作者は鮎川哲也。評価は B+。

リア充、非リア充、入り乱れての7人の男女の恋模様。夏合宿連続殺人事件!

殺人事件は真っ平だけど、年頃の男女が集まっての合宿は羨ましい。
ゼミ合宿、サークル合宿。楽しかった。そんな事を思い出す。
社会人になっても、こんなふうに青春を謳歌したいなぁと、羨ましくなってしまいました。

途中までネタバレなしで、途中からネタバレ有です。
ネタバレ有部分に移行する際には、見出しで告知します!

ストーリーの概要(バレなし)

りら荘という山荘に集まった、仲良し男女7人組(男4、女3)。
実は全然仲良しじゃない気もするのだが、まぁとにかく、そこで連続殺人事件が巻き起こる。
三角関係、片思い、リア充と非リア充。
そんな甘酸っぱくも眩しい青春模様は実に好みであり、
まさかこの作品でそのような気持ちが味わえるとは夢にも思っていなかったので、嬉しい驚きであった。
反面、そんな青春模様をもっとじっくり書いてほしかった。すぐに殺人事件が始まってしまうし、殺人事件が始まった後は、それほど大した青春模様もなく、犯人当てミステリに移行してしまうのが、個人的にはかなり残念。

いや、まぁ鮎川哲也作品は『犯人当てミステリ』こそが本体なのだろうから、『もっと青春書いてくれ!』と文句を言うのも的外れな気もするのだが、
折角良い感じのキャラクターが揃っているのに、そのキャラクターのポテンシャルを活かしきれたとは言い難い。
特に女性陣は粒が揃っている。

キャラクターの紹介(バレなし)

まず、トップバッターは尼リリス嬢。尼リリス(アマリリス)である。ひどい名前だwwww
もうこの人が出てきた瞬間に、「この本、面白そう!」って思った。ちなみに本名は南カメというそうだが、
それでは格好悪いので尼リリスと名乗っているらしい。南カメも酷いが、尼リリスも酷いww このセンス、好き。

尼リリス嬢は、こんな名前だが肥っている。
168cmで65kg。
BMIは23(ベスト体重より+2・9kg太っている)なので、全然肥満じゃないのに、鮎川さんの筆では殊更太っていることが強調されている。酷い! 標準体重内ですぞ!!

関係ないけど、現在の僕のBMIも23である。ふ、太ってないやい! 標準体重ですから!!
(本音を言うと、5kgくらい痩せたいけど、肥満ではないはずだよ。少しだけお腹に肉ついてるけど!)
ちなみに軽度肥満はBMI25以上である。セーフ! ギリ、セーフ!! 

セーフなんだけど、鮎川先生的にはアウトなのか、とにかくデブキャラという事が強調されている。
さて、そんなデブキャラである尼リリス嬢だけど、なんとイケメンの婚約者がいるのである。
そして、普段はワガママ・タカビー・おデブなリリス嬢だけど、恋人に対しては本当に泣きたくなるほど健気なリリス嬢なのであった。

2番! 『ルックスは普通』なのに、ブサが揃うこのグループではチヤホヤされる、まさに『オタサーの姫』!
その名も松平紗絽女嬢である! サロメてww 
この女、とにかく性格が悪そうな上、お高く止まっているのだが、尼リリス嬢の存在感が強いせいもあって、
ポテンシャルを存分に発揮しきれていないのが残念である。

当たり前の話だが、『その人自体は普通』でも、周囲がもっと酷ければ相対的にモテるものである。
ひょっとして、人生におけるモテ期というのは、
たまたま「周囲の人に比べれば、自分がマシに見える集団」に所属している時期のことなのではないか? と思ってしまったのだが、これは作品本編とは関係がない。

3番! 不細工に生まれたのが運の尽き! 「れ、恋愛なんてバカのすることよ! 私は興味ないんだからねっ!」と心の中で思いながら、すぐいろんな人に片思いしてしまう、日高鉄子ちゃん! 
鉄子って、鉄道オタクの女子みたいやな……
健気だけど、ブスなんですね……。

そんな個性あふれる女性陣なのだが、一方男性陣は正直に言って、魅力に乏しいと感じてしまったのは、
僕が男性読者だからだろうか。
『しょうもない』女性陣には魅力を感じるのに、『同じくらいしょうもない』男性陣には、あまり魅力を感じられないのであった。
その中で行武栄一君はいい味を出していたので、もっと活躍してほしかった……。

ここからネタバレ(なのに、どうでもいい自分語り)

1957年の作品だ、という事もあるのだけど、
これって全部、橘秋夫とかいう『お節介野郎』が悪いと思うんですけど……。

僕はどうも、世間の皆様とズレているせいか、
『他人の不倫』やら『浮気』でよくあれだけ騒げるなぁ、と冷めた目で見てしまう事が非常に多い。
一応それなりの年月生きてきて、パートナーに浮気をされた経験もあるし、三角関係の当事者だった(二股かけられてた)事もあるけれど。
「ふとした出来心で、一夜イケメンと寝てしまった!」系の不倫については、
個人的には(妊娠したり、性病を移されたりしなければ)騒ぐだけバカバカしいと思っている。
一方で、(人間なので、好きでもない相手と付き合う必要は全くないのだが)、
二股とか関係なしに「突然別れを切り出された」後遺症で人間不信になった事もある。

