まずは点数から。
シナリオ100/150 キャラクター 125/150 絵100/100 音 80/100 システムその他100/100
印象 30/50
合計 535/650(28位/約160ゲーム中) ESにつける点数 85点
【前置き】
オーガスト作品は「プリンセスホリデー」以来、全ての作品をプレイ。
「はにはに」以来、及第点以上のキャラゲーを出していたメーカーですが、
前作「穢翼のユースティア」で大きく化けた、という印象を持っております。
本作「大図書館の羊飼い」は一見したところ、「ユースティア」以前のキャラゲー路線に戻ったようですが、
果たして……
【良い意味でのキャラゲー――図書部メンバーの秀逸なキャラクター造形――】
本作で大いに驚かされたのが、そのキャラクター造形の見事さです。
奇人変人、ブッ飛んでいるキャラクターや「記号」的な属性萌えを出して注目を集める手法からは明確に距離を取り、かつてのオーガストのような(「はにはに」~「夜明けな」あたりでは顕著でした)「裏表のほとんどない、いい人」を量産するのでもなく。
一人ひとりのキャラクターに明確な長所と短所を設定し、厚みのある人物像を作り上げることに成功しています。
この練り込み具合は、「とりあえず癒されればいい、とりあえず萌えればいい」といった安直なキャラゲーとは一線を画し、どちらかと言うとシナリオ重視のゲームに見られるキャラ描写に近いと思います。
それでいて、「安心して癒される」・「安心して萌えられる」というキャラゲーの良いところはきちんと抑えており、
キャラクターたちの備えている短所が、彼女たちの魅力を損なわず、むしろ増しているという、
絶妙のバランスで配合されていると感じました。
たとえば桜庭玉藻というヒロインがいます。
彼女は「堅物仕切り屋体質・他者への依存・お節介」と、本来的に僕が嫌いな要素が沢山詰め込まれたキャラクターなのですが、その彼女に対してさえ、苛立ちを感じるシーンはほぼなく、楽しく読めました。
【前作と比べると、やはり見劣りするシナリオ面】
一方でシナリオはと言いますと、『ユースティア』と比べると、やはり見劣りすると言わざるを得ません。
これは一つには、『コンセプト的に致し方のない部分』があり、一つには『構成ミス』があると思います。
まず前者についてですが、本作では前作と違い、「安心して癒され、萌えられる」ことを第一に作品が作られているように思います。また、作中舞台も『学園』であり、前作のような『不条理が支配するファンタジー世界』ではありません。
当然、人の生き死にや世界の崩壊などの強烈な刺激物は用いられず、あくまでも『学園キャラゲー』の範囲内でのエピソードが綴られるに留まっています。
そんななか、TRUEルートの明確なメッセージ性や、「生徒会選挙」という地味なイベントを大きく盛り上げた巧みなシーン展開などからは、「ユースティア以前のオーガスト」から、明らかな成長が感じられました。
一方で、構成ミスでは?と感じる部分も幾つかあります。
まず最も大きいのはTRUEルートの、凪以外のヒロインを選んだ場合のものすっごいワンパターンな展開。
凪を選ばなかった場合にしか見られないシーンはあるのですが、それにしても4人が4人ともほぼ全く同じ展開を踏襲しなくても良いように思います。
凪以外の誰かとくっつくエンドが必要→「誰か」って誰にするんだよ
→いっそのこと4人全員ぶん作っちゃえ。でも、凪以外の誰かとくっついたことが重要であって、それが誰かは重要じゃないから、展開は適当でいいでしょ
と、スタッフが思ったのかどうかは知りませんが、ここら辺は「手抜き」の批判は免れないところかなと。
僕は「サブヒロイン3人→メイン4人のノーマル→凪→4人のTRUEルート」という順番でやったので、
凪までクリアしたときは大絶賛の気分だったのですが、最後の最後でちょっとダレてしまいました。
このようにTRUEルートでの4人のシナリオは極めておざなりなこともあり、
凪以外のヒロインに関してはノーマルルートの方が個々人の持ち味が現れた良いシナリオになっていると思うのですが、
こちらはこちらで、物語の終わり方が尻切れなんですよね。
どのキャラも、「付き合い始め」→「Hシーン複数回」→「エンディング」という、どうにも締まらない終わり方になっており、この辺りもなんとかならなかったのかなと感じざるを得ません。
【ノーマル4ルートについて】
前述したように終わり方にはそれぞれ疑問が残りますが(特に千莉ルート)、ルート全体の印象は概ね良いです。
特にそれぞれのキャラクターの魅力が存分に発揮されているのが良いですね。
4ルートにはそれぞれ共通する部分があります。
それは、ヒロインが『隠している秘密』があり、それを主人公に『打ち明ける』。
