今回読むこの作品は、最初に出たライトノベル版全8冊ではなく、
「完全版」という名前で発売されたもので、ラノベ版の1~5巻を再編集したものだそうです。
完全版は全5章構成になっているので、多分1章=1巻なんじゃないかなと思います。\

全体の評価は 83点です。

☆1章 僕はそうして、彼女と出会ったんだ  84点

肝炎で入院した主人公の裕一が、病弱ワガママ少女の里香と出会い、恋に落ちるまで。
古典的というかベタな病弱ヒロインものかな?とは思いますが、この手のシチュエーションは僕、大好きなのです。

本作も主人公の裕一、ヒロインの里香ともに魅力的で(1章の感想ですw)、雰囲気作りも巧く、面白いです。特にラストの砲台山に連れ出すシーンは、王道一直線のベッタベタなのですが、良いものは何度見ても良いです。そうそう、こういうのを待ってたんよ!
ただ、1章ラストで早くもクライマックス級のエピソードを持ってきたので、この後、これを超えるぐらいの山場があるのか少し心配にはなりましたが。

欠点は、誤字が多い。そこは残念です。「完全版」と謳っているのに、こうも誤字が目立つようでは……。

*一概に欠点とも言えませんが、一人称で語られる物語で、語り手の裕一がえらく幼い(ガキ)のも気になるところです。17歳なのでこんなものかもしれませんし、ガキだから悪いというわけではなく、
むしろ「青い」「まっすぐ」と言った良い部分もあるのですが、多少気になる部分もありました。
ヒロインの里香ともども、個人的には中学生と言われた方がしっくりきます。

それにしても、世に言う悲恋モノ(死別系)というのは、ひょっとしたらハッピーエンドなのかもしれないなぁと思いました。
死ぬ直前まで好きな人と一緒にいて、死ぬ直前まで愛されたら、辛いけれど幸せじゃないかな。
死ぬことが分かっているにもかかわらず、自分と接してくれて、好きになってくれる人がいるというのは、とても幸せな事だと思います。


*最後まで読むと、敢えて子供に書いたことがわかります。「子供」から「大人」に成長する話でもあるのですね。


☆2章「カムパネルラの恋」 58点

『出会いと恋』を書いた1話を受け継いで、「凪」の時。「束の間の平和」を描いたと思われる章です。
しかしこれがびっくりするぐらいつまらない。
どうでもいい事(エロ本)で里香と喧嘩して、死にそうな目に遭わされる祐一。チャチな悪役、夏目(里香の担当医)にも酷い目に遭わされて、それでもなんとか仲直り、というだけの話が延々ハードカバーで100ページも続くとは思いませんでした。

まず、エロ本如きで喧嘩するなと言いたい。
次に、エロ本で里香がドン引きしたのは仕方ないとして、下手をすれば命に係わるような仕打ちをするのはいただけないです。祐一、里香ともに魅力的、と1章の感想で書いたけど、だいぶ好感度が下がりました(苦笑)
里香よりも先に祐一が死ぬんじゃねーの?

*夏目とかいう輩も、正直どうでも良すぎる……。
以前大事な人を亡くした的な過去を匂わせていますが、他人の恋路の邪魔をして、そんな理由で許されると思うなよバーカ(言いすぎ)



最後に次巻への(不吉な)予告と、「銀河鉄道の夜」になぞらえたエピソードが語られますが、とにかく2章はつまらなかった。1章は面白かったのになぁ。ま、気を取り直して3章に行きます。


*最後まで読めば、夏目の立場もある程度は分かりますw あくまで2話時点での感想ですw


☆3章 灰色のノート   88点

つまらなかった2章から一転して、とても良かったです。

わかりやすいところから行けば、裕一の幼馴染みゆきの登場と、五人での校舎探検。
そして何より、「チボー家の人々」にひかれた里香の告白。

「命をかけてきみのものになる」への傍線、小さな、実に恥ずかしそうな文字で書かれた“R”の署名。

更に、亜希子視点で描かれている『大人』の世界と、里香の所属する『子供』の世界。
『子供』の世界から半歩だけ『大人』の世界へ踏み込もうとしている、まだ『子供』の裕一。
そして恐らく、『子供』の世界に足を留めたまま、*『大人』になってしまったのが夏目……になるのかな?

田舎町である伊勢から離れたい人間。
それでも名古屋や大阪、せいぜい東京までしか行けず、帰ってきてしまう『敗北者たち』。
伊勢弁で改稿されたのも納得の、伊勢という街への愛着。
裕一と里華のささやかな恋物語を、土台から支える世界設定。
良質な物語だなと改めて感じました。


*夏目は、裕一の未来の姿、な感じもしますね。
夏目だけじゃないけど、病気で連れ合いを亡くした人たちも、また新しい大切な人を見つけてほしいなと思いました。みんな「喪に服した」ままなので……。

4章 夏目吾郎の栄光と挫折  84点


裕一&里香のメインカップルは今回は脇役として、その先輩に当たる、
夏目&小夜子のカップルの物語。
悲恋モノの常として、既に同じ道を歩んだ先達(セカチューの場合は、主人公の祖父)が出てくるのは『お約束』ですよね。
先の展開が完璧に読める内容な上、悲しい結末が待っている事がわかっていたため、少し読む速度が落ちました。
夏目さんと小夜子さんの恋物語はもう終わってしまったものですが、小さな幸せに満ち溢れたモノだったと思います。
小夜子さんの口調含めたキャラ設定も可愛かったし(里香より好みなんだが…)面白かったと思います。
裕一パートの方は、ちょっと微妙な感じでしたけどね……。

とりあえず残すところは最終章のみ。
恐らく85点前後になると思いますが、読み終えるのが少し勿体ないな、という感覚はあります。


5話 半分の月の下、長く短い道 80点

裕一と里香の物語はこれで完結です。この先、二人は大変だと思いますが、儚い幸福とはいえ、木漏れ日のような暖かな人生を味わってほしいですね。
全体の評価は83点、5話単体の評価は80点。

もっとちゃんとした感想は後で書くかもしれませんし、書かないかもしれませんが、
5話単体の感想を言うと、「みゆきと世古口がくっついた」以外のストーリー展開が全くないです。
命の短い里香に対して、裕一が彼女と添い遂げる覚悟を固める。
という物語は、既に里香の病室にジャンプした4話で終わっていたと思います。

個人的に1話・3話・4話が当たり(最大瞬間風速は3話)、2話がハズレ、5話は悪くないけど4話の焼き直しに近く、少し冗長さを感じました。