81点
ビリビリ破いてしまいましょう。パチパチ焚(も)やしてしまいましょう。
なぜそうしないのか、疑問です。さすれば誤字も目立たないのに。
長文感想は夜子への愚痴が多いので、夜子ファンの方は回避推奨。







本作、「紙の上の魔法使い」は面白かった、とは思います。
しかし、私が好む物語傾向とは外れていたことも事実。
ここでは、その理由について書いていきます。


☆一本道シナリオのメインが、遊行寺夜子(クリソベリル)であることの辛さ


本作は、一般的な萌えゲー・キャラゲーではありません。
それは始める前からわかっていました。
人の暗い部分を描くため、ある程度ヒロインが『汚れ』役を被っても良いとは思います。
最後の最後で夜子が『告白』ができるくらいには成長するので、どうしょうもない少女の成長物語として、ある程度仕方のない面もあったのでしょう。

しかし……本作の遊行寺夜子へのストレスは強すぎました。


初対面の相手に対して「オマエ」と呼ぶ礼儀のなさ。
顔を合わすたびに「大嫌い・出ていけ」と瑠璃を口撃する品のなさ。
喧嘩をした後、自分が悪いと思っても瑠璃に謝れない幼稚さ。


遊行寺一族の排撃や、毒親である闇子さんが作り上げた、という意味で夜子もまた被害者だとは思いますが、
その闇子さんと、理想のメイドである理央に甘やかされて育った結果が、この無駄に偉そうな小娘、遊行寺夜子の現在です。

月社妃と四条瑠璃を殺し、日向かなたを4年もの間、不幸に陥れたのは夜子の故意ではありません。
夜子がもしも『いい子(注:feeが好む女の子)』だったら、「夜子の故意じゃないよ!」と擁護したかもしれません。
しかし、元々性格ブスな夜子が原因になってこのような悲劇が生み出された……のみならず、それがメインヒロインである(?)、という事実には、なかなか困惑させられました。

このような「汚れ」役を被せられるヒロインならば、せめて日常的にもう少し人好きのする性格に作ってほしかったな、というのが率直な感想になります。


また、最終章のクリソベリルにしても、彼女の悲惨な境遇は最後の最後で明かされますが、
正直『今更そんな事言われても』という気持ちが強いです。
今まで散々不愉快な思いをさせられてきた悪役に、「こういう事情があったんだ」と最終章で言われてもさぁ……。
せめてこのエピソードを中盤に挟むことはできなかったのでしょうか?
どう考えても、『魔法の本を破り捨てる』以外の選択は思いつきませんでした
(物語を読むために、仕方なく『破り捨てない』も選びましたが)




☆各章と他ヒロインについて

2章の「ルビー」はやや退屈でしたが、他ルートに関しては全般的に引き込む力をもっていました。
非常にストレスが溜まる、胸糞な物語ではありましたが、最後までクリックする手が止まらずどんどん読んでしまいました。

個人的には最愛なる妹、月社妃ちゃんがイチオシです。惚れてしまって当然です。

1章では散々だった、日向かなたちゃんの後半の巻き返しにも驚きました。
終盤ではすっかり頼りになる相棒として、瑠璃を支えてくれました。
個人的な好みとして、かなたを異性として好きかと聞かれると難しいですが、背中を預けたくなる女の子です。

伏見理央ちゃんは、悲劇の女の子としてかわいそうでありました。夜子の忠実なメイドとして、どうしてもインパクトは薄くなってしまいますが、とてもいい子だったと思います。

……だから、この3人を抑えて、夜子を選ぶわけがないんですわ……。

家に引きこもって本を読むだけの行為を責めるのはさすがにあれだとは思いますが、
学校も遊行寺家の謎の力で進級できているという恵まれた(?)立場。
対人恐怖症はかわいそうですが、家庭教師なり通信教材なりで学力だけでも最低限保つことはできるでしょうに、それすらしない本の虫。
白髪赤眼の美貌はリアルなら神秘的でしょうが、金髪ヒロインや赤髪ヒロインが咲き乱れるギャルゲ世界ではルックスで他ヒロインの優位に立てるわけもなく。

それでいて瑠璃が好きとか、どうなってるんですか!?
瑠璃が好きなら、せめて愛想ぐらい良くしたらどうですか?
瑠璃はドМなので気にしていないようですが、
読んでいる僕は終始この小娘との会話は苛々させられました。

瑠璃に告白もしておらず、あれだけ感じの悪い小娘が勝手に嫉妬して、かなたや妃を不幸にしていたと考えると片腹痛いものがあるのですが。
最後の告白で、若干救われる部分があったにしろ、
プレイ時間にして何十時間も耐えた末にこの小娘の成長を見せられても……という気持ちです。
(それでも、成長したこと自体は嬉しかったです)


☆どうでもいいが、どうでもよくない誤字脱字

ver1.6のパッチを当てても、ざっと100個以上の誤字があったように思います。
バックログ6行の間に、複数の誤字が収まってしまう事すら2回はありました。

少々の誤字は多めに見ますが、この誤字の多さはプロの仕事だとは思えません。
自分が書いた作品を、書きっぱなしにするのではなく、きちんと推敲してください。
推敲までが、書き手の仕事です。
私ですら、エロゲの感想文(たとえばこの文章)は2回程度は推敲しています。
自作小説を書く際には4回は推敲しています。

自分が書いた文章にある程度の誇りを持ち、他人に読んでもらいたい、他人に伝えたいと思う気持ちがあれば、そのぐらいはしますでしょう?
ライターにとって、この作品は、twitterのツイートや友だちへのLineのような、推敲などせず気楽に書き殴れる程度の愛着しかないのかと、そんなふうに誤解(?)してしまいます。
もちろん、ライターじゃなく校正の方(絶対いなさそう)の仕事でもありますが、この誤字の多さはやはりライター自身が推敲を全くしていないのだと思います。
それは、文章を綴る人間として、あまりにも無責任な態度ではないでしょうか。



☆本に対する愛情が感じられない

僕は、本を読むのが好きです。
この作品を読んだ方も、本(ノベルゲームも、本にカウントします)を読むのが好きな方がほとんどだと思います。

しかし、本作を読んで『本っていいよなぁ』と思う事は一度もありませんでした。
ただひたすら迷惑で災厄をもたらす『魔法の本』によって、被害者が出続ける展開に、
そんなに迷惑な魔法の本は、全部燃やしちまえよ、と思いました(遊行寺汀の立場)

レイ・ブラッドベリの「華氏451度」をはじめ、ディック・フランシス「重賞」、スティーブン・キングの「ミザリー」などの読書を通じて、
本が焼かれるシーンのつらさ・苦しさを経験したことはありましたが、

『こんな本なら燃やしちまえよww』と思ったのは初めての体験でした。
ライター氏は本が嫌いなのでしょうか? そんな事はないですよね?
なんだか、それすら疑ってしまうぐらい、本に対するどす黒さ、底意地の悪さを感じたゲームでした。

良い作品だとは思います。
なにせ、とり憑かれたように、凄い勢いで読めてしまいましたから。

が、個人的にこの作品が好きかと聞かれると、好きにはなれませんでした。