S→味わい深く、いつまでも心に残りそうな作品

キングの死/ジョン・ハート……記事あり。こちらで

チームバチスタの栄光/海棠尊……このミス大賞受賞も当然の、圧巻の構成力。パッシブ・フェイズの一巡、アクティブ・フェイズの二巡の末、トラブルが起き、事件が解決と、完璧な構成で凡そケチのつけようがない。強いて言うならば、トリックとその種明かしが少々単純であることくらいだが、重箱の隅つつきであり、些細な問題に過ぎない。

赤毛のレドメイン家/イーデン・フィルポッツ……沼沢地ダートムア、コモ湖畔などを舞台にした、雰囲気豊かな恋愛小説にして犯罪小説。薄幸の未亡人や、それを狙うチャラ男、純朴な主人公、気難しい老船長などなどキャラクター描写が優れており、ゆったりとしながらも風情を感じる古典的な文体と相まって、味わい深い作品になっている。


A→読んで良かったと思える作品

ミスティックリバー/デニス・ルへイン……重い、お話。幸福を得たショーン、ジミーと、得られなかったデイブの違いは、「車に乗る/乗らない」だったのか、それとも「大切な妻に全てを話せた/話せなかった」という違いによるものか……。しかし「少年時代を懐かしむすべての大人たちに贈る、感動のミステリ」という説明は詐欺だと思うw


少年時代/ロバート・マキャモン……世界の捉え方が、少年と大人では違う。何にでも「常識的な説明」がつけられてしまう「大人」とは違い、少年の世界は魔術に満ちている。街には幽霊が、恐竜が闊歩し、愛車の自転車には意思がある。空へと届いた野球ボール、魔女、天才、そして殺人鬼。本書は、そんな「少年時代の世界(の見え方)」を、束の間思い出させてくれる良作である。


鳴門秘帖/吉川英治……ストーリー自体は、ちょっと突っ込みどころのある、オーソドックスなTHE・時代劇。ただ、「アネゴ肌で、男にスレてるけど、実は初恋で、好きな相手にはウブで健気」なヒロイン、見返りお綱のインパクトはなかなかのもので、萌え小説として読むなら結構評価が高い。見返りお綱を筆頭に、目明し万吉などサブキャラは良い味を出している反面、主役の弦之丞やヒロインのお千絵様に魅力が乏しいのは残念。

ロストシンボル/ダン・ブラウン……Bに近いA。面白いものの、前2作(「天使と悪魔」、「ダビンチコード」)に比べるとだいぶ落ちる。「悪役が倒れた時」が面白さの頂点なのだが、その後延々と種明かしが続くのは、「動(サスペンス)」と「静(うんちく)」が絶妙にバランスをとっていた前2作と比べ、完成度が低いと思う。そうはいっても、十分面白いのだが。


影武者徳川家康/隆慶一郎……タイトルに似合わない(?)ガチな歴史小説。時代は関ケ原~大阪冬の陣まで、二郎三郎&風魔の忍びVS秀忠&柳生の暗闘が繰り広げられる15年間を描く。
二郎三郎に訪れた、老年の青春。やっと巡ってきた充実した男の一生。羨ましくも、清々しい。
唯一気になったのは、作者が登場しては、××がここで不可解な行動をとったのは『●●としか考えられない』というような自説を開陳する機会が多いのだけど、そんな強弁せずに、普通に小説として書いてくれてよかったんじゃないかな、と。そこだけ違和感があった。

国盗り物語/司馬遼太郎……前半の斎藤道山編が非常に面白い。魅力的な道山とお万阿さんの関係にしんみりとする。それに比べると後半の信長編はややパワーダウン。パワーダウンとはいえ十分面白いけど、光秀に魅力がなくて……。


