S→味わい深く、いつまでも心に残りそうな作品

山猫の夏/船戸与一……何十年間も殺し合っていた二つの家が、ついに住民を巻き込んで全面抗争。
マッチョな作風なのに随所に挟まれる歴史トリビア含め、英雄的な『山猫』とそれを間近で見守る『おれ』、バンビーナやチラテンデスといった、ある意味原始的な(野蛮なと言ってもいい)が力強く暴力と金に活き活きと生きる人々の、ある種強烈なエネルギー。そして、胸を吹き抜ける爽やかさと寂寥感。
ブラジルを舞台に作者の描いた『白昼夢』に魅せられた。

酔いどれの誇り/ジェイムズ・クラムリー……薄汚れた町に舞い降りた、天使のツラしたメンヘラビッチ、ヘレン。飲みほした酒と共に、彼女を赦す、どうしょうもなくダメでどうしょうもなく優しい男、ミロ君。叙情的ハードボイルドの名作。
どうしょうもない人生に疲れ、孤独に苛まれ、酒に溺れ、それでも人を求める主人公の描写が胸を打つ。

黄土の奔流/生島治郎……詳細感想はこちら

1920年代の中国、揚子江。
一攫千金を夢見て、豚の毛を買いに上海から重慶に向かう旅。
土匪(賊みたいなもんか)、軍閥らの無法地帯と化した内陸中国を舞台に繰り広げられる冒険劇。

曰くありげな悪友、葉村(「宝島」のシルバー船長的な曲者)や美人女匪賊、
バリバリのネトウヨ(ネットではないが)九州男児や、レモン大好きな純真少年、
ラスボス格の老豚など、とにかくキャラクターが活き活きとしている。
殺伐とした空気の中で、一人マスコットとして和ませてくれるウェイドン(まさかの嫁さんゲットw)など、本を閉じた後でも彼らの冒険が胸に息づく、優れたエンターテイメント小説。

めざせダウニング街10番地/ジェフリー・アーチャー……感想はこちら(バレあり)で。

らせん/鈴木光司……「リング」に比べれば若干劣るため、Aに近いS。
細かい事を言えば、恐怖の対象が天然痘ウイルス(貞子ウイルス)なのか、山村貞子本人なのかがはっきりせず次第に天然痘がフェードアウトしたり、風呂敷を広げすぎていくらホラーにしても『ホラ話(ホラーだけに)すぎるだろ!』と思う部分もあった。
しかし、誰もいないはずの部屋に漂う密度の濃い恐怖の匂い(P117~128の、舞の部屋に向かうシーンは圧巻)と、それとは別の『悪魔の子を産む』という、「ローズマリーの赤ちゃん」的な、女性をターゲットにした二種の恐怖の使い分け。
意外な山村貞子萌えも含め、質の高い作品。


山椒魚戦争/カレル・チャペック……黒人問題から、ナチス・ドイツ、社会主義国の均一性への恐怖。
1935年に書かれたとはとても思えないディストピアSF。

とはいえ、人間族の滅亡、山椒魚族の繁栄がそこまで『暗い』かと聞かれると、
まぁ人間なんて滅びてもいいんじゃね?と思ってしまうところもあり、
そういう意味で鬱な話ではなかった、かな。



A→読んで良かったと思える作品

ループ/鈴木光司
「リング→らせん→ループ」という3部作の完結編としてみるならA+ぐらい。
純正ホラーだった「リング」から、ホラーSFの「らせん」を経て、純正SFに展開するのかよ!
という驚き。鈴木さん、肝据わってるなぁ~。
風呂敷を広げまくっているけど、なんとかぎりぎり畳めた感じ。
ただそれは、3部作をちゃんと順番に読むことが大前提。
単体で考えるなら「リング」→「らせん」→「ループ」の中で、「ループ」は面白さが落ちると思います。
めちゃくちゃ紛らわしいけど、「らせん」の最終章と「ループ」の最終章はほぼ同じシチュエーションが出てきますが、これは別の平行宇宙ですね。
「らせん」の最終章の次(の次の次かもしれないが)の平行宇宙だと思います。
「ループ」は山村貞子タンが出てこなくて寂しいです。全然怖くないし(怖さを求めて読む話ではない)

アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎……これを言っちゃうとネタバレなのだが、トリックが見事で、すっかり騙されました。トリックで+5点ぐらい加点してます。
それ以外で言えば、明言はされていないけれど、それっぽい恋愛直線が複数出ていたのも面白かったです。麗子さんも河崎が好きだし、琴美さんも河崎が好きだし、河崎も琴美さんが好きだよね、これ。
特に琴美さんと河崎の不器用な恋愛模様は二ヤニヤできます。
なお、ペット殺しに関して「自首」を薦める二人の対応には大いに疑問が残りました。
主人公の行く末も気になります。


石の血脈/半村良……吸血鬼SF+オカルト蘊蓄+エロのごった煮エンターテイメント。
結構エロい&エロの書き方がAV的なので、女性受けは悪そうだけど、エロ男としてはとても楽しんで読めた。最後の展開が少し残念、かな。
まぁこれはこれでいいのか。
『屍鬼』、『アイアムレジェンド』、『吸血鬼ドラキュラ』の(私的)3大吸血鬼小説には劣るものの、それに次ぐクオリティ。面白かったよ。


裂けて海峡/志水辰夫……口下手で見栄貼りな「じっと我慢」の昭和的男性主人公と、そんな男を少女時代から慕ってきた年の差15のヒロインが『いかにも』な感じで合う・合わないは分かれそうだが、その『クサさ』を許容できるなら大いに楽しめるはず。二人が結ばれた時、絶望的な敵、絶望的な未来は目前に迫っていた。『南溟、八月、●は死んだ』! やっぱりクサいが、アリ。

市民ヴィンス/ジェス・ウォルター……詐欺で金を稼いでいた男マ―ティは、4年前「証人保護プログラム」により新しい名前、新しい場所で人生を歩みだす。そして現在、ドーナツ屋の店主を務めている彼。過去の犯罪は隠せても、犯罪者だった記憶は消せない。
彼は自分の足で歩き出す。生まれて初めて、投票に行った。それは彼が『アメリカ市民』になれた初めての出来事だった。過去を清算するため、彼は自首を決意する。

「おれたちは自由になれたんだ。ムショからじゃない。以前の自分からだ。おれは何の役にも立っていない人間だ。36歳にもなるのに、ドーナツ屋以外では、まともに働いたこともない。でも、今日、俺は投票をした。おれの一票はみんなの票と同じように数えられる。おれにとっては大きな意味を持つことだ」

テーマ性、描写ともに素晴らしく、ヴィンスの冴えないながらも暖かな日常が豊かに描かれている一方、ケリーのエピソード、ティナのエピソード、ベスとの未来など、とりわけ女性キャラのエピソードに『もっとここを描いてほしかった!』という不満が多い。

理由/宮部みゆき……感想はこちらで


夜に生きる/デニス・ルへイン……腐敗悪徳警官の息子に生まれたジョーは、初恋の相手エマの死をきっかけにギャングとして生き始める
そして数年が経ち、新たに愛する人グラシエラを見つけ、家庭を持つがグラシエラは射殺される。ジョーはめっきり老け込み引退。それ以来、遺された息子を連れて、釣りをする隠居生活に入ったのだった。
ギャングとして男だらけの生活を歩むにも関わらず、ジョーの人生の転機はいつだって女性(恋愛)絡み。実は生きていて、娼婦になり下がったエマに会い、別れを告げに行くシーンや、ラスボスの娘であるヤク中聖女ロレッタ(性器を切り裂き自殺する美人宣教師)などが印象的。
「ギャングではない、アウトローだ」と言っていた主人公が、徐々に「ギャング(組織)」になり、「お前たちのような者(ギャング)」と一括りにされ、(逆恨みされて)妻を殺されるところや、
「自分たちのルールで生きる」事に「疲れを感じ始めてきた」と告白するシーンなど、全体的に面白かった。
面白かったのだが、同系先行作品に「ゴッドファーザー」という偉大な作品があり、その「ゴッドファーザー」に比べると多少落ちるというのも事実で、面白いは面白いんだけど……という感じ。


