2013年02月

ランスクエストマグナム感想

【前置き】

今回の感想は、前半と後半に分かれます。
前半は、やりこみゲーについて。他社のゲームにも触れつつ、ランスクエストの感想を書きます。
後半では、自分が使ったキャラについて書いていく感じです。



【本題】


エロゲーのRPG(シミュレーションRPG含む)には、やりこみゲーの名作が多い。
元々コンシューマーRPGを子供の頃からプレイしてきた僕だけれど、やりこみゲーに関して言えば18禁ゲームの方に軍配が上がると思う。
僕が初めに感銘を受けたのは、XUSEから出た「永遠のアセリア」。そして、エウシュリーの「戦女神シリーズ」である。


やりこみゲーには一つのルールがある。
それは、「やりこんだ際に得られる褒章」だ。
ハイレベルなやりこみゲーマーともなれば、LVを99(上限)にするというただそれだけの動機で、ひたすらLVを上げ続けるらしい。
かく言う僕もドラクエ5において、仲間モンスターのLVをひたすら上げまくった記憶があるが、これは例外中の例外だ。
基本的に僕は、「ストーリー」を楽しむためにRPGを手に取ることが多く、クリア後のやりこみにはあまり興味がない人種なのである。
そんな僕が、18禁のやりこみRPGに夢中になっている。


「永遠のアセリア」は、1周・2周・3周目以降にそれぞれレベルの上限を設け(もちろんLVが上がらないと見られない技も多い)、
攻略可能ヒロインを5人とすることで周回プレイへの欲望をかきたてた。
エロゲー的お約束の複数ヒロイン(周回プレイで全員コンプ)は、RPGとの咬み合せが本来あまり良くないはずなのだが、
「複数ヒロインの攻略」+「LV上限」という2つの『褒章』により、2周目・3周目に新たな楽しみを追加することで
プレイヤーを廃やりこみプレイへと誘った画期的な作品である。


「戦女神シリーズ」は、よりシンプルである。
普通にクリアすれば見られない(そこまで成長しない)技が多数存在しており、それを楽しみにやり込みをするのである。
このシリーズは特に女性キャラクターの魅力に優れており、
気に入ったキャラクターの技は全て見たい→いやせっかくだから全員の全技が見たい、ということで
プレイヤーはまたもや廃やりこみプレイへと誘われる。


翻って「ランスクエスト・マグナム」である。
このゲームの特徴と言えば、なんといっても「LV35以上の女性キャラとしかエッチができない」。これだろう。
「Hシーンを回収する」という分かりやすい目的のために、ひたすらLVを上げるわけである。


本作の凄いところは、シナリオが徹頭徹尾このシステムの説明としてしか機能していない点である。
一応本筋らしきものはあるにはあるのだが、全くと言っていいほど存在感がない。
このゲームのプレイ時間の大半は、本筋とは関係ないお使い的なクエストを、ひたすら粛々とこなしていくのみ。
そしてそのお使いのほとんどは「LV35以上の美女とエッチをする」ためのものだったりする。
屈指のバカアイディアをそのままシナリオに取り込むという、まさにアイディアと心中覚悟ともとれる
いっそ清々しいまでのバカゲーなのである。


とにかくたくさんの女の子が仲間になるというのも、本作の楽しみを増やしている。
しかしボリューム上仕方ない面もあるのだが、せっかくたくさん女の子がいても、
その全ヒロインにイベントCG付きのモルルンエッチが用意されているわけではない。
これは非常に残念であり、やり込みゲーとしてミソをつける原因でもあるように思う。
実際僕も、最初のうちは大いに盛り上がり、全女性キャラをLV35以上にしてやるぜ!と思ったのだが、
CGなしのキャラが増えるにつれ、「まぁどうでもいいや」となってしまった。



