本・映画などなど

好きな作家紹介 第3回 フィリップ・K・ディックについて


アガサ・クリスティとディック・フランシスを紹介したこの連載(?)ですが、既に1年以上ご無沙汰です。

最近、ディック・フランシスについて紹介した記事に拍手をいただき、嬉しくなったので、モチベーションがむくむくと上がり、第3回を書くことになりました。

フィリップ・K・ディックのご紹介(初読者向け)

幾つもの作品を読んでも、特徴を掴みにくい作家がいる。
一方で、特徴が明瞭な作家もいる。
フィリップ・K・ディックは間違いなく、後者です。

全作読んだわけではないですが、彼の物語世界は手を変え品を変えているものの、1つのパターンしか存在しません。



これまで数多くの『ディック論』が書かれてきたでしょうし、
僕がこれから書こうとするディック紹介も、
数多あるであろうディック論とそう大差ない内容になるであろうことは、容易に想像ができます。

それでも、情報を自分なりに整理しておきたいという欲もありますし、せっかく書くのだから、
何らかの参考になればと願っております。

ディック的世界に触れた日

今、ここに生きている自分とは、一体何者でしょうか?
今、目に映る世界とは、本当に存在する世界なのでしょうか?

ひょっとしたら、この世界は5分前に誕生したのかもしれません。
今ここにいる自分は、本当は5分前に誕生したのかも?

そんなバカな、僕は〇〇年に東京で生まれ、××小学校に通った記憶がある。
5分前に誕生したわけがない!と思った方もいるでしょう。
でもその『記憶』が『作られたものだとしたら』?

大体、5分前に誕生したばかりなら、なぜ髪の毛が後退しているんだ! なぜほうれい線が濃くなってきているんだ!
などなどと思った、そこのあなた。

それは、加齢に伴う現象が『知識』としてあなたの頭の中にあるから。
でも、その『知識』もまた、『5分前に出来上がったものだったら』?

僕が本格的なディック『的』世界に初めて魅せられたのはRPG『ファイナルファンタジー7』です。

未来の地球を舞台にした壮大なSFストーリーであるFF7は、主人公クラウドの、いわゆる自分探しの物語。

『エリート(ソルジャー)としての記憶』を持ち、自分をエリートだと信じてやまないクラウドの正体は、
『ソルジャーになれなかった、落ちこぼれ』。
退廃的な未来都市ミッドガルも、まるで『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を彷彿とさせる『FF7』。

環境問題やテロリズム、RPGに付き物の『モンスター』の存在にまで踏み込むなど、大人向けの
……少なくとも小学生向けとは到底言えない、深いテーマ性を盛り込んだ『FF7』は、ディック的世界を当時の僕に教えてくれました。

そこから更に踏み込めば、『新世紀エヴァンゲリオン』に繋がるのかもしれませんが、
「いいからディックについて話せよw」と言われかねないので、前振りはこの辺で。

ディックの問題意識とは

自分とは何か。世界とは何か。
自分を疑え。世界を疑え。

そんなテーマに胸をドキドキさせた子供の頃の僕。
ディックの描いているテーマというのも、実はほぼこれだったりします。

しかし、安全圏から『ファンタジー的スリル』を感じる子供の愉しみとは異なり、
ディックの抱く『世界の不確かさ』は、ずっと、ずっと、深刻で、『およそ書かずにはいられない』ものでした。

麻薬なのか、精神病なのか。おそらくはその、複合。
幻覚・幻聴に悩まされていた(であろう)ディックにとっては、
本当に『自分』も『世界』も、信頼できないものだったのです。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』


では、『人間そっくりのアンドロイド』の存在が、
『人間とは何か』、『自分は本当に人間なのか』という疑念を主人公に抱かせます。

高い城の男

高い城の男著者: フィリップ・K・ディック/浅倉 久志

出版社:早川書房

発行年:1984

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『高い城の男』では、ナチスドイツが第二次大戦に勝利した世界を舞台に、
『連合国側が大戦に勝利した』という本が登場し、
『現実』と『フィクション』が、混ざりあっていきます。
世界の本当の姿が、わからなくなっていくのです。

このように、ディックの世界におけるテーマは終始一貫しています。
何冊か読めば、大体ディックについて知(ったような気にな)ることができます。
ディック世界に魅せられた方は、どんどん読んでいけば良いのですが、
「とりあえず2~3冊読んでみる」くらいでも、特徴は掴める作家ではないでしょうか。

では、どの作品を読めばいいか、というと非常に難しい。
何が難しいかって、どうも世間の人気と僕の評価がズレているように感じるからです。

お薦めのディック作品

ディック作品で恐らく最も知名度が高いのは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』でしょう。
そして、次点は権威あるヒューゴー賞を受賞した『高い城の男』でしょうか。

でも……うーん。
この2作、面白かったかなぁ……。いや、僕は正直に言うとあんまり……。
とはいえ、まずは世間の評価にならって『アンドロ羊』を読んでみるのはいかがでしょうか?