毒薬の小瓶/シャーロット・アームストロング……感想はこちら(バレあり)で。

アイガーサンクション/トレヴェニアン……『情』を知らない殺し屋が、『情』を知って人を殺せなくなる話。これは人間としては『成長』と言えるが、『殺し屋』としては『廃業』レベルの後退ぶりで、なかなか面白い。
主人公の特異な設定、ケイビングへのこだわり(設定だけを見れば、敵を倒す話のようだけど、実際のところ、そういう話では全くないのが良い)など、さすがトレヴェニアンと思わせる。
作家の中では、人殺しの技術なんかよりも、人を赦す事ができるようになる事の方が、より重要という事なんだろう。
(逆パターンの作品はたくさんありますよね。躊躇なく相手を殺せるように訓練をして、それを『成長』と呼ぶような話)
しかし、続編の「ルー・サンクション」ではまた山に登るらしいけれど、
それじゃ、今作での「成長」はなんだったんだ!?と思わなくもない。

悪魔の手毬唄/横溝正史……因習残る山奥の村、手毬唄に見立てて殺される美女たち、といった横溝ワールドが存分に楽しめる良作。因果が色濃く巡っており、ある意味好きになれるキャラが(特に中年以降の世代のキャラには)一人もいないが(苦笑)。気持ちは多少はわかるが、犯人はキチガイやな(最初の殺人はいいとして、2つ目からの殺人は同情できない)……。
お節介爺さんは殺されても仕方ないお節介ぶりだけど、(爺さんを恨みたくなる人間は他にいるにせよ)一番親切を受けた犯人が爺さんを殺すのはどうかと。
娘たちの殺人は、犯人は人であることをやめて、殺人鬼と化してしまったんやな。
因業渦巻く村社会が悪しき昭和の象徴なら、娘たちの可憐さは旧き良き昭和の象徴……なんて書くとマズいかな。

暗い落日/結城昌治
……これはロス・マクドナルドの翻案小説ではないか?と思ってしまうほど、ロスマク作品にそっくりで、ロスマクとの類似点よりも、相違点の方が遥かに少ない。
作者自身ロスマクの「ウィチャリー家の女」を意識して書いたと明言しているので、盗作云々という話はしないが、これはもうオマージュというレベルを通り越して二次創作に近い。
相違点は主に2点。1点は暴君めいた男と虐げられる女性像という構図はロスマクにはあまり感じられない(海外ミステリではあまり観られない)点で、いかにも『日本風(昭和の女ふう)』である。

もう1点は、主人公の探偵が悪を断罪する傾向が強い点で、特に最終章に諸悪の根源であるクソジジイを主人公が断罪するシーンでは
「リュー・アーチャー(ロスマク小説の主人公)はこんな事言わねぇから!!」とツッコミを入れたくなってしまった。ここだけ出来の悪い二次創作みたいな感じを受けた。悪を少しでも罰する事で溜飲を少しだけ下げる効果はあったと思うけど、
個人的には最終章は要らず、「……悲しいなぁ……」と、とぼとぼと背中を落として家を後にするリュー・アーチャーでいてほしかったw(だから主人公はアーチャーじゃなくて真木探偵だって!)

オマージュというのは、あくまで『(主に展開などを、部分的に)似せて』作るものだと思うが、
ロスマク作品の持つ味わいまでを模倣出来てしまったのは、良かったのか悪かったのか。
これはもう、結城昌治の真木探偵シリーズというよりも、ロス・マクドナルドのリュー・アーチャーシリーズの一作に加えてしまった方が良いのではないか、と思った。

肝心の作品評価について言えば、ロス・マクの中に入れても上位に入る面白さはありました。
しかし、主人公探偵が盛んに怒っている2人の諸悪の根源、英作と啓一だけど、
英作はクズだけど啓一よりも信久やミサ子の方がクズだと思ったので、
探偵の断罪にイマイチ同調できない部分はありました(啓一が悪くないとは言いませんが)。