そして主人公とともに、それを乗り越えていく~というものです。
よくある内容と言ってしまえばそれまでですが、本作では他者に『内面を見せない』京太郎というキャラクターの存在もあり、ヒロインではない高峰にまで用意されていること(空手を辞めた理由)からも、プロットとして練られているように思います。
それでは一人ずつ、感想を書いていきます。
【白崎つぐみ】
まず、図書部部長の白崎つぐみ。
彼女の造形が一番キャラゲー寄りと言いますか、一種胡散臭いまでのいい人オーラを出しているキャラクターですね。
このタイプの人間は空気が読めないモノ、と相場が決まっているのですが、本作では良い意味で「空気を読まない」ことはあっても、空気が読めないことでのマイナス面はほとんど触れられていませんでした
(共通ルートで千莉を強引にビラ配りに誘うシーンは、少々ウザかったですが…)。
図書部のエンジンとして、行動力の源として、「深く考えず、突き進む」彼女の長所は大いに活かされていたように思います。
そんな彼女の隠している内容は『なぜ図書部での活動を始めたのか』という理由。
ヒロインたちの中では一番根が浅いと言いますか、「そんなの隠さなくていいのにー」とも思える内容になっているのは、つぐみらしいですね。
自分も大事な相手に隠し事をしていたことがあります。
打ち明けたら嫌われちゃうんじゃないかと思って、半年ほど隠した挙げ句とうとう打ち明けたのですが、
「なーんだ、そんなこと隠さなくていいのに」と言ってもらえた時の安堵感は半端なかった、
そんなことを思い出しました。
【桜庭玉藻】
次に、つぐみを支える敏腕マネージャー、桜庭玉藻。
彼女はいわゆる堅物委員長系のヒロインですが、愛嬌もあり、脆い一面もあり、なかなか面白いキャラクターになっていました。
彼女の弱点であり、隠していた部分は、『自分の存在価値を確かめるために他人からの評価を期待している』というもの。
自分への評価が極めて低いため、他人からの評価でしか自分を支えることができないんですね。
他人からの評価を得るために、他人の倍働き、実績を積み上げるために無茶を繰り返す彼女の病みぶりは、
なかなか見ていて辛かったです。
それだけに、「天才肌で、他人からの評価を簡単に得られるのに、得ようとしない」千莉に突っかかっていく彼女の気持ちはわからないではないんですが……、でもまぁ余計なお世話ですよね。
「図書部のために」「つぐみのために」というエクスキューズがあるにせよ、元々は『自分を支えるために』評価を得ようと無茶をして、結果他人に心配をかけているわけで、かなりのエゴイストだと思います。
僕自身も、『自己評価が高くなく、他人からの評価を期待してしまう』人間でして、玉藻の気持ちはわからなくはないんですが、やはりあそこまで他人に寄りかかったら「重い」よなぁと感じました。
「エゴイスト」+「お節介」という、僕が特に苦手なタイプのキャラクターにも関わらず、読んでいてそこまでストレスにならなかったのは、彼女自身がそんな自分の状態を自覚していること。
そして、時折見せる茶目っ気(クサいことを言う直後に、扇子で顔を隠すところとか)が可愛らしかったからでしょうか。
【御園千莉】
他者からの介入を嫌い、親しい相手以外には素っ気ないけれど、親しくなった相手には甘えん坊。
図書部の歌姫、御園千莉は、本作の中で僕自身に恐らく最も似ているキャラクターだったので、
感情移入がしやすかったです。
汐美学園という超エリート学園に来て、彼女のような振る舞いをするのはワガママではあるのですが、
芸術自体よりも、芸術活動によって生まれる他者との触れ合いに重点を置いている彼女の気持ちも、とてもよくわかりました。
そんな彼女のシナリオですが、こちらは少々気になる面もありました。
一番ネックだったのが、後半部分。さすがに「告白」→「Hシーン」→「そして1ヶ月後、Hシーン」→「おしまい」
というのは構成が雑すぎはしませんでしょうか。
また、「水結との仲直り」がテーマとなっていて、これはこれで良い話ではあるのですが、
水結自身の言葉にもある
「『やり直す』のではなく、『新しく友達になる』」というテーマ。「これからもどんどん新しい仲間が増えていく」という方向性で行くなら、古い音叉を見つけるのではなく、水結と一緒に音叉を新しく買いに行くシーンを入れ、最後は水結と佳奈(新しい親友の代表として)と三人で笑い合うシーンで終わらせても良かったと思います。
このシナリオでは佳奈すけの失恋シーンが印象深いですが、そのこともあって千莉自体の魅力が煽りを食っているような気がしました。
【鈴木佳奈】
一番人気の佳奈すけですが、ご多分にもれず僕の一番好きなヒロインも佳奈すけであります。
佳奈すけかわいいよ佳奈すけ!