また、行動回数に制限があるというのは別に良いと思うのだが、
「待機」にまで回数制限があるのはいかがだろうか?
回復役の「待機」がつきて、強制的に回復魔法を使わされるというのは少々理不尽な気がしないでもない。
とにかくこの行動回数をいかに温存し、ボス戦において主力5人が万全の態勢で臨むことができるかが肝になってくるので、
5人だけでなく、なるべく多くのキャラを戦力として鍛えておく必要があるだろう。



さて、ここからは職業ごとに個人的に使ったキャラを紹介してみる。
上ではあんなことを言っておきながら、実際僕は大してやり込みをしていないので、話半分で聞いてもらいたい。




『ファイター』


武器をもって打撃攻撃を放つ、基本中の基本職である。
ファイターがいなければ、どうすることもできない。
ただ、それだけにファイターは強いキャラが多く、お好みで使っていっても良いのではないかと思う。


その中では、さすが主人公と言うべきかランスが最強だと思う。
次点に来るのは謙信か、もしくはアームズではないかと思う。
くじら学やデカント学、ナイトホラー学などを身につけたアームズは、彼らを相手にした時に破壊神と化す。
才能限界がやや低いが、ウィチタの使い勝手もまずまずだ。
他にチルディ・リズナ・勝子・アルカネーゼ(後者2人は後半、少々力不足に感じたが)あたりも十分に使っていけると思う。
レンジャー的な使い方になるが、アイテム稼ぎにおいてトマトの価値も高い。




『スパルタ』


武闘家、あるいはモンクといった方が通りが良い気がする。
この職は己の拳を武器に闘うわけだが、少々存在感が薄い。
その中でキバ子は主力としてもカウントできるだろう。
アレクサンダーも割と強いが男だし(笑)、ビスケッタさんも使えないことはないけど、そこまで強いとも感じなかった。


『ガード』


敵にすると厄介なガードだが、味方としては少々使いづらかった気がする。
香姫の守備の硬さはなるほど素晴らしいが、あまりに鈍重に過ぎ、ガードする前に死者が出ることもしばしばである。
サチコは育て方を間違ったのか、ヒロイン的ポジションにも関わらず大して強くない。
カロリア、てるあたりもまずまず使えるとは思うが、「なくてはならない」感はない。


『ガンナー』


後衛からの攻撃を担う重要職である。
特にジーマはヤバい。文句なしに最終メンバーにもエントリーした。
弾数がやや物足りないがマリアも十二分に強い。
ウルザ、イージスあたりも使っていける。


『ヒーラー』


回復を司る、最重要職である。
とにかく回復できないことには始まらない上、ヒーラー自体がこのゲームにおいて少ない。
そのためクルックーはもちろん、控えヒーラーとしてセルもとても重要である。
使い勝手は良くないと思うが、不測の事態を考慮に入れればノアがスタンバイすることもありうる。


『ソーサラー』


一度に敵を一掃できる攻撃魔法の使い手たちだが、弾数が少なく使いづらい印象を受けた。
その中では、陰陽の術を使いこなす虎子がエースで、次点は志津香。この2人は使いやすかったと思う。
相手の弱点属性がわかっていて、それに対応した攻撃魔法を用意できれば極めて強い。
が、そうは言ってもスキルポイント数やスキルを装備できる枠数を考えれば、なかなかうまくいかないのが実際のところだ。


『レンジャー』


敵と当たりたくない時、宝箱を開けたい時、罠にかかりたくない時。
そんな時に欠かせないのがレンジャーだ。
人数が少ないのも特徴で、クレインと鈴女には獅子奮迅の活躍が求められる。


『シビリアン』


残念ながら、僕は彼女たちをうまく使いこなすことができなかった。
何せ、死亡回数最多を誇ったのはシビリアンの代表(?)コパンドンさんである。
ヒーラーがいない緊急時にプリマさんを使う、なんとか育てて逃げる専門キャラとしてメグを使うなど
やりようはあるとは思うが、『単にクリアするだけ』レベルで考えるなら
どう考えても重要度の高い職業とはいえない。