で、ハマれば良し。ダメだったら?


僕は『ユービック』を推します。
夢の中で夢の中で夢を見るような、架空世界から抜け出した、と思ったらそこも架空世界のような、
そんなめくるめく酩酊感はいかにもディック味。

それでいて、文体も展開も軽快でエンターテイメント度が高く、非常にとっつきやすい作品となっています。

スキャナー・ダークリー

スキャナー・ダークリー著者: Dick Philip K/浅倉 久志

出版社:早川書房

発行年:2005

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重量級の代表作は、この『スキャナー・ダークリー』でしょうか。
麻薬中毒に陥った作家が、麻薬を真正面から描いた、ずっしりとした読後感が印象的なこの作品。
『ハイ』なシーンも多いのですが、そこはかとなく物悲しい。
ディック作品という括りではなく、薬物中毒を描いた作品の中でも白眉だと思います。

初読者の方はここまで。


ディックにどっぷりとハマってしまった方にお勧めしたいのが、この『ヴァリス』です。

ディック作品における主人公は、ほぼ例外なく『自分』や『世界』を疑う人物でした。
それは=作者であるディック自身が、薬や精神病の影響で、『自分』や『世界』を信じられなかったから。

そんな作者をそのまま主人公にして、紡がれているという意味で、ディックの作品はどの作品も
自伝的要素が非常に強いと言えます。
その極点が、麻薬中毒者を真正面から描いた『スキャナー・ダークリー』。

そして、『統合失調症の作家』を主人公に描かれたこの『ヴァリス』です。
ディックの見ていた白昼夢。ディックの目を通した世界の見え方。彼が抱いていた想い。
この作品には、過去のディック作品への言及がそこかしこにあります。
そのため、できれば最後に読んだ方が良い。全作読んだ後、とはもちろん言いませんが、
何作か読んだ後が望ましいです。

作者が用意してくれた物語や、その登場人物に没入し、一喜一憂しながら楽しむのが読書の楽しみ。
そのうえで、物語を用意してくれた作者自身の人となりを知り、
作者と『友達』になるのも読書の楽しみだと思います。

ディックは僕が生まれる前に既に亡くなっているけれど、作品を通して彼を知ることができる。
もちろん、この記事に書かれているのは僕の目を通したディックの姿であり、現実のディックとは違うものかもしれないけれど。

もっとも、フィリップ・K・ディックなどという人は、本当はいなかったのかもしれませんね。
今ある事物は全て5分前に作られたのかもしれません。
書店に並ぶ本も、図書館にある本も全て5分前に用意され、このブログも5分前に用意され……
そして、この記事もまた、5分前にはなかったのかもしれません。

完全に備忘録 ディック作品 評価(S~E)

ユービック A+
スキャナー・ダークリー A+
ヴァリス A
虚空の眼 B
アンドロイドは電気羊の夢を見るか C
高い城の男 C
パーマー・エルドリッチの三つの聖痕 C
流れよわが涙、と警官は言った C
火星のタイムスリップ C
偶然世界 D

(同じようなテーマの作品ばかりなのに、『楽しめる』作品と『楽しめなかった』作品の差が非常に激しいです。
しかも、自分の評価と世間の評価があまり一致しません。自分でもとても不思議です。
↑の評価を見て、立腹なさる方がいたらごめんなさい)

残響さん向け? 100作 のうち62作!

エロゲ対談などで普段仲良くしていただいている、残響さん向けの推薦図書100作です。
強制とかでは全くないです。

基本内輪ネタですが、もちろん、残響さん以外の方も読むことを前提に記事を書いていますので、
何かの参考になれば幸いです。


基準は

・残響さんと話していて、彼が好みそうだと思われる作品

・残響さんが好きな村上春樹繋がりで、村上春樹と関わりがありそうな作品

・残響さんが好きな森博嗣繋がりで「森博嗣の100冊」に挙がっている作品・作家で残響さんが嫌いではなさそうなもの

・残響さんが既読である事を、僕が確信をもって知っている作品は省いた。
(たとえば「マリア様がみてる」とか)