一番大好きなのが醤油ラーメン(恋人)だとしても、たまには塩ラーメン(浮気相手?)を食べたくなる事もあるだろう。ちゃんと醤油ラーメンを食べに戻ってきてくれるなら、たまに塩ラーメンを食べたくなるのは人情ですらある、と僕なんかは思ってしまうわけで。
逆に言えば、醤油ラーメン(恋人)を食べてくれなくなったら、僕としてはとても困るわけである。
その理由が塩ラーメン(浮気相手)にあろうが、全く関係ない事情だろうが、来てくれないなら同じなのだ。
そういうズレた人間なので、世間の皆様とはどうも噛み合わないわけなのだが……。

という長い前置きを置いたのは、今回の「りら荘殺人事件」の理由も、この手の話が動機になっているからである。
尼リリス嬢は、婚約者の牧数人と付き合う『前に』違う男と付き合っていたらしい。
ぶっちゃけて言えば処女ではなかったということだ。

それの何がいけないのか、僕にはサッパリわからないのだが、とにかくいけなかったらしい。
二股をかけていたのか、牧数人と付き合う前に初体験を済ませちゃったのかはイマイチわからないのだが、
どちらにしたって大して問題じゃないと僕などは思う。
まぁ前者に関しては目くじらを立てる方もいるとは思うが、後者なら本当に何の問題もないだろう。

それを、橘秋夫とかいう輩が、牧数人に『尼リリスはヤリマンでっせ!』みたいな事をご注進に及びかけたため、
尼リリスは秋夫を殺してしまったのである。
そしてそのまま、犯行の発覚を恐れて6人ぐらい(!?)殺してしまったのだった!

いくらなんでも殺しすぎなわけだが、それにしたって全部、秋夫が悪い。と思った。

「りら荘事件」とは何の関係もないのだが、僕は美少女ゲーム・美少女アニメオタクでもありまして。
一部のオタクが『処女』に気持ちが悪いぐらい執着するため、この手の作品から非処女キャラがほぼ撲滅され、
結果「過去に男に騙されて酷い目にあったけど、健気に頑張っているお姉さんとの恋愛物語」などなどといった、
「非処女」が出てきそうなドラマが軒並み作られなくなっている昨今、こちらでも非常に不快な気持ちを抱いているのでここで発散してしまいました!

かわいいキャラクター、魅力的なキャラクターが見たいし、胸を打つ感動的なストーリーが読みたいんだよ!
処女とか非処女とか、そんなもので人間(キャラクター)を図るんじゃねぇよ! と言いたかった! 
もちろん、一途でピュアな恋心に心を動かされることはあるし、そういうものの良さは解っています。
子供のころからずっと大好きだった、初恋の人と結ばれる幼馴染恋愛話とかも大好きだし。
でも、「それしか認めない」、「それ以外の女キャラは全員クズ」みたいな事を言う人たちは、『違うよね』って思う。

しょうもない男性陣

橘秋夫は僕的には論外なのだが、尼リリスの恋人である牧数人も本当にどうしょうもない男に感じる。
特に『色の黒い女は嫌い』発言はビビった。
その発言を真に受けた、尼リリス嬢は『美白サロンに通う』どころか、『砒素』を飲んで美白効果を得ているのである!
好きな男に好かれるために、そこまでするリリス嬢の一途さ、健気さは凄いが、
『今まで肌が黒かった女』が自分の為に砒素を飲んで美白になった事に対し、思う事はないのだろうか!?
お前がそんなだから、『処女じゃない』というだけでリリス嬢をあそこまで追い詰めてしまったんちゃうんかと!

安孫子宏君は、解りやすい意味でしょうもない男性キャラである。
何をやっても冴えなそうな男性で、身につまされるところもある。にしたって、ショボい。
ただ、事件に関しては全く無関係の人物なので、彼の受けた災難に関しては同情してしまう。

そんな男性陣の中で、行武栄一君はなかなか魅力的な男性キャラだ。
色盲というハンディを抱え、それを押し隠し、傷ついた心をプライドで覆い隠し、
口の悪いひねくれ者ながら、決してそれだけではない何かを感じさせる。
この行武君のエピソードはもっともっと読んでみたかったのだが、残念なことにあっけなく殺されてしまうのであった……。

総評

本編は、作者鮎川氏の、『焦らし』プレイの技巧なども実にうまく、質の高いミステリとしてお薦めの作品であります。
しかしそれ以上に、「サークル夏合宿青春モノ」として面白そうにも関わらず、そのポテンシャルを最大限に活かせていない点は残念に感じてしまいました。

また、そういった『りら荘事件』の感想として相応しいとはあまり言えない、『青年の主張』的な意味不明の自分語りばかりが思い浮かんでしまったため、記事にして良いものやら大変悩みました。

(別に、僕が不倫についてどう思っているとか、どうでも良すぎるよね)。
(しかし一方で、直前に読んだ泡坂妻夫「乱れからくり」も寝取り寝取られヤリヤラレの話だったし、こういう話、結構よく出てくるw)

僕自身がズレている人間な上、それを承知で暴論・乱文の限りを尽くした感想のため、不愉快になった方がいたら
申し訳ありません。