・きらりルート1(ハピマニエンド)、きらりルート2(きらり生存エンド)



☆きらりルート

きらりルートは、きらりの就職記念で寿司を食べるシーンから分岐します。
ここできらりの『曖昧な誤魔化し』をそのまま受け入れるとルート1に、
『追及して椎野家に上がり込むと』ルート2に分かれます。
が、実際にはそこまで選んできた選択肢で物語が分かれます。
そもそも初回はルート1にしか行けなかったはず。


そこまでの物語は、きらりと鹿之助がイチャイチャしているだけです
(が、30分程度の内容なので、イチャラブ感はありません。
この作品にイチャラブを求める人もいないとは思いますが)。
ところが、急にきらりと連絡が取れなくなって、会いに行くと『別れよう』ときらりが言い出す。
何かを隠している様子のきらり。就職が決まって、働き始めるというきらり。
というのが序盤の展開です。


☆きらりルート1あらすじ

夜中に電話がかかってきて、椎野家に火事が起きたと聞かされた鹿之助。
うつ病を患うきらりパパが一家心中を図り、家族を助けようとしたきらりが一人、亡くなってしまう。

そして5年後。
鹿之助は進学も就職もせず、独り暮らしでフリーターをしながら『ハッピーサイクルマニア』という
バンドを続けています。傍らには悪友の村上。
そして、かつて第二文芸部が行なった大阪ツアーで出会ったアキがボーカルとして、ハピマニに参加。
しかし、世の中は世知辛く貧乏バンドの生活は非常に苦しく、ライブを行なっても収支は赤字。
バンド仲間は抜け、解散するバンドは多く、【真っ当な社会人】に、もっと酷くなると闇社会へと堕ちていく。
そんな極貧バンドマン生活で身体を壊した鹿之助は、病院に運ばれ、一時実家へと帰る。
バンドを辞めて、『他人が喜ぶ人生を歩むべきか』真剣に悩んだ鹿之助。
家族の暖かさに触れ、きらりの幻影に諭され、そして……。鹿之助は決心する。
やはり、『自分がやりたい事をやるべき』だ、と。

鹿之助はバンド生活を選ぶ。
社会からドロップアウトしようがなんだろうが、瞬間に生きるパンクロッカーとして。

ここまでの5年間、きらりの幻影に囚われたまま、鹿之助はバンド生活を続けてきた。
でもこれからはそうじゃない。きらりを吹っ切り、思い出として消化した上で、
鹿之助は『やりたい事を見つけた』のだ。


☆きらりルート2 あらすじ

椎野家に無理やり上がり込んだ鹿之助は、『きらりが風俗で働くこと』を聞かされる。
椎野家の緊迫した経済状況が、そうさせたのだ。
だが、よくよく聞いてみると、『自己破産』や『生活保護』といった手段に頼る事もできるのに、
きらりパパがそれを望まないというのだ。

きらりパパはかつては優秀な技術者だったが、事業を起こし独立するタイミングでうつ病を患った。
それでも何とか妻(きらりママ)がパートなどをして、やりくりしていたのだが、
去年(つまり物語が始まる前の年)から悪質な債権回収業者に売られ、恐ろしい状況になってしまったのだった。
きらりパパを問い詰める鹿之助だったが、きらりパパは酒に酔い、話にならない状態であったが、
ふと『きらりをさらってくれないか。そうすれば一人だけは助かる』と鹿之助に告げるのだった。

きらりが風俗の面接を受ける前日、鹿之助ときらりは最後のデートをする。
そして朝帰りをし、家に戻るきらりと鹿之助は悲しい別れを迎えるのだった。

ところが、その様子を見ていたきらりパパが、
『自分の不幸にきらりを巻き込むのは良くない』と遅ればせながら気づき、自殺未遂をしてしまう。
これはきらりルート1の『一家心中』とは違う。
鹿之助との交流があっても、きらりパパは『まともに生きる』という形での更生はできなかった。
しかし、『自分の不幸に家族を巻き込む無理心中』ではなく、『一人での自殺』を選んだ。
個人的には、この差は大きいと思う。

きらりパパの自殺をある種見過ごし、きらりパパが死ぬに任せた『罪』を背負った鹿之助。
公的扶助に反対していたパパの死により、遅ればせながら援助を受けられるようになった椎野家は何とか経済的に持ち直す事ができた。
しかし、パパを見殺しにした鹿之助は罪の意識に悩み、きらりを避けるようになっていった。