一見、当たり障り無くお調子者を演じ、その実自分を守る彼女の「壁の作り方」は僕自身もある程度やっていますし、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。
千莉ルートでの失恋や、千莉への友情も含め、そんな彼女には健気さ、いじらしさを感じました。
恋人としてではなく、先輩・後輩ででもいいので、こんな後輩がいたらもっと楽しい学園生活が送れたのになぁ(遠い目)。
【TRUEルート】
「羊飼い」の真相が明かされる本シナリオは、やはり本気度が違ったのか、
力の入った描写にメッセージ性も加味された、「キャラゲー」らしからぬシナリオになっています。
描写に関して、初めにドキリと思わされるのは嬉野さんの指が切断される(未来が見える)描写でしょうか。
「甘ーい学園生活」を描いてきた物語に初めて、刺激物が投下されたシーンだったと思います。
他にも、多岐川さんのゲスさなどはなかなか読ませるものがあり、真帆と多岐川さんの対決シーンでは胸がすっとする思いがしました。
本シナリオでは凪が主役、ということになっていますが、個人的に一番印象が強かったのは
本作で否定されるテーマである『羊飼い』のナナイです。
「親子としての」彼との邂逅シーンは素晴らしく、しんみりとしてしまいました。
「自分を犠牲にして、皆を守る正義の味方」という『羊飼い』の在り方は、前作『穢翼のユースティア』においてユースティアやルキウスが辿り、カイムが辿りかけた道でもあります。
対極に位置するのが「図書部」の在り方で、「人と人との繋がりで、守れる人をできる限り守っていこう」というもの。
人間限度がありますから、図書部は『夏休みには自分たちが遊べる時間』も作りますし、全ての依頼を受けるわけではありません。
けれどもそれでいいのだ、という話ですね。
「人間を教え導く羊飼い」ではなく、「自分たちに寄り添って一緒に助け、支え合う仲間」がほしい。
なぜなら、救い手になる人々の事を必要としている人たちがいるから。
自分を犠牲にして皆を救おうとした「ナナイ」は、家族の心を守れなかったし、
自分を犠牲にして仕事をしようとした「玉藻」は、皆に要らぬ心配をかけ、
自分を犠牲にして部室を守ろうとした「京太郎」は、ヒロインたちに『誰かを犠牲にして救われる部活動なんて要らない、馬鹿らしい』と一蹴される。
非常に首尾一貫しており、明確なメッセージ性が感じられます。
前作に比べると世界が平和なこともあり、選択の重みが緩めではあるものの、オーガストスタッフが描きたいテーマなんだなと感じました。
【まとめ】
本作は、まずはキャラゲーとして、『安心して癒される・安心して萌えられる』ことを優先しつつも、
緻密なキャラ設定や、メッセージ性を加えた高品質の作品でした。
個人的には癒し・萌えを優先した結果、心に突き刺さるシャープさが若干弱く、物足りなさも感じましたが、
反面、居心地の良さは素晴らしく、それでいて物語も読ませてくれたわけなので満足はしています。
安心してデフォ買いできるメーカーとして、これからも注目していきたいと思いました。
シナリオ100/150 キャラクター 125/150 絵100/100 音 80/100 システムその他100/100
印象 30/50
合計 535/650(28位/約160ゲーム中) ESにつける点数 85点
【前置き】
オーガスト作品は「プリンセスホリデー」以来、全ての作品をプレイ。
「はにはに」以来、及第点以上のキャラゲーを出していたメーカーですが、
前作「穢翼のユースティア」で大きく化けた、という印象を持っております。
本作「大図書館の羊飼い」は一見したところ、「ユースティア」以前のキャラゲー路線に戻ったようですが、
果たして……
【良い意味でのキャラゲー――図書部メンバーの秀逸なキャラクター造形――】
本作で大いに驚かされたのが、そのキャラクター造形の見事さです。
奇人変人、ブッ飛んでいるキャラクターや「記号」的な属性萌えを出して注目を集める手法からは明確に距離を取り、かつてのオーガストのような(「はにはに」~「夜明けな」あたりでは顕著でした)「裏表のほとんどない、いい人」を量産するのでもなく。
