本・映画などなど

備忘録 ヒューゴー・ネビュラ・ローカス長編部門

備忘録的に、ヒューゴー、ネビュラ、ローカス(SF部門)の長編リストを書いてみる。

既読は赤字未読だけどほぼ確実に既読する予定なのは斜体A評価以上のお気に入りは赤太字
()内はつぶやきです。


英字は、読んだ「お気に入り度」。S~D評価です。

「お気に入り度」であって、「普遍的な面白さ」ではないこと、
僕は「生粋のSFファン」ではなく、文系脳(理系わからん)なため、
『物語・ドラマ』としてSFを読む傾向にあることも強く言っておきます。
(ファンを敵に回したくない……)

要は、自分が後で見たときに振り返れるようにというのと、
読者の方に「こいつはこういう作品が好きなのね」と知ってもらえればいいかなと。

リストはWikipedia丸写し。
作者名は本来入れるべきなんですが、手間が単純に二倍に膨れ上がったので割愛。ごめんなさい。


なお、賞受賞=面白さ、だとはこれっぽっちも思っていません。
現に僕の好きな作家はあまり賞をとっていないので……。
にも関わらず、やはり受賞作品は気になるというw

せっかくなので、ヒューゴー・ネビュラ・ローカスを軸に、
世界幻想文学大賞、キャンベル記念賞、英国SF協会賞、クラーク賞、ディック賞も補足として追加。
(世界幻想文学大賞はともかく、SF系の賞ってめっちゃありますね。どの賞が凄いんだかよくわからん……)

 
1953~1965はヒューゴー賞のみです。

1953  「分解された男」 B+ (同じベスタ―の「虎よ、虎よ」よりもとっつきやすいと思う)
1955  「ボシィの時代」
1956  「ダブルスター」 D   
1958 「ビッグタイム」 
1959 「悪魔の星」
1960 「宇宙の戦士」 B (右翼的な作品、らしいけど、どちらかというと左な僕が読んでも楽しめました)
1961 「黙示録3174年」
1962 「異星の客」 
1963 「高い城の男」 C-(フィリップ・K・ディックなら「ユービック」と「スキャナーダークリー」が好み)
1964 「中継ステーション」 B+ (シマックなら「都市」が最高に好きです。本書は後半の失速さえなければ)
1965 「放浪惑星」  (ライバーは「魔の都の二剣士」が好きですね)



1966~1970はヒューゴー・ネビュラのみです。

1966 ヒ・ネ 「デューン 砂の惑星」 C-

1967 ヒ「月は無慈悲な夜の女王」 D(ハインラインは「ラモックス」みたいな、小動物を描いた作品が好き)
    ネ「バベル17」 
    ネ「アルジャーノンに花束を」  (あまりに有名で今さらですが、いいものは良いです)


1968 ヒ「光の王」 
    ネ「アインシュタイン交点」 D(ディレイニーは許してくれ……読解力のない俺には良さがわからん……)

1969 ヒ「未訳」
    ネ「成長の儀式」

1970 ヒ・ネ「闇の左手」 B

ここからローカス賞登場。

1971 ヒ・ネ・ロ「リングワールド」 

1972 ヒ「果てしなき河よ我を誘え」 D(ファーマーは「恋人たち」が大好き。でもこの作品は正直駄作だと思う)
    ネ「禁じられた惑星」 C+
    ロ「天のろくろ」(ル・グィンはそこそこ好きなので読むかも)

1973 ヒ・ネ・ロ「神々自身」 B-(「永遠の終わり」とか「鋼鉄都市」「はだかの太陽」とかが大好き。なぜこれ?)

1974 ヒ・ネ・ロ「宇宙のランデヴー」 D *英国SF協会賞、キャンベル記念賞受賞

1975 ヒ・ネ・ロ「所有せざる人々」 C

1976 ヒ・ネ・ロ「終わりなき戦い」 C(トリプルクラウンが続きますねぇ。リスト作るのは楽ですが)

1977 ヒ・ロ「鳥の歌いまは絶え」(これ、読みたいんだけどサンリオSFで読めない!)
    ネ「マンプラス」 B+(同著者の3冠作品「ゲイトウェイ」よりも、本書の方が遥かに好き)

1978 ヒ・ネ・ロ「ゲイトウェイ」 C *キャンベル記念賞受賞

1979 ヒ・ネ・ロ「夢の蛇」 B

ここからローカス賞が2つに分かれます。便宜上SF部門のみ書きます。
ヒューゴー・ネビュラ賞とローカス賞ファンタジー部門が被った時だけ、『ロファ』表記をつけておきます。
また、ネビュラ賞は大幅に集計期間が違うみたいです。


1980 ヒ・ネ「楽園の泉」 C- (クラークは「都市と星」とかが好きなんだけどなぁ。「ランデブー」や「楽園」はあまり)
    ロ「ティーターン」

1981 ヒ・ロ「雪の女王」
    ネ「タイムスケープ」 C-

1982 ネ・ロファ「調停者の鉤爪」(「警子の剣」も、翌年ローカス賞ファンタジー部門受賞)
    ヒ「ダウンビロウステーション」
    ロSF「多彩の地」

1983 ヒ・ロ「ファウンデーションの彼方へ」 B-
    ネ 未訳

1984 ヒ・ネ・ロ「スタータイドライジング」 

1985 ヒ・ネ「ニューロマンサー」  *ディック賞受賞
    ロ「インテグラルツリー」 

1986 ヒ・ネ「エンダーのゲーム」 A
    ロ「ポストマン」 B- *キャンベル記念賞受賞

1987 ヒ・ネ・ロ「死者の代弁者」 A-(オーソン・スコット・カード、二作続けて気に入りました)