1 トリストラム・シャンディ/ロレンゾ・スターン
2 吾輩は猫である/夏目漱石
3 アメリカの鱒釣り/ブローディガン
4 銀河ヒッチハイクガイド/ダグラス・アダムス
5 黒死館殺人事件/小栗虫太郎



上記5冊は『ヘンテコ』な作品群である。
個人的には非常に読みづらく感じるため一般には薦めない。
奇妙奇天烈な作品であり、作者の『駄弁り』に付き合わされている感覚すら受ける。
『1』に感銘を受けた夏目漱石が『2』を書いた、という繋がりもある。
『5』はミステリのオールタイムベスト級作品である。
僕はこの5冊はどれも、「合わなかった」。
漱石は『猫』タイプの作品と、『こころ』タイプの作品があるが、僕は圧倒的に後者のファンである。


6 さようなら、ギャングたち/高橋源一郎
7 スローターハウス5/カート・ヴォネガット

この2作も『ヘンテコ』ではあるが、読みやすいと思うため、他の方にもお薦め。
『7』は村上春樹が影響を受けているらしい。
同著者の「タイタンの妖女」は爆笑問題の太田さんが大好きだ、という逸話があるが、
個人的には「スローターハウス5」の方が短く、それでいて洗練されているように思う。
どちらもテーマ的には同じ(のはず)。

8 ドグラマグラ/夢野久作


これも読みづらい。
エロゲーマー的には『水夏』第3章のオマージュ元ということでもあり、見逃せない、と言いたいが
薦めにくい。ただ、残響さんはこういうリズムの文章は好きそうだ。


9 ドン・キホーテ/セルバンテス
10 老人と海/アーネスト・ヘミングウェイ
11 魔の山/トーマス・マン
12 薔薇の名前/ウンベルト・エーコ
13 失われた時を求めて/マルセル・プルースト
14 エロ事師たち/野坂昭如
15 シブミ/トレヴェニアン



しんみりと人生の無常を感じるような作品である。
とは言え、過度に暗いというわけではない。
『9』などは大爆笑しながら読めてしまい、最後には感動する名作なので他の方にもお勧めだが、長い。
『14』は一般的にも非常にお薦めだが、残響さんには下ネタが̪̪̪引っかかる可能性はあるか。そこさえ乗り越えられるなら気に入ると思う。
『13』はクッソ長いので、読んだだけで自慢したくなってしまうが、内容自体はそこまで読みづらいものではない(しかし、長すぎる)。のんびり数か月かけて読むのも良いのではなかろうか。


16 地球の長い午後/ブライアン・オールディス
17 パノラマ島奇譚/江戸川乱歩



風景描写の美しい2編である。風景描写が好きだと仰っていた記憶があるので挙げてみた。
「16」は『ナウシカ』に影響を与えたとも言われている。


18 かもめのジョナサン/リチャード・バック
19 精神寄生体/コリン・ウィルソン


精神修養的な話が大好きっぽい残響さんなら気に入るであろう作品。
「19」は、精神修養から始まってMMR的なトンデモ話を説得力を持って描いており、最後には壮大なバカ話で〆る、皆に薦めたい作品だが、恐らく絶版のため図書館でしか読めないはず。
コリン・ウィルソンは残響さんの好きなラブクラフトともつながりがあるので、そちら方面からもお薦め。


20 地獄のハイウェイ/ロジャー・ゼラズニイ

世界崩壊後。終末世界を駆け回る
、というシチュエーションが大好きっぽいので挙げた。
普通に面白い。
世界崩壊後の世界を描いた作品には、たとえば大傑作「ザ・スタンド」などがあるが、残響さん向きかと聞かれると微妙である。


21 生ける屍の死/山口雅也
22 バベル17/サミュエル・ディレイニー

「21」はパンク+ゾンビ探偵(グロはない)の傑作で万人にお薦めしたい一品。
「22」は一転、明らかに一般向けではなく、残響さん狙い撃ちの一品で、
色彩豊かな音色と、謎言語で酩酊感を味わえる(が僕はダメだった)。
「22」が気に入ったなら「ベータ2のバラッド」や「ノヴァ」あたりに手を伸ばしてみるのもお薦め。


23 ホットロック/ドナルド・ウェストレイク
24 切断/ジョイス・ポーター

抱腹絶倒系ミステリで秀逸な2品。
どちらも超お薦めであるが、「24」は下ネタが引っかかり残響さんにはまさかの劇薬になる可能性もある。そういう懸念はあるが、多分大丈夫だろうということで挙げた。