以上が、職業ごとの感想である。


なお、戦闘回数では
1位ランス、2位セル、3位クルックー、4位鈴女、5位サチコとなっている。
エースのランスがトップを張るのは妥当であり、2位と3位をヒーラーが占め、4位にレンジャーというのも妥当のように思う。
5位のサチコが少々解せないが、一番最初から仲間にいるキャラクターでもあり、序盤で稼いだ戦闘回数であると思われる。
ランス以外のファイターやガンナーが入っていないのがやや意外な感じもしたが、ファイターは使えるキャラが多く戦闘回数が分散したため、
ガンナーは、ジーマやマリアといった主力級ガンナーが参戦する時期が遅かったためだと思われる。

ランス6感想(バレなし)

とにかく、『古いゲーム』という印象が先に立ちます。


ストーリー・キャラに関しては、
「女」大好きでやってることは酷いけれどもなぜか憎めない主人公が、好き放題をやりつつ敵と闘うという、
90年代前半を彷彿とさせるノリ(あちらは『女』ではなく、『金』でしたが、「スレイヤーズ」を連想しました)。
バトルやゲームシステムに関しても、凝ったムービーなどは一切なく、ボイスもなく、エロくない上にCG差分もほとんどなし。
説明書を読まずともゲーム内に親切すぎるチュートリアルが用意されている2000年代以降のRPGとは違い、
(アリスの館で少しは説明があるものの)、説明書を読まないとかなり戸惑うシステムなどなど。


とはいえ最後の項目に関しては、むしろ最近のRPGが親切すぎるだけとも言えますし、
ボイスも昔はなかった、ムービーなどなくとも面白いものは面白い、
大したストーリーではないがこれはこれで味がある、などなど見方によってはマイナスにはならないものばかりではあります。


ただ、個人的に、ランスの軽薄なノリはぶっちゃけると合いませんw
キャラクターに関しても基本的に薄く、内面が深く描かれることもなし。
ストーリーに関しても、考えさせられたりハッとさせられる展開もないため、バトルとバトルの繋ぎ程度の役回りでしかありません。
先が気になるとか、このキャラのイベントは玉を集めてどうしても見たいといった欲求もなく、
このキャラが気に入った、このキャラに萌えたといったものも一切ありませんでした。



これは、RPGであってもバトルよりもシナリオを強く求める僕には
(バトルは最高だけどシナリオがショボいRPGよりも、バトルはイマイチだけどシナリオが最高なRPGの方が僕の好みです)、正直大きな欠点になります。


もっとも、ランスというシリーズ自体が、(恐らく昔から)そのような作りをしているため、ここを叩くのはどうなのかな?という思いもあるにはあるのです。
ストーリー・キャラから漂うテイスト自体がもはやシーラカンスのような生きる化石でもあり、その希少価値から、「こんなゲームがたまにはあってもいいじゃないか」という思いもあります。


さて、バトルの方ですが、中毒度は高いです。
ヌルゲーマーの僕には若干難易度も高めに感じました。


同じダンジョンでも強い敵と弱い敵にハッキリ分かれており、弱い敵には二軍を出しても余裕で勝てますが、
強い敵には精鋭部隊を出さないと勝てなかったりします。
未プレイの方は、「最初から精鋭部隊を出しておけよw」と思う方もいらっしゃると思いますが、
このゲームには行動力というパラメータがあり、一度のダンジョン探索でバトルに出せる回数が決まっているのです。
よって、一軍を出していればすぐに行動力不足に陥ってしまうため、ボス戦のために一軍を温存する場面も必要になってきます。


行動力というパラメータは、なるほど、面白いと感じました。
しかし、戦闘開始直後に「逃げる」コマンドを選んでも。
あるいは戦闘開始直後に、「交代」コマンドを選んでも律儀に1消費してしまうのは、厳しいなぁと感じました。
仕方ないので二軍を出して歩きつつ、敵を見てすぐに一軍に切り替える戦術をとりましたが、
下手をすると敵の攻撃の方が速くて全滅の憂き目を見ることも。
RPGでは割とデフォルトではありますが、死ぬと以前のセーブに戻されてしまうため(ドラクエのような救済措置はないため)、
こんな理由で死んでしまうのは、モチベーションが下がります。