時が過ぎ、正月の夜、ついに鹿之助はきらりに『罪』を『告解』する。
それを聞いたきらりは、『OLとして普通に暮らす』のではなく、『歌を歌い続ける未来』を選んだ。

3年後、大学生になった鹿之助は就職活動を行なっていた。
恋人のきらりの練習に付き合ったりもしているが、『まともな』人生を歩む鹿之助であった。


☆きらりルート 評価


鹿之助 A(1) A-(2)
きらり A+(共通)
シナリオ A+(1) A-(2)
羨ましさ B(1) A(2)
青春度 B+(ある意味S:1) A(2)
Hシーン C+


☆きらりルート1 感想

このゲーム中最もヘヴィなルート。
追い続けていた時はキラキラと輝いていた夢。
それに妄執として囚われ、ギラギラと命をすり減らしながら亡者のようにバンドを続ける鹿之助。
それでもラスト、色々と吹っ切れて改めてバンド活動に向かう鹿之助の姿は、ある種輝いています。
『ある意味羨ましく』(S)、『ある意味あぁはなりたくない』(E)、そんな両極端な印象を抱かせるこのルートの羨ましさは、間をとってBにしました。
しかし、これは平凡なBではありません。

こんな人生も、一度は歩んでみたかったような。
それでも、こんな人生に飛び込むのは恐ろしいような。
僕には勇気が足りずに飛び込めないけれど、基本的に社会不適合者な僕としては、憧れもないわけじゃない。

他ルートの鹿之助はヒロインとの未来を迎えるべく、堅実な人生を送ろうとしています。
けれど、このルートの鹿之助だけは違います。
きらりに囚われ続けてバンドをやっていた鹿之助ですが、それを吹っ切った今、
ある意味、本当に鹿之助が鹿之助として生きる人生は、このルートのみなのかも

青春度は、千絵姉曰く『永遠の青春時代を、鹿之助は生きている』という事ですが、
少なくとも僕が憧れたい青春とは違うw 青臭い、という意味では青春全開ではあるのですが、
青春というよりもこれは『オトナになれなかった、オトナ』の物語。
言い方を変えれば、社会に適合できなかった人間の物語。

貧困の中に生まれ、いつも人々を照らし続け、そして椎野一家の不幸を一身に受けて死んでいったきらりは、さながら天使・聖女のようで、さすがはメインヒロイン


まぁ、色々と胸に刺さるものはありますね。読んでいて身につまされ、非常にしんどかったです。
でも、しんどいだけではない、祝福もまたこのルートにはあると思います。

あと、アキちゃん攻略したかったー!


☆きらりルート2

こちらはこちらでヘヴィなルートなのですが、『1』に比べると『優しい世界』。
その優しい世界をつかみ取ったのは、紛れもなく『手を汚した鹿之助』にある……んですけど、
そもそもきらりパパを殺したのは鹿之助なのかな?という疑問はあります。
『邪念が生じて、助けを呼びに行くのが遅れた』のは確かだけど、ちゃんと(?)助けを呼んでいるし、仕方ないんじゃない? 
まぁ、実際に仕方ないかどうかが問題なのではなく、鹿之助の『罪の意識』が問題になるわけですが。

きらりパパに関しては、個人的には『更生の可能性はあった』と思います。
一家心中ではなく、一人で自殺しようとしているこちらのルートの彼ならば、『生活保護』や『自己破産』をもう少しまともに考える事もできたかもしれません。


【脱線】

まぁとにかく、公的扶助は使えるなら使った方が良いです。
よく生活保護受給者を叩く人とか、どうしょうもなくなった人に対してまで自己責任論を唱える人とかもいますけど、あれなんて半分人殺しみたいなものですよ。
そういう蔑視を気にして生活保護を受けずに、不幸から抜け出せない人は沢山いると思います。
心が弱いけど本当に制度を必要としている人を委縮させるような空気を作り出すのは良くないですよ。

日本社会には、「家族の事は家族内で解決するので、家族の中では甘えても、公的機関には甘えない」みたいな悪弊があると思うんです。
老々介護の問題とかもそうですけど、無理ですって。家族の中だけで解決できない事なんていくらでもありますよ。共倒れになりますって。
そんな時のための、公的援助だし、もっといえば個人(家族)の力ではどうしょうもない、そういう時のための『国・自治体』だと思うんですわ。
そういう意味でも、『妻や娘(きらり母やきらり)には甘えるけど、公的扶助には甘えない』きらりパパってのは、悪い意味で『(うつ病になった)真面目な日本人』そのものだなって思いました。