25 われはロボット/アイザック・アシモフ

いつも薦めているのだが読んでもらえず、そろそろしつこく思われていそうな一品だが、
『ロボット』ものを語る上では絶対に外せない里程標的作品だし、何より面白い
それこそ「Planetarian」だとか、あるいは「美少女万華鏡 神が造りたもうた少女たち」などの
ロボットを扱ったギャルゲ・エロゲをプレイする上でもできれば触れてほしい作品。
これが気に入ったなら、『鋼鉄都市』、『はだかの太陽』へと進んでほしい。
アシモフには『永遠の終り』という超スケールの名作SFもあるので、ロボットではなく、
「タイムマシン」系のワードにビビっとくる方にはそちらをお薦め。


26 高慢と偏見/ジェイン・オースティン
27 高慢と偏見とゾンビ/セス・グレアム・スミス


「26」は旧き良きイギリス貴族社会を舞台にした純愛恋愛小説であり、落ち着いた雰囲気ながら
『読ませる』作品である。
「27」はそれを茶化して悪ふざけしてしまったような一品であり、『こんなのありかよww』と思わせつつ、こういう悪ふざけは残響さんは嫌いではない、と思う、多分。
ただし「26」に感動し、「26」を汚してほしくないという方には「27」は薦められない。


28 魔界転生/山田風太郎
29 マタレーズ暗殺集団/ロバート・ラドラム


「ハッタリ」の効いたバトルアクション小説では出色の二作。
真正面から『中2作品』を描くなら、これぐらいはやってほしいと思わせる、偉大なる中2作品である。
個人的に、エロゲの中2作品に全然ノレない(『鬼哭街』とか『Phantom』を中2と言って良いなら、その辺りは素晴らしかったが)のは、この「魔界転生」や「マタレーズ暗殺集団」あたりを基準に考えているせい。


30 死にゆく者への祈り/ジャック・ヒギンズ
31 針の目/ケン・フォレット


こちらも中2的な、「影のある暗殺者モノ」。
クールで凄腕の暗殺者でありながら、人間味も持ち合わせ、「情」との葛藤を描いた哀切なる2作。
残響さんがこういうのを好きかは不明だが、寡黙で格好良い男キャラは好きそうで、なおかつ
読んでいてしんどすぎないと思われるためチョイスした。


32 利腕/ディック・フランシス

こちらは暗殺者ではないが、「寡黙で格好良く、人情味のあるヒーロー」が主人公の勧善懲悪型小説である。
やや「男のやせ我慢」が鼻につくところはあるが、逆にそういうダンディズムも魅力だ。
離婚した前妻の父(かつての義父)と主人公の心温まる友情なども読ませる。
この作品が気に入ったら「大穴」、「敵手」に進もう。
(本当は「大穴」を先にした方がいいのだが、最高傑作は「利腕」だと思う)


33 刺青の男/レイ・ブラッドベリ

残響さんはブラッドベリを2作読んでおり、気に入っていらっしゃるので、間違いなく外れる事はない鉄板の1作。
ブラッドベリ未読の方は、「火星年代記」あたりを薦める。

34 都市/クリフォード・シマック
35 一角獣・多角獣/シオドア・スタージョン
36 たんぽぽ娘/ロバート・F・ヤング

大体、ブラッドベリが好きな人はこの辺りも好きやろ? 
という感じで割と鉄板系のロマンチック郷愁SF3作。
「35」のスタージョンの、特に短編作品は、やや郷愁・甘みは薄く、奇形度が上がっているが、
『ブラッドベリ系』(と言うのもどうかと思うが)に分類しても大きく間違ってはいないはず。

「34」は『火星年代記』好きには漏れなくお薦めできる、滅びゆく星と種族をしみじみと描いた一作。
シマックなら短編集『愚者の聖戦』も良い。こちらはドラえもん的ワクワク感のある、見逃せない作品集。
「36」はロマンチック度ならこの中ではダントツ。「CLANNAD」のことみシナリオで引用された事で、鍵っ子にもお薦め。


37 ある日どこかで/リチャード・マシスン
38 トムは真夜中の庭で/フィリパ・ピアス
39 思い出のマーニー/ジョーン・ロビンソン
40 君にしかきこえない/乙一

ロマンチックSFの繋がりで。
残響さん向け、というよりは僕が大好きな『タイムロマンスファンタジー』群だが、
残響さんも多分嫌いではない、はず。
切なくも美しい時空を超えた交流にビビっと来る人向け。