逆に言うと、バトルに関する不満はこれくらいでしょうか。
逆にこれくらい難易度があった方が面白いという方もいるでしょうし、
「行動力の残りを考えながら、全滅しないようにうまく一軍と二軍をバランス良く配置していくのが楽しい」という方もいると思います。
このへんも好き好き(すきずき)でしょう。


ゲームの攻略について言いますと、相手を麻痺させる攻撃が非常に有効だと感じました。
たとえばカロリアのニードル攻撃ですとか、ランスアタックに麻痺効果をつけるですとか、タマネギのニンニク突きなんかも地味に使えます。


ここからはパーティーについて書きますが、隠しキャラや、スポット参戦キャラは除きます。


前衛3枠では、まずは主人公のランス。
リックやウルザといったスポット参戦キャラでは、ランス並かそれ以上に使えるキャラも存在しましたが、そういったキャラを除けばまずは彼でしょう。

残りの2枠ですが、HPは大して伸びないものの回避能力と防御性能がそこそこ高い、かなみは使いやすいと思います。
リズナはこれといった長所もないですが、バランス良く使いやすいですね。
ロッキーは守りが割と高いのですが、何より行動力が高い上に「逃亡」スキルを持っているので、二軍の核としての活躍も期待できます。
基本二軍で出して、一軍でも使える、なかなか便利なキャラだなぁと感じました。
パットンは体力が高く、彼を入れておけばちょっとの間は安心だと思います。が、守備性能が低いため、HPの割に結構アッサリ死にます。
カオルは序盤は強いですが、後半に再加入してからはイマイチ風味。サーナキアもHPが低すぎて信頼性が低い感じでした。
コパンドンも巧く使えなかったですね。
バーナードやセスナに至っては、活かし方がほとんど思いつきません。


前衛3枠よりもシビアなのが後衛の3枠争いでしょうか。
まず回復役は絶対必要だと思うので、1枠は必ずあてます。シィルがほぼ当確かなと。
セルでも構いませんが、彼女が仲間になるのは少々遅めですし。
プリマは……シィルが入ってからはほぼ全くの役立たずと化しました。
基本、回復は1枠ですが、どうしても回復が追いつかない場合は2枠をあてることもあります。


さて、残り1~2枠。
まず、使い道がサッパリわからなかったのがメガデス。彼女は消えました。
残りの枠を、志津香・マリア・カロリアあたりが争うことになります(ラストダンジョンでは、アレックス、マジックなども加わります。この2人もとても強いです)。


タメなしで全体攻撃が使えるようになる志津香。
援護射撃でダメージ量が期待できるマリアも十二分に魅力的ですが、個人的には攻撃力も高く、麻痺も狙え、硬質変化で守備も磐石なカロリアが一押しかなと。
たくさんの敵と闘うには志津香、直接攻撃で大ダメージを狙いたいならマリア、慎重に行きたいならカロリアと
敵によって使い分けても面白い……と言いたいところですが、行動力の関係上なかなかそうもいかないのがネックですね。


タマネギも、ニンニク突きによる麻痺狙い要員として、二軍としては使える部類に入ります。
「捕獲」を使うために本当は前衛におきたいのですが、攻撃力に期待できないため、後ろでちまちまニンニク突きをする姿が目立ちました。



【まとめ】


中毒度の高いRPGで、難易度はやや高め。
かなり古いテイストで、正直シナリオ・キャラには関心が全く持てず、僕の評価は高くない。
しかし、こういったノリが好きな人はいると思うし、それこそが「ランスシリーズらしさ」でもあると思われる。

バトルは結構楽しかったよ。
麻痺攻撃最高! カロリア使いやすいよ!