もちろん、自立して生きていくのは立派な事です。素晴らしいことです。
でも、それが当たり前にできなくなってしまった人も、劣等感を強く抱くことなく、胸を張って生きていける世の中になってほしいと思います。
どうせなら皆が幸福なのが一番いいじゃないですかw 

心に余裕がなくなると犯罪だって増えるでしょうし、犯罪まで行かなくても苛々してすぐに怒鳴り散らしたりするような人が多かったら、こっちまで気分が悪いじゃないですか。
他人が不幸になると、巡り巡って自分も不幸になると思うんです。

うつ病は恐ろしい病気です。
僕も(うつ病ではないはずですが)、心の病に罹った経験があります。
まぁ僕はきらりパパほど真面目な人間ではないので、「ヤバい!」と感じたら早めに休むし、
しょっちゅう他人に愚痴ってストレス発散するダメ人間なので、うつ病になるほど重症化はしなかったけど……。

笑顔で冗談を言いながら、内心は絶望で真っ黒だったり。
元気そうに見えるけれど、実際には吐いていたり、そういう事って結構ありました。
朝起きた瞬間から、徹夜で受験勉強した後のような疲労感が頭にあって、
ちょっとでも文字を見ると気持ち悪くなったりね……。いや、あの時期は本当にヤバかった。
周囲には解らないんですよね。言っても信じてもらえない。
「テレビの前で1時間座って番組を見ると気持ち悪くなる」のに、「数時間道を歩いても平気」なんです。
経験のない方は理解できないと思います。自分だって理解できないけど、実体験しました(苦笑)。

体の怪我は目に見えるから、足を骨折して松葉杖を突いていれば周囲の人が親切にしてくれるけど、心の病気はそうはいかない。
松葉杖の時より、何十倍もしんどいんですけどね。
周囲の無理解には結構苦しみました。
まぁ自分でも自分の症状が理解できないからね、他人が理解できないのは当然だよね。
でもだからこそ、親切な人の暖かさはとてもありがたく、文字どおり日々の支えにもなります
75%の人が完治するらしいので(25%の人は完治しないらしい……怖すぎ)
完治したら恩返ししなきゃ。

きらりパパにも(家族以外に)そんな相手がいれば、違ったのかもしれません。


【脱線終わり】


だから、鹿之助がとった対応は『きらり』に対しては正解かもしれないけど、
『きらりパパ』には酷だなぁと思いながら読んでいました。
鹿之助にとってきらりは『身内』でもきらりパパは『他人』。だから、あぁいう対応になるのは解る。
でも僕がきらりパパだったら、多分鹿之助にキレて家を追い出してますね。
そんな元気すらなかったのかな、きらりパパには。

『家族以外で、親身になってくれる人がいれば』きらりパパは立ち直れたかもしれない。
鹿之助にそこまでを求めるのは酷ではありますが。
そういう意味で、最後のあの自殺も『きらりパパ』が『世間の人が自分を受け入れてくれるかどうか』を試したのかもしれないなぁとは思いました。

ま、きらりパパの事はいいやw 
多分誰もきらりパパの事を擁護しないと思うから、敢えて肩を持つように書いたけど、
「いいから素直に自己破産しろや! 生活保護受けろや!」って思うし、
なんでそうしないんだかマジで解らない
。僕が同じ立場なら受ける。

そんなわけで、きらりパパを殺した『罪の意識』を鹿之助がきらりに『告白』をし、
きらりがそれを赦して終わります。
その後は結構あっけなかったですね。

3年後、皆で集まって同窓会なシーンは結構良かったけど、逆に言うと見せ場はそれぐらい。
きらりと鹿之助がどんな付き合いをしているのかもほとんど描かれていないし、
その辺はもう少し書いてくれても良いのになぁと思いました。


ドストエフスキーの「罪と罰」を下敷きにしているそうなのですが、「罪と罰」を読んでいないので解りません。
ただまぁ、『罪の意識』と『告解』の作用や、貧困に喘ぐ光なき世界で皆を照らしたきらり(天使)あたりは、確かにキリスト教を連想するところはありました。




さーて、しんどいところ(個別ルート)は読み終えたので、共通ルートをマッタリ楽しみます。
普通とは順番が逆だけど、まぁそこは再読なので気にしないw