1988 ヒ・ロ「知性化戦争」 A
    ネ「落ちゆく女」

1989 ヒ・ロ「サイティーン」
    ネ「自由軌道」 

1990 ヒ・ロ「ハイペリオン」  
    ネ「治療者の戦争」

1991 ネ・ロファ「帰還―ゲド戦記最後の書」(実はゲド戦記は3巻途中で止まってる。いきなりこれ読んでもなぁ)
    ヒ 「ヴォルゲーム」 B-
    ロSF「ハイぺリオンの没落」  B- *英国SF協会賞

1992 ヒ・ロ「バラヤー内乱」 B+
    ネ「大潮の道」 

1993 ヒ・ネ・ロ「ドゥームズデイブック」 A-
    ヒ「遠き神々の炎」  B

1994 ヒ・ロ「グリーンマーズ」  
    ネ「レッドマーズ」 C *英国SF協会賞 (同じシリーズですが、ネビュラだけレッドなんですね)

1995 ヒ・ロ「ミラーダンス」 B-
    ネ「火星転移」

1996 ヒ・ロ「ダイヤモンドエイジ」 C+
    ネ「ターミナルエクスペリメント」 B+

1997 ヒ・ロ「未訳(ブルーマーズ)」(レッドとグリーンは訳したのに、なんでこれだけ未訳やねん)
    ネ「スローリバー」
 
1998 ヒ・1999ネ「終わりなき平和」 C *キャンベル記念賞受賞
    ネ「太陽と月の妖獣」(1998年のネビュラ賞はこちら。1999年のネビュラ賞が「終わりなき平和」)
    ロ「エンディミオンの覚醒」 (「エンディミオン」、まで読んで気に入れば)

1999 ヒ・ロ「犬は勘定に入れません」 
    ネ 1998年参照(「終わりなき平和」)

2000 ヒ「最果ての銀河船団」 A *キャンベル記念賞受賞
    ネ 未訳
    ロ 「クリプトノミコン」

2001 ヒ「ハリーポッターと炎のゴブレット」 B(「アズカバンの囚人」はローカス賞ファンタジー部門受賞)
    ネ 「ダーウィンの使者」(グレッグベアは「ブラッドミュージック」が好きだった。こちらも読む?)
    ロ「言の葉の樹」 D
 
2002 ヒ・2003ネ「アメリカンゴッズ」 C
    ロ「航路」 B
 
2003 ヒ「ホミニッド―原人―」 A-
    ネ2002年 参照(「アメリカンゴッズ」
    ロ 未訳

2004 ヒ・2005ネ・ロファ「影の棲む城」 B+
    ネ「くらやみの速さはどれくらい」 B
    ロSF「イリアム」 B+

2005 ヒ「ジョナサン・ストレンジとミスターノエル」 *世界幻想文学大賞 D
    ネ 2004年参照(影の棲む城)
    ロ 未訳

2006 ヒ「時間封鎖」 B
    ネ「擬態―カムフラージュ―」 B+
    ロ「アッチェレランド」

2007 ヒ・ロ「レインボーズエンド」  D
    ネ「探索者」

2008 ヒ・ネ・ロ「ユダヤ警官同盟」 C

2009 ヒ 「墓場の少年―ノーボディ・オーエンズの奇妙な冒険―」
    ネ「パワー」
    ロファ 「ラウィーニア」(ロSFは未訳なのでこちらをとりあえず紹介。ル・グィンなので読むかも)

2010 ヒ・ネ「ねじまき少女」 D *キャンベル記念賞受賞
    ヒ・ロファ「都市と都市」  *世界幻想文学大賞、クラーク賞、英国SF協会賞 C+

2011 ヒ・ネ・ロ「ブラックアウト」「オールクリア」 B+

2012 ヒ・ネ「図書室の魔法」 A
    ロ「言語都市」
 
2013 ヒ・ロ「レッドスーツ」
    ネ「2312――太陽系動乱――」

2014  



以上です。
1950~70年代のSFは賞とか関係なく、そこそこ読んだつもりです(無論、読書家の方には負けますが)。
1980年代~現代まで、まずは賞を中心に読みながら、話題作や気になった作品など
外堀りを埋めるように読みたいんですが、こうして見ても先は長いですねぇ。
賞を取らずとも、オールタイムベストSFに名前が上がらずとも、面白い作品はきっとたくさんあって、
それらに出会えるぐらいアンテナを高めたり、数多く読む余力があるかどうか。

SF以外にも、恋愛小説、ホラー小説も大好きだし、ミステリや純文学、ラノベなどなど、ジャンルは山ほどあるしなぁ……。
もちろん読書以外にも、ゲーム、映画、テレビドラマ……キリがないのでやめよう。 

昨日の「セカイ系」云々と「君の名は」のお話(ネタバレあり)

この記事は、ある一定期間が経てば消すかもしれません。
元々Twitterでやろうと思ったんですが、あまりに長くて連ツイになってしまうので、文字数制限のないブログに書きました。
ただ、別に長く残しておきたいものでもないので、ある程度の方……最悪キバヤシさんに届けば(あるいは、キバヤシさんに興味がない事がわかれば)それで十分なのです。
以下、Twitterで書いた文章になるので、ブログに載せるレベルの文章にはなっていませんが、
(要は殴り書きのまま)、とりあえずそのまま載せておきます。

キバヤシさんのブログ記事はこちら。(こちらも、「君の名は」のネタバレがあります)