一人ひとりのキャラクターに明確な長所と短所を設定し、厚みのある人物像を作り上げることに成功しています。
この練り込み具合は、「とりあえず癒されればいい、とりあえず萌えればいい」といった安直なキャラゲーとは一線を画し、どちらかと言うとシナリオ重視のゲームに見られるキャラ描写に近いと思います。
それでいて、「安心して癒される」・「安心して萌えられる」というキャラゲーの良いところはきちんと抑えており、
キャラクターたちの備えている短所が、彼女たちの魅力を損なわず、むしろ増しているという、
絶妙のバランスで配合されていると感じました。
たとえば桜庭玉藻というヒロインがいます。
彼女は「堅物仕切り屋体質・他者への依存・お節介」と、本来的に僕が嫌いな要素が沢山詰め込まれたキャラクターなのですが、その彼女に対してさえ、苛立ちを感じるシーンはほぼなく、楽しく読めました。
【前作と比べると、やはり見劣りするシナリオ面】
一方でシナリオはと言いますと、『ユースティア』と比べると、やはり見劣りすると言わざるを得ません。
これは一つには、『コンセプト的に致し方のない部分』があり、一つには『構成ミス』があると思います。
まず前者についてですが、本作では前作と違い、「安心して癒され、萌えられる」ことを第一に作品が作られているように思います。また、作中舞台も『学園』であり、前作のような『不条理が支配するファンタジー世界』ではありません。
当然、人の生き死にや世界の崩壊などの強烈な刺激物は用いられず、あくまでも『学園キャラゲー』の範囲内でのエピソードが綴られるに留まっています。
そんななか、TRUEルートの明確なメッセージ性や、「生徒会選挙」という地味なイベントを大きく盛り上げた巧みなシーン展開などからは、「ユースティア以前のオーガスト」から、明らかな成長が感じられました。
一方で、構成ミスでは?と感じる部分も幾つかあります。
まず最も大きいのはTRUEルートの、凪以外のヒロインを選んだ場合のものすっごいワンパターンな展開。
凪を選ばなかった場合にしか見られないシーンはあるのですが、それにしても4人が4人ともほぼ全く同じ展開を踏襲しなくても良いように思います。
凪以外の誰かとくっつくエンドが必要→「誰か」って誰にするんだよ
→いっそのこと4人全員ぶん作っちゃえ。でも、凪以外の誰かとくっついたことが重要であって、それが誰かは重要じゃないから、展開は適当でいいでしょ
と、スタッフが思ったのかどうかは知りませんが、ここら辺は「手抜き」の批判は免れないところかなと。
僕は「サブヒロイン3人→メイン4人のノーマル→凪→4人のTRUEルート」という順番でやったので、
凪までクリアしたときは大絶賛の気分だったのですが、最後の最後でちょっとダレてしまいました。
このようにTRUEルートでの4人のシナリオは極めておざなりなこともあり、
凪以外のヒロインに関してはノーマルルートの方が個々人の持ち味が現れた良いシナリオになっていると思うのですが、
こちらはこちらで、物語の終わり方が尻切れなんですよね。
どのキャラも、「付き合い始め」→「Hシーン複数回」→「エンディング」という、どうにも締まらない終わり方になっており、この辺りもなんとかならなかったのかなと感じざるを得ません。
【ノーマル4ルートについて】
前述したように終わり方にはそれぞれ疑問が残りますが(特に千莉ルート)、ルート全体の印象は概ね良いです。
特にそれぞれのキャラクターの魅力が存分に発揮されているのが良いですね。
4ルートにはそれぞれ共通する部分があります。
それは、ヒロインが『隠している秘密』があり、それを主人公に『打ち明ける』。
そして主人公とともに、それを乗り越えていく~というものです。
よくある内容と言ってしまえばそれまでですが、本作では他者に『内面を見せない』京太郎というキャラクターの存在もあり、ヒロインではない高峰にまで用意されていること(空手を辞めた理由)からも、プロットとして練られているように思います。
それでは一人ずつ、感想を書いていきます。
【白崎つぐみ】
まず、図書部部長の白崎つぐみ。
彼女の造形が一番キャラゲー寄りと言いますか、一種胡散臭いまでのいい人オーラを出しているキャラクターですね。
