評価はA+

270ページの作品だけど、あまりにも切り取りどころが多いため、どういう方向で感想を書こうか迷う。
一つ言えるのは、とんでもない鬱作品であり、力作でもあるということ。

第二次世界大戦が終わって15~20年ほどが経過した時代。
戦争は終わり戦後の荒廃期は脱したものの、戦争によって夫・恋人を失った未亡人が30~40代を迎え、
戦争をほぼ知らない若い世代が無邪気に遊び歩く時代。
そんな新時代にも貧富の差が存在し、貧乏学生の明は金持ち女の恵美子との付き合いを経て借金まみれになり、恋人の容子ともども堕落していく。

この悲劇を陰で操っていたのが黒幕である山瀬。
『戦中世代』の彼は、ビスマルク体制下での外交術をヒントに、人々の運命を弄ぶ遠隔殺人を計画する。

山瀬、明、容子といった下層階級と、麻子、恵美子といった上流階級との経済格差。
そして山瀬たち戦中世代と、明たち戦後世代の格差。
将棋の駒として消費された世代からの、社会への復讐。


ずっしりと重く救いのない話だが、なるほど、作者の怨念を感じる力作だった。