著者は高見広春。評価はA+。


この作品は、選考委員に「不快」「入選させたくない」「内容が反社会的」と叩かれまくり、落選を繰り返した経緯があるそうです。
読む前は、中学生同士が殺し合いを強要されるという内容に、「アブない小説」なのかなという先入観を持っていました。


……全然、違うじゃん。
一人一人の中学生が、実にリアルに、表現豊かに描かれています。
そりゃ確かに、殺し合いをするという内容は衝撃的かもしれませんが、
「これのどこが反社会的」なのか、僕には理解不能です。
いや、実際に作中に登場するようなファシズム国家を日本が目指しているのなら、
そりゃ確かに「反社会的」です。「ファシズムのクソ国家」とか書かれてますから。
でも、そうじゃないでしょ?
読んでて伝わるのは、あまりに絶望的な方向に進んだ国と、そのシステムへの強い怒り。
僕は、これを反社会的と表した選考委員の思想を、リアルに疑ってしまいます。

「理不尽な暴力と、それを強いるシステムへの嫌悪を描いた」この小説を、
まさか「暴力賛美主義の小説」として読む人間がいるとは、僕にはちょっと思えないんだけどなぁ。


僕がこの小説を面白いと思ったのは、もちろんサスペンス的な面白さもあるのですが、
むしろ多様な「中学生」を描けている点。
同じ中学生、同じクラスでも一人一人全く違う環境で育ってきた以上、
売春をやっているような生徒もいれば(僕は知らないが、いたとしても不思議ではない)、
異性にほとんど触れたこともないような生徒もいて(これは俺だ)、
何でもできる奴ってのもいて、異常にモテる奴もいて(うらやましー)。

そんな少年少女たちが、この小説では生きているんですよね。クラス名簿が載っているのですが、
読み終わった今、殆ど全ての生徒について、どんな生徒で誰に殺されたかを思い出せるというのは、凄いことだと思います。


ちなみにおいらがこの3年B組だとしたら、誰みたいな感じになるのかなぁ。
瀬戸豊(信史にくっついていた彼)、とか滝口優一郎(相馬光子に騙された彼)あたりがおいらっぽいかも。七原秋也にも近い気はしますが、ロックで野球というあたりがわしとは全然違うし。飯島敬太って可能性もあるな。実はちょうど中学生の頃、友達と二人で犬に追いかけられた時、友達を見捨てて逃げた経験有り(単に友達より逃げ足が速かっただけとはいえ、酷い。謝った記憶はあるけど、本当に深く謝ったわけではないし。ごめんなさい)。


女子だと中川典子か、内海幸枝にくっついていた少女達の一人ってところか。
たった一人で戦いきる自信はおいらにはないので(サバイバル能力全く無し、運動神経やや低め、頭あまり良くない手先不器用、要領悪め。こういう状況ではお荷物にしかならぬ)、一人で隠れることは多分しない(いや、するかなぁ。混乱していたら)。どうにかして仲間を探す。でも、北野雪子や日下友美子ほど、無条件にクラス全員を信じてもいない(一番仲が良かった中2の時のクラスで考えても、どう考えても信用できないのが5人はいた)。
杉村弘樹ほど、愛のためには動けない。ただ、どの道死ぬなら告白したいって気持ちはとてもよくわかりますが(杉村君はもっと前向きでしたね。その時点でやっぱりおいらよりずっと強い)。どの道死ぬなら、レイプでも何でもいいから憧れの子とHしたいという新井田君もわからんでもないけど、俺にはそこまでの元気も余裕も無いでしょうね。Hの最中って完全に無防備ですやん。


もし仲間を捜さず、一人で隠れるとしたら江藤恵になりそう。呆気なく死ぬでしょうな。それ以前に藤吉文世の線も捨てがたいですが。
でもほんと、死ぬなら誰かの側で死にたいよね。一人で死ぬのは嫌だなぁ。



サスペンスとしては、スリルはあるんだけど、「最大級」ではないです。
理由は、主人公が川田君という非常に頼れる男とずっと行動を共にしているから。そりゃずっと一人だと、ドラマも描きにくいかもしれないけど、読者的には川田君と一緒なら大丈夫、と安心しちゃうんですよね。
また、相馬光子、桐山和雄と、それこそキャプテン翼ばりに「こいつが最後まで残るんだろ」的な大物が、本当に最後まで残って、「こいつ描写少ないけど小物かな」って生徒が、本当に小物で終わってしまうので、まぁ何となく読めてしまう。その辺はマイナスかなぁ。
一人くらいサプライズがいても良かったかもしれないです。稲田瑞穂と月岡彰に期待していたのですが、簡単に裏切られてしまいました。


最後は、本当はハッピーエンド(二人だけでも)が良かったですね。
この終わり方の方がリアルだとは思うのですが、これだけ長くて過酷なお話だったんだもの、最後くらいはほっとして終わらせてほしいかなと。
ベタだけど、40年、50年後くらいに「今はもう無い、大東亜共和国には昔こんな酷い制度があってね」みたいなことを、海を見ながら秋也と典子が自分たちの子どもに話すシーンとか(つまらないですか、すみません)。
まーちょっと“救い”はもう少しあっても良かったかなと思ったわけです。


後、個人的に一つ。坂持金発はちょっとまずいのではないですか?
いや、単に僕が金八先生結構好きってのもあるのですが(今回のシリーズは3話まで見逃したので、2年後くらいにビデオで借りてみます)、
それだけに確かにちょっと「不快」かもしれないです。
でも、実に不快なキャラなので、これはこれで良いかもとも思ったり。
名前のせいで金八先生の顔としゃべり方をイメージしてしまい、それに彼(金発先生の方)の不快なキャラクターも相まって、凄いオーラを発しています。

ただ、それはそれで金八先生のイメージとキャラクターを利用しているわけで、これもまたズルいかなぁと。
まぁ、何にせよギリギリの線だと思います。


しかし、金八先生のイメージをパクったバトロワが今度は健速先生にパクられているわけで、そうやってどんどん面白い作品が生まれていくのかもしれませんね。
秋也君がモテモテなので、これをギャルゲーにと思った健速先生はまぁ安易だとは思うのですが(俺でも思いつくものな)、わからんでもないですし、
最後がハッピーエンドというのも、ひょっとして健速先生もバトロワに救いが足りないと考えたクチなのかなぁとか思ってしまったり。