*少年(が抱える恐怖)の心

陽が沈むころ、少年は足早に帰り道を急ぎます。

「今、5キロ先で悪魔が時速100メートルで走り始めた。急がないと、捕まってしまう」
急いで急いで、走って走って、悪魔に見つかる前に駆け込むように家に帰る。そんな経験をしていた子供は私だけでしょうか?

あるいは、「友だちの名前を思いつけば1人につき20歩進める。家に帰るまでに友だちの名前が尽きたら、二度と家に帰る事はできない」。

単純に暗闇が怖い、というだけじゃない。おまじないのように、恐怖を自ら作り出し、怖がってしまう。
私は、そんな子供でした。

キングの小説には、そんな『子供が考え付きそうな恐怖』がぎっしりとつまっています。

もしも、超能力を持つ自分が、見知らぬ大人に追いかけられ続けたら?


もしも、向こうからやってくる犬が突然襲い掛かってきたら?

クージョ

クージョ著者: King Stephen/永井 淳

出版社:新潮社

発行年:1983

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もしも、突然スーパーマーケットの周囲に霧が発生して、霧の向こうから虫が襲い掛かってきたら?


もし、猿のオモチャがシンバルを鳴らすたびに、大切な人が死んでしまうとしたら?


(「神々のワード・プロセッサ収録短編 「猿のシンバル」)

もっと単純に、森の中で大人からはぐれて迷子になってしまったら?


高速道路を走っていたら、廃墟みたいな町に出て、そこの街を頭のおかしな警官が支配していたら?

「デスぺレーション」:なぜか本引用で見つからず。

こうした恐怖と共に生きてきた(であろう)キングは、少年時代への郷愁も当然持ち続けています。



死のロングウォーク

死のロングウォーク著者: King Stephen/沼尻 素子

出版社:扶桑社

発行年:1989

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「スタンド・バイ・ミー」は少年時代の冒険物語、
それを発展させた「IT」は少年+少女1人の子供時代の冒険と、大人になって再会した人種も社会的身分も変わってしまった7人の男女のその後が描かれる、骨太ホラー作品になっています。
*2「死のロングウォーク」も、少年たちが歩き続ける凶悪ホラー作品ですが、
やはり作品全体に青春小説の香りが漂っています。

*(タイトルに『少年』と書いたのは、私が少年で、スティーブン・キングも少年だったから。
少女も同じような思いをしているのかもしれませんが、ここでは問題を単純化して、少年と書きます)

*2 リチャード・バックマン名義ですが、中の人がキングなので、ここにまとめます。


一方「ジョイランド」はホラー要素も少しはありますが、テーマパークでアルバイトする若者の瑞々しい青春小説。

そして極めつけは、タイムトラベル・ロマンスの

11/22/63 上

11/22/63 上著者: 白石 朗/スティーヴン・キング

出版社:文藝春秋

発行年:2016

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いずれも、『キラメキ』への郷愁に満ちた胸が切なくなるような作品群です。

より、シリアスな恐怖

「シリアス」というのは必ずしも=「大人向け」だとか、「面白い」という意味ではありません。
ただ、より身に迫った恐怖として、感じられるのが



妻子持ちでありながらアルコール中毒であり、極貧生活を営む「シャイニング」、そして父親と同じくアルコール中毒になりながらも、酒の誘惑に打ち克つ姿を感動的に描く「ドクター・スリープ」。

また、キング自信悩まされたであろう『頭のおかしい愛読者』を描いた

ミザリー 新装版

ミザリー 新装版著者: スティーヴン・キング/矢野浩三郎

出版社:文藝春秋

発行年:2008

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の3作はより、大人になったキングの、社会生活に根差した恐怖をモデルにした作品だと感じました。

ホラーが巧い作家は、人の心を知っている

これは持論ですが、ホラー作家さんは多ジャンルの作品を描かせても、巧い人が多いです。
国内では小野不由美さん、乙一さん等、
海外ではリチャード・マシスン、レイ・ブラッドベリ、アガサ・クリスティ(短編ではホラーも描いています)、ジョージ・r・r・マーティンなど。

スティーブン・キングも例外ではありません。
既に青春モノのところで取り上げた、「スタンド・バイ・ミー」や「ジョイランド」、「11/22/63」は非ホラーの名作です。

まだ取り上げていない作品としては、読んでいて何度も泣かされた


や、壮大なスケールを持つファンタジー小説


は是非読んでいただきたい作品です。

他にも、『未来予知ができる男』が、『未来の独裁者』を射殺する


なども、非常に掘り下げがいのある作品になっています。

それにしても、デビュー作の1970年代から2010年代まで(そしておそらく2020年代も)精力的に名作を描き続けるキング。

特に、「ミザリー」や「クージョ」、「トム・ゴードンに恋した少女」などは、並の作家なら短編スケールにしかならないであろうアイディアを長編に仕上げてしまうその剛腕には唸らざるを得ません。

「ミスター・メルセデス」(ミステリ)など、他ジャンルにも進出したキングから、ますます目が離せません。

独断と偏見 スティーブン・キング作品 評価(S~E)

死のロングウォーク S
ザ・スタンド    S
グリーンマイル   S
デッドゾーン    S
クージョ      S
11/22/63      S
ジョイランド    S
ファイアスターター A+
ドクタースリープ  A+
IT         A+
キャリー      A
デスぺレーション  A
ミスターメルセデス A
神々のワードプロセッサ A
悪霊の島      A₋
ミザリー      B+
スケルトンクルー  B
ミルクマン     B
シャイニング    B
トムゴードンに恋した少女 B₋
骨の袋       C
ドラゴンの眼    C
ドロレスクレイボーン C
リーシーの物語   C
痩せゆく男     C₋
呪われた町     C₋