大統領に知らせますか?/ジェフリー・アーチャー
……大統領が暗殺される、という陰謀をキャッチしたFBIの主人公は、陰謀者たちに命を狙われる(序盤)
しかしそこは華麗に回避。命の危機は去った。恋愛しながら謎を調査(中だるみ)。
恋愛相手が、犯人グループの一員かも!? さぁどうなるのか!(後半)
という感じで、『王道』ではあるけど巧い。
『大統領が暗殺されるのを阻止しなきゃ』だけだと、僕的には全然盛り上がれなくて、『主人公の命が危ない!』とか『主人公の恋人が暗殺犯?』みたいな、『主人公が直面する、私的な理由』があって初めて、『事件の顛末』に惹き込まれるんだなぁと改めて思った。

夜の熱気の中で/ジョン・ボール……黒人差別が蔓延る南部で、黒人探偵が活躍する。初めは彼を蔑んでいた警部や巡査も、いつしか彼に敬意を表するようになる。
ラスト「白人専用」の席で一緒に星を見上げる、白人警部と黒人探偵のショットも美しい。良作。

クロイドン発12時30分/クロフツ……非常に丁寧で趣深い倒叙小説&法廷小説の名作。欠点があるとすれば、あまりに丁寧すぎる&遊び(余分な部分)がなさすぎる点だろうか。ずっと読んでいると、疲れてしまうw しかし名作。

男の首/ジョルジュ・シムノン……なるほど、これがメグレ警部シリーズか。
古いながらも、犯人の心理に寄りそう作品で、なかなか読ませる。これがラディカルに進化すると、異常心理小説、あるいは社会派小説になるのかな。コンパクトで読みやすく、中身も詰まった作品。

さらば甘き口づけ/ジェイムズ・クラムリー……失踪人探し、家庭の悲劇、隠された狂気といった、いわゆるロス・マクドナルドが書きそうな正統派ハードボイルド。
面白かったけど、直前に読んだ著者の別作品「酔いどれの誇り」が最高すぎたので、比べると落ちる。

狙った獣/マーガレット・ミラー……統合失調症の主人公(?)を迫真の筆致で描いた良作。最終盤がちょっともたついた感があったけど、とにかく怖く、ぞっとする作品。まぁ、好みとは言いかねるけど、凄い事は確か。

闇に踊れ/スタンリー・エリン……偏執的な黒人差別の老人、差別され続け黒人以外には当たりのキツい黒人女性(これも、差別だと思う)、黒人女性の美貌にへーこら従うしょっぼいイタリア人男性(一番嫌いだったw)と、マジでロクな奴がいないのはアレだけども。
黒人差別を主軸に、黒人側からの白人への差別や、その他モロモロを扱った骨太作品で面白かった。
差別は良くない。
というのは当然そう思うけれど、自宅周辺がある日突然黒人しか住まないようになって、(日本文化ではなく)黒人文化全盛のような雰囲気になったらやっぱり居心地の悪さは感じちゃうかもしれない。
あるいは、ある特定の層(白人黒人でもいいし、年齢層、世代でもいいし、職業でも性別でもなんでもいいけど)に自分の事を散々悪く言われたら、やはり前もって身構えてしまうかもしれない。
差別意識というものについて考えさせられる。
同じ人種差別を扱った作品では、娯楽としては『夜の熱気の中で』の方が好きだけど、『闇に踊れ』の方がエグくて、ある意味リアルかもしれない。

英国諜報員アシェンデン/サマセット・モーム……Bに近いA。独特のタッチが魅力的で、描写を読んでいるだけで楽しい。辛辣な人物描写が笑える。
ストーリーで魅せるタイプではないので、紹介しづらいところはありますが。

模倣犯/宮部みゆき……Bに近いA。被害者遺族の心情を描いた点と、どうしょうもない殺人鬼、栗橋浩美&高井和明の存在感が群を抜く。ラスボスのピース君に魅力を感じないのは、彼が「理解できない」人間だからだろうか。栗橋浩美は「その、どうしょうもなさ」が「部分的に理解できてしまった」、だからこそ心に残ったのだろう。