このタイプの人間は空気が読めないモノ、と相場が決まっているのですが、本作では良い意味で「空気を読まない」ことはあっても、空気が読めないことでのマイナス面はほとんど触れられていませんでした
(共通ルートで千莉を強引にビラ配りに誘うシーンは、少々ウザかったですが…)。
図書部のエンジンとして、行動力の源として、「深く考えず、突き進む」彼女の長所は大いに活かされていたように思います。
そんな彼女の隠している内容は『なぜ図書部での活動を始めたのか』という理由。
ヒロインたちの中では一番根が浅いと言いますか、「そんなの隠さなくていいのにー」とも思える内容になっているのは、つぐみらしいですね。
自分も大事な相手に隠し事をしていたことがあります。
打ち明けたら嫌われちゃうんじゃないかと思って、半年ほど隠した挙げ句とうとう打ち明けたのですが、
「なーんだ、そんなこと隠さなくていいのに」と言ってもらえた時の安堵感は半端なかった、
そんなことを思い出しました。
【桜庭玉藻】
次に、つぐみを支える敏腕マネージャー、桜庭玉藻。
彼女はいわゆる堅物委員長系のヒロインですが、愛嬌もあり、脆い一面もあり、なかなか面白いキャラクターになっていました。
彼女の弱点であり、隠していた部分は、『自分の存在価値を確かめるために他人からの評価を期待している』というもの。
自分への評価が極めて低いため、他人からの評価でしか自分を支えることができないんですね。
他人からの評価を得るために、他人の倍働き、実績を積み上げるために無茶を繰り返す彼女の病みぶりは、
なかなか見ていて辛かったです。
それだけに、「天才肌で、他人からの評価を簡単に得られるのに、得ようとしない」千莉に突っかかっていく彼女の気持ちはわからないではないんですが……、でもまぁ余計なお世話ですよね。
「図書部のために」「つぐみのために」というエクスキューズがあるにせよ、元々は『自分を支えるために』評価を得ようと無茶をして、結果他人に心配をかけているわけで、かなりのエゴイストだと思います。
僕自身も、『自己評価が高くなく、他人からの評価を期待してしまう』人間でして、玉藻の気持ちはわからなくはないんですが、やはりあそこまで他人に寄りかかったら「重い」よなぁと感じました。
「エゴイスト」+「お節介」という、僕が特に苦手なタイプのキャラクターにも関わらず、読んでいてそこまでストレスにならなかったのは、彼女自身がそんな自分の状態を自覚していること。
そして、時折見せる茶目っ気(クサいことを言う直後に、扇子で顔を隠すところとか)が可愛らしかったからでしょうか。
【御園千莉】
他者からの介入を嫌い、親しい相手以外には素っ気ないけれど、親しくなった相手には甘えん坊。
図書部の歌姫、御園千莉は、本作の中で僕自身に恐らく最も似ているキャラクターだったので、
感情移入がしやすかったです。
汐美学園という超エリート学園に来て、彼女のような振る舞いをするのはワガママではあるのですが、
芸術自体よりも、芸術活動によって生まれる他者との触れ合いに重点を置いている彼女の気持ちも、とてもよくわかりました。
そんな彼女のシナリオですが、こちらは少々気になる面もありました。
一番ネックだったのが、後半部分。さすがに「告白」→「Hシーン」→「そして1ヶ月後、Hシーン」→「おしまい」
というのは構成が雑すぎはしませんでしょうか。
また、「水結との仲直り」がテーマとなっていて、これはこれで良い話ではあるのですが、
水結自身の言葉にもある
「『やり直す』のではなく、『新しく友達になる』」というテーマ。「これからもどんどん新しい仲間が増えていく」という方向性で行くなら、古い音叉を見つけるのではなく、水結と一緒に音叉を新しく買いに行くシーンを入れ、最後は水結と佳奈(新しい親友の代表として)と三人で笑い合うシーンで終わらせても良かったと思います。
このシナリオでは佳奈すけの失恋シーンが印象深いですが、そのこともあって千莉自体の魅力が煽りを食っているような気がしました。
【鈴木佳奈】
一番人気の佳奈すけですが、ご多分にもれず僕の一番好きなヒロインも佳奈すけであります。
佳奈すけかわいいよ佳奈すけ!
