レイモンド・チャンドラーのファンの方は、読まないでください!

前おき

この度、レイモンド・チャンドラー作品を再読したため、前回は総論を書いた。

さて、今回は彼の長編デビュー作「大いなる眠り」である。

レイモンド・チャンドラーの作品は基本、起承転結の『起』と『結』だけがあって、『承』と『転』が欠けた欠陥シナリオだ、とは以前書いたのだが、このデビュー作はまさにそれを地で行く作品になっている。

あまりに複雑なため、僕の読解力不足の可能性もゼロではないのだが、
僕の読解力を槍玉に上げるか、チャンドラーの構成力を槍玉に挙げるかは、皆さんの判断に任せたい。

人間はとかく自己正当化しがちな生き物なので、僕はこの作品を駄作と断定する。異論は認める。

あらすじ

チャプター3まで【起】

ある日、スターンウッド将軍が探偵フィリップ・マーロウの元に訪ねてくる。
将軍家は石油で財をなしている。
カーメンの博打に対する脅迫状がスターンウッド将軍の元に届き、マーロウが調査を依頼される。
ここで、僕が考えるこの作品のメインキャラを紹介しておく。

長女
・ヴィヴィアン
夫のリーガンが失踪している。
リーガンは酒の密売人。妹と同じくギャンブル狂でエディ・マーズの店でいつもルーレットで大金をスッている。
多分セクシー美人。黒髪。

次女
・カーメン
すぐに男を誘惑する性欲過剰な女。すぐに脱ぐ。
(しかし映像がないので、カーメンの裸は想像……妄想するしかない。悲しい)
思い通りにならないとすぐキレる。
「私ってキュートよね」「あなたってキュートね」が口癖で、かなりバカっぽい。
麻薬常用者で、イっちゃってるセクシー美人。なお金髪。
博打で借金。

簡単に言ってしまえば、ヴィヴィアンの夫の失踪事件と、
カーメンが博打で借金している事。
2人の娘はかなりの問題児で、
年老いたパパが2人を心配している事さえわかればそれでいい。

はず……なんだが……そんな読み方をすると、意味がわからなくなるので注意。
いや、どんな読み方をしても意味がわからなくなるから同じか。

チャプター7まで

ここから話が混線というか脱線していく。

まずマーロウは、カーメンをゆすっていた、強請屋のガイガーを尾行する。
ガイガーの隣の本屋の女(アグネス)やら、何やらから聞き込みをする

(ちなみに、ガイガーは本書で大きな役割を占めているわけでもない。
魅力的なキャラでもない
そういうところが、どうにも退屈してしまうのである)

ようやくガイガーが見つかったが、どこからか車で現れたカーメンがガイガーを銃殺した

チャプター12まで

殺人を犯したカーメンをスターンウッド家に送る。

ガイガー家に戻るとガイガーの死体が消えていた。

バーニー・オールズ(保安官?)から電話がかかってくる。
スターンウッド家の車が砂浜で見つかり、男の死体が発見されたという。
死体はスターンウッド家の運転手オーエンだった。

その後、なんやかや暴力的な輩とやり取りがある(適当に読んでしまった)

ますます混迷する事件と、死体の山

ヴィヴィアンが翌日訪ねてくる。
カーメンの全裸写真が送られてきて、またもや強請られたらしい。
ヴィヴィアンに誘惑されるが、マーロウはスルーする。

(スルーするなよ、もったいないw
でも多分、大金の誘惑にも、美女の誘惑にも手を出さず、我が道をゆくのがマーロウが好かれるところなんだと思う。
僕にはよくわからないけど)

今度はカーメンが訪ねてくる。
ジョー・ブロディという男がカーメンのヌード写真で強請りをしているらしい

(正直この辺もどうでもいいんだよなぁ。
「大いなる眠り」って、探偵マーロウ・老将軍・長女ヴィヴィアン・失踪した夫のリーガン・次女カーメン
の5人以外はメインプロットでも何でもないし、どうでもいいだろ……)


サブプロットと言えば聞こえは良いが……。
エディ・マーズというヤクザ(賭博場の主。部下のガイガーを使って強請らせていたのも彼)と対決、
そして次には別件の強請屋のブロディと対決する。
ガイガーの本屋で働いていたアグネスも敵として登場。
そんなこんなで気づいたらブロディは死んだ

さて、ブロディを殺したのは、『てめぇでファックしやがれ』しか言えない低能のゲイ、キャロル(こいつの存在意義あるんか?)
ガイガーの死体を隠したのも彼だった。
ガイガーの恋人だった彼は、ブロディがガイガーを殺したと思い込み、かたき討ちとばかりに、キャロルはブロディを殺したのだった。

もうこの辺になると「てめぇでファックしやがれ」としか言いようがない。
どうでもいい理由で人が死にすぎだから。
一体何人死ぬんだよww

その後もマーロウは、よくわからない奴らと関わったり、なんだりする。
賭博場を開いているエディ・マーズと、マーズに借金をしながらギャンブル狂いのヴィヴィアンとの関わりを知る。
ヴィヴィアンが、父の将軍を案じている事を聞く。
ヴィヴィアンがマーロウをまた誘惑するが、マーロウはキスだけを許し、それ以上は拒絶する。

