今大会の印象として
・会場の暑さ、移動距離の長さ
から、アグレッシブに走り回るサッカーは不向きで、体力を使わない省エネサッカーが有利だなという印象です。
サッカースタイルごとにまとめます。
・南米流王道攻撃サッカー
【ブラジル】
ラテンの香りを漂わせ、細かいパスをテンポ良く繋ぎ、スピーディーに攻めるチームです。
とにかく派手なチームで、中でも左サイドアタッカーのネイマールが絶好調。今大会は彼の大会になりそうな、そんな気配がします。
ポジション的に見ても、右サイドのフッキとFWのフレッジがやや物足りませんが、弱点らしい弱点はありません。
トーナメントの組み合わせを見ても、1回戦の相手がチリ、準々決勝がコロンビアorウルグアイと恵まれています。
優勝候補筆頭だと考えています。
・ハイプレッシングサッカー
【チリ】
中盤から激しくボールを奪いに行き、奪ったらチーム全体で速攻をかけるスタイルです。
攻撃ではアレクシス・サンチェスを中心に、バルガス、バルディビアらと奏でる連携は見事なものがあります。
ややファウルが多いのと、体力を使うスタイルなのが気になりますが、予想していたより守備も堅い、『曲者』的なチームです。
ただ、トーナメント1回戦の相手はブラジル。厳しい戦いになりそうですが、あのスペインに真っ向から挑み、粉砕したチリ。
もう一度、に期待しています。
【アメリカ】
こちらも中盤から激しくボールを奪いに行き、奪ったらチーム全体で速攻をかけるチーム。
チリとの違いは、攻撃面ではサイドバックの上がりからのクロスなど、よりフィジカルを重視している点と、
チリに比べると守備に綻びが見える点。
ややファウルが多いのは同じで、体力を使うスタイルなのも同じです。
中盤のジョーンズがチームの中心で、前線のデンプシーが熱い気持ちでチームを引っ張ります。
とにかく劇的なドラマが多いのがアメリカの特徴で、
ガーナ戦では一方的に攻め込まれシュート21本を打たれながら耐え忍んでの勝利。
ポルトガル戦では強国ポルトガルを相手に押し気味に試合を進めるも、後半ロスタイムに追いつかれまさかの引き分けと、
とにかく最後の最後まで観る者を楽しませてくれるチームです。
今大会は厳しいグループ、参加32か国中最も移動距離が長いというハンディ、エースのドノバンが監督との確執から
ストライカーのアルティドールが怪我と数々の苦難を乗り越えながら、堂々のベスト16進出。
トーナメント1回戦のベルギ―戦でも、きっと熱い試合を展開してくれそうです。
【フランス】
身体能力に優れた黒人選手、マトゥイディ、シソコ、ポグバを中盤に並べ、そのボール奪取能力と前への推進力を活かして
チーム全体で速攻をかけるのがフランスのスタイルです。
前述の3人のフィジカルに、テクニシャンのヴァルブエナ、同じくテクニックのあるエース、ベンゼマが見事に絡み合い、
欧州勢ではオランダと並んで、勢いに乗っているチームです。
今大会、思わぬ大躍進を遂げる可能性を秘めており、準々決勝で当たる確率の高いドイツとの対戦、
準決勝のブラジル戦など、好勝負が期待できそうです。
・攻守分業型サッカー(ハイプレス)
【ウルグアイ】
中盤でとにかく激しくボールを奪い、奪ったらとにかく縦に繋ぎ、前線の選手たちだけで攻撃してくれーというスタイルです。
攻撃にかける人数は少なく、ほとんど2~3人の選手だけで何とかしてしまうのですが、その2~3人、
とりわけエースのスアレスの切れ味がものすごいので何とかなってしまいます。
しかしそのスアレスが、イタリア戦で相手に噛みついたということで、この大会の残り試合すべてに出ることができません。
粘り強さはこのチームの持ち味ですが、それにしてもスアレス頼みで勝ち上がってきたチームだけに苦しいところ。
中盤、スキンヘッドでこわもてなアレバロ・リオス選手が守備面でとても利いています。
・攻守分業型サッカー(リトリート)
【オランダ】
最終ラインまで下がって自陣に近い位置にDFを5人も並べてボールを奪い、奪ったら長いボールを蹴りだして、前線の選手たちだけでどうにかしてくれーというスタイルです。
ウルグアイとスタイルは似ていますが、ボールを奪う位置が自陣深くなので、長いボールを蹴る機会が多くなります。