↓以下、Twitterに書こうとした文章をそのまま。



ちなみに、僕が昨日セカイ系についてあーだこーだ言ったのは、元々atakさんが
「見た範囲で『君の名は』の6割ぐらいの感想(後に、3割ぐらいかもと訂正。どちらにしろ多い)が、セカイ系という単語を含んでいる」というツイートに疑問を持ったのが一番大きくて、
キバヤシさんの「爽やかセカイ系」というツイートへの反発は大してなかった事を先に書いておきます。
ただ、atakさんのツイートでモヤモヤしていたところに、キバヤシさんのツイートを見たので、そのタイミングで連ツイしたのは確かです。その辺の慎重さに欠けたため、少し誤解をさせてしまったかもしれません。
あの連ツイは、キバヤシさんへの攻撃ではないつもりです……。


個人の感想は個人の感想で良いんですよ。
でも3割もの人がそう言ってるなら、それはどうなのかなぁっていう事です。
ここからは、キバヤシさんに(直接ではないものの、恐らく)反応をいただいたと思うので、それに絡めての話をしますね。


僕がキバヤシさんの感想に引っかかったのは、「セカイ系」という単語を『肯定的に』使っているように、『誤読』したからです。
 
キバヤシさんは「『君の名は』良かったよ」→「見終わった直後は良かったと思ったけど、脚本適当じゃね?」→「『君の名は』は、爽やかセカイ系」というツイートをなさっているんですが、(僕がfavしているにも関わらず!)「脚本適当じゃね?」が記憶になくて、「爽やかセカイ系で良かった」という風に誤読したのが要因です。
 
僕は「セカイ系」という単語は、冷笑的なニュアンスを持つ、分析的な単語だと勝手に思っているので、「好きな作品は、『でも、これってセカイ系だよね:笑』」みたいな事を思わずに、素直に楽しめばいいのになぁというお節介心によるものです(厨二作品、という単語でも多分同じ反応を示します。ただし、僕が厨二作品を気に入ることはあまりない→どうでも良い作品に対しては、あまり反応しないかもしれません)。
 
 
で、キバヤシさんのTwitterと、新しく書かれたキバヤシさんのブログ記事を読ませていただいた結果、
「セカイ系という単語を、否定的に使っていた」事が解ったので、疑問は氷解しました。
僕の引っかかりはほぼ取れた事を書いておきます。


キバヤシさんの仰る「セカイ系」の感覚と、僕の考えている「セカイ系」の感覚はそこそこズレているわけですが……ズレているというよりは、キバヤシさんの方がより広い範囲の作品をこの定義に含めていると言った方が良いかな。
凄くテキトーな事を言えば、僕が「ブス」と言った時には10段階で1~3の人をさすけど、キバヤシさんは4までをさすのかな、ぐらいのズレ。
僕の定義が正確か、キバヤシさんの定義が正確か、というお話は僕はあまり興味のないところですし、知識もないためにここでは触れません。


キバヤシさんはブログで「近傍世界のリアリティに比べ、外界のリアリティの希薄さが異常」と仰っていて、これを表したのが「セカイ系」という単語だという論旨です(よね?)。
 
その理由として、近傍の「学園生活とバイト」は語られているけど、外界の「友人関係、バイトの先輩、時間のずれ、彗星、父親との軋轢」は描かれていない。
「いまだに愚直にセカイ系をやっている」。「成功しているとは言い難いが、一応、外界を描写しようとした形跡は見られる」とも仰っています。
 

僕としては、同意でもあり、不同意でもあります。
まず最初に、僕は友人関係はあんなものだろうし、むしろ彗星は時間を割きすぎだと思っています。
一方で、時間のずれに対するアプローチは非常に稚拙で、ここはキバヤシさんと同意見。
にも関わらず、その時間のずれを主軸に物語が展開するため、ブレブレな軸に寄り掛かっている物語、という印象を受けました。完成度が低いと僕がTwitterで書いたのは、その辺りもあります。
記憶の消失とかのメカニズムも、随分といい加減よね。ファンタジーならそれでもいいんですが。
父親との軋轢も、もう少し丁寧に描くべき内容ですが、まぁこれはこれでいいかな。


バイトの先輩の描写も、もう少し丁寧に描いてくれると奥寺先輩が好きだった僕は喜びますが、これもまぁこれでいいかな。ただ、奥寺先輩がなんで瀧くんについて旅行に行ったのかは謎。
奥寺先輩との親密な関係は、こないだのデートで崩れたんじゃ……っていう。それともあの旅行でワンチャンあったんだろうか。


というのが僕の感想です。ついでに言うと、「SF要素」以外の内容は、これは「外界」なのかなぁという疑問もあります。「友人関係、バイトの先輩、父親との軋轢」は個人的には十分「近傍:パーソナル」なお話だと思っているので。役所での「父親との対決」まで行けば、一応「外界」の話なのかなぁ。

「時間のずれ」と「彗星」は、SF要素の話ですが、これも僕の考える「外界」とは少し違います。
「彗星」が来るとなんで時間がズレるのか、なんで入れ替わるのかという原因・結果の部分。
これは「SF」ならきちんと描いてほしい部分ですが、僕は「SF」にこだわりはないので、「ファンタジー」だと思えばまぁこれは良いです。
ただ、↑でも書いたとおり、主人公たちが時間のずれに気づかないのは多少問題ですが。


僕が考える「外界」というのは、糸守町の産業であるとか、宮水神社の後継者問題とか、あるいは糸守町の役場への交渉とかそういったところの話でしょうか。
これらは詳細に語られているわけではありませんが、ある程度は語られており、特に僕は問題だとは思いませんでした。


