評価は A+

「川は静かに流れ」、「ラストチャイルド」と、家庭の悲劇を描くジョン・ハートの、これがデビュー作。
やはりと言おうか、この作品も家庭の悲劇を扱った作品だ。


「キング」とは、主人公ワークの父親である。
裸一貫で成り上がった実力者であり、権力欲・支配欲・金銭欲にとりつかれた人物だ。 
その彼が、死んだ。

ワークにはジーンという妹がいる。
ジーンは夫を亡くした後、自殺未遂を繰り返し、精神病院へと入ってしまった。
そこで知り合った謎の女アレックスと、レズビアンの関係を結ぶ。
その女、アレックスは、かつて実の父親にレイプされていた。そしてその父親を彼女は殺害した過去を持つ。
「キング」は当然、ジーンとアレックスの交際には強く反対していた。

ワークは、売れない弁護士である。
あまりにやる気がないが、父親に誘導されるままにこの職を選んでしまった。
ワークにはバーバラという妻がいる。正直全然タイプではないのだが、父親に誘導されるままにこの妻を選んでしまった。
そして、ワークには幼馴染の恋人ヴァネッサがおり、バーバラには隠れて不倫をしている。
ワークの人生は、「キング」の言うなりだった。


「キング」が妻を……ワークとジーンの母を殺した日、ワークは見て見ぬふりを選んだ。
そしてワークとジーンの関係は壊れた。


そんな、ワークの人生を支配していた「キング」が死んだ。
犯人は誰なのか。
そういった、ミステリとしての魅力もさることながら、やはり最大の読みどころはワークの成長だろう。

ヴァネッサとの関係、ジーンとの関係、バーバラとの関係。
そして亡き父との関係を見つめなおし、ワークは新たな人生を歩み始める。
ワークが歩んできた人生は、お世辞にも、立派な人生ではなかった。
それでも、傷を抱えながらも人は生きていく。


「キングの死」はジョン・ハートらしい、家庭の悲劇を描いた傑作ミステリである。
「ラストチャイルド」こそが彼の現時点での最高傑作だと思っているが、本作もそれに勝るとも劣らない、素晴らしい作品だった。