本来弱いチームが狙うようなスタイルなんですが、今大会、ロッベンとファンペルシーの2人が手をつけられないほどの好調状態となっていて、
あのスペインから5ゴールも奪ってしまいました。DFが5人もいるので守備も堅いです。
決勝トーナメントを見ると、1回戦の相手がメキシコ、準々決勝がコスタリカorギリシャと相手に恵まれています。
ベスト4の有力候補です。
【コスタリカ】
オランダと同スタイルですが、より守備に比重が傾いています。
前線のルイス、キャンベルの2人に全てを託す感じですが、このスタイルで何とウルグアイ、イタリアを倒してしまいました。
ウルグアイ、イタリア、イングランドを相手に失点はPKで与えた1失点のみ。鉄壁の守りです。
今大会が始まる前まで、おそらく誰もがコスタリカのベスト16進出は予想できなかったと思います。
更にトーナメント1回戦の相手はギリシャ。まさかのベスト8に期待が高まります。
・攻守分業 リトリート+ショートカウンター
【アルゼンチン】
オランダやコスタリカと違い、狙ってこういうサッカーをしているのか、
調子が悪くて(もしくは省エネで)チーム全体の上がりが悪く、結果的にこうなってしまっているのかよくわかりません。
オランダやコスタリカと違うのは最終ラインでボールを奪ったあと、ロングボールの代わりに短いパスを繋いでいくところ。
攻撃に関しては前線の4人、ディマリア、アグエロ、メッシ、イグアインの4人に任せきる感じです。
今大会は特にディマリアが良く、最大のスター選手メッシも徐々に調子が上がってきましたが、
チームとしてまとまりを感じることができないのが心配です。
ただしトーナメント1回戦がスイス、準々決勝がアメリカVSベルギーの勝者と、強豪とは準決勝のオランダまで当たらないだけに、
ベスト4の有力候補です。
【コロンビア】
コスタリカ・オランダ・アルゼンチン、中でも同じ南米のアルゼンチンに似ていますが、上の3チームがいずれも5バックなのに対し、
コロンビアは4バックです。
あまり高いところからはボールを奪いにいかず、引いて守り、短いパスを繋いでカウンターを仕掛けるところはアルゼンチンと同じです。
カウンターの鍵はエースのハメス・ロドリゲスと、俊足の2トップ、イバルボ&グティエレス。
DFでは38歳のジェペスが非常に素晴らしい動きを見せています。
良いチームですが、順当に行くとブラジルと準々決勝で当たってしまうのがネックです。
・カメレオンスタイル(ロングボール+ハイプレスカウンター+ポゼッションサッカー)
【ギリシャ】
カメレオンのようにスタイルを変えてくるチームで、非常に捉えどころがありません。
コロンビア戦ではじっくりとボールをキープし、隙をうかがってロングボールを上げて空中戦を挑む独特のスタイル。
日本戦では退場者が出たこともあり、とにかく引いて引いてロングボール、前線のサマラス頼みのサッカー(オランダ、コスタリカと同様のスタイル)。
コートジボアール戦では積極的に中盤でプレスをかけ、チーム全体で攻撃に転じるチリのようなサッカーを展開していました。
最後は誤審に助けられてのベスト16で幸運な面もありましたが、90分を通してコートジボアールを押し込んでいたのも確かです。
攻撃のエースはサマラスですが、むしろチーム全体の組織力。
カラグーニス、マニアティス、マノラスといった守備ブロックの奮闘と、けが人が相次ぎ退場者も出るなどの逆境にもくじけない、チーム全体の精神力が印象的なチームです。
コスタリカのところでも書きましたが、トーナメント1回戦の相手はコスタリカ。
ベスト8に向け、絶好のチャンスが到来しました。(2位で突破できれば日本もここに入れたのに……)
・じっくりポゼッションサッカー
【メキシコ】
試合巧者という言葉が相応しいチームで、前回王者スペインにも似たサッカースタイルです(スペインより攻撃は速いですが)。
じわじわとゆっくりボールを持ち、相手が焦れた瞬間、急速にスピードを上げて仕留めます。
GKのオチョア、DFのマルケスを中心とした守備陣と、中盤のエレーラが中心です。
攻撃のエースはドス・サントス。
失点は3試合でわずかに1点です。