と、以上になります。

StarTRain 感想(重バレあり)

【前置き】

StarTRainの顕著な特徴は、「恋愛」という道具立てを使って、実は「自分探し」の物語を描いているということです。
「幸福とは何か」、「他者とどう接するか」、そんなテーマが強く、(これはこれで恋愛だとは思うのですが)、
俗に言う「恋愛モノ」として括るには少々抵抗がありました。

 
そして僕は、「恋愛(失恋・未練)モノ」を読みたい!という動機でこの作品を手に取り、事実恋愛モノとして素晴らしい出来だった序章を読んでしまったため、作品が語りたかった内容とは別のものを期待してしまった経緯があります。


「自分探し」の物語としては、よくできていたなぁと思う反面、もう少し「未練」の部分を強く出してほしかったなぁというのも偽らざる感想です。


キーワードは2つ。

『何故付き合おうと思ったのか』。

『「普通」の人間か、「特別」な人間か』。


【序章:奈美への失恋】


奈美が司と付き合う理由:『司との関係を壊したくないから』、
『本当の自分、弱い自分を受け止めてもらえると期待したから』

 
司が、奈美を本当に好きな気持ちが伝わってくる、最高の序章でした。
奈美とのお別れ→奏の告白へと繋がるOPムービー直前の流れもパーフェクト。

 
どうしょうもないくらい好きすぎて、けれど、相手は自分のことを見てくれなくて。
そんな司の気持ちが、痛いほど伝わってきます。 
こういう、真正面から「恋愛」を取り上げたエロゲ作品は昨今希少ですが、もっとこういう作品が増えて欲しいなと思います。


ライター七烏氏の腕にも感心させられました。
奈美のセリフを2つ(3つ?)あげます。

 
「好きな人には、こんな汚い自分を見せられない」と、司に向かって口にする、奈美。
「森先輩は(略)……いろんなところが好きだった、部分じゃなくて全部かな、うん」から、
「ツカちゃんは……優しいところが好きだよ」に繋がる流れ。(ツカちゃんのことは、全部が好きではない、という)。
奈美の気持ちを端的に示したこの2つの台詞は、本当に巧いなぁ、と。

 
司に対してそれを言ってしまうのは本当に残酷ですし、奈美自身はその残酷さに気づいていない。
でも、伝わってきますよね。彼女が、自分(司)の方を向いていないということは。
他にも「好きだから許容できるってのは気のせいで、(好きになると)どんな(に小さな)ことさえも気になっちゃう」というのも、わかります。
カップルの喧嘩の8割くらいはそれじゃないですか?
どうでもいい人からの連絡が遅くても気にしない。でも、大好きな人からの連絡が遅いと気になってしまう。
友達にどう思われてもいいけれど、大好きな人に共感してもらえないと寂しくなる。
そういうエゴをスパっと一文で言い表しているのが、素晴らしいです。
「エッチって、寂しいね」の破壊力も凄いなぁ、と。


少々脱線しますが、個人的に奈美さんは司のことも「大好き」だったのだと思います。
よく、「Like」と「Love」とか、「友達としての好き」/「恋人としての好き」という言い方をしますが、そういうのではなくて、です。
確かに「性的な意味で」、奈美の気持ちは「森先輩>司」だと思います。
ただ、恋人関係というのは必ずしも性のみで結びつくわけではありません。
どの要素を大切にするかは人それぞれですが、「安定・癒し・信頼」を求める人もいると思います。


奈美と森先輩の様子は描写不足によりわかりませんが、司に対して、奈美は最大限の信頼を見せているように感じます。
彼女自身「甘えている」と言っていますが、「相手に甘えられる」というのは、とても大事なこと。
相手のことを本当に信頼していないと、できないことですから。


なので司にも脈はあったと僕は思っています。
確かに序章では、最後まで恋人っぽくなく、「先輩」と「後輩」でしたが、長く付き合っていければその垣根を超える余地はあったように思うのです。