この人を見よ/マイケル・ムアコック……Bに近いA。イケてない主人公が救いを求め、タイムスリップしてキリストに会おうとする。だが、やがて主人公自身がキリストなのだと気づく。というお話。
イエス・キリストの由来が、白痴で何を聞かれてもただ「イエス!」としか答えられないというのは
斬新すぎてツボだったw
マリアは主人公とエッチしてるしw 涜神的ではあるけど、こういう作品が評価されるのがキリスト教の寛容さというか、良いところだと思った。
救いを求める彼自身が救世主だった、というのも皮肉が効いていて良く面白いが、
終盤は史実に合わせるためか、イケてない主人公が『優等生』になってしまったのが少し物足りなかった。また、タイムパラドックス的にはマズいのかもしれないが、主人公はキリストの人生をなぞらずに生きても良かったのではないか、と感じた。


マイナスゼロ/広瀬正……面白かった。けど、こんなんアリか? 記憶喪失とか、うーん。


妖女サイベルの呼び声/パトリシア・マキリップ……全編通して流れている静かで悲しい雰囲気が心地よかった。ただ、それなりに文章が読みにくいので、疲れている時に読むと100%は楽しめないかもしれない(疲れている時に読んでしまった)

吟遊詩人トーマス/エレン・カシュナー……容姿、歌声ともに恵まれた詩人トーマスは、エルフランドへと迷い込む。そこで過ごした夢のような七年。
地上に戻ったトーマスは、神秘的な見者(預言者)になっていた。
妖精界と現実界の狭間を描いた美しいファンタジー。

ロボットの魂/バリントン・J・ベイリー……Bに近いA。
ロボットと人間がそこまで違うものだろうか? という醒めた意識しか持たない僕にそこまで訴えかけるものはなかったが、一人のロボットが「自己」を探していく物語として趣深いものはあった。

古典SFの『脅威としてのロボット』ではなく、アシモフの『善き隣人としてのロボット』でもない、
善でも悪でもない一個の生命としてのロボットを描いた作品。ここまでくると、人間と全く変わらない気はするけども。


B→暇つぶし以上の有益な何かを得た作品

クリスマスに少女は還る/キャロル・オコンネル……
最後の5~6ページは反則……。この5~6ページのために読んで良かった、と思える作品。
だけど、630ページのうち最後の5~6ページで感動したとして、それで最高評価を出すわけにも……。
拉致被害者のおてんば少女サディーの存在感がすごく、印象的なヒロインとして長く記憶に残りそう。

焦げ茶色のパステル/岡嶋二人……
女主人公の無能っぷりと、女親友キャラの有能っぷりが印象的。
なお、事件の動機となる日本競馬界のルール(当時?今も?)がくだらなすぎた。

危険な童話/土屋隆夫……
アリバイ崩しの良作。同著者の「影の告発」と印象がほとんど変わらないが、こちらの方が面白い。
主人公が一人の人間に目をつけて、ストーカーのように付きまとって犯人に仕立て上げる(実際犯人だが)話です。被害者がクズなのも相変わらずで、加害者をこんなに追い詰めずそっとしといてやれよと思ってしまうのも同じだった。
警察が放っておいてあげれば2人目が殺されなくて済んだのも同じだし、犯人も死なずに済んだのにね。
2作で判断するのもあれだけど、もうこの方のは読まなくてもいいかな。あまり読んでいて気分のいいもんじゃないし。
アリバイ崩しが好きな人にはお勧め。

シンパサイザー/ヴィエト・タン・ウェン……
アメリカ人視点ではなく、ヴェトナム戦争を南ヴェトナムの二重スパイとして戦った、ヴェトナム人視点でのヴェトナム戦争の物語。
と片付けられない、『二重性』の物語。『一方への同調者(シンパサイザー)』は『他方に同情する』ものであり、『代表者(リプリゼント)』は『表現』するものであり、『情報将校(インテリジェンス)』は『知性』のあるものである。
『フランス人』と『ヴェトナム人』の間に生まれ、『アメリカ』文化に塗れた主人公は、『北』と『南』に分断されたヴェトナムで、『多重性』に引き裂かれる。
『独立と自由以上に大切なものは何もない』というスローガンが、
『何もない、は独立と自由以上に大切である』へと移り変わっていく、
意味の多重性を剥ぎ取り続ければ、そこに存在するのは『何もない』ということ。
この、『二重思考』的ロジックは、オーウェルの『1984年』を連想させるが、こちらの方が遥かに難解。

