S→味わい深く、いつまでも心に残りそうな作品

山猫の夏/船戸与一……何十年間も殺し合っていた二つの家が、ついに住民を巻き込んで全面抗争。
マッチョな作風なのに随所に挟まれる歴史トリビア含め、英雄的な『山猫』とそれを間近で見守る『おれ』、バンビーナやチラテンデスといった、ある意味原始的な(野蛮なと言ってもいい)が力強く暴力と金に活き活きと生きる人々の、ある種強烈なエネルギー。そして、胸を吹き抜ける爽やかさと寂寥感。
ブラジルを舞台に作者の描いた『白昼夢』に魅せられた。

酔いどれの誇り/ジェイムズ・クラムリー……薄汚れた町に舞い降りた、天使のツラしたメンヘラビッチ、ヘレン。飲みほした酒と共に、彼女を赦す、どうしょうもなくダメでどうしょうもなく優しい男、ミロ君。叙情的ハードボイルドの名作。
どうしょうもない人生に疲れ、孤独に苛まれ、酒に溺れ、それでも人を求める主人公の描写が胸を打つ。

黄土の奔流/生島治郎……詳細感想はこちら

1920年代の中国、揚子江。
一攫千金を夢見て、豚の毛を買いに上海から重慶に向かう旅。
土匪(賊みたいなもんか)、軍閥らの無法地帯と化した内陸中国を舞台に繰り広げられる冒険劇。

曰くありげな悪友、葉村(「宝島」のシルバー船長的な曲者)や美人女匪賊、
バリバリのネトウヨ(ネットではないが)九州男児や、レモン大好きな純真少年、
ラスボス格の老豚など、とにかくキャラクターが活き活きとしている。
殺伐とした空気の中で、一人マスコットとして和ませてくれるウェイドン(まさかの嫁さんゲットw)など、本を閉じた後でも彼らの冒険が胸に息づく、優れたエンターテイメント小説。

めざせダウニング街10番地/ジェフリー・アーチャー……感想はこちら(バレあり)で。

A→読んで良かったと思える作品

毒薬の小瓶/シャーロット・アームストロング……感想はこちら(バレあり)で。

アイガーサンクション/トレヴェニアン……『情』を知らない殺し屋が、『情』を知って人を殺せなくなる話。これは人間としては『成長』と言えるが、『殺し屋』としては『廃業』レベルの後退ぶりで、なかなか面白い。
主人公の特異な設定、ケイビングへのこだわり(設定だけを見れば、敵を倒す話のようだけど、実際のところ、そういう話では全くないのが良い)など、さすがトレヴェニアンと思わせる。
作家の中では、人殺しの技術なんかよりも、人を赦す事ができるようになる事の方が、より重要という事なんだろう。
(逆パターンの作品はたくさんありますよね。躊躇なく相手を殺せるように訓練をして、それを『成長』と呼ぶような話)
しかし、続編の「ルー・サンクション」ではまた山に登るらしいけれど、
それじゃ、今作での「成長」はなんだったんだ!?と思わなくもない。

悪魔の手毬唄/横溝正史……因習残る山奥の村、手毬唄に見立てて殺される美女たち、といった横溝ワールドが存分に楽しめる良作。因果が色濃く巡っており、ある意味好きになれるキャラが(特に中年以降の世代のキャラには)一人もいないが(苦笑)。気持ちは多少はわかるが、犯人はキチガイやな(最初の殺人はいいとして、2つ目からの殺人は同情できない)……。
お節介爺さんは殺されても仕方ないお節介ぶりだけど、(爺さんを恨みたくなる人間は他にいるにせよ)一番親切を受けた犯人が爺さんを殺すのはどうかと。
娘たちの殺人は、犯人は人であることをやめて、殺人鬼と化してしまったんやな。
因業渦巻く村社会が悪しき昭和の象徴なら、娘たちの可憐さは旧き良き昭和の象徴……なんて書くとマズいかな。

暗い落日/結城昌治
……これはロス・マクドナルドの翻案小説ではないか?と思ってしまうほど、ロスマク作品にそっくりで、ロスマクとの類似点よりも、相違点の方が遥かに少ない。
作者自身ロスマクの「ウィチャリー家の女」を意識して書いたと明言しているので、盗作云々という話はしないが、これはもうオマージュというレベルを通り越して二次創作に近い。
相違点は主に2点。1点は暴君めいた男と虐げられる女性像という構図はロスマクにはあまり感じられない(海外ミステリではあまり観られない)点で、いかにも『日本風(昭和の女ふう)』である。

もう1点は、主人公の探偵が悪を断罪する傾向が強い点で、特に最終章に諸悪の根源であるクソジジイを主人公が断罪するシーンでは
「リュー・アーチャー(ロスマク小説の主人公)はこんな事言わねぇから!!」とツッコミを入れたくなってしまった。ここだけ出来の悪い二次創作みたいな感じを受けた。悪を少しでも罰する事で溜飲を少しだけ下げる効果はあったと思うけど、
個人的には最終章は要らず、「……悲しいなぁ……」と、とぼとぼと背中を落として家を後にするリュー・アーチャーでいてほしかったw(だから主人公はアーチャーじゃなくて真木探偵だって!)