 
七美ルートで、奈美が司に「付き合ってみる?」と問いかけるセリフがあります。
「今はライクでも、ラブに変わるかもしれないじゃない」。
飛鳥シナリオ・蓬シナリオを読んだ後のプレイヤーならば、納得のいく台詞ではないでしょうか。 


そんな奈美が司と付き合った理由は、表向きは「司との関係を壊したくないから」。
根っこの部分で言うならば、「本当の弱い自分を、見せられる・受け止めてもらえる相手が欲しい」です。


しかし残念ながら、司が奈美のことを好きだったばかりに、奈美はそんな司の恋心を利用している自分をますます嫌いになり 、自己嫌悪を深めていく結果となりました。
 


【飛鳥ルート】

飛鳥が司と付き合う理由:『恋という、非現実への憧れ』→『現実から逃げるための逃避』 
 
飛鳥のパーソナリティ:「不幸(特別)なのは、自分だけじゃない」。『普通』に憧れる、『特別(貧乏)』な少女
 

――好きで好きで仕方ないから告白するのではなく、付き合っていくうちに好きになる――というお話です。
このパターンはリアルでは往々にしてあると思うのですが、エロゲではあまり見ない展開で新鮮に感じました。


彼女の抱えるメッセージは、「不幸(特別)なのは、自分だけじゃない」ということです。
貧乏にもめげず、不幸な境遇にもめげずに笑顔を振りまく彼女は、心の中に闇を抱えています。
それは、「他者への妬み」。
他人が不幸な顔をしていると、まるで自分へのあてつけのように感じてしまい、むっとしてしまう。
しかし根が善良な彼女は、それをいらだちとしてぶつけるのではなく、「他者を心配する」という形で表すため、角は立ちません。むしろ周囲からは良い人だと見られている。


けれど飛鳥自身は自分の心を理解しているため、自分を嫌わずにはいられないのですね。
飛鳥が繰り返す、「自分を好きにならないと、幸せにはなれない」という言葉は、自分にも言い聞かせているのです。

 
現実を忘れるため、飛鳥は『恋』という『非現実』へと逃避します。
ですが付き合っていくうちに、司のことが本当に好きになり、母親ときちんと向き合う強さを手に入れていくのです。
付き合う理由がどうであれ、付き合っていくうちに相手を想えるようになればいい。
それは蓬ルートとも共通する、この作品が提示した恋愛観です。そして僕自身もそれには賛成です。

 
普通と特別というカテゴリーで考えれば、彼女は貧乏という、悪い意味で『特別』な少女です。
そんな彼女が、自分を『普通』であると思い込むために作ったのが、『いつも元気に笑顔な子』というキャラクターでした。

 
キャラクターについて書きますと、
飛鳥のキャラ造形は実にリアリティがあるなと感じました。
典型的な内弁慶で元気な女の子に見えますが、付き合ってみると実は根暗というパターンですね。
リアルなために、「そりゃこの子はそう考えるわな。この子はそう行動するわな」という感じで行動にとても説得力があります。
一方で、非常にオーソドックスな行動をとるために、先の展開がたいへん読みやすいものとなっているのが、飛鳥ルートの長所であり、短所でもあるのかなと。
もっとも、説得力皆無のトンデモ展開になるよりはよほど良いとも思います。


【蓬ルート】

蓬が司と付き合う理由:「必要とされたい。特別でいたい」→「依存相手を探すため」

蓬のパーソナリティ:『特別』でありたい、『普通』の少女
 

「過去の恋人への未練から、二人が吹っ切って、お互いをかけがえのない恋人として認識するまで」の恋愛ドラマが見られるんじゃないかと、ワクワクしながら読んだのですが、正直こちら方面では期待はずれに終わりました。
このルートでは、元恋人の話ではなく、あくまでも「依存体質の改善」に重点が置かれているからです。

