敗退が決まった順から。


 ☆アメリカ代表 1勝2分1敗 3得点4失点

 攻撃 B₋ 守備 B 面白さ B₋
 
 個人的MVP MF タイラー・アダムス

今大会のアメリカは、平均25歳代と若いチーム。
2014年以前のアメリカに比べると、やはり若干力が衰えているが、これからの成長が楽しみなチームでもある。

個人的に見てきた中では、ランドン・ドノバンとジョジ―・アルティドール、クリント・デンプシーがいた2010年大会がアメリカ代表のベストチームだった。
2014年はドノバンが抜け、デンプシーの孤軍奮闘が目立つ斜陽の雰囲気を感じさせたが、とうとう予選敗退で不参加に終わった2018年を経て、
今大会は新たな世代の選手たちがスタートを切った。

アメリカ史上最高傑作、と何度も紹介されていたプリシッチは確かに好選手だが、
今大会のアメリカ代表ではドノバンほどの存在感はまだ持ち合わせていない。

だが、両SBからのオーバーラップ、特に右サイドバックのセルジーニョ・デストが絡むアメリカはそこそこの威力を持っており、アダムス、マッケニー、ムサ(ムサはイマイチだったが)で形成される中盤は、高精度のロングパスで左右にボールを蹴り分けていた。

イングランド、ウェールズ、イランと、『受動的な』サッカーを展開するグループBのチームの中で、唯一アメリカだけが『能動的に』ゲームを仕掛けていたのは好感が持てた。
後はクオリティがどこまで伴うか、である。


☆ オーストラリア代表 2勝2敗 4得点6失点

攻撃 C 守備 C+ 面白さ C₋
個人的MVP MF マシュー・レッキ―

日本ゆかりの選手と監督がいる事から、恐らく日本でも応援されたであろうオーストラリア。
特にファジアーノ岡山でプレイするデュークは、エースストライカーとしてチュニジア戦で見事なヘディングゴールを決めた。

オーストラリアの攻撃は、基本的にレッキ―&ベヒッチの左サイドである。
しかし、アルゼンチン戦では相手をリスペクトしすぎたのか、臆病な引きこもりサッカーに終始。
こうなると、レッキ―やベヒッチの単独突破ではほぼチャンスが作れず、
ずるずると1-2で敗北を喫する事になった。

中盤のムーイは有能な司令塔だが、彼の能力を活かせるようなシステムでなかったことも残念だ。
まぁ、相手がアルゼンチンなので仕方ない面もあるのだが、
果敢にハイラインで挑んでぶつかっていったサウジアラビアは金星をあげ、
中盤からハードプレスをかけたメキシコは、敗北こそしたがアルゼンチンを苦しめた。

オーストラリアにメキシコのようなサッカーはできないのだろうが、サウジアラビアにできたことは
オーストラリアにもできたはずだ。
そうした積極性が見られず、ブロック守備に逃げた事が、個人的には残念である。


☆ ポーランド代表 1勝1分2敗 3得点5失点

攻撃 D 守備 B+ 面白さ D
個人的MVP GKヴォイチェフ・シュチェスニー

「レバンドフスキの持ち腐れ」「予選番長」。
Euro12・16・20、ワールドカップ18・22。

ポーランドの印象は監督が代わっても、まるで変わらない。
レバンドフスキという世界有数のストライカーがいるため、どうしても「レバンドフスキのチーム」という紹介をされがちだが、彼がメジャートーナメントで輝いたことは一度もない
彼が悪いのではなく、そもそもレバンドフスキにボールが届かないのだ。
彼はエムバペやメッシのような、一人で何でもできる選手ではない。
純粋なフィニッシャーであり、それも決定力抜群の傑出したフィニッシャーだ。

しかし、ポーランド代表のサッカーはいつだって、重心が低い超守備的な面白みの欠片もないサッカーだ。
ゴール前のレバンドフスキにボールを届ける、チャンスメイカーがいないし、いても起用されない。
リスクは冒さず、サイドバックのオーバーラップはほぼなく(フランス戦前半のベレシンスキぐらい)、アルゼンチンどころかメキシコ相手にも腰の引けた戦い方でスコアレスドロー。
結果的に、人数をかけた強固な守備とGKシュチェスニーの2本のPKストップがあって、チームはベスト16にたどり着いたが、そこまでだった。
4試合で3得点という数字自体も少ないが、うち2点は微妙な判定によるPKと、相手のあまりにも軽率なパスミスをもらってのプレゼントゴール。
文句なしのゴールは4試合で1ゴールのみ。

前回大会の日本戦でも1-0勝利でOKということで、日本の時間稼ぎに付き合ってあげたポーランド。
(もちろん日本が悪いのだが、貪欲なチームなら2点目を狙いに行くべくプレスをかけても良いはずだ。現に今回のスペインは、予選突破がほぼ確定した後でも攻撃をしていた)

今回も、アルゼンチン戦ではメキシコVSサウジアラビアの結果を神頼みしつつ、0-2敗戦を受け入れてリスクを冒さないポーランド(それが結果的には良かったのかもしれないが)。