オマージュというのは、あくまで『(主に展開などを、部分的に)似せて』作るものだと思うが、
ロスマク作品の持つ味わいまでを模倣出来てしまったのは、良かったのか悪かったのか。
これはもう、結城昌治の真木探偵シリーズというよりも、ロス・マクドナルドのリュー・アーチャーシリーズの一作に加えてしまった方が良いのではないか、と思った。

肝心の作品評価について言えば、ロス・マクの中に入れても上位に入る面白さはありました。
しかし、主人公探偵が盛んに怒っている2人の諸悪の根源、英作と啓一だけど、
英作はクズだけど啓一よりも信久やミサ子の方がクズだと思ったので、
探偵の断罪にイマイチ同調できない部分はありました(啓一が悪くないとは言いませんが)。


大統領に知らせますか?/ジェフリー・アーチャー
……大統領が暗殺される、という陰謀をキャッチしたFBIの主人公は、陰謀者たちに命を狙われる(序盤)
しかしそこは華麗に回避。命の危機は去った。恋愛しながら謎を調査(中だるみ)。
恋愛相手が、犯人グループの一員かも!? さぁどうなるのか!(後半)
という感じで、『王道』ではあるけど巧い。
『大統領が暗殺されるのを阻止しなきゃ』だけだと、僕的には全然盛り上がれなくて、『主人公の命が危ない!』とか『主人公の恋人が暗殺犯?』みたいな、『主人公が直面する、私的な理由』があって初めて、『事件の顛末』に惹き込まれるんだなぁと改めて思った。

夜の熱気の中で/ジョン・ボール……黒人差別が蔓延る南部で、黒人探偵が活躍する。初めは彼を蔑んでいた警部や巡査も、いつしか彼に敬意を表するようになる。
ラスト「白人専用」の席で一緒に星を見上げる、白人警部と黒人探偵のショットも美しい。良作。

クロイドン発12時30分/クロフツ……非常に丁寧で趣深い倒叙小説&法廷小説の名作。欠点があるとすれば、あまりに丁寧すぎる&遊び(余分な部分)がなさすぎる点だろうか。ずっと読んでいると、疲れてしまうw しかし名作。

男の首/ジョルジュ・シムノン……なるほど、これがメグレ警部シリーズか。
古いながらも、犯人の心理に寄りそう作品で、なかなか読ませる。これがラディカルに進化すると、異常心理小説、あるいは社会派小説になるのかな。コンパクトで読みやすく、中身も詰まった作品。

さらば甘き口づけ/ジェイムズ・クラムリー……失踪人探し、家庭の悲劇、隠された狂気といった、いわゆるロス・マクドナルドが書きそうな正統派ハードボイルド。
面白かったけど、直前に読んだ著者の別作品「酔いどれの誇り」が最高すぎたので、比べると落ちる。

狙った獣/マーガレット・ミラー……統合失調症の主人公(?)を迫真の筆致で描いた良作。最終盤がちょっともたついた感があったけど、とにかく怖く、ぞっとする作品。まぁ、好みとは言いかねるけど、凄い事は確か。

闇に踊れ/スタンリー・エリン……偏執的な黒人差別の老人、差別され続け黒人以外には当たりのキツい黒人女性(これも、差別だと思う)、黒人女性の美貌にへーこら従うしょっぼいイタリア人男性(一番嫌いだったw)と、マジでロクな奴がいないのはアレだけども。
黒人差別を主軸に、黒人側からの白人への差別や、その他モロモロを扱った骨太作品で面白かった。
差別は良くない。
というのは当然そう思うけれど、自宅周辺がある日突然黒人しか住まないようになって、(日本文化ではなく)黒人文化全盛のような雰囲気になったらやっぱり居心地の悪さは感じちゃうかもしれない。
あるいは、ある特定の層(白人黒人でもいいし、年齢層、世代でもいいし、職業でも性別でもなんでもいいけど)に自分の事を散々悪く言われたら、やはり前もって身構えてしまうかもしれない。
差別意識というものについて考えさせられる。
同じ人種差別を扱った作品では、娯楽としては『夜の熱気の中で』の方が好きだけど、『闇に踊れ』の方がエグくて、ある意味リアルかもしれない。