 
彼女が司を求めた理由は、飛鳥と同じで「逃避」です。
ただ、蓬は飛鳥以上に弱く、恋人を完全に「依存相手」として考えている節があります。


彼女が口にする「特別」への憧れと、「特別」になれない「普通」の自分。
ピアノをあっさり辞めたエピソードからもわかるように、彼女は元々「一番」に憧れる気持ちがとても強いのです。
ところがライバルが多ければ多いほど、「一番」にはなりづらい。
ですから、「一番」ではなく「特別」を目指すことにしたのではないかと思います。


そして、恋愛で誰かの「一番」になるのは、ある意味簡単です。
少なくとも、「ピアノコンクールで一番になるよりは」簡単でしょう。
そして蓬にとって、相手はこの際そこまで大事ではない。
ただ、「一緒にいて楽しくて、依存できる相手がいる」という事実が重要なんですね。

 
しかし、付き合っていくうちに、蓬は司のことが大好きになっていきます。
ですが、依存癖自体は変わらない。
そんな蓬を、司は振ります。
そして蓬は自分探しの旅に出て、司は友人たちの言葉などから自分の本当の気持ちを見つけ、
改めて結ばれるというストーリーラインになります。

 
ライターさんと感性が合うのでしょう。 
このルートでも、何気なく綴られた文章やセリフに、何度も心を持って行かれました。
ですが、このルートはどうにも扱いづらいテーマを真面目に扱おうとした結果か、物語的なバランスは悪いです。

 
テーマは、「依存体質の改善」。
これって、ドラマチックに描くには難しいテーマなんですよね。
何せ、「依存体質」を改善するためには、相手への依存を断たなくてはならない。


実際のところ、司には蓬を温かく見守るくらいしか、できることがありません。
何度も縋ろうとしてくる蓬をうまくいなし、突き放すべきところは突き放し、心配するところは心配する司はファインプレイの連続で、読んでいて格好いいなと思わされました。

 
しかし物語展開はというと、蓬が一人で自分探しの旅に出て、戻ってきた時には成長しているという、あまり盛り上がらない展開になってしまっています。
これはテーマ上、致し方ないかなとも思いますが、やはり称賛はしづらいです。


また、「依存体質の改善」を描いたシナリオは他のエロゲでも結構見る一方で、
「お互いが元恋人への未練を少しずつ薄れさせていく」という展開はほとんど見たことがなく、どうせならこちらが見たかったというのも率直な感想ではあります。

 
少々脱線してキャラクターの話をしますと、このゲームの5人の(奈美先輩も入れた)ヒロインの中では、蓬が一番苦手です。
ですが、よく考えてみると僕の内面は一番蓬に似ています。
ひょっとすると同族嫌悪だったのかな、なんて思ったりもしました(汗)。

 
奈美さん的な部分も自分にはあるし、飛鳥的な部分は自分にはないけれどごく親しい人があんな感じですし、キャラ造形が非常に入り込みやすいのも、このゲームの魅力かなと思っています。
 

【奏ルート】

奏が司と付き合う理由:「好きだから」

奏のパーソナリティ:司だけの「特別」になりたい、「普通」の女の子


このシナリオに関しては、存在することに意味があると言いますか。
他のシナリオが変化球ばかりのなか、このシナリオのみ『好きだから付き合う』と、オーソドックスな内容になっているのが印象的でした。
他のシナリオでは、「付き合った後からが本番」なのに対し、このシナリオでは「付き合うまで」を延々と描いている点も、特殊だと言えそうです。

 
ただ、個人的な好みを言わせてもらえば、かなりの期待はずれ、でした。
立ち位置を考えても、最も美味しいポジションにいると思うので、(奏から見て)切なさ全開の物語を期待していたのですが。
蓬ルートだといい感じだった司くんですが、奏に対してはいくらなんでも鈍すぎます。
奏は奏で、盛大にオウンゴールを連発しておいて、照れ隠しに男を蹴っていくのはどうなのかなぁ。


奏といえば序章最後で、カッコ良く告白をした印象的なシーンがあったのだから、そこから繋げるわけにはいかなかったのでしょうか。
その後1年も司が返事を放置したというのはかなりアレですし、奏の気持ちに気づかない~という流れは、別に奏ルートで書く必要もないと思うんですよね。
飛鳥ルートや蓬ルートでやっても全然問題はないはずで。