檻/北方謙三……この主人公は、一種の精神病なのだろうか? そう考えるなら、腑に落ちるところがある。ウザチンピラを殴った事をきっかけに、暴力癖を暴走させてどんどん道を踏み外していくのだが、それが何故なのかいまいちわからず、感情移入しづらかった。
昔の血が騒いだ……のか? 何かに目覚めてしまったのか? よくわからん……。
ある種文学的というか、キャラクターたちの行動が実に不可解で意味不明だったが、人間なんてそんなものかもしれず、もやもやした気分が残った。


リトルドラマーガール/ジョン・ル・カレ……愛する男に操られ、中東問題の渦中に投げ込まれた女性主人公。ラスト数十ページ、段々に壊れていく彼女の姿が印象深い。しかし、ル・カレは読みづらいな……。もう少し読みやすく書いてほしいw

七回死んだ男/西澤保彦……設定は面白い。実際もつまらなくはないのだ
が、この設定なら更に面白いものを期待したかった。

マダム・タッソーがお待ちかね/ピーター・ラヴゼイ……ヴィクトリア朝イギリスの風俗情緒を伝えるラヴゼイ節は健在で、彼の作風が好きな方なら少なくとも大はずれする事はなさそう。
ただ、『悪女』のスケール感が小さく、『並の悪女』だったのは残念。犯人の自滅の印象が強い。
個人的には以前読んだ2作(『偽のデュー警部』は別格として、『苦い林檎酒』)よりも評価は低い。

しかし作者は、年上のヘタレ男が一回り年の離れた女の子に手玉に取られてあたふたするのを描くのが本当に好きですね。

枯草の根/陳舜臣……渋い話だったな~~。地味ながら読ませる。

ロシア皇帝の密約/ジェフリー・アーチャー……相変わらず読ませるアーチャーだが、読むたびに(「ケインとアベル」→「百万ドルを取り戻せ」→「大統領に知らせますか?」→「ロシア皇帝の密約」)少しずつ作品評価が下がっていくのはどうしたものか。最初に読んだ2つが素晴らしすぎてなぁ。

伯林1888/海渡英祐……
ドイツ留学時代の森鴎外を主人公に、「舞姫」でおなじみのエリスや、新しい浮気候補クララなどが登場。19世紀、激動の時代を迎えるドイツを舞台に、森鴎外のキングオブヘタレっぷりを楽しめる佳作。



キドリントンから消えた娘/コリン・デクスター……迷推理・珍推理を組み立てては外すモース警部のめくるめく妄想は、前作「ウッドストック行最終バス」から更に磨きがかかった。
ヒラリー・ウォー「失踪当時の服装は」に捧げる、素晴らしきオマージュ。

悪魔の選択/フレデリック・フォーサイス……ソ連・ウクライナ(のテロ組織)・イギリス・アメリカ・西ドイツ・オランダなどの思惑が錯綜し、第三次世界大戦or大規模重油汚染の二択を迫られる西側諸国。非常にリアリティがあり、よくできた作品。
ただ、下巻に入ったあたりから、第三次世界大戦の芽はほぼなくなり(そもそも残りページ数で解る)、ウクライナのテロリストをどう巧く処理するかという話になってしまうので、失速感も大きかった。

まるで天使のような/マーガレット・ミラー……夫ロス・マクドナルドの作風にあまりにも似ていて驚いた、ロスマクの妻、マーガレットの作品。
マーガレット自身も著名な作家なのでこういうのもおかしいが、よく描けている。怪しい宗教団体が魅力的だったので、できればそっちを濃密に描いてほしかったところはあるけど。


別れを告げに来た男/フリーマントル……『無能な上司とその取り巻き、無能な同僚に囲まれて、正しい事をしている有能な主人公が冷遇される(けど、最後少しだけ認められる)』話。
有能だけど不器用で、組織の中でいつも冷遇されているけど、正しいのは主人公なのだ……みたいな。
実力もあって優しいのに、気弱でルックスも悪い(若ハゲ)ため、ほとんどの人から相手にされない
悲しい主人公……。
最後に一発、上司にガツンと噛ます「消されかけた男」よりこちらの方が好きだけど、それにしたって哀愁漂いすぎ……。