僕としてはそれよりも、「彗星」とかはどうでもいいんで、「入れ替わり人間ドラマ」の部分にもっと時間を割いて、
もっと自然な「恋愛」を見せてほしかったなと思いました。
入れ替わりドラマは面白いけど、あれだけだと恋愛が生じるのはちょっと無理があるように思います。
もっと丁寧に入れ替わりドラマを描いてくれると、良かったですね。
全編入れ替わりドラマで、彗星とかない方が良かったようなw
僕はこの作品は、「出会うはずのなかった二人が、入れ替わりによって出会う、恋愛ストーリー」だと思っているので。
彗星寄りにフォーカスするなら、「歴史改変SF」となるのでしょうが、それならもっときちんと作ってほしいというか。
一方で、「恋愛ストーリー」として見ると、「彗星騒動」は『二人が頑張って乗り越えた障害の一つ』の域を出ていないので、それはそれでいいけど、あんなに時間を割いてやるほどのものでもないです。
そんなものよりは、奥寺先輩と瀧くんの関係とか、三葉とてっしーともう一人(名前忘れた)の関係とか、
入れ替わりによってそれらがどう変化するのかとか、そういう話の方が大事じゃないのかな。

確かに、「大きな障害を二人で乗り越える」というのは恋愛ドラマとしては大いに盛り上がる部分ではあるんですけど……元々の恋愛描写が少なすぎるので、大きな障害も空回りしているというか。
あの程度の入れ替わりエピソードじゃ、説得力のある恋愛はなかなか生まれないと思うなぁ。

(実際の恋愛は、ひとめぼれとかもありますんで、時間の長さは関係ないと思っています。
ただし、恋愛作品として、見ている人がその恋愛に納得できるかどうか、のっていけるかどうかはまた別かなと)



さて、この作品は「セカイ系」なのでしょうか? それは僕にはよくわかりません。
キバヤシさんの仰る「近傍」と「外界」についても、解るような解らないような感じです。
ただ、『リアリティの希薄さ』は確かだと思います。


僕としてはこれは、単に「リアリティを詰められなかった、完成度の低い」作品だと思います。
それは、1時間40分(だったよね)の映画の尺の問題があって、
その中で「入れ替わり恋愛」と「歴史改変SF」の2つの要素を無理やりねじこんだ上、そのバランス配分を間違えているからだと思います。

歴史改変部分を大幅になくせば、入れ替わり恋愛としてのリアリティはもう少し出せたと思います。
本来出会うはずのなかった二人が入れ替わりによって、お互いの生活を知り、お互いを知る。
けれど、そのうち入れ替わりの頻度が少なくなって……という話で十分、切ない恋物語は書けます。

入れ替わり恋愛をなくして、「歴史改変SF」をみっちり描くなら、それはそれでアプローチを変える必要があると思います。

 
「エヴァ」は、一人の少年の物語なので、シンジ君の視点で考えれば、世界の秘密を全て知っていたらおかしいです。別にゲンドウ視点とかで秘密を語ったっていいわけですが、シンジ君の物語の面白さには直接貢献しません。

「サイカノ」も「イリヤの夏」も、戦地に向かう少女を見守る純愛ストーリーなので(……だったよね? 「サイカノ」は10年以上前にアニメを見ただけなんであやふやなんだけど) 、やはり世界の秘密を全て知っていたらおかしいです。
こちらも、別視点で秘密を語ったっていいわけですが、彼ら彼女らの純愛ストーリーの面白さには何らプラスにはならないわけです。
どちらも、主人公たちの立場は「兵士」であり「庶民」であって、「司令官」ではありません。
「ハルヒ」は1巻しか読んでないから語れないっす。そもそもセカイ系という認識すらなかった。


で、この「君の名は」も、主人公たちは天文観測者でもなければ政治のトップでもないので、「彗星」の秘密のような、世界の秘密を全て知るのは無理です。
さらに言えば、「入れ替わり純愛ストーリー」が描きたい場合は、何らプラスにもならないわけです。


必要のない情報は別に入れない、これは「セカイ系」とかなんとか言わなくても、普通の事だと思います。
それこそ「ドラえもん」とかだって、22世紀の秘密道具が産業界に与える影響とか、そういったものは全然書かれてないけど、別にそれでいいわけで。
僕の「セカイ系」の知識が乏しいので変な事を言っているかもしれませんが、
物語の要請に合わせて世界観というのは作ればいいし、それに合わせて出していけばいいだけなので、
「面白さに関与しない」世界の細部まで作りこむ必要はないわけです。
いや、作りこめるなら作りこんでほしいですけど、作中で出す必要はない…ぐらいにしておこうかな。


「エヴァ」あたりからセカイ系という単語がもてはやされだした気がするんですけど、割と普通じゃないですかね。

たとえば旧き「高慢と偏見」だって、当時のイギリス情勢について、
「ナポレオン戦争」とかがあって大変だったはずですけど、全然触れていませんよね。
主人公たちの恋愛事情にも、大きな影響を与えている出来事だと思うんですけども。


ただし、「君の名は」は入れ替わり恋愛ストーリーとしてのリアリティが薄い。これは正直ちょっとまずいですね。
もっと作りこんでほしいです。
だから、「セカイ系」というフレーズで、エヴァとかとは一緒にしないでほしいなぁと思いました。 


キバヤシさんは、「いまだに愚直にセカイ系をやっている」。「成功しているとは言い難いが、一応、外界を描写しようとした形跡は見られる」と仰っているわけですが、
僕は「一応、外界を描写しようとした形跡は見られるが、うまくいっていない」だけであって、それは「愚直にセカイ系をやっている(セカイ系という物語構造に従って、愚直に物語を作っている)」のとは、
またちょっとニュアンスが違うんじゃないかなぁという。


そんなふうに思いました。
もっとも、↑でも書きましたように、僕が「セカイ系」という単語について知悉しているわけではないので的外れな事を書いているかもしれませんが……。


このやりとりによって、あおいひとさんからはより詳しいセカイ系のお話をいただき、本まで紹介していただきました(読むかどうかは約束できませんが……すみません)。
また、こうして、ブログでは書くつもりのなかった「君の名は」の感想を書く事もでき、良い機会となりました。