B→暇つぶし以上の有益な何かを得た作品

リトルドラマーガール/ジョン・ル・カレ……愛する男に操られ、中東問題の渦中に投げ込まれた女性主人公。ラスト数十ページ、段々に壊れていく彼女の姿が印象深い。しかし、ル・カレは読みづらいな……。もう少し読みやすく書いてほしいw

マダム・タッソーがお待ちかね/ピーター・ラヴゼイ……ヴィクトリア朝イギリスの風俗情緒を伝えるラヴゼイ節は健在で、彼の作風が好きな方なら少なくとも大はずれする事はなさそう。
ただ、『悪女』のスケール感が小さく、『並の悪女』だったのは残念。犯人の自滅の印象が強い。
個人的には以前読んだ2作(『偽のデュー警部』は別格として、『苦い林檎酒』)よりも評価は低い。

しかし作者は、年上のヘタレ男が一回り年の離れた女の子に手玉に取られてあたふたするのを描くのが本当に好きですね。

枯草の根/陳舜臣……渋い話だったな~~。地味ながら読ませる。

ロシア皇帝の密約/ジェフリー・アーチャー……相変わらず読ませるアーチャーだが、読むたびに(「ケインとアベル」→「百万ドルを取り戻せ」→「大統領に知らせますか?」→「ロシア皇帝の密約」)少しずつ作品評価が下がっていくのはどうしたものか。最初に読んだ2つが素晴らしすぎてなぁ。

伯林1888/海渡英祐……
ドイツ留学時代の森鴎外を主人公に、「舞姫」でおなじみのエリスや、新しい浮気候補クララなどが登場。19世紀、激動の時代を迎えるドイツを舞台に、森鴎外のキングオブヘタレっぷりを楽しめる佳作。



キドリントンから消えた娘/コリン・デクスター……迷推理・珍推理を組み立てては外すモース警部のめくるめく妄想は、前作「ウッドストック行最終バス」から更に磨きがかかった。
ヒラリー・ウォー「失踪当時の服装は」に捧げる、素晴らしきオマージュ。

悪魔の選択/フレデリック・フォーサイス……ソ連・ウクライナ(のテロ組織)・イギリス・アメリカ・西ドイツ・オランダなどの思惑が錯綜し、第三次世界大戦or大規模重油汚染の二択を迫られる西側諸国。非常にリアリティがあり、よくできた作品。
ただ、下巻に入ったあたりから、第三次世界大戦の芽はほぼなくなり(そもそも残りページ数で解る)、ウクライナのテロリストをどう巧く処理するかという話になってしまうので、失速感も大きかった。

まるで天使のような/マーガレット・ミラー……夫ロス・マクドナルドの作風にあまりにも似ていて驚いた、ロスマクの妻、マーガレットの作品。
マーガレット自身も著名な作家なのでこういうのもおかしいが、よく描けている。怪しい宗教団体が魅力的だったので、できればそっちを濃密に描いてほしかったところはあるけど。


別れを告げに来た男/フリーマントル……『無能な上司とその取り巻き、無能な同僚に囲まれて、正しい事をしている有能な主人公が冷遇される(けど、最後少しだけ認められる)』話。
有能だけど不器用で、組織の中でいつも冷遇されているけど、正しいのは主人公なのだ……みたいな。
実力もあって優しいのに、気弱でルックスも悪い(若ハゲ)ため、ほとんどの人から相手にされない
悲しい主人公……。
最後に一発、上司にガツンと噛ます「消されかけた男」よりこちらの方が好きだけど、それにしたって哀愁漂いすぎ……。


高層の死角/森村誠一……ストーカーと大差ないような執念のアリバイ崩しが印象深い。しかし、冤罪だったらどうする気だったんだろう。
犯人の動機が意味不明すぎてどうにもノレなかった。普通こんな理由で人を殺すか? 『太陽が眩しかったから』の方が遥かに説得力を感じるぞ。
トリックもとても複雑だが、『ホテルのシステムを使って、やろうと思えばできたんだろうな』とは思った。

死神の精度/伊坂幸太郎……仔月さんという方と、対談を行ないました。よろしければ、対談記事をお読みください!