こんなサッカーしか見せられないポーランドが、毎大会厳しい欧州予選を勝ち上がってくるのは、メジャートーナメント七不思議(語呂がいいのでつけたけど、他の6つは知らない)としか言いようがない。


☆セネガル代表 2勝2敗 5得点7失点

攻撃 B₋ 守備 B₋ 面白さ B
個人的MVP FW イスマイラ・サール

ワールドカップを決めた、エジプトとのPK合戦、セネガルファンによるレーザーポインターの妨害で奪い取った出場権。
大黒柱マネの負傷欠場。
ネガティブな要素は盛り沢山だったが、「エジプトが出るよりもセネガルが出て、良かったのかもしれないな」と思わせる程度には、良いパフォーマンスを見せ、大会を盛り上げてくれた
(それでもレーザーポインターは論外だが)。

右サイドのサールをメインにした縦に早いサイドアタックが最大の武器で、オランダを相手にも果敢に立ち向かった。
最後にはイングランドに力の差を見せつけられ敗退してしまったが、ベスト16進出は上出来だろう。
エドゥアール・メンディ、クリバリといったビッグネームはともかくとして、個人的に気に入ったのが前述のサールと、DFのヤコブス。

後は、応援団(S、E、N、E、G、A、Lの謎の7人組)が魅力的で、彼らの姿が今大会はもう見られなくなるのは残念だ。


☆日本代表 2勝1分1敗 5得点4失点

攻撃 D(前半)→B+(覚醒時) 守備 B₋ 面白さ C→A₋(日本代表バイアスではA+)
個人的MVP MF 遠藤航

「ジキルとハイド」のような二面性を持ったチームだ。
前半、先制されるまでは基本的に眠っている。
後半になると、サイドアタッカー達の投入と共に突如目を覚まし、次々と強国からゴールを奪うのである。

「1点差で負けている」という状態でのみ発動する特殊モードは、ドイツ、スペインを慌てさせた。
しかし、このモードに入るためには「負けていないとダメ」というのがクロアチア戦でわかってしまった。
コスタリカ戦では、終始寝ぼけたようなパフォーマンスのまま1失点して敗れたが、この時は既に後半35分で起きる前に試合が終わってしまった。
クロアチア戦では、なまじ前半に先制してしまったばかりに森保監督の動きが鈍り、サイドアタッカー投入を小出しにした結果、後半も終始クロアチアにペースを握られた。
(久保が使えず、堂安を先発にしたため、『覚醒用キー』の1枚が抜けたのは痛かったが、相馬などでも悪くなかったのでは?)

覚醒した際のサイドアタックの威力はすさまじいものがあり、浅野が、堂安が、そしてとりわけ三苫が違いを産み出した。
また、前半からの投入組である前田は「最前線のディフェンダー」として走りに走り倒し、1ゴールもきちんと奪ってみせたし、非常に使い勝手が良い伊東は、クロアチア戦でも120分間運動量が落ちる事はなかった。

個人的MVPは堂安、三苫、前田、遠藤と悩んだが、最終的に遠藤を選んだ。
中盤での強さは圧倒的で、ドイツやクロアチアの選手を相手にしても一歩もひかず、ボールを奪取した。
その後のライン裏を狙うスルーパスも(本職パサーとは比べられないものの)何本も通し、欧州の強国とも互角に戦える日本の個の強さを改めて印象付けた。


問題点ももちろん幾つもある。
まず、「覚醒モード」に入る条件が厳しい事だ。
しかもクロアチアのように、日本のプレスをかわすために敢えてロングボールを蹴ってこられるとたちまちピンチに陥る。

クロアチアのダリッチ監督は、日本を研究した上で普段なら繋ぐシーンでもロングボールを多用するよう指示を出したそうだ。
奇策は二度までは通じたが、果たしてこれを日本サッカーのスタンダードとし、4年後も同じサッカーで挑むのかと聞かれると首を傾げざるを得ない

このサッカーは、テスト前の一夜漬けのようなものだ。
目の前の課題に対処するためのものであって、長期的に使用できるプランではない

たまたま、ドイツ、スペインとポゼッション型で前傾姿勢なチーム(特にドイツ)とぶつかったから
功を奏したのであって、同じ強豪国でもたとえばフランスを相手に同じことはできないだろうし、
同格のチームであるコスタリカ相手にも負けてしまっている。
もちろん、ベスト16に向けて、ドイツ・スペインを倒す最善策としてスカウティングの勝利だったのは確かだが、毎大会、付け焼刃的な対処療法で臨むわけにもいくまい。

と、冷めた事を書いたが、大会前は日本がグループリーグを突破できるとは思いもしなかった。
2大会連続のベスト16というのも快挙である。
もちろん、『新しい景色(ベスト8)』が見たい気持ちはあるし、そのチャンスが巡ってきたときには果敢にチャレンジしてほしいが、
まずはメキシコのような『ベスト16【以上】常連国』の地位を手に入れられたら、世界のサッカーにおいて日本はますます無視できない存在になるだろう。