41 真理先生/武者小路実篤
42 富士日記/武田百合子

のほほん、とした、平穏な日常の中に「人生」の深みを感じる2作。
武者小路実篤は、『創作技法上』、アカデミックな場でのウケが悪いが
この独特の「のほほん」感は素晴らしいと思う。


43 ガープの世界/ジョン・アーヴィング

上で紹介したヴォネガット系統の味わいがある作家。
ヘンテコ度はやや薄いが、「スローターハウス5」が気に入ればこちらも薦めたい。
村上春樹繋がりでもある。
人生は楽しい事も辛い事もあるが、うまくユーモアで受け流していこうじゃないか、という感じの、
楽しくも切なく、でも楽しくて不思議な作品群である。


44 鏡は横にひび割れて/アガサ・クリスティ
45 五匹の子豚/アガサ・クリスティ
46 終りなき夜に生れつく/アガサ・クリスティ

「森博嗣の100冊」で、クリスティは3作を占めている。「ABC」「アクロイド」「予告殺人」である。
しかし、クリスティファンの僕としては、どれも上質とは言いかねる(単に僕の趣味からズレるともいう)。

特に「46」は『アクロイド』の完全上位互換なので、歴史的意義を考えて『お勉強』をしたい人以外には、こちらを薦めたい。
『アクロイド』に娯楽性とロマンチック恋愛を付け足した、『叙情的アクロイド』だ。
クリスティから3作、というとどれを選ぶか非常に迷うが、「ABC」はポワロ、「予告殺人」はマープル作品なので、ポワロから「五匹の子豚」、マープルから「鏡は横にひび割れて」をチョイスした。

とにかくクリスティは名作が多すぎるので、この辺りが面白ければ
「オリエント急行の殺人」、「ナイルに死す」、「葬儀を終えて」、「ポケットにライ麦を」などなど、どんどん深みに入っていってほしい。

ちなみに「ABC」を選ぶくらいなら、
森さんも選んでいるデアンドリアの「ホッグ連続殺人」をお薦めしたい。
「被害者の繋がりが見えづらい連続殺人」という意味でお薦め

(「九尾の猫」もそうだし、森さんはそういう作品が好きなんだと思う)。


以下、「森博嗣の100冊」を基準に何冊か選んでみる。


47 九尾の猫/エラリー・クイーン
48 Yの悲劇/エラリー・クイーン


森さんはクイーンから4作も挙げている。
そこで僕が4作を挙げるならこの2作+「災厄の街」、「十日間の不思議」となる。
「47」を楽しまれた方は、この2作も読んでほしい。
ただ、サイコサスペンスなので、残響さんの健康にダメージがあるかどうかは何とも言えないところだ。恨むなら森さんを恨んでくれ(苦笑)。
「48」に関しては、森さんは「Xの悲劇」を挙げている。森さんの初ミステリだった(又聞き)ということで納得だが、明らかに「48」の方が上だと思う。


49 推定無罪/スコット・トゥロー

森さんの100冊から。文句なしに面白い、法廷モノの傑作である。

50 暁の死線/ウィリアム・アイリッシュ

アイリッシュは『幻の女』だけが突出して有名だ。
叙情的で、都会生活の中でのロマンチックかつ奇妙な邂逅を描く作家である。
『幻の女』も実に良い作品だが、それに引けを取らない『50』をここではお薦めしたい。
『黒い天使』などもお薦めだ。

51 死の接吻/アイラ・レヴィン

森さんは「ローズマリーの赤ちゃん」を選んでいるが、個人的にはこちらを推したい。
もっとも、「ローズマリー」がゴシックホラーで、こちらはテクニカルな倒叙サスペンスなので
ジャンルがそもそも違うため、一概に比較はできないが……。


52 ラストチャイルド/ジョン・ハート


森さんはハメット、チャンドラ―、ロス・マクドナルドというハードボイルドの系譜から1作ずつを選んでいるが、個人的にはこの系統はあまり好みではない。
ジョン・ハートはいわゆる『現代のロス・マク』であり、今読むならこちらを推したい
この作品が気に入った方は、「キングの死」あたりもお薦めだ。
『さむけ』により近い(上に、より面白い)のはリチャード・ニーリィの「心ひき裂かれて」だが、
残響さんが気に入るかは不明である。


53 虚無への供物/中井英夫

「黒死館殺人事件」、「ドグラマグラ」と並んで日本3大奇書と呼ばれているらしいが、
ダントツに読みやすく、ダントツに娯楽性の高い作品だ。
『うみねこのなく頃に』で書かれているような内容は、既に中井英夫が大昔に書いている(しかもずっと面白い)