警官の血/佐々木譲……代々受け継がれていく「警官」としての血。初代が無邪気なヒーローだったのに対し、二代目は暗黒面に堕ちながらももがき、三代目でとうとう吹っ切れてダースベイダーになったのは、警官としての成長とも言えるし、強靭なメンタルを手に入れるための成長ともいえるけど、
僕はやっぱり無邪気な初代が一番好きだった。「成長」なのか「立場」の変化なのか、「時代」の変化なのか……恐らく全部なのだろうけど。
あと、早瀬との対決の後に三代目が豹変する理由が全然わからなかった。そこを描くには尺が短すぎたと思う。

オレたちバブル入行組/池井戸潤……勧善懲悪モノ。日本版ディック・フランシス……という印象を受けたが、多分フランシスを先に知っていて半沢直樹を後に読んだ人ってそんなにいなさそうなので、この表現で通じるかどうか。


ブレイブ・ストーリー/宮部みゆき……途中ややダレるシーンもあったが、全体的に完成度の高いファンタジー小説だった。ワタルの決断も納得。カッちゃんや香織、ルゥ伯父さんといった現実界の登場人物から、キ・キーマやミーナ、カッツなどの幻界の登場人物まで、魅力ある人物が多く楽しかった。

マヴァール年代記/田中芳樹……中世ハンガリーをモデルにした架空戦記モノ。マヴァール王国の内乱を描いた1巻が秀逸で、諸外国が絡んでくる2巻以降はややパワーダウンしたものの、それでも読んで損のない面白さ。ヒロインのアンジェリナの魅力はなかなかのもの。ただ、主役のカルマーンはやや無能で、悪役のヴェンツェルは劣化オーベルシュタイン。勝手に期待していた皇后アデルハイドは何もできずに死亡で残念。あと、この手の『合戦小説』は地図が必須だと思う。なぜつけないんだろう。
ファンタジー小説にはたいてい地図がついてくるけど、合戦小説にも地図は必須だよ!


Yの悲劇/エラリー・クイーン……250ページあたりで、婆さんの遺書が見つかってから急激に面白くなる。それ以降は怒涛の展開で、さすがオールタイムベスト常連。いつもこうならいいんだけど……。


災厄の町/エラリー・クイーン……今まで読んだ5つのクイーン作品の中で、最も読みやすく、最も飽きずに読めた、ドラマ性に溢れた良作。ただ、謎自体はあまりにも単純で、あろうことか迷探偵feeにも真相が推理できてしまったくらいなので、『謎解き目当て』の読者には物足りないかもしれない。
物語として面白かった。

毒入りチョコレート事件/アントニー・バークリー……Bに近いA。最終のチタウィックの推理が、今までの推理5つの良いとこどりをしたグランド・ルート的になっているのが構成の妙で面白いが、そのせいでチタウィックの推理=真相、のような雰囲気になっているのが果たして良いのか悪いのか。
『名探偵の推理=唯一の解』ではないのでは?という問題提起がなされた、アンチ・ミステリ作品でありながら、『一番最もらしい推理が最後に登場』というミステリ的な王道も踏まえてしまっているので
その辺が、それこそ『ミステリとアンチ・ミステリの良いとこどり』と捉えるか『中途半端』と捉えるかは難しいところ。
奇妙な読後感が味わえてそれもまた面白い。


第二の銃声/アントニー・バークリー……記事アリ。こちらで。

B→暇つぶし以上の有益な何かを得た作品

試行錯誤/アントニー・バークリー……チャーミングなおじ様主人公、トッドハンター氏の魅力が光る、楽しいミステリ。すっかり騙された。



起業の砦/江波戸哲夫……記事アリ。こちらで。





庵堂三兄弟の聖職/真藤順丈……記事アリ。こちらで。

起業前夜/高任和夫……Aに近いB。潰れかけた扶桑証券(どう見ても山一証券)をどうにか立て直そうと、頑張る主人公の物語。信頼してくれる部下、休日を過ごすテニス友達、不倫相手などもいて、事なかれ主義の上司との論戦など、リーダビリティに溢れる作品。
ただ、基本いい奴なのに相手が嫌がっているのを知りながら煙草をスパスパ吸う主人公とか、基本いい仲間たちなのに勤め先の事で皮肉を言った結果集まりに来なくなっちゃった仲間がいるとか、そういった『不要な』エピソードが謎。まぁ聖人君子なんてなかなかいないわけだけど、不必要にイメージを悪くする必要もないのでは? まぁでも面白かったよ。