☆韓国代表  1勝1分2敗 5得点9失点

攻撃 B+ 守備 C 面白さ B+
個人的MVP FWチョ・ギュソン

アジア勢の中では最も攻撃的。
丁寧にパスを繋ぎながらのポゼッションサッカーに挑んだチームだ。
堅陣を崩せず0-0に終わったが、ウルグアイ相手にもボールを持っていたのは韓国だった。
ガーナを相手に派手な打ち合いを演じ、二軍のポルトガルに勝ってベスト16進出。
得失点差でウルグアイと並んだが、引きこもるだけだったウルグアイを得点数で上回り、突破を決めた。

トーナメント初戦は優勝候補筆頭の強国ブラジル。
そこにも臆せず、立ち向かっていった韓国は見事に粉砕された。
勝利の可能性は1ミリも感じられない、これぞ力負けという試合。
しかし、セルビア、スイスが枠内シュートすら打てなかったのに対し、韓国はブラジルに6本の枠内シュートを打ちこみ1ゴールを決めてみせた。

格上相手の試合でも愚直に自分たちのやり方を貫き通し、見ごたえのあるサッカーを見せてくれた韓国。
一方で、唯一の勝利は二軍のポルトガル相手だったこともまた事実ではあった。



☆スペイン代表 1勝2分1敗 9得点3失点

攻撃 A₋ 守備 A₋ 面白さ A
個人的MVP FW アルバロ・モラタ

戦犯はルイス・エンリケ監督だ。

第一の罪は、
大会前からの課題である、引いた相手を崩しきる術を最後まで持ち合わせなかったのはまだしも、
ボルハ・イグレシアスやイアゴ・アスパスといったストライカーを呼ばず、
『0トップ』に固執し、『1トップ』要因がモラタ1人だけだったのは、絶対に点が欲しい状況において間違いなく不利に働いた。
彼が期待して呼んだアンス・ファティはコンディション不良で、使い物にならず、それならイグレシアスあたりを呼んでおくべきだった。

第二の罪は、右サイドバックの謎のマルコス・ジョレンテ起用。
彼がこのポジションでフィットしないのは去年のEUROで散々思い知ったはずではなかったのか。
そもそも予選リーグで先発したアスピリクエタのパフォーマンスが良く、
カルバハルも及第点の出来を見せていただけに、なぜこの2人を差し置いてマルコス・ジョレンテなのか。

ペドリは疲労もあったのか大会を通して輝けず、本来的に運動量の多いガビをソレールに代えた采配も意図不明。
ニコ・ウィリアムズの途中投入はアリだったが、PK要員として投入したであろうサラビアがPKを外してしまっては、投入した甲斐もない。
PK要員自体を否定するつもりはないが、せめて15分程度は出場させ、試合に乗らせてあげるべきだったのではないか。

ポゼッション支配と、0トップ。それにこだわりすぎたのがスペインの失敗であることは明白だ。
去年までのマンCのように、リーグ戦でならスペインは高い勝率をマークできるだろうと思う。
しかし、一発勝負のトーナメント戦を勝ち抜くには、最低もう1枚、別のプランを用意しておくべきだった。
少なくとも、召集しておいて、全く使われなかったジェレミー・ピノ、最後のPK以外に出番のなかったサラビアよりも、入れるべき選手は他にいたはずだ。



☆スイス代表  2勝2敗 5得点9失点


攻撃 B+ 守備 B₋ 面白さ B+
個人的MVP GKヤン・ゾマー

スイスはパスを丁寧に繋いでいくポゼッションスタイルのチームだ。
両サイドバックのリカルド・ロドリゲスとヴィドマー(前任者はリヒトシュタイナー)も、時期を見て精力的に攻め上がる。
前任者ペトコビッチ監督の頃からは確実にこのサッカーをやっている。
記憶では、その前のヒッツフェルト監督末期の頃から既に今のスタイルに着手していたはずだ。

と、何度言ってもテレビ局の人たちの認識は変わらないらしい。
ちなみにポルトガル戦でもポゼッションは53%でわずかながらスイスが上回っている。

だが、もちろんポゼッションで試合の勝敗が決まるわけではない。
それをゴールに結びつけるFWがいないというのは、スイスの長年の悩みだ。
今大会のFWエムボロは4試合で2ゴールと及第点の働き。
しかし、頼れるエースと呼ぶには程遠い。

そこで、以前は圧倒的な『個』であるシャキリがその足りない部分を補っていたが、
それでもワールドカップはベスト16止まり。
そのシャキリも(年齢的にはまだ老け込む年齢ではないのだが)衰え、頼れる一撃がなくなった。

今まで丁寧に構築してきたサッカーは一朝一夕で崩れるものではない。
シャキリを除いて、世代交代も順調に進んでいる。
ただ、このサッカーを突き詰めても万年ベスト16で、それ以上に進むのは難しいとも感じるスイスの戦いぶりだった。
万年ベスト16でも十分凄いのであるが。

個人的MVPは特になしにしようかとも思ったが、一応ゾマーを選んだ。
最後のポルトガル戦の6失点のインパクトから、選ぶのには躊躇をしたけれど。