妻子もちの主人公が、次々にいろんな女性と泥沼恋愛に耽る作品。
ヒロイン格は2人(+1人)いるのだが、物語序盤で異彩を放つのが、高尾という少女。鮮烈な悪女っぷりは、他の追随を許さない域だろう。
まだ親の意向で結婚が強制される時代柄か、「好きあってもいないのに結婚してしまった」というパターンや「好きあっているのに家族の反対に遭う」というパターンが目立つ。
3人目のヒロインのとも子は、端から魅力的に描いてもらえず、ひたすら気持ちが弱く、それでいて抜け目のない女性という印象を受ける。それに流されるように結婚した主人公は、その数倍メンタルが弱いのだけれど。
メインヒロインのつゆ子は、さすがメインヒロインだけあって存在感は抜群だが、この小説ではほとんど『幸せな恋愛』は描かれず、終始ドロドロしているため、イマイチ魅力を出し切れてはいない。
無駄な部分が一切ない、コンパクトでリーダビリティが高い小説とも言えるが、幸せな部分がないために、いっそう救いのない、空虚な印象を受ける。
ラスト、命をとりとめた二人はその後、どうなったのだろうか?
主人公はもう恋愛ごとからは足を洗って、独り身を楽しんでいるのだろうか。その辺、かなり気になるところだが、そこは読者の想像に任せるということなのだろう。あれだけドロドロしていた恋愛も数年後に振り返ると懐かしい思い出……というラストの雰囲気が、切なさと甘さを感じさせて個人的には良かったと思う。