54 24人のビリーミリガン/ダニエル・キイス


森さんは「心の鏡」を挙げているが、残念ながら僕は未読だ。未読作品を薦める事はできない。
ダニエル・キイスは好きな作家で、『アルジャーノンに花束を』と「54」は屈指の名作である。
『アルジャーノン』は残響さんがダメージを食らいそうな作品なので避けたが、こちらもダメージを食らうかもしれない(食らう確率はやや低いと思うが)
そういう意味で、薦めて良いものかは解らないが、素晴らしい作品なので他の方には強くお勧めしたい。


55 魍魎の匣/京極夏彦


森さんは「絡新婦の理」を挙げている。
京極堂シリーズは(「塗仏の宴」と「邪魅の雫」は個人的にダメだったが)名作揃いで、「絡新婦」も本当に素晴らしいが、個人的には「55」がベスト。
「姑獲鳥の夏」、「絡新婦の理」、「陰摩羅鬼の瑕」など、気に入ったらどんどん読み進めて行ってほしいシリーズだ。

56 パラサイトイブ/瀬名英明
57 ブラッドミュージック/グレッグ・ベア


森さんが挙げた「56」はやはり名作だと思う。
「57」は海外版『パラサイトイブ』
(『57』の方が先なので、むしろパラサイトイブ=瀬名版『ブラッドミュージック』)
とも呼ぶべき名作で、どうせならセットでお薦めしたい。


58 天の光はすべて星/フレドリック・ブラウン


子供の頃の夢を、大人になっても抱き続ける初老の男が、夢を掴みかける物語。
切なくも愛しい。エロゲ「ひまわり」あたりが好きな方にもお薦め。
いつまでも少年のまま、宇宙への夢を抱く生きざまに浪漫を感じる。


59 秒速5センチメートル/新海誠


アニメ映画版でもいいし、小説版も非常に良い出来なので、双方薦める。
片思いの記憶をずっと胸に温めていた男の恋愛作品で、『合う・合わない』はハッキリ分かれる作品だが、残響さんには『合う』と半ば確信している。


半オマケ(小説以外)

60 蒼の彼方のフォーリズム

『架空スポーツ』、『勝負の楽しさを根幹に据えている』あたり、明らか~に残響さん向きの作品である。
実際、クオリティも素晴らしく、万人にお薦めできそうな名作エロゲだ。


61 紫影のソナーニル

残響さんは『スチパンシリーズ』は好きだったはず。『ソナーニル』は未プレイでしょうか?
個人的スチパンシリーズNo1はこの、『紫影のソナーニル』です。


62 CLANNAD

鍵っ子なら、鍵ゲー最高傑作(だと勝手に僕が思っている)の「CLANNAD」はやろうぜ!!


ローレンス・ブロック「八百万の死にざま」感想

評価はA+

『八百万の死にざま』の主人公はアルコール中毒の探偵である。
本の裏表紙を観ると

キムというコールガールが(6行略)容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが……
マンハッタンのアル中探偵マット・スカダ―登場。

などと書いてあり、いかにも事件がメインでアル中は主人公のキャラクター付けにすぎないような印象を受けるが、これはフェイクである。

「事件」が大事じゃない、とは言わない。
しかし比重は「アル中7:事件3」程度の比率である。アル中の物語なのである。

「こんなつらい世の中じゃ、みんな色々抱えている。見ない振りをする事もできる。
だが、私は現実を見ない振りなどできない。そんな辛さを和らげるため、私は酒に逃げるしかない」

の『現実』にあたるのが『事件』であり、この作品自体は至って普遍的な、『依存症脱却』の物語だ。

主人公のスカダ―は、AA(アルコール中毒者自主治療協会)に足繁く通うが、そこで自分の体験を語る事はない。
ただ、他の人間の話に耳を傾けるだけだ。
何日か自己満足の禁酒をするものの、耐え切れずまた飲み始めてしまう。

「自分はアル中ではない」と自らに言い聞かせ、「飲んでも良い言い訳」を徹底的に探しては飲んでしまう。

どうやら私はアル中ではなさそうだった。(中略)二杯飲んだだけで飲む前よりずっと気分はよくなったが、もっと飲みたいとは思わなかった。

一日二杯が自分の適量だと思った。それを越えない限りはなんの支障もないだろうと思った。それを朝一番に飲もうと、一日の最後に飲もうと、私の部屋で飲もうと、バーで飲もうと、ひとりで飲もうと、そんなことはどうでもいい。

その男は私に三杯目をおごってくれようとしたが、私はかわりにバーテンダーにコーラを頼んだ。そして自分自身にひそかに満足した。自分の限度を心得て、それを守った自分に。