良い機会を与えてくださった、atakさん、キバヤシさん、あおいひとさんに感謝しつつ
記事を終わらせたいと思います。

 

「七王国の玉座」読了(バレあり。続編のネタバレはナシ)

著者はジョージ・r・r・マーティン。評価は A+


「ゲームオブスローンズ」の名前でドラマ化もされた、大長編ファンタジー小説「氷と炎の歌」シリーズ。
全7巻予定で、現在5巻までが刊行。本作はその第1巻ということになります。


……第1巻だけで1500ページぐらいあるんですけど……。
 

このページ数にいきなりビビってしまう方も多いと思うので、そんな方にお薦めしたいのが、まずドラマ版を見てしまうこと。ツタヤかなんかで1巻(1話と2話収録)を借りて、お試しで見てください。ハマる人は絶対ハマると思います。
僕はドラマ版から入って、今回原作本を読んでいますが……まぁ、確かに原作本の方が出来が良いと思います(A+)。
でも、ドラマ版もA評価はあげられる、素晴らしい出来だと思います。


とりあえず予告編を貼っておくので、是非!見てください!



さて、予告編とドラマの2話までを見ていただければそれで十分なんですが、それで済ませちゃうのもなんなので、本作をざっと紹介しますと……


広大な七王国ウェスタロスを支配する王、ロバート・バラシオン。その右腕、ジョン・アリンが病死した。
アリンの後継者として、ロバートは親友のネッド・スタークを呼び寄せる。
だが、ロバートの妻である王妃、サーセイ・ラニスターは、双子の弟ジェイミー・ラニスターと不倫関係にあり、
それを目撃したネッドの息子ブラン・スタークの殺害を目論んでいた。
ロバートの息子とされる、次期王位継承者ジョフリー・バラシオン。
ラニスターの不倫は、ジョフリーの王位継承の正当性に疑問符がつけられる大スキャンダルに発展しかねない。
一方、ネッドの妻、キャトリンはブラン襲撃をラニスター一族の一人、ティリオン・ラニスターの企てと考え、
ティリオンを拉致。
スターク家とラニスター家の緊張が高まり続ける中もたらされたのが、王、ロバートの死だった。
後を継いだのは、サーセイとジェイミーの息子、ジョフリー・バラシオン。
彼は前国王の右腕、ネッド・スタークに謀反の罪を着せて公開処刑を行い、新たな右腕としてティリオン・ラニスターを指名。
王ジョフリーを太閤のサーセイと叔父のティリオンがサポートする……
ここにラニスター家の王位簒奪が完成した。

しかし、ロバートの死とジョフリーの即位は、戦乱の口火を切ってしまう。
ジョフリーに復讐心を抱くスターク家の長男ロブ・スターク。
前王ロバートの二人の弟、レンリー・バラシオンとスタニス・バラシオン。
そして海の向こうでは、先々代の国王だった狂王エリス・ターガリエンの娘、デナーリス・ターガリエン。
他にもロバート統治時代に叛乱を起こしたグレイジョイ家、タイレル家などの思惑も絡まり、
ウェスタロスは、数勢力が王座を狙う、未曽有の戦国時代へと突入した。



……多少誤解を招く表現もありますが、概ねこんな感じのストーリーラインです。
全然ファンタジーじゃないですねw
いや、ほんとに。
一応ドラゴンとかも出てくるし、黒魔術とかもあるんですけど、強い兵器とか凄い暗殺術程度の存在感というか。
「ファンタジー」小説ではあるんですけど、ファンタジー要素はかなり少ないです。
どちらかと言うと宮廷陰謀劇というか……時代小説の色が濃いと思います。
なので、NHK大河ドラマとかを楽しく見ている方にはお薦め。
「ハリーポッター」みたいな子供向けファンタジーを想像してはいけません。
主要人物でも呆気なく死にますしね。


では、ここからは適当にキャラ語りでもしますか……。とりあえず好きなキャラから。


まずは、ネッド・スターク。

1巻の主役的存在ですからね。死んじゃいますけど……。
見ていて気持ち良いぐらい正直な人なんですけど、そんな愚直な彼に、戦乱の時代を生き抜く力はなかったかな……。ロバートの死後の動きはサーセイを見くびりすぎだし、致命的なミスでした……。
スターク家の大黒柱なんですが、こういう「とても頼れるパパ」とか「先生」みたいなキャラって、割と死んじゃうじゃないですか。
残された家族が、偉大な彼を超えていく~みたいな。
だからまぁ、死ぬこと自体は予測はしていたんですが……それでもやっぱり処刑シーンはビビりましたねぇ。


デナーリス・ターガリエン。

本作の準主役キャラだと思います。ヒロインというか。
DVな兄に怯える気弱な少女だった彼女が、野蛮人のドラスク族の元に無理やり嫁がされ……
そこで、徐々に成長をして、ドラスク族の中に居場所を見つけ、
遂にドラスク族の女王に君臨するというストーリーラインは、正統派成長物語としても面白いですね。
徐々に兄の支配から脱し、目前で死んでいく兄を冷たい目で見つめるシーンはゾクゾクしました。
旦那のカール・ドロゴを呼ぶ、「私のお日さま、お星さま」という呼びかけもいいですねぇ。
ただ、本編というか、ウェスタロスの王座を巡るゴタゴタとは完全に独立したストーリーになっているので、あらすじ紹介では説明できませんでしたw
たぶん続巻では少しずつ絡んでくるんじゃない? 絡まなかったら、なんで出したんだwってことになるし……。
一番の綺麗どころでもあるデナーリスはやっぱり外せないです。


