賭け競馬もやっているのだ。
主人公はそのシマを荒らしたということで、借金取りの怒りを買ってしまう。まぁ当然だ。
そもそも、借金取りが賭け競馬をやっているのは、主人公は知っていたわけで、つくづくバカである。
というわけで、「長期返済計画」を提案しようとしていた借金取りだったが、「明日までに払えや!!」と態度を硬化させてしまった。
大ピンチである。
そこで主人公は愛人のドリーに泣きつこうと試みる。今まで散々貢いだんだから少しぐらい……と思って訪ねるが、
そんな甘い話はなかなかない。
ドリーはドリーで、なかなかのクズなのだがそれはおいといて、勿論断られたレイはあろうことか、
ドリーの宝石を盗んでしまう。バレる前に返しておけば問題ないさ……と思うも、宝石は安物。
しかもドリーは、本命恋人の探偵マックに相談。レイはマックに捕まり、慰謝料込みで更に1000ドルの支払いを要求される。
がめついなぁと思うものの、レイの自業自得である。
とうとうレイには後がなくなった。
そこで思いついたのが、妻の保険金だ。彼女を殺してしまえば良いのだ。
折しも、街では連続殺人事件が勃発。しかもなんと、殺人犯らしき人物をレイは知っていた。
果たして、ルースは無事なのか。レイは一体どうなってしまうのか。
……と、まぁこんな感じのストーリー。
とにかく、レイが哀れである。
どう考えても自業自得なのだが、運が悪いにも程がある。
何をしてもことごとくうまくいかず、全てが裏目に出る彼。
状況が加速度的に悪化する様を描くのに、10時間という本書の作中時間は実に効果的に機能している。
何せ、10時間前には「500ドルの借金を長期返済」すれば良かったはずなのに、
レイがもがけばもがくほど状況は悪化し、「長期返済ではなく即日払い。断れば職を失う危機」
「+1000ドルの借金。こちらももちろん即日払い」、そして遂には大それた殺人計画まで考えだしたものの、
当然うまくいくわけもなく、自らの死を迎えてしまうのだ。
こうしたレイの奮闘を、息をもつかせぬ状況の変化で全く飽きさせない。
それでいて、どうしょうもないレイという男へのヘイトを煽ることもなく
(やっている事はむちゃくちゃだし、しかも反省をまるでしない)
かと言って、彼の不幸を重苦しく感じさせることもなく。
多少心配しつつも、彼の不幸を「やっべーーーww」と笑いながら読ませるブラウンの手腕は、まさに神業といったところである。
もちろん、それは訳者である森本氏の力によるところも大きいだろう。
で、その訳なのだが一点、時代を感じさせる面白い訳がある。
それは、「強姦殺人魔」のことを「痴漢」と訳しているところだ。
原文を読んだわけではないのだが、訳者のあとがきなどからもわかるように、どうも「psycho(サイコ)」という単語を「痴漢」と訳しているのである。
現代で「痴漢」と言えば、基本女性におさわりする程度の小物である。
AVの痴漢モノでは「強姦魔」に発展することも大いにあるのだが、しかしなんぼなんでも「殺人」はしない。
しかし本作では「連続殺人鬼」を「痴漢」と訳しているのである。
彼が二度目の殺人を犯したのはちょうど二た月まえだった。
それ以来、どの新聞も彼を「痴漢」と呼んでいるし、世間でもそれが通称となってしまっている。
と、こんな具合である。
これが個人的には結構ツボだった。
まとめると、
主人公がどんどんドツボにハマっていくのを楽しむ作品というところだろうか。
めまぐるしく変わる状況に読む手が止まらず、
不幸を笑える程度にはクズだが、どこか憎めない庶民的な主人公のキャラ立ても光る。
絶妙なバランス取りは、さすがブラウンといったところだ。