著者はスティーブン・キング。評価はA。

☆概感

2450ページと特大のボリュームでしたが、ごく一部分を除いてすいすい読むことができました。
描写力・構成力の素晴らしさは、さすがキングというところでしょう。

この本の流れを大まかに表すと次のようになります。


1、人類滅亡まで(1~2巻)

2、わずかに生き残った人類が、2つの陣営に終結する(2~4巻)

 2-a 生き残った人類が、少しずつ仲間を集め、集団を作る

 2-b 集団が、2人の指導者の元に統合され、統治が始まる

3、2つの陣営の戦争(5巻)


1ではホラー要素・パニック要素が強く、2~3はファンタジー要素が強くなっていきます。


☆各要素感想

1では、ラジオ局の局員への視聴者メッセージや、フラニーの父親の熱い台詞などで、
何度も胸を打たれました。
ややグロいのですが、病気の恐怖も味わえ、最高の滑り出しだったと思います。
95点(S)

2では、ファンタジーの要素が強くなると共に、ファンタジー世界の政治体制などが丁寧に描かれます。特に3~4巻の、「委員会政治」はいろいろと考える部分も多かったです。
付け加えて言えば、どちらかというと左気味な私が、ナショナリズム高揚のシーンで感動するとは思わなかったです。同時に、非常に危うい印象も持ちましたし、それが後半のテーマにもなってきますけれども。そのへんのバランスも巧いなと。
85点(A+)。

問題は3なんですよね……。この部分がもう少し面白ければよかったんですが……。
とりわけひどいのがラスボスのやられ方で、「えっ? それでやられちゃったんすか?」と呆気にとられること請け合いです。
もちろん、描写力自体はキングなので、全く見劣りはしないのですが。
70点(B)。


読後感というのは、終盤に集約されることが多く、
「最初はイマイチだったけど、だんだん面白くなり最後は感動のうちに本を閉じる」のと、
「最初はすごく面白くてワクワクがとまらないけど、最後はイマイチ」なのでは、
後者の方が評価は低くなっちゃうんですね。少なくとも私の場合はそうです。

重ね重ね、もったいないなと思いました。


☆全体のテーマ

結構、脱力感の残るラストだったのではないかと思います。

科学技術によって、人類は滅亡。
核爆発によって、ラスボス陣営も壊滅。
にも関わらず、科学技術が「フリーゾーン」で発展していく描写+ラスボスが再び蠢動しているシーンで終了。


全く何も学んでいないというか、同じことを繰り返すんだろうなとしか思えません。
この小説を勧善懲悪と評している方もいましたが、とんでもない。
そんな、割り切れるものではないと思います。


☆気になったこと

全世界がアメリカのせいで滅亡するという、割にありそうな話なんですが、
アメリカ以外の国の描写がほとんどないのが気になります。
スーパーフルーはアメリカ以外でも蔓延しているようなのですが、
アメリカ以外ではどんなことがあったのかちょっと気になりますね。

プラス、虫も病気を媒介するらしいですが、基本的には人間が病気を運ぶらしいこの病気。空港などで食い止めれば、全世界にまでは広がらない気もしないでもないんですが、考えが甘いでしょうか?


それと、ファンタジーに野暮な疑問は禁物ですが、「どうして猫は生きていて犬は死んだのか」とか、「結局アバゲイルって何者だよ」とか、
その他様々な疑問は残りますね。
ここら辺は、雰囲気でなんとなく流しても構わないとは思っていますので、
減点などの対象には全くなりませんけれども。


何はともあれ、1冊の本でここまで長い感想を書くのは久しぶりです。
楽しめました。読んでよかったです。