ティリオン・ラニスター

超存在感のある、小人症の彼。ラニスター家唯一の良心。
僕は頭の良いキャラが好きなんですが、本作の中でも飛びぬけて頭の良さそうなキャラ3人のうちの1人です。
(残り2人はピーター・ベイリッシュと、ヴァリス)
多分ティリオンも準主役級キャラだと思います。
ティリオンはマジ格好いいんですけど、あまり書くことがないな……。
本作の一つの特徴として、「庶子」であるジョン・スノウや、「下半身不随」のブラン・スタークのような、弱い立場のキャラが活躍するんですが、「小人症」の彼はその筆頭とも言えるキャラですね。


ピーター・ベイリッシュ

何を考えているんだかわからない、敵か味方か味方か敵か。
宮廷のトリックスター……というか、実は全部こいつが裏で手を引いていると聞かされても驚かない、
そんな怪しげな彼も割と好きです。
多分ラスボス。……違うかな? ジョン・アリンの死とか、ロバート・バラシオンの死とか、多少疑いの残る死は全部こいつが手を回してるんじゃないかしら……。
それでいて、一緒に育った幼馴染のキャトリン・スタークが忘れられないとか、キャトリンの妹のライサ・タリンから好意を寄せられていたなど、ドロドロ恋愛ドラマの主人公みたいな境遇も素敵です。


ヴァリス

ベイリッシュと同じく、何を考えているんだかわからない、敵か味方かもわからない
宮廷のトリックスターな宦官です。
ベイリッシュと違って、こちらは実は良い奴なんじゃないかと勝手に思ってるんですけど、
その僕の予想も裏切られるかもしれない。
いや、怪しい。怪しくて頭の回りそうなキャラは好きです。


ジョラー・モーモント

デナーリスに付き従う忠臣。ほんと語る事ないんですけど、デナーリスが好きならジョラーも好きになるでしょ。
いや、それだけなんですけど。


ヴィセーリス・ターガリエン

栄えある死亡者第一号。小物臭を漂わせすぎている前王エリス・ターガリエンの息子、ヴィセーリス君です。
我らがヒロイン、デナーリスを虐待している兄貴。
「俺が最強!」みたいな事を平気で言ってるんだけど、実際は超ヘタレで雑魚。妹にまで内心軽蔑されている
そんな小物なヴィセーリスが愛しい……。
リアルでいたら絶対近づきたくないけど、遠くから見ているぶんにはいいかなw


タイオン・ラニスター

ラニスター家総帥。悪役だと思うんだけど、なんか嫌いになれないんだよな。
大物臭を漂わせてるっていうか、サーセイやジェイミー、そしてとりわけジョフリーに感じるような嫌らしさがない。
頭も良さそうだし……策略家、陰謀家タイプは僕けっこう好きみたいなんですよね。



そんぐらいですかね。

嫌いなのは……


ジョフリー・バラシオン

こいつぁ、やべぇ。
何がヤバいって、ドラマ版初登場時、まだ何もしてないのに「こいつ、いけ好かねェ!」って思ったんすよ。
僕、どうも、この手の顔立ちが生理的に嫌いみたいで(俳優さん、ごめんなさい!!)
そしたら、キャラ自体も壮絶に悪役。クソガキ・頭悪すぎ・暴力的でウザいと三拍子揃っていて、
しかもネッド・スタークを殺したりやりたい放題。
いや、たまんねーな、こいつ……。ほんと、たまんねー。
何がたまんないって、こいつバカなんですよ。
どう考えてもネッドは生かしておいた方がいいのに興味本位で殺しちゃうし。
そういう軽率なところも含めて、大嫌いですわ。
小説版もウザいけど、ドラマ版の方がウザさが増幅されてますね。


サーセイ・ラニスター

悪役だからね、仕方ないね。では済まされないようなモンスターピアレントぶり。
まぁそれはライサ・アリンにも言えることなんですけど、引きこもりのライサとは違ってこっちは国の中心だし……。
ジョフリーの躾をちゃんとしてほしかったですね……。早く死なないかなーって思ってるけど、多分中ボスクラスの人だと思うんで、そう簡単には死なないよね。



ジェイミー・ラニスター

ラニスター一族で一番腕が立つのがこの人だからね。仕方ないね。
ブランを突き落したのもこいつだし、ネッドを襲ったのもこいつだし、スターク家に感情移入をしているとやっぱり
殺したいぐらいムカつくよね。
なお、ネット感想を軽く読み漁った結果、割とファンがいる模様。


ロバート・アリン&ライサ・アリン

ロバートはクソガキその2。「あいつ殺してよー!」とか言いまくってる知恵遅れなおガキ様。
まぁこいつを好きな人はいないでしょ、多分。
ライサはその母。モンスターピアレント。ちなみにキャトリンもモンスターピアレント予備軍だよね……。
この作品のママ、子供がかわいいのは当たり前だけど、どいつもこいつもいきすぎじゃない?

あと、タリー家出身のアリンさんって紛らわしいよ! ライサ・タリンって書いてから慌てて直したよ。


アリザー・ソーン

部下をいじめるのが楽しくて仕方ない、鬼軍曹みたいな人。
子供ならまだしも、50過ぎ(の顔をしている。俳優さんが。実際の年齢は知らないけど、おっさんだと思う)で
部下いじめが趣味ってほんとどうかしてる。死んでほしい。


サンサ・スターク

脳みそお花畑少女。ジョフリーに恋をしてる時点で趣味が悪すぎなのに、ジョフリーを庇うとか正気か?
しかし、物語後半でジョフリーのキチガイぶりに気づいたようなので、多分続巻ではウザキャラリストから外れそう。
小説版だと、ジョフリーはウザさを多少隠しているので気づかなくても仕方ない。けどそれにしてもアリアへの対応はウザい。
ドラマ版だとジョフリーが最初からウザオーラ全開なので、気づかないのはバカとしか言いようがない。


ジョン・スノウ

ごめんなさい、ジョン・スノウは嫌いじゃないです! じゃあ何でここに入れたかと言いますと、
ジョン・スノウが登場するシーンが退屈なんです! 
ジョン・スノウの物語は、デナーリスの物語と同じで、本編からは独立した形になってるんですね。
で、そのスノウの物語が、あまりにも人生罰ゲームみたいな内容でちょっち辛い。
だから、彼自体は全然嫌いじゃないんですけど、彼が出てくるシーンはつまらないんすよ……。
彼の物語が面白くなってきたら、ここから外しますね!