奏の気持ちには気づいているけれども、以前の失敗(先輩とのこと)を引きずっていて、恋愛に対して臆病になっているとか。
あるいは、奏と先輩を比較してしまうとか。
そういう、以前の恋人を絡めたシナリオを期待していた身としては、とても物足りない出来だったと言わざるをえません。


【七美ルート】

七美が司と付き合う理由:「死ぬ前に、自分の知らない世界(恋:エッチ)を見たかったから」 

七美のパーソナリティ:「特別(若くして死ぬこと) 」を、そのまま受け入れた少女。

 
このルートの前半(七美が亡くなるまで)に関しては、基本的に飛鳥ルートと一緒だと感じました。
飛鳥は、「貧乏という現実から逃れるために、恋という素敵な体験がしたかった」。
七美は、「死ぬ前に、恋という素敵な体験がしたかった(彼女の発言を読むに、恋と同じかそれ以上に、エッチにも興味があったと思われます)」。


飛鳥とは違い、七美は既に「特別であること(死ぬこと)」を受け入れてしまっており、逃避としての側面は薄いです。
また彼女は、口では「司くんが好き」と言ってはいますが、恋愛描写・心理描写が薄いため、実際のところは判断できない状況です。
そのため、違う意見を持つ方もいらっしゃるとは思いますが、僕は「恋愛感情はなかった」と判断しています。


少々七美に対して酷な言い方をすると、七美の冥土の土産のエッチ相手に司くんは選ばれてしまったわけで、それをまた1年も引きずったことを考えると、司くんは本当に不幸だったと言わざるをえません。
(自分の寿命が今日で尽きるという時ですから、他者への思いやりに欠けていたとしても仕方のない話だと思います)


ルート後半で描かれていることも、実は共通ルート前半と大して変わりません。


そして、最後、司は奏の気持ちを受け入れます(受け入れたかどうかは、プレイヤーの想像に委ねる形にはなっていますが。まぁあの流れは、受け入れたでしょう)。


グランドEDでありながら、奏ルートに帰着した。
それは、唯一オーソドックスな意味で、司に恋をしていたのは奏だけだから、ということになりそうです。

 
七美の正体については随分と思わせぶりでしたが、結局は他人の空似だったようですね。


Star Trainに関しては割と早くから予測ができていたので、
「奈美が若返って出てきた?」
「奈美の子孫がタイムスリップしてきた?」など、様々なSF的妄想を膨らませましたが、全然そんなことはなかったようです。

 
奈美に似ているという設定をもっと活かして、より先輩への未練を募らせたり、先輩の代わりとして七美を見てしまうなどの展開があっても良かったと思うのですが、それもなしで、だいぶ薄味だったなと感じました。


ただ、奏と結ばれて終わるエンディングは余韻もたっぷりで、良い気分で読み終えることができました。



【総評】

「恋人と別れたところから、スタートする」という設定から、僕は『未練モノ』を勝手に期待していまして。

せっかくの設定なのに、何でもっと活かさないかなぁ。
もったいないなぁというのが率直な感想でありました。


一方で、ライター氏の描きたかったテーマは、僕が当初読みたかったテーマとは別の部分にありまして。
ライター氏が描いてくれたテーマも僕は割と好きになれましたし、 出来もなかなか良かったように思います。


ただそれでも。
僕は、奈美先輩の幸せを祈りながら、彼女を振り。 
そんな司の元へ奏がやってきて、告白をしたあのシーンが、ゲーム全体を通して一番好きでした。


奏シナリオは、あの続きから見たかった。
衝突を繰り返しながらも、二人で奈美先輩の呪縛を、徐々に乗り越えていく、そんな物語が読みたかった。
それは僕の勝手な期待、ワガママなのですが、それこそが率直な感想でもあるのでした。

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