朝、ベッドから起き出し、まず一番に二オンス飲んだ。(中略)その日は一日飲まなかった。ただ寝る前にもう一杯だけやった。

土曜日、すっきりした気分で眼が覚めた。飲みたいとは思わなかった。いかに自分がうまく酒をコントロールしているか、自画自賛しないわけにはいかなかった。

そこである事に気づいた。朝飲んだのはもう十二時間以上前のことである。前夜最後に飲んでから朝飲むまでの時間より長い時間がすでに過ぎている。だからもう私の体内には残っていないはずだ。すなわち朝のは今日の一杯として数えなくてもいいのではないか。
ということは、今日は寝るまえにもう一杯飲んでもいいわけだ。

私はここ何日か酒をコントロールしてきた(中略)。一日に二杯というふうに自分を抑制できるということは、そんな抑制など自分は必要としない立派な証拠ではないか。確かに以前は酒に呑まれていた。それを否定するつもりはない。が、明らかにそういう段階はもう過ぎている。
だから、酒が必要ではなくても、飲みたい時に飲めばいい。実際今がそうだ。どうして飲んで悪い?

この辺りの、『酒を飲むための言い訳』は(僕は酒は飲まないのだが)非常に身につまされる。
人間は言い訳の天才で、言い訳をしようと思えばいくらでも言い訳ができてしまうし、それを自分に信じ込ませることもある程度できてしまうのだ。

そんな彼が、最後のページで。

「マットと言います」と私は言った。そこで間を取り、もう一度やり直した。
「マットと言います」と私は言った。「私はアル中です」
最高にくだらない事が起こった。私は泣きだしていた。

この告白に遂に至った。
とてつもなく大きな一歩を踏み出したのだ。
事件の解決よりも何よりも、その事が私の心を強く揺さぶった。


ヒラリー・ウォー「失踪当時の服装は」読了(軽バレあり)

評価はB+。ただし、それは純粋に面白さに対しての評価です。
『警察小説』という新たなジャンルを開拓した、という歴史的意義を考えれば評価はAにもA+にもなります。

舗装されていない『警察ミステリ』の道を切り拓いた、というそれだけでも評価に値しますが、
そういう外部情報を取っ払って、今、一つの娯楽小説として読んでも十分面白いのは偉いなと感じました。


ミッチェルという女学生が白昼に失踪。それを追いかける刑事コンビのお話です。
この、フォードとキャメロンの凸凹コンビのやり取りは地味に面白かったです。
捜査が進むにつれて、生前のミッチェルの姿が少しずつ浮かび上がってくる仕組みとはいえ、
そこまでドラマチックなものでもなく、淡々と捜査が進んでいくわけなので、この刑事コンビのやり取りがつまらなかったら、読んでいて本当に退屈したでしょう。
そういう意味では、キャラクター小説と言っていいのかもしれません。


ただ……、現在の目から見ると、あるいは警察の取り調べを受けた事のない僕の目から見ると、
ちょっとマズいんじゃねーか?と思えるシーンがあるのも事実です。
犯人が当たっていたからいいようなものの、そこまで確信が持てる状況じゃないのに、
犯人や、犯人の恋人(セフレですが)を狙い撃ちにするような嫌がらせは、少々まずいのではないか……事に犯人のセフレに対するセクハラ的な発言は、大丈夫なんかな?とは思いました。


ここから先は余談です。
余談その1

これは僕の感覚の方がズレているような気もするし、「だから何?」というところでもあるけれど、
わずか半年の間に、11人と36回以上のデートをしている女学生(SEXは1人とのみ。キスは3人か4人)って、本当に『身持ちの固い、真面目な女子なのかしら?』と思いました。
いや、別にいいんです。
ミッチェルが身持ちが固くない、不真面目な女子だったからと言って、殺されて当然だとは全く思いません。そんなに悪い娘だったとも思っていません。
ただ……「すげー遊び歩いてるな、コイツ」とは思ったので、そこら辺にズレを感じました。


1人の人と36回デートならまぁいいですし、
20~36人の人と36回デートなら、『恋活・婚活頑張りすぎ女子!』みたいな感じですけど、
中途半端に6回・7回のデートをした後で急に冷たくなって振ったりとかをしまくっているのは、
(相手も合意ならそれでいいけど)、ミッチェルに対して本気になっちゃった男子はかわいそうだなぁと思っちゃって。
SEX関係は1人とだけだったみたいですけど、SEXしてなければ真面目なのかなぁ?と。
世間の価値観と真反対で恐縮ですが、むしろSEXしまくり11人と36回の方が、個人的にはまだいいです……。