うーん、嫌いなキャラリストに独創性が全然ないですね。
ジョン・スノウは例外として、後はそりゃみんな嫌いだろっていうキャラばかりだなー。


キャラ語りの延長上で言うんですけど、ドラマ版と小説版で印象が違うキャラもいますね。


まず、ドラマでは良妻賢母代表みたいな、キャトリン・スターク。
この人、小説版だと割と嫌な人ですね。
自分の子供ではないジョン・スノウに対しては、
(自分の息子が怪我をした際に)「お前が怪我をすれば良かったのに」とか平気で言ってるし。
まぁドラマでもティリオンを捕まえたシーンとか、割とアレだったけど……。


シオン・グレイジョイ。
ドラマではフツーの兄ちゃんだった気がするんだけど、小説だと冒頭の処刑シーンで、斬首された首を笑いながら蹴飛ばしたりしてるキチガイになってる……。
シオン君、どうしたんだ……君はそんなにいけ好かない奴だったのか……。



とにかく面白い「七王国の玉座」。続編も楽しみです!
(まとまりがない記事らしく、強引に記事を終わらせた)



 

「暁の死線」読了(バレあり)

著者はウィリアム・アイリッシュ。評価はA-。


一旗揚げようとニューヨークの『都会』に出てきた青年クィンと、ダンサーのブリッキー。
『都会』とそこで暮らす人々への不信を募らせるブリッキーだったが、クィンが同郷の出身だと解り、
故郷話を境に意気投合。
しかし、『隣の男の子』であるクィンは、なんと重大な危機に陥っていた。
窃盗の、そして殺人の罪で今にも警察に追われようとしていたのだ。
二人が出会ったのは時刻、午前1時。午前6時の故郷へのバスまでに、事件を解決する事はできるのだろうか?


主に『論理』が重視される(と思われる)ミステリの世界で、『感覚』を重視する作家アイリッシュは、都会を舞台に叙情的で寂しく甘くそして幸福な、おとぎ話のような世界を作り出している。
本作では、長所短所含め、そんなアイリッシュの味が特に顕著に出ている作品だと思う。


女優になりたいという夢を持ち、ニューヨークに出てきたブリッキー。
しかし実際には、場末の酒場のダンサー止まり。
女優の夢どころか、日々の仕事にも疲れ、こんなはずじゃなかったと故郷を懐かしむ毎日だが、
家族を喜ばせようと、「私、今、かなりイイ線行きそうだから!」などと見栄を張ってしまい、
故郷にも帰れない。
そんなブリッキーだけに『都会への憎悪』も人一倍である。
労働時間の終わりを告げる時計、パラマウント通りの大時計だけを『友達』と感じている。
今日もしんどく辛い仕事を終えて、いつものように帰宅したブリッキーに運命の出会いが訪れる。
酒場での仕事の終了間際、やってきた客のクィンがそれだ。
初めは人間への不信からツンツンした対応をしていたブリッキーだが、お互いが『同郷』、それも徒歩数分の距離に家がある事が解ると意気投合。
もしもずっと故郷にいれば、クィンとは「お隣の男の子」としてきっと親友になれていただろう。
出会って1時間にも満たないが、故郷への思い出を橋渡しに、強い絆で結ばれた二人は、クィンの危機を救うべく動き出す。
故郷へのバスは6時。今日を逃したらきっと、もう二度と故郷へ帰る気力を失くしてしまうだろう。
同郷のクィンと出逢えた今夜がラストチャンス。二人でなら、きっと帰れる。


というのが筋立てだ。
アイリッシュの作品が『感覚』を重視していることは、こうしてあらすじを書き出してみれば一目瞭然である。
人間の気持ちというのは得てして『思い込み』もあるわけで、なんらおかしなことではないのだが、

「都会でうまくいかないから、都会は敵」、「大時計だけが友だち」、
「故郷の隣の家の男の子は絶対いい奴だから、人殺しなんてするわけがない」、
「今日のバスを逃したら、絶対に故郷に帰れない」


本作を強く支配するこれらのルールは全てブリッキーの『感覚・思い込み』であって、
『論理的な思考体系』ではないのである。

これらのルールをなんとなく納得させてしまうのがアイリッシュの筆力であり、心理描写であって、
実際、故郷の小さな町の思い出話を語り合う二人の姿は読んでいて口元に笑みが浮かんでしまうほど楽しそうで、確かにこんな会話ができたら、「こいつは殺人なんて絶対にしない奴だ」と思ってしまうかもしれない。
出会って1時間も経たない相手なのだけど。
まぁそんなわけで、アイリッシュの(あるいはブリッキーの)設定したこれらの約束事に納得できることが、
本作を楽しむための最低条件だろう。


「いやいや、明日のバスでも帰れるだろww」とか
「いやいや、隣の家の男の子って言ってもお前ら今日会ったばかりじゃんww」などの『常識的で冷静でツマラナイ』思考回路から抜けきる事が出来ないと、本作は無理のある設定を推し進めた駄作になってしまうだろう。
これらは、たとえば夜中の2時~6時の物語なのに、みんな起きてるのかよw
(あるいは、寝ててもわざわざ起きてガチャ切りもせずきちんと対応してくれる)(家にも入れてくれる)みたいな部分も含め、色々と『ファンタジー』な物語である。
実際、僕はかなり楽しめた方だとは思うが、まぁ無理のある設定だとは正直思う。
しかし、ガチガチのミステリとして考えるのではなく、『おとぎ話・ファンタジー』として読むならば、
やはりアイリッシュの描く作品世界は、僕は好きだ。