一見、当たり障り無くお調子者を演じ、その実自分を守る彼女の「壁の作り方」は僕自身もある程度やっていますし、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。
千莉ルートでの失恋や、千莉への友情も含め、そんな彼女には健気さ、いじらしさを感じました。
恋人としてではなく、先輩・後輩ででもいいので、こんな後輩がいたらもっと楽しい学園生活が送れたのになぁ(遠い目)。
【TRUEルート】
「羊飼い」の真相が明かされる本シナリオは、やはり本気度が違ったのか、
力の入った描写にメッセージ性も加味された、「キャラゲー」らしからぬシナリオになっています。
描写に関して、初めにドキリと思わされるのは嬉野さんの指が切断される(未来が見える)描写でしょうか。
「甘ーい学園生活」を描いてきた物語に初めて、刺激物が投下されたシーンだったと思います。
他にも、多岐川さんのゲスさなどはなかなか読ませるものがあり、真帆と多岐川さんの対決シーンでは胸がすっとする思いがしました。
本シナリオでは凪が主役、ということになっていますが、個人的に一番印象が強かったのは
本作で否定されるテーマである『羊飼い』のナナイです。
「親子としての」彼との邂逅シーンは素晴らしく、しんみりとしてしまいました。
「自分を犠牲にして、皆を守る正義の味方」という『羊飼い』の在り方は、前作『穢翼のユースティア』においてユースティアやルキウスが辿り、カイムが辿りかけた道でもあります。
対極に位置するのが「図書部」の在り方で、「人と人との繋がりで、守れる人をできる限り守っていこう」というもの。
人間限度がありますから、図書部は『夏休みには自分たちが遊べる時間』も作りますし、全ての依頼を受けるわけではありません。
けれどもそれでいいのだ、という話ですね。
「人間を教え導く羊飼い」ではなく、「自分たちに寄り添って一緒に助け、支え合う仲間」がほしい。
なぜなら、救い手になる人々の事を必要としている人たちがいるから。
自分を犠牲にして皆を救おうとした「ナナイ」は、家族の心を守れなかったし、
自分を犠牲にして仕事をしようとした「玉藻」は、皆に要らぬ心配をかけ、
自分を犠牲にして部室を守ろうとした「京太郎」は、ヒロインたちに『誰かを犠牲にして救われる部活動なんて要らない、馬鹿らしい』と一蹴される。
非常に首尾一貫しており、明確なメッセージ性が感じられます。
前作に比べると世界が平和なこともあり、選択の重みが緩めではあるものの、オーガストスタッフが描きたいテーマなんだなと感じました。
【まとめ】
本作は、まずはキャラゲーとして、『安心して癒される・安心して萌えられる』ことを優先しつつも、
緻密なキャラ設定や、メッセージ性を加えた高品質の作品でした。
個人的には癒し・萌えを優先した結果、心に突き刺さるシャープさが若干弱く、物足りなさも感じましたが、
反面、居心地の良さは素晴らしく、それでいて物語も読ませてくれたわけなので満足はしています。
安心してデフォ買いできるメーカーとして、これからも注目していきたいと思いました。