ただ……トーナメント1回戦で対戦するのはオランダ。
じわじわと中盤でペースを握るメキシコにとって、中盤をすっ飛ばして長いボールを入れてくるオランダは相性的には良くありません。
ここを突破すれば、次の相手がコスタリカorギリシャなので、ベスト4も見えてくるのですが……。
・欧州型トータルフットボール(ポジションチェンジ+ハイプレス+攻撃スタイル)
【ドイツ】
スペイン、イタリアと攻撃サッカーを信奉する欧州の強豪が軒並み倒れた中、唯一従来の攻撃スタイルで活躍を見せているのがドイツです。
FWらしいFWを置かず、DFラインを除く6人が目まぐるしく動き回ります。
攻撃は6人が一体となって行い、とりわけエジル、ゲッツェのテクニックとミュラーの得点力が光っています。
一方、走り回るスタイルなので体力面で心配なところと、守備に比重を置かないためにどうしても守りが薄く、失点も多いチームです。
見ていて面白いチームであることに間違いはありません。
順当なら欧州決戦となる準々決勝のフランス戦、準決勝のブラジル戦と、熱い試合を展開してくれそうです。
・欧州型サイドアタック
【ベルギー】
ドイツとスタイルは似ていますが、ドイツほどアグレッシブではない反面、ドイツよりも守備に気を遣ったチームです。
時間帯によってはゆったりボールをキープし、突然ギアを上げるメキシコのような技術も持っています。
サイドアタッカーのアザールとメルテンス。
特にエースのアザールが素晴らしいですが、グループリーグの相手に手ごたえがなかったため、
どの程度強いのか図りきれない部分はあります。
FWのルカクが不調のため、得点を取るのに苦しんでいます。
失点はPKによる1点のみ。GKクルトワ、キャプテンのコンパニを中心に守備は固いです。
【スイス】
ベルギーに似たスタイルで、ベルギーよりも中盤の奪取力が高い点。
サイドアタックの際にキーになるのが、サイドアタッカーではなく、
サイドバックのリカルド・ロドリゲスとリヒトシュタイナーであることがポイントです。
FWが頼りなく、点が取れないのもベルギーと同じなら、監督の采配がズバリ的中し、交代選手がゴールを取っていったのもベルギーと同じです。
一方、一人で何でもできるアザールのようなスーパースターはスイスにはいません。
中盤の底でコンビを組むベーラミとインラ―、ホンジュラス戦で3ゴールを決めたシャキリがチームの中心でしょうか。
エクアドル戦では後半ロスタイムに全力で駆け上がってゴールを決めたり、フランス戦では0-5の状態から2点を取り返すなど、精神的な強さは評価できそうです。
・アフリカ型自由奔放な個人技フットボール
【ナイジェリア】
黒人選手特有の身体能力を活かして、選手個々が好き勝手にやっているような攻撃サッカーがナイジェリアの持ち味です。
印象としては日本が対戦したコートジボアールに近いですが、コートジボアールに比べるとタレントは小粒です。
イランに引き分け、ボスニア・ヘルツェゴビナには誤審に助けられての勝利ということで、
正直に言うと強い印象はありません。
アフリカ最高のGKエニュアマを中心に、何とか上を目指したいところですが、トーナメント1回戦の相手はフランス。
苦しいです。
・ショートパス主体の攻撃サッカー
【アルジェリア】
フランス生まれの選手が多いためか、サッカースタイルはアフリカというよりは、少し前のフランス流。
監督のハリルホジッチもフランスリーグでの指揮経験があります。
細かくパスを繋ぎ、連携から敵の守備を突き崩していく、ザッケローニジャパンが目指しているスタイルに似たサッカーを披露してきました。
そんなアルジェリアに、フィジカルをプラスするのがFWのスリマニ。
今大会で初めて知った選手なのですが、なかなか破壊力があって良い選手だと思います。
ただ……韓国に快勝したはいいものの、ベルギーには力負け、ロシア相手にも問題のある戦い方をしたうえで引き分け
(そのせいで勝てたとまでは言わないが、観客席からの執拗な妨害があった)と、
強豪不在のグループHだからこそ突破できたとも言える上、トーナメント1回戦の相手はドイツ。
力の差は歴然で、これ以上先に進むのは不可能に近いと言えそうです。