マーロウが帰宅すると、カーメンが勝手にベッドに入って全裸で待っていた。
しかしマーロウはまたも拒絶し、追い出した。

マーロウをずっと尾行していた男を、遂にマーロウは捕まえる。
ハリー・ジョーンズという、ブロディの友人だった。
その後、カニーノとかいうギャングが唐突に現れ、ハリ―・ジョーンズを殺した(お前誰だよ)
(完全に話についていけなくなっているw)

マーロウはエディー・マーズの妻モナの居場所を突き止めるが、逆に捕まってしまう。
(??? マーロウが依頼されていたのはラスティ・リーガンを探す事ではなかったはずだし、
ヴィヴィアンもカーメンも関係ない気がするんだが、どうしてこんな展開になってるんだ??)

危機一髪のところを無事脱出し、マーロウはカニーノを殺す

結末

将軍に呼ばれ、将軍から改めてラスティ・リーガン(ヴィヴィアンの元夫)捜索の依頼を受ける。

カーメンが現れる。
カーメンが射撃の練習をしたいと言い、油井を二人で散策する。
マーロウがカーメンに銃を渡すと、カーメンは的ではなく、マーロウを狙う。
しかしマーロウは事前に弾丸を抜いていたので無事だった。
カーメンは銃を持つと発作で人を撃ちたくなるのだった(なんだそりゃ!)

ヴィヴィアンが現れ、真相をマーロウが推理する。
失踪中のヴィヴィアンの夫リーガンを、カーメンは誘惑した
しかし、リーガンがスルーしたので、カーメンは彼を銃殺したのだった。

ヴィヴィアンに、カーメンを精神病院に入れるように約束させ、マーロウは去った。

「大いなる眠り」(死)についた人々

被害者1:ラスティ・リーガン←犯人:カーメン
動機:誘惑したのにノッてこなかったから

被害者2:ガイガー←犯人:カーメン
動機:自分を強請っていたから???

被害者3:オーエン←犯人:……誰!?
動機:??????

被害者4:ブロディ←犯人:キャロル
動機:勘違い。「てめぇでファックしやがれ」

被害者5:ハリー・ジョーンズ←犯人:カニーノ
動機:「俺様をナメるんじゃねぇ!!」(?)

被害者6:カニーノ←犯人:フィリップ・マーロウ
動機:生き延びるため。正当(?)防衛

殺人未遂:フィリップ・マーロウ←犯人:カーメン
動機:誘惑したのにノッてこなかったから

感想

繰り返すまでもないが、本作はスターンウッド家のヴィヴィアンとカーメンの姉妹、そしてヴィヴィアンの失踪した夫リーガンが主軸になっていると思う。
そのカーメンを、エディ・マーズだのガイガーだのブロディだのが強請っていた、というのはまぁあってもいいけれど、枝葉というか、なくてもいい部分。
まして、「てめぇでファックしやがれ」しか言わない不快なキャロルや、
唐突に現れたカニーノなどは、ただただ話をややこしくしているだけで
本筋に関わっているとは到底言えない。

必要な部分を抜き出せば、事件はシンプルで、多分100ページぐらいで終わるのに、意味の解らないヤクザの抗争でページを水増しして強引に長編にしているようにしか思えない。

本作はチャンドラーのデビュー長編であり、世間での評価は高くもなく低くもないといったところのようだが、
個人的には駄作中の駄作。
(というか、チャンドラー作品は駄作だらけだと思う。
単に僕がチャンドラーと合わないだけとも言えるけど)

余談だが、本作のカーメンも含め、美女が悪役のケースが多いチャンドラー作品。
しかし、リアルでのチャンドラーは奥さんを亡くしてしまったことが原因で、すっかり塞ぎ込んでしまい、その後も立ち直るのに多大な年月を要した、愛妻家だった。

フィリップ・マーロウなら、最愛の人が死んでも立ち直ってやっていけそうだが、チャンドラーには無理だったのだ。

次回、「リトル・シスター」に続く???


映画版「三つ数えろ」感想

なぜこんな邦題にしたのか謎だけど、ハンフリー・ボガード主演のモノクロ映画を見ました。

相当とっちらかってる原作を、カーメン周り以外は割と忠実に映画化して、一応観られる出来になっていますね。
すぐ脱ぎたがるカーメンの狂気を描くのは、15禁映画にしないと無理なので、仕方ないかなと思います。
ヴィヴィアンが原作以上にまともな女になっています。
原作で一番盛り上がるカーメンとの決闘(?)シーンがないのは物足りないですが、その分そこまでのストーリーがわかりやすくなっているので一長一短かなと思います。

後は1946年の映画なのに、女性タクシー運転手が出てくるのは、日本では恐らく考えられない事なので、
アメリカは進んでいるなぁ(日本は遅れている)と思いました。
今でこそ女性タクシー運転手も時折いますが、僕が子供だった頃にはいませんでしたからね。女性の車掌さんもそうですが。