田舎から上京し、孤独に頑張っている人は現代でも多くいるだろう。
そしてなかなか思うようにいかず、苦しみながら、故郷に帰れない人もいるだろう。
今日も退屈な1日を終え、さぁもう寝るだけといった夜中の1時に、運命の出会いが待っていて、
大冒険の末、朝の6時には、新しく出逢った大切なパートナーと故郷に帰る。
なんて幸せで、素敵な物語なのだろうと思う。
そんな夢のある、この作品が僕は好きだ。


ミステリ部についてはほぼ触れずにここまで書いてきたが、一点、
物語終盤のクィンとホームズのくだりは、もう少し巧く描いてほしかったなと思う。
2時から6時という凝縮した時間に全てが展開するドラマとして、一瞬一瞬のシーンを濃密に描く事で緊張感を持続させているのだが、クィンとホームズのくだりでは不自然に時間が飛んでしまうのだ。

簡単に言えば「クィン、大ピンチ!」→「奇跡的に助かったクィンは……」→「実はね、あの時こういうことが起こったんだ」みたいな展開になっている。
確かにクィンのこのシーンを時間軸順に描くと、少しダレてしまうのはわかる。
解るのだが……ここまで時間軸を常に連続させて緊密な一夜を描いてきただけに、
この『すっ飛ばし』で僕の緊張感は相当程度失われてしまった。
じゃあダレてもいいから時間軸順に描けば良かったのかと聞かれると、それも微妙な気はするが……
無理にピンチを描いた後の処理に、苦慮した様子がうかがえる。


まぁ、なんだ。
アイリッシュにがちがちのミステリを求めてはいけない。
都会で暮らす孤独な男女に、勇気を与えてくれる素敵なおとぎ話。
それに犯罪要素が味つけをしている、そういうものが好きな人にはお勧めの作家だと思う。

 

黒い天使(バレあり)

著者はコーネル・ウールリッチ。評価はA

彼の作品を集中的に読みたいと思っているので、ひょっとすると短期間に何度もブログに登場するかもしれない。

ウールリッチといえば、別ペンネームがウィリアム・アイリッシュ。
ミステリ好きにはおなじみの名作「幻の女」の作者として有名で、ウールリッチ作品の後書きを読むと必ずといっていいほど「幻の女」の話が出てくる。

確かに「幻の女」は個人的にも名作だと思うのでそれはそれで良いのだが、本作「黒い天使」を読んで、
ウールリッチ(アイリッシュ)は「幻の女」1作の作家では全くないと確信した。


主人公は22歳の若妻アルバータ。夫のカークはアルバータに隠れて浮気をしていたが、浮気相手のミアが何者かに殺害され、カークは死刑宣告を受けてしまう。
無実の夫カークを救うため、アルバータの真犯人探しが始まる……。


カークを救うため、容疑者候補の男たちを訪ねるアルバータの冒険が何よりも読みどころだ。
ミステリでは、名探偵が容疑者候補の男女を1人ずつ尋問していくシーンが頻出するが、
本作の『冒険』はそういった情報を淡々と集める事情聴取シーンとはまるで別物だ。

例えて言うなら、RPG的というか、ダンジョンを1つずつ踏破していく女勇者のようで、
容疑者候補に会うたびに、アルバータは危機に遭遇する。
そしてその危機を乗り切るたびに、彼女は少しずつ成長していくのだ。


最初の冒険では、ミアに棄てられ、自暴自棄になり人生を捨ててしまった男、マーティーの存在感が素晴らしい。

昔は人間だった人たちの姿がそこにあった。身なりなどの外見が問題なのではない、それは内側からにじみだすなにかだった。言うなれば、芯の燃え尽きたランプ、フィラメントの切れた電灯だ。
かたちは残っていても、光を放つ事はもはやない。

と表現されるマーティーに、アルバータは死に場所を与える。 
ミアと初めて出会ったダンスフロアで流れていた曲、「Always」を置き土産に、穏やかに自殺する彼のエピソードはしんみりと泣かせる。


2人目の冒険、モーダントに関しては少しダレたが、3人目の冒険であるラッドもまた素晴らしい。
イケメンで、魅力あふれる彼に、アルバータは惹かれてしまう。
しかし、死刑囚とはいえアルバータは夫のある身。
別れのシーン


『さようなら、あなた。あなたはわたしと出逢わなかった。わたしもあなたと出逢わなかった』
彼が目を醒ました時、寂しくないように、灯りはつけておいた。寂しい思いはするだろうけれど、少なくともこれで暗がりのなかにいなくてすむ。
軽いスーツケースを提げて夜の街に出た。どこへ行けばいいのかはわからなかった。ただひたすら――そこから遠ざかりたかった。ずっとずっと遠くまで。それ以上居つづけていたなら愛が育っていたかもしれない場所から、うんと遠くまで。

の文章など、これがウールリッチの味かと思わせる名文だ。


ラスト、アルバータの元に戻ってきたカーク。
しかし、本当にアルバータはカークとの平穏な暮らしで満足できるのだろうか。

今までの世間知らずの「天使」だったアルバータには、カークは理想に近い夫だったかもしれないが、
数々の冒険を潜り抜け、たくましく成長したアルバータには、物足りないのではなかろうか。


何はともあれ、余韻の残る良い物語でした。


この話、容疑者候補の男たち視点で読むと、アルバータもまた、他人の人生を狂わせているのよね……。
 
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