高層の死角/森村誠一……ストーカーと大差ないような執念のアリバイ崩しが印象深い。しかし、冤罪だったらどうする気だったんだろう。
犯人の動機が意味不明すぎてどうにもノレなかった。普通こんな理由で人を殺すか? 『太陽が眩しかったから』の方が遥かに説得力を感じるぞ。
トリックもとても複雑だが、『ホテルのシステムを使って、やろうと思えばできたんだろうな』とは思った。

死神の精度/伊坂幸太郎……仔月さんと、対談を行ないました。よろしければ、対談記事をお読みください!

影の告発/土屋隆夫……アリバイ崩し系ミステリ。犯人のアリバイを執念の捜査で崩していくのだが、
被害者があまりにクズすぎて、「もうほっといてやれよ」と思ってしまった。追いつめられた犯人が2人目の殺人を犯してしまうのだが、警察が放っておいてあげれば2人目は死なずに済んだし、犯人も捕まらずに済んだんじゃない? 
そりゃ殺人者を捜査して逮捕するのは当たり前だけど、最初に殺された奴があまりにも酷すぎるので、むしろ殺した犯人に賞状でもあげたい気分だし、犯人を捕まえても誰も幸せにならない胸糞悪い話だった。

極大射程/スティーブン・ハンター

猿丸幻視行/井沢元彦……トンデモ系歴史小説としてはなかなか楽しめたし、普通小説(あるいはミステリ小説)として考えるとちょっと厳しい出来。また、そのトンデモ部も大部分、海原猛さんの説におぶさっているらしく(海原さんの本を読んでないので断定はできないが)、そうだとするなら、海原さんの著書への手引きにしかならない気もする。
僕は海原説(柿本人麻呂=柿本猿=猿丸太夫)を知らなかったし、この小説がなければ恐らく知らなかっただろうから、そういう意味では楽しめた。

皆殺しパーティー/天藤真……登場人物のほとんどが胸糞なんですが、
(多少つらいが)そこまで腹を立てずに読めるのは、ユーモアあふれる作者の力量でしょうか。

ドラゴンがいっぱい/ジョー・ウォルトン……ドラゴンに置き換えたイギリス・ヴィクトリア朝物語。
嫌な奴がいて、倒したり、身分違いの恋を一度は諦めるも殿方からの熱烈な恋と周囲のプッシュもあってくっついたり、最後はめでたしめでたしで終わる。一応ラスボスのデヴラクはやられた上にみんなに食われて終わるというハッピーエンドだけど、デヴラク以上にウザい伯爵夫人が無傷なのがいただけなない。せめて最後に公爵の前で失禁して倒れ込むとか、それぐらいの罰は欲しかった。

静かな太陽の年/ウィルソン・タッカー……人種テーマを扱った、近未来ディストピア小説。
娯楽性はあまり高くなく、人種問題も本作が書かれたのが50年近く前だという事で、現在の読者が読むとなるとなかなか評価が難しいが、悪い作品ではない。
主人公が未来に行ってディストピアを見るという話なんだけど、出発までの展開がとてもスローで、全体の3分の2が過ぎてしまう。その『現代編』のドラマが面白いかと聞かれると微妙なのだった。

光のロボット/バリントン・J・ベイリー……

主人公の決断に全く感情移入できなかった。ネタバレだけど、なんで人間の味方をして、ロボットを滅ぼす側に回ったん? 逆じゃね?
人間なんて滅ぼしちまえよ。
イミフとまでは言わないが、それならもう少し創造主との絆を強調してほしかった。

C→暇つぶし程度にはなった作品

冬の灯台が語るとき/ヨハン・テオリン……妻を亡くした男が、娘から毎日「ママはいつ帰る?」と問いかけられる、犯罪被害者の陰鬱な物語。
とにかくいつも吹雪いていそうなスウェーデンの島の描写が印象的だった。


消されかけた男/フリーマントル……肩の力を抜いて読める、良い娯楽小説。しきりに「サラリーマン小説」っぽいと解説で述べられていたが、確かにそう言われればそうだなぁと思った。