にしても半年で11人と36回デートってすげぇな。
俺は全然モテないけど、仮にそんだけモテたとしても半年で11人・36回もデートしたくないわ。
モテすぎるのも困りもんだな、ちょっと休ませてほしい(そんな台詞言ってみたいw)


余談その2

直前に読んだ「リリアンと悪党ども」でも思ったんだけど、海外小説だと30代中盤~後半って
普通にバリバリ恋愛生活を謳歌してますよね。恥ずかしい事ではなく、ナチュラルに。
スペンサーシリーズだって、ヒロインのスーザンは40代だし、多分スペンサーも40代だけど
全然枯れてないし、落ち着いた大人の恋愛が楽しめます。

日本の作品だと、老け込んでたり枯れてたり、「オジサン(オバサン)が無理してる」みたいな描写……要は年齢をネガティブに捉える作品がやけに多く感じるんですが
(たとえば今やってるゲームにも、35歳で自分のことを「オジサン」と呼ぶ、加齢臭を気にするキャラがいます)、そのたびに嫌な気持ちになります。
自分は何歳になっても老け込みたくないし、他人にもなるべく若々しくいてほしいと思いました。

「生ける屍の死」読了(バレなし)

著者は山口雅也。評価はA+。


「死者が蘇る世界で、ゾンビとなったパンク探偵が殺人事件を解き明かす」というあらすじを聞いた時、
そしてこれが著者のデビュー作だと聞いた時、「あー、奇をてらったんだなー」と思った。


アイディア勝負、思いつき勝負で珍奇なアイディアからスタートする、大して面白くない小説というのは
結構あって(特に新人賞受賞作に多い気がするが)、そういうのよりも地味でもありふれていても良いから、もっと地に足のついた、良質な物語が読みたいという思いを割と長い間抱えている私である。

あるいは、地に足のついた良質な物語なのに、客寄せパンダのように一点だけ奇妙で目を惹く(しかも物語上必要のない)設定が浮いているような作品もたまーにあって、そういうのを見ても残念な気持ちになってしまう。


しかし……正直すまんかった。
本作はそんな「奇をてらっただけの、インパクト・驚き重視の稚拙な話」では全くなかった。
「死者が蘇る世界」での「殺人」を真摯に捉え、一本芯の通ったエンタメ作品として
非常に完成度の高い作品になっていた。


作品に横溢するのは「葬儀」と「パンク」。
あっけらかんとした内側に乾いた絶望を内包する世界観と、葬儀。
そこに人間の生死が奇妙にマッチしており、表面的な湿っぽさは作品内にほとんど存在しない。
ユーモア溢れる文体で、クスクス笑えるシーンも多数存在する。
特にヒロインのチェシャの存在感が良く、ローラースケート棺桶暴走のシーンは本当に素晴らしかった。
それでいて、読み終えた後ほのかに物悲しさを感じてしまうのは、やはり諸行無常、
人は生き、そしていつか死ぬという事実故なのか。


金にしがみつくジョン、ウィリアムとイザベラの不倫関係、暴走するチェシャのブレーキを踏むグリン、勘違い推理を連発するトレイシー、狂信者モニカなど、
本人にとっては「重大な事」でも、傍から見れば(良い意味でも悪い意味でも)くだらない、
「しがらみ・こだわり」に多くの人は囚われて生きている。
そういった囚われに満ちた人生を俯瞰して、笑い飛ばしてしまうような。
滑稽な中に、煌めくものもある、そんな人の一生についても考えさせられた。


パンク+葬儀の組み合わせは、去年読んだ、真藤順丈の「庵堂三兄弟の聖職」でも登場したが、
本書の方がもちろん先である。
この2つ、妙に取り合わせが良いのかもしれないと、今回改めて感じた。


作品にリアリティを持たせているのは、キリスト教的土葬の習慣と、火葬の取り合わせや
マーケティングを含めた葬儀業界の蘊蓄だ。
なるほど、と読ませる部分も多く、知的好奇心を満足させてくれる。


本格ミステリとしても読み応えがある作品ではあるし、ゾンビがゴロゴロ出てくるにも関わらず、
特にグロい作品でもない(本当にちょっとでもダメな人は無理かもしれないが)ため、
割と人に勧めやすい作品でもある。


心に爽やかな風が吹き込むような、生気に満ちたチェシャの大冒険が、とりわけ印象的な
とても良い作品でした。

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