影の告発/土屋隆夫……アリバイ崩し系ミステリ。犯人のアリバイを執念の捜査で崩していくのだが、
被害者があまりにクズすぎて、「もうほっといてやれよ」と思ってしまった。追いつめられた犯人が2人目の殺人を犯してしまうのだが、警察が放っておいてあげれば2人目は死なずに済んだし、犯人も捕まらずに済んだんじゃない? 
そりゃ殺人者を捜査して逮捕するのは当たり前だけど、最初に殺された奴があまりにも酷すぎるので、むしろ殺した犯人に賞状でもあげたい気分だし、犯人を捕まえても誰も幸せにならない胸糞悪い話だった。

極大射程/スティーブン・ハンター

猿丸幻視行/井沢元彦……トンデモ系歴史小説としてはなかなか楽しめたし、普通小説(あるいはミステリ小説)として考えるとちょっと厳しい出来。また、そのトンデモ部も大部分、海原猛さんの説におぶさっているらしく(海原さんの本を読んでないので断定はできないが)、そうだとするなら、海原さんの著書への手引きにしかならない気もする。
僕は海原説(柿本人麻呂=柿本猿=猿丸太夫)を知らなかったし、この小説がなければ恐らく知らなかっただろうから、そういう意味では楽しめた。



C→暇つぶし程度にはなった作品

消されかけた男/フリーマントル……肩の力を抜いて読める、良い娯楽小説。しきりに「サラリーマン小説」っぽいと解説で述べられていたが、確かにそう言われればそうだなぁと思った。

料理人/ハリー・クレッシング……悪魔のような暴君シェフが大暴れする話。特に退屈せずに読めたが、「……で!?」っていう。偉い人とお近づきになりたいとか、大豪邸でパーティーを開いて評判になりたいとか、そういった虚栄心を悪魔が巧みに突いてくる感じだけど、この手の欲がほぼ全くない僕には、なんでそんな面倒な事をしたがるのかサッパリわからないのだった。

匣の中の失楽/竹本健治……やりたいことはわからないでもないけど、合わない。
仲間内での殺人が起こっても、ゲーム感覚で処理する『ファミリー』たちの軽さが最後まで馴染めなかった。
『匣(作中作)』の中の匣の中の匣の中の匣の中の匣の話なので、
この本自体が一つの匣ではあるし、それを読む私(このブログを書いている私)も、更に外側から見ればこれもまた一つの匣ではありますよね。
というだけの話に思えた。


スクールボーイ閣下/ジョン・ル・カレ……前作「ティンカー、テイラー~」に比べればまだ解りやすい。

スマイリーと仲間たち/ジョン・ル・カレ……
3部作の中では一番読みやすく、面白い。しかし、2000ページ読んだ感想が、「戦いは汚く、虚しいねぇ……」程度なので、読む必要はなかったよね。
僕には難しすぎたのかな。宿命の対決モノならジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」が好きです。

戦争の犬たち/フレデリック・フォーサイス……

お楽しみの埋葬/エドマンド・クリスピン……

なめくじに聞いてみろ/都築道夫……奇想天外ハチャメチャ不条理アクションギャグ小説。和製007。都築道夫は数作読んだけど、今のところこれが一番良いかな。ただ、それにしても僕向きの作家ではないな、とは思う。


猫の舌に釘を打て/都築道夫

黒蜥蜴/江戸川乱歩……
「明智小五郎」シリーズの長編作品は、モーリス・ルブランの「ルパン」シリーズにかなり似ている気がする。
変装名人が山ほどいて、怪盗VS探偵の虚々実々のやり合いが楽しい作品だと思う。
個人的には「なんでもアリ」でどんでん返しに次ぐどんでん返し! でしかないので、正直付き合い切れない部分はある。
むしろ、物語としては枝葉末節に当たる、黒蜥蜴の『人間動物園』『人間水族館』の描写が光る。乱歩先生はこういうのが巧い。
黒蜥蜴が萌えキャラなぶん、昨日読んだ「吸血鬼」よりは良いか。


吸血鬼/江戸川乱歩……行き当たりばったりとしか思えないようなエピソード集で、幾つかの短編を無理やり長編につなぎ合わせたような唐突さ、ぎこちなさを感じる作品

D→自分には合わなかった作品

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ/ジョン・ル・カレ……そもそも何が起きているんだかすら分からないw こいつら(英国情報部)は何と戦っているんだ? 普段の業務ってなんなんだ?
ソ連情報部に壊滅させられるわけだけど、そもそも英国情報部って普段何やってたの? 何やってたからソ連情報部と対決する事になったの? てかソ連情報部も普段何やってんの?
という基礎的な事すらよく解らない。
もちろん、『国防上の何か大事な事をやっているので、無いと困るんだろう』という推測はできるけど、実際何やってんだか分からないし、何やってんだか分からない組織同士が暗闘してても『ナンダコイツラ』ってなってしまった。
スパイ小説でこんな感想になったのは初めてかもしれない。

影の護衛/ギャビン・ライアル


X→以前読んだのに、何故か読書メモから漏れていた作品。頭文字はランク。備忘録用。

A レイチェル・ウォレスを探せ/ロバート・B・パーカー
B マンハッタン特急を探せ/クライブ・カッスラー……