斜め屋敷の犯罪/島田荘司……トリックは面白かった。ただそれ以外が退屈すぎてな……。

料理人/ハリー・クレッシング……悪魔のような暴君シェフが大暴れする話。特に退屈せずに読めたが、「……で!?」っていう。偉い人とお近づきになりたいとか、大豪邸でパーティーを開いて評判になりたいとか、そういった虚栄心を悪魔が巧みに突いてくる感じだけど、この手の欲がほぼ全くない僕には、なんでそんな面倒な事をしたがるのかサッパリわからないのだった。

匣の中の失楽/竹本健治……やりたいことはわからないでもないけど、合わない。
仲間内での殺人が起こっても、ゲーム感覚で処理する『ファミリー』たちの軽さが最後まで馴染めなかった。
『匣(作中作)』の中の匣の中の匣の中の匣の中の匣の話なので、
この本自体が一つの匣ではあるし、それを読む私(このブログを書いている私)も、更に外側から見ればこれもまた一つの匣ではありますよね。
というだけの話に思えた。

ブルーマーズ/キム・スタンリー・ロビンソン……「レッドマーズ」から含めて、実に3000ページ超。
『話し合い』で問題を解決できる、『敵』を赦し合えるという『進化』を遂げた新人類の物語。
にしても長い。


スクールボーイ閣下/ジョン・ル・カレ……前作「ティンカー、テイラー~」に比べればまだ解りやすい。

スマイリーと仲間たち/ジョン・ル・カレ……
3部作の中では一番読みやすく、面白い。しかし、2000ページ読んだ感想が、「戦いは汚く、虚しいねぇ……」程度なので、読む必要はなかったよね。
僕には難しすぎたのかな。宿命の対決モノならジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」が好きです。

戦争の犬たち/フレデリック・フォーサイス……

お楽しみの埋葬/エドマンド・クリスピン……

なめくじに聞いてみろ/都築道夫……奇想天外ハチャメチャ不条理アクションギャグ小説。和製007。都築道夫は数作読んだけど、今のところこれが一番良いかな。ただ、それにしても僕向きの作家ではないな、とは思う。


猫の舌に釘を打て/都築道夫

黒蜥蜴/江戸川乱歩……
「明智小五郎」シリーズの長編作品は、モーリス・ルブランの「ルパン」シリーズにかなり似ている気がする。
変装名人が山ほどいて、怪盗VS探偵の虚々実々のやり合いが楽しい作品だと思う。
個人的には「なんでもアリ」でどんでん返しに次ぐどんでん返し! でしかないので、正直付き合い切れない部分はある。
むしろ、物語としては枝葉末節に当たる、黒蜥蜴の『人間動物園』『人間水族館』の描写が光る。乱歩先生はこういうのが巧い。
黒蜥蜴が萌えキャラなぶん、昨日読んだ「吸血鬼」よりは良いか。


吸血鬼/江戸川乱歩……行き当たりばったりとしか思えないようなエピソード集で、幾つかの短編を無理やり長編につなぎ合わせたような唐突さ、ぎこちなさを感じる作品

図書館島/ソフィア・サマタ―……

D→自分には合わなかった作品

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ/ジョン・ル・カレ……そもそも何が起きているんだかすら分からないw こいつら(英国情報部)は何と戦っているんだ? 普段の業務ってなんなんだ?
ソ連情報部に壊滅させられるわけだけど、そもそも英国情報部って普段何やってたの? 何やってたからソ連情報部と対決する事になったの? てかソ連情報部も普段何やってんの?
という基礎的な事すらよく解らない。
もちろん、『国防上の何か大事な事をやっているので、無いと困るんだろう』という推測はできるけど、実際何やってんだか分からないし、何やってんだか分からない組織同士が暗闘してても『ナンダコイツラ』ってなってしまった。
スパイ小説でこんな感想になったのは初めてかもしれない。

影の護衛/ギャビン・ライアル


X→以前読んだのに、何故か読書メモから漏れていた作品。頭文字はランク。備忘録用。

A レイチェル・ウォレスを探せ/ロバート・B・パーカー
B マンハッタン特急を探せ/クライブ・カッスラー……