後継者/安土敏……魔が差したとしか思えないひっどい後味の最終章はD評価だが、全体的にはまずまず楽しめた。卑劣な大手デパートにハメられ、会社の危機が迫る中、ゴルフの事しか頭にない遊び人の二代目が起ちあがる。大手デパートへの復讐鬼と化したヒロイン詠美ともども、見事に勝利する主人公。
と、ここまでは爽やか企業バトル小説だったのだが、悪役を自殺させたことにより後味が最悪なものになってしまった。しかも、悪役の自殺に加担した主人公のクズ伯父はお咎めなし。
ヒロインは主人公じゃなく部下と結ばれるし、本気で意味不明な最終章でござった。そこまでは面白かったよ、うん。







ライラの冒険:琥珀の望遠鏡/フィリップ・ブルマン……Aに近いB。3巻終盤に来てようやく、「イブ=ライラ、アダム=ウィル、蛇=マローン博士」の関係性が(私に)見えてきて、「聖書パロディのファンタジー恋愛モノだったか!」と気づいた瞬間から急激に面白くなった。ダイモンは「聖霊」かな? などなど気づけば気づくほど、完成度の高い作品だ。しかし最後の200ページに至るまで気づかなかった私も悪いかもしれないが、実際のところそこまでは退屈で仕方がなかったので、高評価するのも……いや、読解力のない私が悪いのか? いずれにせよ、「子供向けのファンタジー」ではなかった。


ハリーポッターと不死鳥の騎士団/J.K.ローリング……子供たちの『夢』の学園だったホグワーツ=ハリーポッターの世界も、作を追い、ハリーが年齢を重ねるごとに試練を増し、段々と『現実』の影がちらつき始める。亡き父に対するハリーの『尊敬』が崩れた事こそ、本巻最大の見所のように思う。
少年が大人になるためには、父を超えなければならない。というのは少年主人公におけるファンタジー系成長物語の鉄則であり(注:不思議な事に、少女主人公や女性の保護者においてはこのような鉄則は見受ける事が出来ない)、名付け親(??後見人の事か?)のシリウスの死もまたそれに準ずるモノと言える。となると、次巻「謎のプリンス」では恐らくハリーの最大の庇護者であるダンブルドア、もしくはハグリッドあたりが亡くなるというのが『少年主人公のファンタジー系成長物語』の鉄則ではあるが、さて……。


ハリーポッターと謎のプリンス/J.K.ローリング……16歳になって、恋愛に青春に大忙しのホグワーツ。その裏で、恐るべきヴォルデモートとの闘いも熾烈さを増していく。そんな第6巻は、ロンの心理描写が面白い。あがり症の彼を、ハリーが必死に励ます姿がおかしい。ロンとハーマイオニーの関係性も読みどころだ。一方でシリアス面では、ダンブルドアがついに亡くなってしまう。前巻を読んだ時の予想が当たっちゃったな。ただ、この巻は良いのだけど、最終巻にあたる次巻「死の秘宝」がガチシリアスバトルばかりになりそうなのが心配。ハリーポッターシリーズは、学園生活は面白いんだけど、バトルシーンは概してあまり面白くないんで……。


デイビッド・コパフィールド/チャールズ・ディケンズ……大叔母や女中のペゴティ、ミコーバーにユライア、空気の読めない医師などなど、キャラ描写は非常に巧いがとにかく長い。


歌姫/エド・マクベイン……偽装誘拐の皮肉な結末が印象深い。

殺意の楔/エド・マクベイン……

クレアが死んでいる/エド・マクベイン

さよならダイノサウルス/ロバート・J・ソウヤー


樽/クロフツ……容疑者候補が少ないせいか、事件に身を入れて読む事ができて面白かった。かなり複雑なトリックとともに、それよりも読み進めるごとにどんどんと謎が増え、容疑者候補への心証が変わっていく、英仏海峡を行き来する樽よろしく、ダイナミックな展開が楽しい。

マイ国家/星新一(ショートショート集)


C→暇つぶし程度にはなった作品

Zの悲劇/エラリー・クイーン……語り手サム嬢のおかげか新訳のおかげか、読みやすく飽きずに読めたが、事件自体は甚だどうでも良かった。読んでもいいし読まなくてもいい作品だと思う。

10プラス1/エド・マクベイン

熱波/エド・マクベイン

ライラの冒険:神秘の短剣/フィリップ・ブルマン

三国志/吉川英治……記事あり。
こちらで。

起死回生/江上剛……銀行の汚さを全編にわたって読まされた印象。最後の50ページで好転し、ハッピーエンドに終わるため、読後感は爽やかかもしれないが、それまでが長すぎw 

トレント最後の事件/E.C.ベントリー……「ミステリに恋愛要素を入れてはいけない」というふざけた暗黙の了解を打ち破った勇気と、その功績は称えたい。作品としては悪くはないものの、面白くなるまでに時間がかかりすぎる気はする。半分を過ぎてから少し面白くなります。


ハリーポッターと死の秘宝/J.K.ローリング……シリーズ最終巻として、今まで読んできた読者が読む価値はもちろんある。スネイプ先生の想いや、ダンブルドアの正体(?)など読みどころもないわけではない。ただ、「学園生活は楽しいけど、シリアスバトルはあんまりおもしろくないなぁ」と思っていた一読者(僕です)にとっては、シリアスバトルが連続するこの最終巻は「読む前から分かっていた」とはいえ、ちょいしんどかったです。

ハリーポッターシリーズ全体の感想はこちらで記事にしています。


巨大投資銀行/黒木亮……バレあり。こちらで。

宮本武蔵/吉川英治

エジプト十字架の謎/エラリー・クイーン……Bに近いC。新訳で読んだせいか、「Xの悲劇」(旧訳で読んだ)よりも格段に読みやすかった。感動はないものの、まずまず楽しんだが、内容のせいなのか訳のせいなのか不明なので、(Xの悲劇ともども)評価しづらい……。




D→自分には合わなかった作品

Xの悲劇/エラリー・クイーン……謎解き自体は問題ない。しかし、事件の全容がわかる残り60ページを除いて、非常に退屈した。


途中の家/エラリー・クイーン……途中までは楽しく読めたが、最後の30ページは酷すぎる。
登場人物の行動が『あまりにも』作為的。犯人はもう死んでいて、周囲の人間は全員それを知っているのに、ご丁寧に敢えて犯人の名を伏せて長々と推理をし出す名探偵と、いちいち驚く周囲が謎。
いやいや、君たちはもう犯人の正体を知ってるでしょ?
 
パイプ煙草は男性しか吸わないから犯人は男性、とかいうひっどい推理。
しかもそれが推理の根幹にあるので、「パイプ煙草を吸う女性」がいたら、その時点で推理は崩壊してしまう。

「自分の名前が入ったマッチ箱を持参して、犯行現場で煙草を吸う犯人」。バカすぎて涙が出てくる。
この事件の教訓は「犯行現場では煙草は我慢しましょう」。
煙草さえ吸わなければ発覚しなかったよね。名前入りのマッチを犯行現場に持参するほどの間抜けは、
殺人なんて大それたことをするべきじゃなかったですね。


オランダ靴の謎/エラリー・クイーン……登場人物に全く魅力がないので、誰が犯人だろうがどうでもいい、ロジック一辺倒の旧きミステリ。好きな人は好きなんだろう。

ギリシア柩の謎/エラリー・クイーン……犯人は単なる小悪党だし、事件自体が面白くない。

黄色い部屋の謎/ガストン・ルル―……徹頭徹尾、面白くない。その上に、凶悪犯罪者をわざわざ探偵が逃がすという結末もイミフ。同情の余地がある犯人とかならまだしも、こんな野郎を野放しにするとかあり得ないでしょ……